PLLとは
PLLとは、基準信号との位相差が小さくなる向きに発振器を制御し、基準の正確さを保ったまま別の周波数を作り出す回路です。
電子情報通信学会の知識ベースは、位相同期回路(PLL)を、位相の成分をフィードバックすることで、入力信号の周波数と、回路が内部に持つ電圧制御発振器の発振周波数とを同期させる回路としています。演算増幅器が戻すのは電圧や電流ですが、PLLが戻すのは位相です。この一語の違いが、PLLという名前の中身になります。
同章は応用の広さも挙げています。コンピュータなどのクロック発生回路、通信システムの周波数シンセサイザ、テレビの画像同期信号を作る回路、光ディスクや高速インタフェースのデータ・クロック再生回路、モータの速度制御回路が、いずれも同じ仕組みの上に載ります。
同章は、チャージポンプ型PLLをもっとも多く使われる汎用回路として挙げ、5つの部品の役割を記しています。位相周波数比較器は入力信号とフィードバック信号を比べ、アンロックのときは周波数の比較信号を、ロックのときは位相の比較信号を、ディジタルパルスとして出します。チャージポンプ回路はそのパルスをアナログ量へ変えてループフィルタへ渡します。ループフィルタは回路の安定度と応答特性を決め、同章によれば位相ノイズ特性もここで決まります。電圧制御発振器(VCO)は入力電圧に応じて発振周波数が変わる発振回路で、分周器はVCOの出力をN分の1にして比較器へ戻します。
一巡の動きは4段階です。比較器が立ち上がりエッジの差の分だけパルスを出し、チャージポンプのスイッチが入って電流パルスがフィルタを充電し、VCOの制御電位が上がり、VCOの発振周波数が高くなって次の立ち上がりのタイミングが早まります。毎回この向きに動くので、出力は基準へ引き込まれていきます。
水晶の正確さと、使いたい周波数は別ものです
Section titled “水晶の正確さと、使いたい周波数は別ものです”水晶振動子は決まった周波数で正確に振れます。一方で、回路が欲しがる周波数はそれとは別の値になります。この差を埋めるところにPLLが入ります。
エプソン水晶デバイスの用語集は、PLLを、特定の周波数のクロック信号をもとに、任意の周波数の出力を作り出す回路あるいはICとしています。同じ用語集はPLL発振器も挙げ、PLL回路を持った水晶発振器であれば100 MHzを超える周波数も容易に出力できるとしています(この節の数値は、いずれも同社製品についての記述です)。
車載用途向けプログラマブルSPXOの製品ページは、内蔵のFractional-N PLLが水晶振動子の周波数を逓倍することで高い周波数へ対応すると記し、書き込める範囲を1.2 MHzから170 MHzとしています。SG-8200/SG-8201シリーズのページはさらに、Fractional-N PLLで10のマイナス6乗(1 ppm)の精度まで周波数を刻めるため、振動子側の周波数ばらつきをPLL側で補正できるとしています。
周波数の正確さは基準の水晶が受け持ち、周波数の値はPLLが受け持ちます。 この分業がPLLの働きです。
ループ帯域というつまみは一つだけです
Section titled “ループ帯域というつまみは一つだけです”知識ベースの同章は、ΔΣ型分数分周シンセサイザについて、二種類のゆらぎがループ帯域を取り合う様子を記しています(この節の記述は同方式についてのものです)。分数の分周比は、入力信号に合わせて分周比を切り替えることで作るため、切り替えのたびにスイッチングノイズが出ます。このノイズはΔΣ変調の効果で高い周波数側へ集まるので、ループフィルタのカットオフが低いほどよく取り除けます。ところがカットオフを低くすると、今度はVCO自身の位相ノイズが出力へ漏れてきます。そこで、出力位相ノイズを最小にするループ帯域に最適値が生まれます。
刻みの細かさについても同章は数字を挙げています。ΔΣ変調器の内部ダイナミックレンジが20ビット程度であれば、出力周波数の刻みは入力信号の周波数の1 ppm程度になり、周波数をほぼ連続に変えられます。細かく刻める仕組みと、雑音が増える仕組みは同じ一つの仕組みです。同章は、この方式がCDMAやOFDMを使う携帯無線への応用を可能にし、携帯電話市場の発達につながったとしています。
ゆらぎは周波数でも時間でも表せます
Section titled “ゆらぎは周波数でも時間でも表せます”エプソン水晶デバイスのTechnical Notesは、位相雑音を周波数領域で表した周波数の不安定さ、ジッタを時間領域における信号波形の揺らぎとし、位相雑音の積分値が位相ジッタ(RMSジッタ相当)になるとしています。同じ現象を、横軸を変えて眺めた姿です。
同資料は、位相雑音の出どころとして水晶発振回路に加え、PLL回路を使う場合には各回路部の雑音成分やループ特性に起因する雑音も挙げています。PLLは、欲しい周波数を作る代わりに、自分の雑音を少し足します。
その幅は作り方で動きます。エプソンのSG-8200/SG-8201シリーズのページは、従来品のSG-8101シリーズと比べ、オフセット周波数100 kHzから1 MHzで30 dBc/Hz程度、位相ジッタで約1/40に低減したとしています(同社製品どうしの比較値です)。
基準を作る側にも、基準へ合わせる側にも入ります
Section titled “基準を作る側にも、基準へ合わせる側にも入ります”日本電波工業は、電圧制御水晶発振器(VCXO)の用途として、伝送機器・交換機器の同期用(PLL)と、復調用のジッタフィルタを挙げています。装置どうしのクロックを揃える場面でも、位相のフィードバックという同じ仕組みが働きます。
半導体の製品としては、PLLはチップの中へ組み込まれる回路ブロックの一つです。知識ベースの同章は、応答性の改善、出力周波数をより細かく刻むこと、位相ノイズの低減、ループフィルタの小面積化といった方向へ、用途ごとの回路技術が開発されてきたとしています。面積という項目が同じ列に並ぶところが、集積回路の中の話であることを示します。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”PLLとは何ですか?
