京都の印刷屋は、なぜ世界のウェーハを洗っているのか
台湾でも、韓国でも、アメリカでも。最先端の工場でウェーハが薬液に触れるとき、その装置には京都の会社の名前が入っていることが多い。SCREEN。枚葉、バッチ、スピンスクラバー。洗浄装置の3カテゴリすべてで世界首位を名乗り、累計出荷は15,000台を超えました。ところがこの会社、もとは印刷屋です。社名の由来も半導体とは無関係で、写真製版に使うガラスの網目板、つまりスクリーンそのものを指しています。
なぜ印刷屋がウェーハを洗うことになったのか。転機は3つあり、そのうち1つで、この会社は半導体への入口だった事業を自分から捨てています。その判断が、いまの決算書の形まで決めました。10分でその筋をたどると、枚葉・バッチ・スピンスクラバーという3つの洗浄方式の作り分けと、利益の大半が半導体製造装置(SPE)1本から出ている損益の形が、1本の線の上に乗ります。読んだあとに手元へ残るのは、3カテゴリを装置の作り方で言い分ける物差しと、この会社の数字をどの年度で確かめるかという2点です。
図の右端が、この記事の山場です。マスクを作る側から降りた2005年のあと、測る側では寸法測定のDR-8000が製品一覧に残り、その4年後に枚葉洗浄のシェアが60%を超えます。左の段から順に追います。
網目を刻む店が、社名になるまで
Section titled “網目を刻む店が、社名になるまで”1868年、銅版彫刻師の石田旭山が石田旭山印刷所を開きます。沿革によれば、この会社が写真製版用ガラススクリーンの製造に日本で初めて成功したのが1934年。特許も取っています。1937年にその研究部門が独立して大日本スクリーン製造所となり、1943年に大日本スクリーン製造株式会社になりました。
社名は、作っていた製品の名前がそのまま残ったものです。
網目スクリーンは、写真の濃淡を細かい点の集合に変える板です。原稿の階調を、印刷機が刷れる網点に分解する。単純に言えば、光でパターンを刻む道具でした。
この「光でパターンを刻む」が、20年ほどのちに別の産業から呼ばれます。
印刷と半導体は、意外と近い
Section titled “印刷と半導体は、意外と近い”1955年、テレビカメラ用の金属ターゲットメッシュ。1966年、半導体向けの超精密縮小カメラ Ambassador C-59。1968年、ソニー・トリニトロン用アパーチャーグリルの量産。1970年、プリント基板用の超精密自動製図機 AD-401。
沿革に並ぶこの順番が、そのまま道筋になっています。網点、シャドウマスク、フォトマスク、プリント基板。対象は違っても、求められる精度の性質はよく似ていました。
印刷屋が半導体に近づいたというより、半導体のほうが、印刷屋の得意分野に降りてきたとも言えます。
1975年、洗浄ではなくエッチングから始まった
Section titled “1975年、洗浄ではなくエッチングから始まった”半導体製造装置事業の起点は、1975年のウェーハエッチング装置 EMW-322/411です。2025年7月1日の発表で、会社はこの事業が50年になったと書いています。
意外なのは、起点がエッチングだったことです。
1978年にレジスト塗布のSpinnerシリーズ。1982年には米国の大手半導体メーカーへウェットステーションを24台まとめて納入しています。装置屋にとって24台の一括採用は、試験用の1台2台とは意味が違います。量産ラインに入った、ということです。
1986年に分光膜厚測定の Lambda Ace STM-602。1988年、モジュール構造のウェットステーションと枚葉スピンプロセッサ SPW-812-Aが同じ年に出ます。1989年には両面スクラバー RSW-612A。
この時点でSCREENの手元には、バッチも、枚葉も、計測も揃っていました。どれが本命になるかは、この段階では未確定です。
そして2005年、自分の入口を閉じた
Section titled “そして2005年、自分の入口を閉じた”ここが1つ目の山場です。
2005年、SCREENは精密マスクの生産を終え、マスク事業から撤退しました。
