BAWフィルタとは
BAWフィルタとは、圧電体の内部を厚さ方向に伝わるバルク弾性波の共振を使って、決まった周波数帯の信号だけを通す高周波部品です。 SAWフィルタが表面を横に走る波を使うのに対して、こちらは膜の中を縦に往復する波を使います。
電子情報通信学会の知識ベースは、媒質の中を3次元に広がりながら進む弾性波をバルク波(Bulk Acoustic Wave:BAW)と呼び、表面の近くだけにエネルギーが集まって進む弾性表面波(SAW)とは区別しています。
同資料によると、特定の形状を持つ圧電体に励振電極を設けて交流電界を加えると内部に弾性波が起き、材質と形状・寸法で決まる周波数で共振します。共振点付近で電気端子から見たインピーダンスが大きく変化する性質を使った素子がバルク波共振子(Bulk Acoustic Resonator:BAR)で、この共振子を組み合わせて構成したフィルタがバルク波共振子フィルタです。BAWフィルタという呼び方は、この素子群を指します。
周波数は、膜の厚さで決まります
Section titled “周波数は、膜の厚さで決まります”知識ベースは、圧電板の表と裏を電極ではさんで交流信号を加えると厚さ方向へ進む波が起き、板の厚みで決まる周波数で共振すると記述しています。通常の圧電板では、厚みが半波長にあたる基本波と、その奇数倍の高調波だけが圧電的に励振される、とも書かれています。周波数を握っているのは、板の厚みです。
ここに、長らく壁がありました。同資料は、厚み共振子が超高周波になると板厚が極端に薄くなって製作が困難になるため、VHF帯からUHF帯のフィルタには専らSAWフィルタが用いられてきた、と経緯を記しています。
壁を薄膜で越えたのが、1980年代に考案された圧電薄膜共振子(Film Bulk Acoustic Resonator:FBAR)です。同資料によれば、圧電薄膜の膜厚は数µmから数十µm、基本共振周波数は数百MHzから10GHz帯に及びます。板を削って薄くする作業が、膜を積む作業に置き換わったことで、扱える周波数が一気に上がりました。
同資料は、FBARをシリコン基板の上に作れることから半導体の集積回路との相性が良く、大きな電力に耐える性質や静電気への強さの面でもSAWフィルタに勝るとしています。
波を基板から切り離す2つの作り方があります
Section titled “波を基板から切り離す2つの作り方があります”膜の中に波を閉じ込めるには、波がシリコン基板へ逃げる経路を断つ必要があります。知識ベースは、FBARの作製方法として2つを挙げています。
1つは、シリコン基板の上へ下部電極、圧電薄膜、上部電極を順に作り、共振子にあたる部分のシリコン基板を最後に異方性ウエットエッチングや反応性のイオンエッチングで取り去る方法です。もう1つは、下部電極の下にあとから取り除ける犠牲層を仕込んでおき、最後にこれを抜いて空隙を作る方法です。どちらも、膜の裏側を空気に接する状態にします。
もう一系統がSMR(Solidly Mounted Resonator)です。同資料は、電極に挟まれた圧電薄膜とシリコン基板の間に数層の誘電体薄膜を積層し、固有音響インピーダンスの高い層と低い層を交互に積み重ね、厚さをいずれも動作中心周波数で4分の1波長に設定すると記述しています。圧電薄膜で励振された音波は、層と層の界面ごとに少しずつ反射と透過を起こします。このとき反射波は互いに強め合い、透過波は弱め合うため、エネルギーは圧電薄膜の付近にとどまり、シリコン基板へ届く分はごくわずかになります。基板に固着したまま基板の影響から切り離せることが、この名前の由来だと同資料は述べています。
性能のほとんどは、圧電材料で決まります
Section titled “性能のほとんどは、圧電材料で決まります”産総研は産総研マガジンで、BAWフィルターがシリコン基板へ下部電極、圧電材料、上部電極を重ねただけの単純な構造であり、改良の余地があるのは圧電材料だけであるという開発者の見方を紹介しています。よい圧電材料ができれば、それだけでフィルターの性能が上がるという理屈です。
同研究所の2016年3月のプレスリリースは、圧電材料である窒化アルミニウム(AlN)が高いQ値を持つため、ほぼすべてのFBAR型フィルターに利用されていると述べています。あわせて、周波数が高くなり帯域どうしの間隔も詰まっていく通信の流れに対して、圧電性能を大きく伸ばすことが求められる、と課題を挙げています。
数字の推移も公表されています。産総研マガジンによると、AlNの圧電定数は6 pC/Nでしたが、レアアースであるスカンジウムを添加すると28 pC/Nまで向上しました。2007年の成果です。ただしスカンジウムは高価なため、代替元素の探索が続きました。同研究所は村田製作所との共同研究で、マグネシウムとニオブを同時に添加し、添加量の合計が約0.65のときに圧電定数d33が22 pC/Nに達したと2016年に発表しています。
5Gで数が要る理由と、その先の課題があります
Section titled “5Gで数が要る理由と、その先の課題があります”産総研マガジンは、5Gが4Gより高い周波数帯を使うこと、そのなかで高周波対応に優れるBAWフィルターの性能は圧電材料でほぼ決まることを述べています。同じ記事は搭載個数にも触れ、BAWフィルターが1つの機能部品につき20個弱入り、その部品が1台あたり4つ入るため、スマートフォン1台では70個から80個に上ると記しています(2020年1月時点の記述です)。
太陽誘電は高周波デバイスの製品情報で、FBARとSAW、積層セラミックの3つの技術をそろえて5G向けの製品群を用意していると書いています。帯域ごとに向いた方式を選ぶ構えです。
上限もあります。村田製作所は2025年7月のニュースリリースで、3GHz以上の高周波数帯においてLTCCフィルタや従来のBAWフィルタは減衰量に課題があり、ノイズの原因となる周辺周波数の信号も通してしまう状態だったと書いています。
同社が2025年7月に量産出荷を始めたXBAR技術は、櫛型電極と圧電単結晶薄膜でバルク波を起こす独自方式です。世界初という位置づけは同社調べで、2025年7月7日時点の判断だとしています。公表仕様は通過帯域5150MHzから7125MHz、挿入損失2.2dB typ.、3300MHzから4800MHzで28dB typ.の減衰といった値です(いずれも同社の代表値です)。同社は、6Gで想定される10GHz以上の超高周波数帯についても、高い減衰量と低損失、広帯域を両立できる技術だとしています。
厚みで周波数が決まる素子では、性能の伸びしろが材料と膜の作り方に集まります。 単純な3層構造だからこそ、圧電材料の1つの数字が、そのままフィルタの品質になります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”BAWフィルタとは何ですか?
