CVDとPVDの違い(成膜プロセス比較)
半導体工場の求人票に並ぶ「成膜装置」という一語の下には、原理のまるごと異なる2系統が同居しています。CVD装置とPVD装置では、担当する化学も、真空度も、装置メーカーの顔ぶれも入れ替わります。同じ深さの溝へ膜を付けても、側壁の膜厚は方式で違います。溝の側壁まで膜を回り込ませたい層間絶縁膜と、金属を厚く速く積みたい配線とでは、選ぶ方式が逆になります。
CVD(Chemical Vapor Deposition、化学気相成長)とは、原料ガスを反応室へ導入し、ウェーハ表面の化学反応で膜を作る方式です。PVD(Physical Vapor Deposition、物理気相成長)とは、ターゲット材料から叩き出した粒子をウェーハへ飛ばして積もらせる方式です。このページでは、成膜の原理から段差被覆性、成膜温度、膜種、代表装置メーカーの順にCVDとPVDを比較し、目の前の膜にどちらの方式を当てるか、求人票の「成膜」がどちらの装置群を指すかを区別できるようにします。
結論:CVD(化学気相成長)とPVD(物理気相成長)の違いは?
Section titled “結論:CVD(化学気相成長)とPVD(物理気相成長)の違いは?”CVDは、原料ガスを反応室へ導入し、基板の表面で化学反応を起こして膜を作ります。東京エレクトロンの公式用語集は、CVDを、必要な材料を含むガスを反応室へ導入して化学反応を誘起し、基板上へ薄膜を堆積させる化学的プロセスとして記述しています。
PVDは、ターゲット材料へアルゴンなどの不活性ガスを高速で当て、叩き出された粒子を基板へ積もらせます。同じ東京エレクトロンの公式用語集は、スパッタリング装置を、加速した不活性物質がターゲットへ衝突し、叩き出されたターゲット分子が基板へ堆積する装置として記述しています。
CVDの化学反応とPVDの物理的な叩き出しという原理の差は、そのまま段差被覆性、成膜温度、膜の純度、装置メーカーの顔ぶれへ伝わります。したがって比較は、膜になるまでの経路を化学反応と物理的な叩き出しのどちらが担うか、という一点から始めます。
図1の左右の差は、膜の材料がどこから来るかにあります。CVDでは反応室を満たす原料ガスがウェーハ表面へ到達してから反応するため、深い溝の側壁にも膜が付きます。PVDではターゲットから飛んだ粒子がウェーハへまっすぐ届くため、粒子の飛来方向を向いた溝の入口が先に厚くなります。この差が、次の比較表では段差被覆性と主な膜種の行に出ます。
| 観点 | CVD(化学気相成長) | PVD(物理気相成長) |
|---|---|---|
| 成膜の原理 | 原料ガスの化学反応が表面で膜を作る | ターゲットから叩き出した粒子が飛来して積もる |
| 代表プロセス | 熱CVD、LPCVD、PECVD、MOCVD、ALD | スパッタリング、真空蒸着、イオンビーム成膜 |
| 段差被覆性(コンフォーマル性) | 高い。深い溝の側壁と底へ回り込む | 限界がある。溝の入口が先に厚くなる |
| 成膜温度 | 中〜高温。PECVDは低温側へ広がる | 低〜中温。温度に上限のある材料に向く |
| 膜の純度・組成 | 前駆体由来の元素が膜へ残る場合がある | ターゲット組成をほぼそのまま移せる |
| 主な膜種・用途 | 層間絶縁膜、パッシベーション膜、バリア膜、SiN/SiO₂ | 金属配線、電極、シード層、Al/Cu/Ti/TiN |
| 真空度要件 | LPCVD(減圧CVD)は反応室の圧力を下げて運転する | 超高真空で多層成膜を行う機種がある |
| 代表装置メーカー | ラムリサーチ、KOKUSAI ELECTRIC、アルバック、AIXTRON、Veeco、Applied Materials | キヤノンアネルバ、アルバック、Evatec、芝浦メカトロニクス、Applied Materials |
代表装置メーカーの行は、当サイトの装置カタログDBに入っている公式製品ページ単位のfamilyから引いています。CVD側の実例としてはラムリサーチのVECTOR Product Family(PECVD)、KOKUSAI ELECTRICのバッチ成膜装置群、アルバックのCVD/PE-CVDシステムが挙がります。PVD側ではキヤノンアネルバのスパッタリング装置、EvatecのCLUSTERLINE 300、芝浦メカトロニクスのSWN-5000/BM-1400Wが該当します。真空度要件の行も、代表プロセスの行に並ぶこれらの装置の運転条件です。CVD側はLPCVDが反応室の圧力を下げて運転する形式であり、PVD側はキヤノンアネルバの製品ページが、上に挙げたスパッタリング装置を超高真空下で多層成膜を行う装置として記述しています。いずれも公式製品ページを出典とし、2026年8月21日にリンク先の生存を実測しています。