網目スクリーンから続いてきた光学とパターンの系譜を、半導体の中でいちばん花形の場所ごと手放した、ということになります。露光に近い側から降りて、ウェット工程へ資源を振り向ける。装置メーカーの判断としては、かなり思い切った部類です。
マスクの生産から降りたあとも、フォトマスク向けの自動寸法測定装置 DR-8000は製品カテゴリに残っています。作るのはやめて、測る側に残った。この取捨が、いまの会社の輪郭になりました。
賭けの答えは、4年後に数字で出た
Section titled “賭けの答えは、4年後に数字で出た”1997年のFC-3000で300mmのバッチ洗浄。2000年のMP-3000、2003年のSU-3000で枚葉洗浄。そして沿革の2009年の欄には、こう書かれています。枚葉洗浄の世界シェアが60%を超えた、と。
マスクから降りた4年後です。
その後も2016年のSU-3300、2020年のSS-3300S、2022年のSU-3400と主力機の更新は続き、2025年7月1日時点で洗浄装置の累計出荷は15,000台を超えました。内訳はSU系の枚葉、FC系のバッチ、SS系のスピンスクラバー。この3カテゴリで世界首位、と会社は公表しています。
面白いのは、会社概要が挙げる首位カテゴリがもっと広いことです。ディスプレイ用コータ、印刷用出力機、CTPオフセット印刷機、プリント基板向け直接描画機。網目スクリーンの子孫は、半導体の外側でも1位を取っていました。
装置を開けると、設計思想が見える
Section titled “装置を開けると、設計思想が見える”枚葉洗浄は、ウェーハを1枚ずつ薬液へ通します。薬液も乾燥も1枚単位で制御できる代わりに、当然ながら遅い。
ではどうやってスループットを稼ぐか。チャンバを増やして並列に走らせます。スピンスクラバーのSS-3300Sは16チャンバで最大1,000WPH。塗布現像のDT-3000(SOKUDO DUO)は450WPH超のデュアルトラックです。1枚あたりの秒数より、並列数と搬送設計のほうが装置の性能を決めます。
バッチ側も現役です。FC-3100、WS-620C / WS-820C / WS-820L、コンパクト型のCW-2000。SB-3300はブラシ洗浄と湿式処理を1台に同居させています。周辺にはフラッシュランプアニールのLA-3100、分光エリプソのRE-3500、分光膜厚のVM系、ウェーハパターン検査のZI-3600。洗って、測って、欠陥を検出するまでが1社の中にあります。
3列を分けているのは、ウェーハを1枚ずつ薬液へ通すか、複数枚をまとめて浸すか、ブラシで表面を擦るかです。スピンスクラバーが3つ目で、1989年の両面スクラバー RSW-612Aと、ブラシ洗浄と湿式処理を1台に同居させたSB-3300が、同じ接触洗浄の側に並びます。そのうえで毎時の枚数は、1枚あたりの秒数より並列数と搬送設計で決まります。この作り方は3列に共通しています。枚葉式洗浄で先端向けの条件を詰めながら、枚数の要る工程はバッチで取る。3カテゴリを同時に名乗れるのは、この共通部分があるからです。
装置の外側も自前です。グループ会社には、SPE Worksが洗浄装置の組立・検査・据付、SPE Quartzが石英部材、SPE Techが開発・製造・リファービッシュと部品、SPE Plastic Precisionが樹脂の精密加工、SPE Serviceが国内保守を担うと書かれています。
薬液に触れる石英と樹脂まで自社グループで作っています。洗浄装置屋として、筋の通った構造です。
決算書は、かなりいびつな形をしている
Section titled “決算書は、かなりいびつな形をしている”ここから数字の話です。
財務ハイライトによると、FY2026/03のセグメント別実績はこうなっています。半導体製造装置(SPE)が売上4859億円・営業利益1227億円で利益率25.2%。グラフィックアーツが574億円・36億円で6.3%。ファインテックが447億円・86億円で19.2%。プリント基板関連が145億円・3億円で2.6%。
4つを足すと営業利益は1352億円。全社の営業利益は1225億円で、差の127億円は全社費用と調整です。