基準信号との位相差が小さくなる向きに発振器を制御し、基準の正確さを保ったまま別の周波数を作る回路です。電子情報通信学会の知識ベースは、位相の成分をフィードバックすることで、入力信号の周波数と、回路内部の電圧制御発振器の発振周波数とを同期させる回路としています。
どんな部品でできていますか?
同知識ベースは、もっとも多く使われるチャージポンプ型PLLの構成として、位相周波数比較器、チャージポンプ回路、ループフィルタ、電圧制御発振器(VCO)、分周器を挙げています。分周器がVCOの出力をN分の1にして比較器へ戻すところが、出力周波数を選べる理由になります。
水晶発振器だけで済みますか?
出せる周波数が限られます。エプソン水晶デバイスの用語集は、PLLを、特定の周波数のクロック信号をもとに任意の周波数の出力を作り出す回路あるいはICとし、PLL回路を持つ水晶発振器であれば100 MHzを超える周波数も容易に出力できるとしています(同社製品についての記述です)。
ロックしているとは、どういう状態ですか?
基準信号と、分周して戻した出力との位相差が一定に収まった状態です。同知識ベースは、位相周波数比較器が、アンロックのときは周波数の比較信号を、ロックのときは位相の比較信号を、それぞれディジタルパルスとして出すと記しています。
ジッタと位相雑音の関係を教えてください。
同じゆらぎを、周波数軸で表すか時間軸で表すかの差です。エプソン水晶デバイスのTechnical Notesは、位相雑音を周波数領域で表した周波数の不安定さ、ジッタを時間領域における信号波形の揺らぎとし、位相雑音の積分値が位相ジッタになるとしています。
ループ帯域は広いほど良いのですか?
最適値があります。同知識ベースはΔΣ型分数分周シンセサイザについて、ループフィルタのカットオフが低いほど分周比の切り替えで出る雑音を取り除ける一方、低くしすぎるとVCOの位相ノイズが出力へ漏れるとし、出力位相ノイズを最小にするループ帯域に最適値があるとしています。
どんなところで使われていますか?
同知識ベースは、コンピュータなどのクロック発生回路、通信システムの周波数シンセサイザ、テレビの画像同期信号を作る回路、光ディスクや高速インタフェースのデータ・クロック再生回路、モータの速度制御回路を挙げています。日本電波工業は、電圧制御水晶発振器の用途として伝送機器・交換機器の同期用(PLL)を挙げています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- アンテナスイッチとは ── PLLが周波数そのものを作るのに対し、アンテナスイッチは電波の通り道を選びます
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- 電子情報通信学会「知識ベース」10群6編8章「位相同期回路(PLL)」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── PLLが位相成分をフィードバックして入力周波数とVCOの出力周波数を同期させること、応用範囲、チャージポンプ型PLLの5部品と一巡の動作、ループフィルタが位相ノイズ特性を決めること、ΔΣ型分数分周シンセサイザのループ帯域に最適値があること、20ビット程度で1 ppmの解像度になることを裏づけます
- エプソン水晶デバイス「用語集」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── PLLが特定周波数のクロックから任意の出力周波数を作る回路またはICであること、PLL発振器が100 MHzを超える周波数も容易に出せることを裏づけます
- エプソン水晶デバイス 製品情報「車載用途向け プログラマブルSPXO」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 内蔵のFractional-N PLLが水晶振動子の周波数を逓倍すること、書き込める範囲が1.2 MHzから170 MHzであることを裏づけます
- エプソン水晶デバイス 製品情報「ベーシック SG-8200CJ/CG|高精度・低ジッタ SG-8201CJ/CG」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── Fractional-N PLLで1 ppmの精度まで刻めること、振動子の周波数ばらつきをPLLで補正できること、従来品との位相雑音および位相ジッタの比較値を裏づけます
- エプソン水晶デバイス Technical Notes 1「ジッタと位相雑音」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 位相雑音が周波数領域、ジッタが時間領域の表現であること、位相雑音の積分値が位相ジッタになること、PLL回路の各部やループ特性も位相雑音の出どころになることを裏づけます
- 日本電波工業「概要-水晶発振器の分類」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 電圧制御水晶発振器が伝送機器・交換機器の同期用(PLL)や復調用のジッタフィルタに使われることを裏づけます