LNA(低雑音増幅器)とは
LNA(低雑音増幅器)とは、受信機の最前段で、弱い受信信号へ自前の雑音をできるだけ足さずに利得を与える高周波増幅器です。 Low Noise Amplifierの略で、日本語では低雑音増幅器と呼びます。
電子情報通信学会の知識ベース「知識の森」は、モバイル通信用受信機の基本構成として、高周波の帯域通過フィルタ(BPF)で帯域外の干渉妨害波を抑えたあと、低雑音増幅器(LNA)で受信信号を増幅し、受信ミクサで中間周波数(IF)へ変換する並びを図示しています(4群1編11章、執筆者は伊東健治氏、2009年1月受領)。アンテナから数えて、能動素子として最初に信号へ触れるのがLNAです。
なぜ最前段なのかは、多段の増幅器を並べたときの雑音の足し算で決まります。同学会の知識ベースは、MMICの要素回路を取り上げた章でN段回路の総合雑音指数の式を示し、初段回路の利得が十分に大きい場合には、後段回路の雑音性能にかかわらず全体の雑音指数が初段回路の雑音指数と等しくなるとしています(10群7編3章、執筆者は丸橋建一氏、2009年8月受領)。同章はここから、初段回路にはある程度高い利得が必要になるとし、LNAへは雑音指数の良さと合わせて十分な利得の高さも要ると書いています。
受信機の章も同じ結論に立ちます。同章は、受信機全体の雑音指数に対して、送受共用器の損失とLNAの雑音指数および利得が支配的になるとし、基地局などの通信設備では、サービスエリアを広げる目的で、超伝導フィルタや冷却LNAを組み合わせた超低雑音の受信機を使う場合があるとしています。
雑音は前段が支配し、ひずみは後段が支配します
Section titled “雑音は前段が支配し、ひずみは後段が支配します”同じ受信機の章は、三次相互変調ひずみのインターセプト点IIP3についても縦続の式を示し、受信回路全体のIIP3に対しては後段の回路の三次ひずみ特性が支配的になるとしています。受信フロントエンドでは受信ミクサが最後段に立つため、そのミクサの三次相互変調ひずみが受信機全体のIP3を左右するとも書いています。
つまり同じ1本の信号経路の中で、雑音指数は前へ、三次相互変調ひずみは後ろへ、支配する側が逆を向いています。LNAの利得を上げれば、雑音の面では初段の性能で全体が決まる一方、後段の回路へ届く信号は大きくなります。同章は、高レベルの希望波が入力したときには受信フロントエンドを低利得とするようAGC(自動利得制御)を動作させ、感度の劣化を回避するとしています。強い電波のもとでは、利得をあえて下げる側へ動かすという運用です。
材料が雑音指数の下限を決めます
Section titled “材料が雑音指数の下限を決めます”同学会のMMICの章は、使う能動素子としてGaAs-HEMT(PHEMT)、InP-HEMT、mHEMT、GaAs-HBT、InP-HBT、Si-Bipolar、SiGe-HBT、CMOSを挙げ、FET系のデバイスはマイクロ波帯の雑音性能に優れるのが一般的とされ、衛星放送の受信器にはPHEMTが最もよく使われるとしています。バイポーラ系については、入力インピーダンスが低く、整合回路を組みやすいという利点を挙げています。
トランジスタの寸法も雑音指数を動かします。同章は、基本的にゲートフィンガ長が短いほど雑音指数が改善される一方、寄生容量が増えることによる利得の低下などを勘案して総合的に決まるとし、ゲートフィンガ長として化合物半導体トランジスタで概ね10〜40 μm、CMOSトランジスタで概ね0.5〜4 μmという値を挙げています。
同章が示す60 GHz帯の試作例では、材料の違いがそのまま数字に出ます。InP-HEMTプロセスで作った低雑音増幅器MMICは、チップサイズ2.5 mm×1.15 mm、各段のゲートフィンガ長40 μm、総ゲート幅80 μmで、60 GHzにおいて雑音指数2.0 dB、利得22.1 dBを得ています。90 nm CMOSプロセスで作ったものは、チップサイズ1.3 mm×0.7 mm、ゲートフィンガ長1 μm、総ゲート幅40 μmで、63 GHzにおいて雑音指数5.7 dB、利得13 dB、消費電力27 mWを得ています。いずれも2013年公開の同章が引用する報告値です。
同章はさらに、InP-HEMTおよびmHEMTを使った低雑音増幅器を、固体素子を使った集積回路として最も雑音性能に優れるとし、利得が高いために350 GHz程度までの動作が報告された例を挙げています。GaAs-HEMT(pHEMT)はおよそ100 GHzまでの周波数帯で広範に使われるとしています。
量産品の中では、LNAが例外に挙がります
Section titled “量産品の中では、LNAが例外に挙がります”三菱電機技報は2010年11月号のSi高周波集積回路技術の記事で、雑音特性やひずみ特性への要求が比較的ゆるい無線LANでは、LNAとHPA(高出力増幅器)を除いて、5 GHz帯までは安価なCMOSプロセスで作ったRFICが使われるようになっていると書いています。雑音指数を背負う増幅器と、大きな電力を担う増幅器の2つが、その例外にあたります。
同記事は、0.35 μm SiGe BiCMOSプロセスで試作したETC車載器用RFICについて、受信部の雑音指数11.2 dB、入力換算した1 dB利得圧縮電力−33.1 dBmを挙げ、同じプロセスのDSRC車載器用RFICについては受信時の雑音指数6.2 dB、入力換算した1 dB利得圧縮電力−34.5 dBmを挙げています。いずれも5.8 GHz帯の同社試作品の値です。雑音指数と利得圧縮の値が対で並ぶところに、前段の雑音と後段のひずみを同じ表で比べる設計の姿が出ています。