この127億円の差が、そのまま会社の形です。営業利益はほぼ全部がSPEから出ていて、残りの3事業と本社費用がそこから引かれています。決算書のいびつさは、2005年の判断の帰結でもあります。
5年で追うと、SPE売上はFY2022/03の3193億円からFY2025/03の5195億円まで伸び、FY2026/03は4859億円に落ちました。営業利益率は19.7%、20.7%、23.2%、26.4%、25.2%。装置需要の波が、そのまま利益率に出ています。
一方で研究開発費は240億円から378億円に増え、FY2027/03の会社予想は430億円。設備投資もFY2026/03の277億円に対してFY2027/03予想は430億円です。減収の年に投資を絞らず、翌年に積み増している。従業員は連結6,884人、拠点は世界52か所、JCRの格付はA+です。
中期経営計画は、最終年度に賭けられている
Section titled “中期経営計画は、最終年度に賭けられている”Value Up Further 2026は、FY2025/03からFY2027/03までの3年で、累計売上1兆8000億円以上、3年平均の営業利益率19%以上、ROIC 15%以上、連結配当性向30%以上を掲げています。従業員エンゲージメント70%以上、GHG排出のScope1・2で70%以上削減、Scope3で48%以上削減(FY2019/03比)も同じ計画の目標です。
公式の実績と会社予想を足してみます。売上は6252億円、6057億円、7430億円で累計1兆9740億円。営業利益は1356億円、1225億円、1565億円で累計4147億円。3年平均の営業利益率は21.0%。
数字の上では目標を超えます。ただし、その超過分はFY2027/03の予想が丸ごと支えています。減収だったFY2026/03の分を、最終年度で取り返す形です。
2026年、洗浄がEUVの隣に座った
Section titled “2026年、洗浄がEUVの隣に座った”そして直近の動きです。
2026年6月25日のIBM発表を受け、7月9日にSCREENはIBMのsub-1nmチップ技術エコシステムへの参加を公表しました。High NA EUVを含む先端プロセスと装置の共同開発を続ける、としています。さらに5月26日のApplied Materials発表を受け、5月27日には同社のEPIC Centerへinnovation partnerとして参加。持ち込む技術は、ウェーハ洗浄と表面処理です。
洗浄は露光や成膜の後片付け、と受け取られやすい誤解があります。実際には、露光の解像度が上がるほど、その前後の表面状態が歩留まりを決めます。パターンが小さくなれば、残渣も、乾燥時のパターン倒れも、裏面からの汚染も、同じ寸法の世界の話になる。だから洗浄・表面前工程の条件は、露光の要求条件と同じ土俵に入ります。
2005年に露光の入口から降りた会社が、2026年には露光の隣に席を持っています。装置を納入したあとも、材料側の開発拠点で条件を一緒に作る関係です。
次の陣地は、パッケージと水素にある
Section titled “次の陣地は、パッケージと水素にある”先端パッケージでは、直接描画のLeVinaとDW-3100、パネルレベルパッケージ向けスリットコータのLemotiaが製品一覧に載っています。塗って、描いて、洗う。前工程で磨いた作法を、そのまま後工程の大きな基板へ持ち込む形です。
沿革には、彦根の増設ペースも載っています。2018年にCS-2、2019年にS3-3、2024年にS3-5、2025年には水素関連部品の生産スペースを含むS3-6。2016年に熊本サイト、2023年に高岡サイトも開きました。会社概要は新領域として先端パッケージ、水素燃料電池のMEA製造、ライフサイエンスと医療機器を挙げ、10年ビジョンのManagement Grand DesignはFY2033/03を目標年度としています。
最初の話に戻る
Section titled “最初の話に戻る”台湾のファブで、ウェーハが薬液に触れる。
その装置の設計思想は、1934年の京都で、写真の濃淡を網点に分けるために作られたガラス板から続いています。途中で一度、いちばん花形だった露光の入口を手放し、残った洗浄と表面処理で世界一になった。