CVDの主な種類とその特徴
Section titled “CVDの主な種類とその特徴”熱CVDは、基板を加熱して原料ガスの反応を進める最も基本の形式です。膜質が安定する一方で、基板温度が高くなるため、既に作り込んだ配線や素子の熱予算(それらが許容できる加熱温度と時間の上限)を圧迫します。
LPCVD(減圧CVD)は、反応室の圧力を下げてガスの平均自由行程を伸ばし、ウェーハ間の膜厚均一性を高めます。縦型炉で多数枚を同時に成膜する形式が広く使われ、SiNやポリシリコンの成膜で定番となっています。
PECVD(プラズマ支援CVD)は、プラズマで原料ガスを分解して反応を促進することにより、低い基板温度で膜を作ります。Oxford Instruments Plasma Technologyの公式技術ページは、PECVDを多様な膜種の成膜に使われる確立した手法として挙げ、屈折率、応力、電気特性、ウェットエッチレートを制御項目として示しています。配線工程のあとに絶縁膜やパッシベーション膜を載せる場面では、この低温性が効果を発揮します。
PECVDはプラズマを使う成膜であるため、同じくアルゴンプラズマを使うスパッタリングと並ぶPVD側の方式と受け取られやすいが、実際には原料ガスの化学反応で膜を作るCVDの一種です。プラズマの役目は原料ガスの分解と反応の促進であり、膜の材料はガスから来ます。スパッタリングではプラズマ中のアルゴンイオンがターゲットを叩き、膜の材料はターゲットから来ます。CVDかPVDかを分ける基準は、プラズマの有無よりも、膜の材料が原料ガスの化学反応から来るか、ターゲットの叩き出しから来るかにあります。
MOCVD(有機金属CVD)は、有機金属を前駆体(膜の元素を運ぶ原料分子)に使い、GaNやGaAsなど化合物半導体のエピタキシャル成長を担います。パワー半導体、LED、光デバイスの製造で中心的な役割を持ちます。
ALD(原子層堆積)は、前駆体と反応剤を交互に供給し、各ステップが自己停止する反応を利用します。Oxford Instruments Plasma Technologyの公式技術ページは、ALDが1サイクルあたりサブオングストローム単位の膜厚を与え、高アスペクト比構造へコンフォーマルな被覆を行うと記述しています。ALDの工程分類と公開求人は、ALD(原子層堆積)の工程ページにまとめています。
PVDの主な種類とその特徴
Section titled “PVDの主な種類とその特徴”スパッタリングは、PVDの中で半導体製造の主力を占める方式です。アルゴンプラズマ中のイオンをターゲットへ加速して当て、叩き出された原子をウェーハへ積もらせます。ターゲットの組成をほぼそのまま膜へ移せるため、合金組成の再現性が要る金属配線に向きます。
真空蒸着は、材料を加熱して蒸発させ、飛来した原子を基板へ積もらせます。装置構成が単純で成膜レートも高く、光学薄膜や電極の量産で使われます。半導体前工程での採用はスパッタリングより限られます。
イオンビーム成膜は、独立したイオン源でターゲットを叩き、入射角とエネルギーを個別に制御します。膜密度と界面の制御性が高く、光学多層膜や磁気デバイス向けの精密成膜で使われます。
スパッタリングの弱点は、飛来方向の偏りに由来します。深い溝やビアの上では入口の角が先に成長し、側壁と底の膜厚が薄く仕上がります。この段差被覆の差が、CVDとPVDを使い分ける最大の理由になります。
図2の断面が示すとおり、溝の深さが同じでも、CVDでは上面・側壁・底の膜厚がそろい、PVDでは入口の角に膜が集まって側壁と底が薄く仕上がります。アスペクト比(溝の深さを幅で割った比)が高くなるほどこの差が広がるため、次節の選び方では段差被覆性を最初の判断項目に据えます。
CVDとPVDの選び方の考え方
Section titled “CVDとPVDの選び方の考え方”膜に求める性質から入ると、CVDとPVDの選択は、段差被覆性、金属の組成再現性、熱予算の3つの軸で比べます。
段差被覆性が要る場面ではCVDが優先されます。層間絶縁膜、バリア膜、パッシベーション膜のように深い凹凸を覆う膜は、表面反応で回り込むCVDの得意分野です。アスペクト比がさらに高くなる場面では、CVDから派生したALDへ移ります。
金属を厚く速く積む場面ではPVDが優先されます。配線、電極、めっきのシード層のように、ターゲット組成をそのまま移したい膜は、スパッタリングが向きます。合金組成の再現性という観点でも、PVDに分がある領域です。
熱予算が選択を分ける場面もあります。既に作り込んだ素子や配線を守れる温度域が要る場合、PECVDのような低温CVD、またはPVDが候補になります。逆に膜質を優先できる工程順であれば、熱CVDやLPCVDの膜質の高さが活きます。