基板の中のノイズも同じ数字へ届きます
Section titled “基板の中のノイズも同じ数字へ届きます”村田製作所の技術記事は、スマートフォン内でWi-Fiモジュールから電源ラインへ漏れたノイズが各RF回路へ流れ込み、受信用のLNAのSN比を悪化させ、最終的に受信感度が劣化するという経路を挙げています。同記事は、Stick PCをテレビへ挿してHDMI通信を行ったときのWi-Fi受信感度(36ch)を、HDMI信号なしで−74 dBm、HDMI信号ありで−70.4 dBmと測り、3.6 dB悪化したとしています。同社が示す測定例です。
LNAの雑音指数を下げる作業と、基板の上でノイズの伝わる道を断つ作業は、受信感度という同じ1つの数字へ向かいます。同社は企業情報の高周波・通信のページで、高周波モジュールを、無線機器のアナログ高周波回路を各種キーデバイスごと小型のパッケージへ集積した電子部品ユニットとしています。その中身として、表面波フィルタのような受動デバイスに加え、送信側の高出力増幅器(PA)、受信側の増幅器(LNA)、アンテナを切り替えるスイッチという半導体デバイスを挙げています。スマートフォンの中でLNAは、単体の部品というより、この集積されたモジュールの一部として載っています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”LNAとは何ですか?
受信機の最前段で、弱い受信信号へ自前の雑音をできるだけ足さずに利得を与える高周波増幅器です。Low Noise Amplifierの略で、日本語では低雑音増幅器と呼びます。
なぜアンテナのすぐ後ろにあるのですか?
多段の増幅器を並べたときの全体の雑音指数が、初段の性能でほぼ決まるためです。電子情報通信学会の知識ベースは、初段回路の利得が十分に大きい場合には、後段回路の雑音性能にかかわらず全体の雑音指数が初段回路の雑音指数と等しくなるとしています。
雑音指数が良ければ、利得は低くてもよいのですか?
同学会の知識ベースは、初段回路にはある程度高い利得が必要になるとし、LNAへは雑音指数の良さと十分な利得の高さの両方を求めるとしています。利得が低いと、後段の雑音がそのまま全体へ足し込まれます。
では利得は高いほどよいのですか?
ひずみの側では逆向きになります。同学会の受信機の章は、受信回路全体のIIP3に対して後段の回路の三次ひずみ特性が支配的になるとし、高レベルの希望波が入力したときには受信フロントエンドを低利得とするようAGCを動作させて感度劣化を回避するとしています。
どんなトランジスタで作りますか?
同学会の知識ベースは、GaAs-HEMT(PHEMT)、InP-HEMT、mHEMT、GaAs-HBT、InP-HBT、Si-Bipolar、SiGe-HBT、CMOSを挙げ、FET系のデバイスはマイクロ波帯の雑音性能に優れるのが一般的とされ、衛星放送の受信器にはPHEMTが最もよく使われるとしています。
CMOSでLNAを作れますか?
作れます。同学会の知識ベースは、90 nm CMOSプロセスで作った60 GHz帯の低雑音増幅器MMICが63 GHzで雑音指数5.7 dB、利得13 dB、消費電力27 mWを得た試作例を挙げています。同章はCMOSの雑音指数が化合物半導体の値に対して劣るとしたうえで、微細化の進展に従った性能向上への期待を書いています。
基板の中のノイズもLNAに関係しますか?
関係します。村田製作所の技術記事は、Wi-Fiモジュールから電源ラインへ漏れたノイズが各RF回路へ流れ込み、受信用のLNAのSN比を悪化させ、最終的に受信感度が劣化するという経路を挙げています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- 電子情報通信学会「知識ベース『知識の森』10群7編3章 MMIC要素回路技術」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 総合雑音指数の縦続式、能動素子の種類とPHEMTの用途、ゲートフィンガ長の範囲、60 GHz帯試作例の雑音指数と利得
- 電子情報通信学会「知識ベース『知識の森』4群1編11章 受信機」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 受信機の基本構成、雑音指数を支配する段、IIP3を支配する段、AGCによる低利得化
- 三菱電機「技報 2010年11月号 Si高周波集積回路技術」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 無線LANでLNAとHPAが例外に挙がる記述、ETCおよびDSRC車載器用SiGe RFICの雑音指数と1 dB利得圧縮電力
- 村田製作所「技術記事 5GHz帯のノイズ問題とノイズ対策」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 電源ライン経由のノイズがLNAのSN比を悪化させる経路、HDMI通信時のWi-Fi受信感度の測定値
- 村田製作所「企業情報 高周波・通信」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 高周波モジュールの構成部品としてのLNAの位置