次に確かめる数字は決まっています。FY2027/03の実績が、売上7430億円と営業利益1565億円に届くかどうか。届けば中計の3年累計は目標を超え、届かなければ最終年度の1年に不足がそのまま積み上がります。
決算発表が、その答え合わせになります。
どこから手を付けるかは、担当する工程ごとに別になります。プロセス担当なら、枚葉とバッチのどちらでレシピを組むか。装置技術なら、チャンバの並列数と搬送設計をどこまで詰めるか。先端パッケージなら、直接描画のDW-3100が塗って・描いて・洗うの並びのどこに入るか。競合を含む工程別のシェアは工程別の装置シェアにまとめてあります。この3つのどれを自分の担当範囲にするかが、そのまま仕事としての入口になります。
年表でたどる転換点
Section titled “年表でたどる転換点”| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1868 | 銅版彫刻師の石田旭山が石田旭山印刷所を創業 |
| 1934 | 写真製版用ガラススクリーンの製造に日本で初めて成功し特許取得 |
| 1966 | 半導体向けの超精密縮小カメラ Ambassador C-59 |
| 1975 | ウェーハエッチング装置 EMW-322/411で半導体製造装置事業へ |
| 1982 | 米国の大手半導体メーカーへウェットステーションを24台納入 |
| 1988 | モジュール構造ウェットステーションと枚葉スピンプロセッサ SPW-812-A |
| 2005 | 精密マスクの生産を終え、マスク事業から撤退 |
| 2009 | 枚葉洗浄の世界シェアが60%超 |
| 2014 | 持株会社体制へ移行しSCREENホールディングスへ改称 |
| 2025 | 洗浄装置の累計出荷15,000台超、SPE事業50年 |
| 2026 | IBMのsub-1nmエコシステムとApplied MaterialsのEPIC Centerへ参加 |
5年の実績と会社予想
Section titled “5年の実績と会社予想”| 年度 | 全社売上 | 全社営業利益 | SPE売上 | SPE営業利益 | SPE営業利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| FY2022/03 | 4118億円 | 612億円 | 3193億円 | 628億円 | 19.7% |
| FY2023/03 | 4608億円 | 764億円 | 3709億円 | 769億円 | 20.7% |
| FY2024/03 | 5049億円 | 941億円 | 4176億円 | 970億円 | 23.2% |
| FY2025/03 | 6252億円 | 1356億円 | 5195億円 | 1369億円 | 26.4% |
| FY2026/03 | 6057億円 | 1225億円 | 4859億円 | 1227億円 | 25.2% |
| FY2027/03 会社予想 | 7430億円 | 1565億円 | 6200億円 | 1590億円 | - |
- 沿革(1868年から現在まで、5ページ構成)
- SCREEN at a glance(従業員数、拠点数、格付、首位カテゴリ、新領域)
- 財務ハイライト(FY2022/03からFY2026/03の実績とFY2027/03予想、研究開発費、設備投資)
- 中期経営計画 Value Up Further 2026
- Management Grand Design(FY2033/03を目標年度とする10年ビジョン)
- SCREEN Semiconductor Solutions 製品一覧
- 洗浄装置の累計出荷15,000台超(2025年7月1日)
- IBMのsub-1nmエコシステムへの参加(2026年7月9日)
- Applied Materials EPIC Centerへの参加(2026年5月27日)
- グループ会社
参照日は2026年7月31日。金額は億円単位に丸めています。
会社の基本データ、拠点、職種の入口、競合との比較軸はSCREENの企業研究ページにまとめています。