GPUとは
GPU(Graphics Processing Unit)とは、画面に絵を描くための計算を専門に担う演算ユニットです。
ルネサスの車載向けSoC「R-Car D3e」の製品仕様には、3DグラフィックスプロセッシングユニットとしてPowerVR Series8XE GE8300を搭載すると記載されています。同じ仕様書には2Dグラフィックスプロセッシングユニットも並び、描画性能は既存製品「R-Car D1」の約6倍と記されています(同社の製品仕様)。
このGPUがチップの中で担当するのは、運転席の計器画面へ3次元の絵をなめらかに描く仕事です。ルネサスは、車載用液晶ディスプレイの大型化と高解像度化が進み、計器画面へ表示する情報量が増えたことを、このSoCを開発した背景として挙げています。
絵を描く仕事には、ほかの計算と際立って異なる性質があります。画面の1点ずつに対して、ほとんど同じ計算を、画素の数だけ繰り返す点です。1点の計算結果を隣の点が待つ場面は少なく、まとめて同時に走らせられます。
だからGPUは、入り組んだ1つの計算を速く終える方向より、単純な計算をいくつ同時に走らせられるかという方向へ伸びました。演算ユニットの数を増やせば、そのぶん1秒あたりに塗れる画素が増えます。
数を増やすことが、そのまま性能になります
Section titled “数を増やすことが、そのまま性能になります”この形は、チップ1個の中でも、システム全体の規模でも、同じように繰り返されます。
産業技術総合研究所が運用するAI向け計算システム「ABCI 3.0」の計算資源ページによると、システムは766台の計算ノードからなり、ノード1台あたり8基のGPUアクセラレータを搭載し、合計は6,128基です(2026年8月時点の公表構成)。
ノード1台の性能は、半精度の浮動小数点演算で8,122 AI-TFLOPS、つまり1秒間に8千兆回とされています。システム全体では半精度で6.2 AI-EFLOPSです。
ABCIという計算基盤が何へ向けられているかも公表されています。産総研は2023年10月、国立情報学研究所が主宰するLLM-jpや東京工業大学と協力し、1750億個のパラメタを持つ大規模言語モデルの構築へABCIを提供すると発表しました。この発表は2023年10月時点のABCIについてのもので、上で挙げた6,128基という構成とは別の時点です。生成AIの学習は、GPUを大量に搭載したシステムの上で走っています。
答えの細かさと、1秒あたりの回数
Section titled “答えの細かさと、1秒あたりの回数”同じABCI 3.0の公表値には、もう一つの数字が並びます。倍精度の浮動小数点演算では、ノード1台あたり542 TFLOPSです。
半精度の8,122 AI-TFLOPSと比べると、およそ15倍の開きがあります(産総研の公表値からこちらで割り算した値です)。同じハードウェアで、同じ1秒のあいだに、答えを細かく求めるか回数を稼ぐかが入れ替わります。
描画のために育った形と、AIの計算のずれ
Section titled “描画のために育った形と、AIの計算のずれ”GPUがAIの計算へ向くとしても、その設計の出発点はあくまで描画です。このずれは、電力と発熱の測定値としてあらわになります。
ルネサスのDRP-AIホワイトペーパーによると、GPGPUの高並列演算で広く使われるim2colという手法は、行列演算の並びに合わせて画像データをあらかじめ並べ直します。3×3のフィルタを使う畳み込み演算では、1画素のデータが9か所へ複製されるため、データ量が9倍にふくらみ、消費電力と通信帯域が増えます(2021年6月時点の同社の記述)。
同社は、市販のGPUと自社の試作品を同じ条件で走らせた実験の測定値も載せています。TinyYolov2を動かしたとき、市販のGPUはヒートシンクを付けた状態で表面温度79.0℃、同社の試作品はヒートシンクなしで40.9℃、そのときのフレームレートは42fpsで、GPU側は同等以下だったとしています(同社の試作実験)。
NEDOとルネサスが2022年12月に出した共同発表も、100Wクラスのパソコンで動かすようなAI処理を数W以内へ収める性能が、機器へ組み込むには要ると述べています。
そこで、手元の機器ではGPUの隣へ別の演算ユニットが載ります。ルネサスのMPU「RZ/V2L」の仕様表には、3D GPUとしてArm Mali-G31が記載され、NPUの欄にはYesと記されています。同じ製品ページの本文には、そのAIアクセラレータが同社の「DRP-AI」であると書かれています。1つのチップの中で、絵を描く側とAIの計算を担う側が同居する構成です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”GPUとは何ですか?