図3の3行は、上から順に段差被覆性、組成の再現性、熱予算の軸です。1行目で深い凹凸を覆う膜はCVD側へ、2行目で金属を厚く速く積む膜はPVD側へ進みます。3行目の熱予算は、CVD側の中で熱CVD・LPCVDからPECVDへ候補を移すか、PVDまで候補を広げるかを左右します。
CVDとPVDのどちらを担当するかで、必要な知識と装置メーカーの顔ぶれは入れ替わります。求人票の「成膜」という一語の下でも、CVD装置の前駆体化学とPVD装置のプラズマ・真空技術は別物として募集されています。実際の募集内容はCVDの求人一覧とPVDの求人一覧の2つの一覧で比べられます。
工程設計の判断では、この比較は膜を載せる順番と温度の上限に直結します。既に作り込んだ配線を守る温度域が要る工程順ならPECVDのような低温CVD、膜質を優先できる工程順なら熱CVDやLPCVD、金属配線や電極そのものならスパッタリングと、膜の位置と材料で方式が定まります。検査・解析の判断では、断面で溝の入口が厚く側壁が薄い膜が出たとき、PVDの飛来方向の偏りへ立ち返って原因を切り分けます。次に比べる軸は、CVDの延長でどこまで高いアスペクト比を覆えるかで、その比較先はALD(原子層堆積)の工程ページです。成膜工程が前後の工程とどう並ぶかは、酸化・成膜工程の全体像で追えます。
- 酸化・成膜工程の全体像 ── 成膜工程が前後の工程とどう並ぶか
- CVD・PECVDの工程ページ ── 工程分類と公開求人
- PVD・スパッタの工程ページ ── 工程分類と公開求人
- ALD(原子層堆積)の工程ページ ── CVDから派生した原子層単位の成膜
よくある質問
Section titled “よくある質問”CVDとPVDの最大の違いは何ですか?
膜になるまでの経路が異なります。CVDは原料ガスを反応室へ導入し、基板の表面で化学反応を起こして膜を作ります。PVDはターゲット材料へ高速のアルゴンイオンを当て、叩き出された粒子を基板へ積もらせます。CVDは化学反応、PVDは物理的な運動が膜を作る、という一点から段差被覆性と成膜温度の差が生まれます。
スパッタリングはCVDとPVDのどちらですか?
スパッタリングはPVD(物理気相成長)に属します。東京エレクトロンの公式用語集は、スパッタリング装置を、加速した不活性物質がターゲット材料へ衝突し、叩き出されたターゲット分子が基板へ堆積する装置として記述しています。金属配線や電極の成膜で広く使われます。
PECVDはどのような成膜方法ですか?
PECVD(プラズマ支援CVD)はCVDの一種で、プラズマで反応を促進することにより、低い基板温度で膜を作ります。Oxford Instruments Plasma Technologyの公式技術ページは、PECVDを多様な膜種の成膜に使われる確立した手法として挙げ、屈折率、応力、電気特性、ウェットエッチレートを制御項目として示しています。パッシベーション膜や高密度マスクの用途が代表例です。
半導体製造でCVDとPVDはどの工程で使われますか?
CVDは層間絶縁膜、パッシベーション膜、バリア膜など、深い凹凸を覆う必要のある膜で使われます。PVDは金属配線、電極、シード層など、金属を厚く速く積む膜で使われます。どちらもウェーハ前工程の成膜工程に属し、同じ工場の中で役割を分けて並行して動きます。
段差被覆性に優れているのはCVDとPVDのどちらですか?
CVDが優れます。CVDは気相の分子が表面へ到達してから反応するため、深い溝の側壁や底にも回り込みます。PVDはターゲットから飛来する粒子の方向が偏るため、溝の入口が先に厚くなり、側壁が薄く仕上がります。さらに高い被覆性が要る場合は、CVDから派生したALD(原子層堆積)を使います。
CVDとPVDの装置メーカーは同じですか?
一部は重なり、一部は分かれます。Applied Materials、KLA(SPTS)、NAURA、Plasma-Thermのように両方を持つメーカーがある一方で、CVD側にはラムリサーチ、KOKUSAI ELECTRIC、AIXTRON、Veeco、PVD側にはキヤノンアネルバ、アルバック、Evatec、芝浦メカトロニクスが並びます。当サイトの装置カタログDBでは、公式製品ページ単位でメーカーと製品familyを引けます。
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- キヤノンアネルバ ── スパッタリング装置
- Evatec ── CLUSTERLINE 300
- 芝浦メカトロニクス ── SWN-5000/BM-1400W(真空装置)
- Oxford Instruments Plasma Technology ── PECVD 公式技術ページ
- Oxford Instruments Plasma Technology ── Atomic Layer Deposition 公式技術ページ