圧電体の内部を厚さ方向に伝わるバルク弾性波の共振を使って、決まった周波数帯の信号だけを通す高周波部品です。スマートフォンや無線LAN機器の高い周波数帯で使われます。
SAWフィルタとの違いは何ですか?
使う波と、周波数が決まる寸法が別です。電子情報通信学会の知識ベースは、媒質の中を3次元に広がりながら進む弾性波をバルク波と呼び、表面の近くだけにエネルギーが集まって進む弾性表面波とは区別しています。SAWは電極の周期で、BAWは膜の厚さで周波数が決まります。
FBARとは何ですか?
圧電薄膜共振子(Film Bulk Acoustic Resonator)のことで、1980年代に考案されたBAW共振子です。同じ知識ベースによると、圧電薄膜の膜厚は数µmから数十µm、基本共振周波数は数百MHzから10GHz帯に及びます。
SMRとは何ですか?
Solidly Mounted Resonatorの略で、圧電薄膜とシリコン基板の間に誘電体薄膜の多層膜を挟んだ共振子です。知識ベースは、固有音響インピーダンスの高い層と低い層を交互に積み、各層の厚さを動作中心周波数で4分の1波長にすると記述しています。反射波が互いに強め合うため、エネルギーが圧電薄膜の付近にとどまります。
なぜ5Gで数が要るのですか?
対応する周波数帯が増えたためです。産総研マガジンは、BAWフィルターが1つの機能部品につき20個弱入り、その部品が1台あたり4つ入るため、スマートフォン1台で70個から80個に上ると書いています(2020年1月時点の記述です)。
性能は何で決まるのですか?
圧電材料です。同じ産総研マガジンは、BAWフィルターがシリコン基板の上に下部電極・圧電材料・上部電極を積層する単純な構造で、改良の余地があるのは圧電材料だけであるという開発者の見方を紹介しています。
BAWにも上限はありますか?
あります。村田製作所は2025年7月のニュースリリースで、3GHz以上の高周波数帯ではLTCCフィルタや従来のBAWフィルタの減衰量に課題があり、ノイズの原因となる周辺周波数の信号も通してしまう状態だったと書いています。同社はXBAR技術による製品でここへ手を入れたとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- SAWフィルタとは ── 電極の周期で周波数が決まり、700MHzから2.6GHz帯を担います
この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- 電子情報通信学会「知識ベース 9群8編3章 弾性波デバイス」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── バルク波と弾性表面波の区別、バルク波共振子(BAR)とBARフィルタの位置づけ、板厚が半波長となる基本波が励振されること、厚み共振子の板厚が超高周波で極端に薄くなること、FBARの2つの作製方法と膜厚数µmから数十µm・基本共振周波数数百MHzから10GHz帯、SMRの4分の1波長多層膜と反射の重なり、FBARが半導体集積回路との整合性・耐電力性・静電耐圧特性で有利であること
- 産業技術総合研究所「産総研マガジン(2020年1月31日)」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── BAWフィルターがシリコン基板上に下部電極・圧電材料・上部電極を積層する構造で改良の余地が圧電材料だけであること、AlNの圧電定数6 pC/Nがスカンジウム添加で28 pC/Nへ向上したこと(2007年)、マグネシウムとニオブの合計添加量約0.65で22 pC/Nに達したこと、スマートフォン1台あたり70個から80個という搭載個数
- 産業技術総合研究所「レアアースを添加せずに窒化物で世界最高水準の圧電性能を実現」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 窒化アルミニウムが高いQ値を持つためほぼすべてのFBAR型フィルターに利用されていること、通信の高周波化と周波数帯の近接化に向けて圧電性能の向上が求められていること、村田製作所との共同研究で圧電定数d33が22 pC/Nに達したこと
- 村田製作所「世界初、XBAR技術を用いた高周波フィルタを商品化」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 3GHz以上でLTCCフィルタや従来のBAWフィルタの減衰量に課題があったこと、XBARが櫛型電極と圧電単結晶薄膜でバルク波を励振する方式であること、通過帯域5150MHzから7125MHz・挿入損失2.2dB typ.・3300MHzから4800MHzで28dB typ.の減衰、6Gの10GHz以上への展望
- 太陽誘電「高周波デバイス」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── FBARとSAW、積層セラミックの3つの技術で5G向けの製品を提供していること