画面に絵を描くための計算を専門に担う演算ユニットです。ルネサスの車載向けSoC「R-Car D3e」の製品仕様には、3DグラフィックスプロセッシングユニットとしてPowerVR Series8XE GE8300を搭載すると記載されています。
なぜ絵を描く装置が生成AIの学習に使われるのですか?
計算の中身が近いためです。描画は画素ごとにほぼ同じ計算を繰り返す仕事で、AIの学習も掛け算と足し算の反復です。どちらも単純な計算を大量に同時へ走らせる装置に向きます。
CPUとはどう使い分けますか?
仕事の性質で分担します。手順が入り組んだ計算はCPUが担当し、同じ計算を大量に繰り返す部分をGPUが引き受けます。ルネサスのRZ/V2Lの仕様表のように、1つのチップへCPUコアと3D GPUを同居させる構成が広く採られています。
半精度と倍精度とは何ですか?
小数を何桁の細かさで表すかの区分です。産業技術総合研究所のABCI 3.0では、計算ノード1台あたり半精度8,122 AI-TFLOPS、倍精度542 TFLOPSと公表されています。細かさを落とすほど1秒あたりの回数が伸びます。
GPUは1つのシステムにいくつ載るのですか?
用途で規模が大きく開きます。産業技術総合研究所のABCI 3.0は計算ノード1台あたり8基のGPUアクセラレータを搭載し、システム全体では6,128基です。一方、車載SoCのR-Car D3eの仕様表に載る3D GPUは1つです。
GPGPUとは何ですか?
描画以外の計算へGPUを使う手法です。ルネサスのDRP-AIホワイトペーパーは、GPGPUの並列演算で広く使われるim2colという手法を引き合いに、画像データを行列演算の順へ展開するとデータ量が9倍にふくらむ点を挙げています。
手元の機器でもGPUでAIを動かすのですか?
電力と発熱が壁になります。ルネサスの試作実験では、市販のGPUがヒートシンク付きで表面温度79.0℃、同社のAIアクセラレータ試作品がヒートシンクなしで40.9℃でした。組み込み機器ではNPUなどの専用ユニットを併用します。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- NPUとは ── 描画の仕事を持たず、AIの計算だけを担う側
- マイクロプロセッサ(MPU)とは ── 入り組んだ手順を1つずつ進める側
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- ルネサス「R-Car D3/D3e 3Dクラスタ向け自動車用SoC」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 3Dおよび2Dグラフィックスプロセッシングユニットの搭載、描画性能が既存製品の約6倍という記載、開発の背景
- 産業技術総合研究所 ABCI「計算資源」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 766台の計算ノード、ノードあたり8基、合計6,128基、半精度8,122 AI-TFLOPS、倍精度542 TFLOPS、全体で6.2 AI-EFLOPS
- 産業技術総合研究所「産総研の計算資源ABCIを用いて世界トップレベルの生成AIの開発を開始」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 1750億個のパラメタを持つ大規模言語モデルの構築へABCIを提供するという発表
- ルネサス「ホワイトペーパー 組み込みAIアクセレーター(DRP-AI)」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── im2colでデータ量が9倍になる件、市販GPUと試作品の表面温度79.0℃と40.9℃、42fps
- ルネサス「RZ/V2L 汎用マイクロプロセッサ」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 仕様表の3D GPU欄のArm Mali-G31とNPU欄のYes、および本文のDRP-AI搭載という記載
- NEDO・ルネサス「従来技術に比べて最大10倍の電力効率を実現した人工知能(AI)チップを開発」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 100Wクラスのパソコン相当のAI処理を数W以内へ収める性能という記述