アンテナスイッチとは
アンテナスイッチとは、無線機のアンテナと、周波数帯や送受信ごとに分かれた複数の高周波経路との間で、どの経路をつなぐかを切り替える部品です。
日清紡マイクロデバイスの技術コラムは、RFスイッチ(高周波スイッチ)を高周波信号の経路を切り替えるためのスイッチとし、通信規格や周波数帯ごとに用意された経路へ正しく切り替わることが正常な通信の前提になると記しています。
同社の解説によれば、スマートフォンは5GやWi-Fi、Bluetoothなど複数の規格の信号を扱い、規格や周波数帯ごとにフィルタリングと増幅の経路を複数持ちます。送信の経路と受信の経路が別になる場合もあります。アンテナの本数は限られるため、多くの切り替え経路を持つRFスイッチ、あるいは複数のRFスイッチが要ります。
受信のときスイッチは、アンテナからフィルタを通ってきた信号を低雑音増幅器(LNA)側へ通し、電力増幅器(PA)側とは切り離します。送信のときは、PAで増幅された信号がスイッチとフィルタを経てアンテナへ届き、そこから空中へ放射されます。同社は、PAの出力電力が受信時にスイッチへ入る信号の電力より大きいため、送信時には受信側へ回る信号を小さく抑える特性が特に求められると記しています。
村田製作所は製品情報で、RFスイッチを無線通信機器内の高周波回路で信号経路の切り替えに用いる素子とし、アンテナスイッチモジュールを、携帯電話の無線回路でアンテナ直下に入るスイッチとGSM用ローパスフィルタなどの付加回路を自社のLTCC基板へ内蔵した超小型モジュールとしています。
通す性能と切り離す性能を、1つの素子で満たします
Section titled “通す性能と切り離す性能を、1つの素子で満たします”名前からは、経路を選ぶだけの部品に思えます。設計が難しいのは、選んだあとに通す側です。
同社の解説は、高周波信号が50 Ωの特性インピーダンスの伝送路を通ることを前提に、具体的な数字を挙げています。50 Ω系で使うRFスイッチの挿入損失を0.5 dB以下に抑えたい場合、スイッチICのオン抵抗は6 Ω程度以下に収める必要があります(抵抗成分だけを考えた計算例としての値です)。一般のアナログスイッチICのオン抵抗が仮に数100 Ωあるとすると、負荷抵抗との分圧で負荷に得られる電圧はかなり小さくなります。
実際の損失は、オン抵抗のほかに寄生の成分でも決まります。同社は、数100 MHzから数GHzの高周波では、切り替えを担うFETのチャネル、そしてドレインやソースと半導体基板との間にできる空乏層容量、ドレインとソースの間の配線の寄生容量、空間結合によるフリンジ容量といった成分が、いずれも伝送電力の損失につながると記しています。
RFスイッチとは、寄生成分を抑えながら低いオン抵抗を備えたICです。 経路を選ぶ機能そのものより、選んだ経路をそのまま通す性能のほうが、設計の主戦場になります。
材料は何度も乗り換えました
Section titled “材料は何度も乗り換えました”同社の解説は、RFスイッチのデバイスがたどった順序を記しています。初めはPINダイオードが使われ、MESFETの登場でGaAs半導体を使ったRFスイッチへ替わり、HEMTの登場でさらに高性能化しました。
HEMTが選ばれた理由として同社が挙げるのは2点です。1つは電子移動度で、FETのオン抵抗は、キャリアの移動度が高いほど下がるため、同じFETサイズでもHEMTのほうが低いオン抵抗になります。小さいFETで済めば寄生容量も小さくなり、伝送損失がさらに減ります。もう1つはGaAs基板の抵抗率で、同社はこれを半絶縁体と呼ばれるほど高いとし、FETや配線と基板との間の寄生容量へ電流が流れにくいため、対基板の損失が抑えられると記しています。
ところが現在の主流はシリコン系に戻っています。同社は、短ゲート長化や寄生容量の抑制によってシリコン系デバイスの性能が飛躍的に上がり、近年はSOI(Silicon On Insulator)に代表されるシリコン系のデバイスを使ったRFスイッチが主流になっているとし、自社もSOIのRFスイッチを製品化しているとしています(2024年8月公開時点の記述です)。
経路を増やすやり方には天井があります
Section titled “経路を増やすやり方には天井があります”スイッチの構成は入力と出力の端子数で呼ばれます。同社は、1入力1出力をSPST、2経路を切り替える1入力2出力をSPDTとし、自社のラインナップにSP6Tや2入力2出力のDPDTがあるとしています。投げ口の数が、そのまま対応できる経路の数になります。
対応する周波数帯が増えるほど、投げ口も増えます。村田製作所は統合報告書2021で、高周波モジュールがフィルタなどの受動デバイスと、送信側の高出力増幅器(PA)と受信側の低歪増幅器(LNA)、そしてアンテナ切り替えスイッチという半導体デバイスから構成されるとしたうえで、5Gでは、4Gまでに進んだマルチバンド化とキャリアアグリゲーションへ、さらなる高周波化、周波数帯域の拡大、デュアルコネクティビティが加わるため、それらに対応する高周波モジュールが要ると記しています。
電子情報通信学会の知識ベースは、この方向の限界も書いています。バンドとモードの数が限られていれば、その数だけ送受信系を並列に接続して切り替える方式が考えられます。ただし多数のバンドやモードをまかなう場合には、広帯域デバイスと帯域可変デバイスで組んだ1つの送受信系に、複数のバンドとモードをまとめる必要が出てきます。アンテナスイッチは経路を増やす側の答えで、増やせる数に上限があるところから、帯域そのものを可変にする側の答えが検討されます。
データシートには2種類の指標が並びます
Section titled “データシートには2種類の指標が並びます”同社の解説は、RFスイッチのデータシートに載る指標を挙げています(指標名と記述内容は同社データシートの記載を基準にしたものです)。
- 挿入損失:スイッチを通る電力の入出力比で、値が小さいほど高性能です
- アイソレーション:通過経路から他の経路へ漏れる電力の比で、値が大きいほど高性能です
- リターンロス:入力電力と反射電力の比で、値が大きいほど高性能です
- P-0.1dB:入力電力を大きくして挿入損失の増加分が0.1 dBになったときの入力電力で、値が大きいほど高性能です
- 高調波歪と相互変調歪:線形性を示す指標で、値が小さいほど高性能です
- スイッチング時間:制御信号が入ってから、各経路の信号電圧が決められた範囲へ収まるまでの遷移時間です
挿入損失とアイソレーションが同じ表に並ぶところが、この部品の性格を示します。通すことと切り離すことは、1つの素子の中で取り合いになります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”アンテナスイッチとは何ですか?
無線機のアンテナと、周波数帯や送受信ごとに分かれた複数の高周波経路との間で、どの経路をつなぐかを切り替える部品です。村田製作所は、RFスイッチを無線通信機器内の高周波回路で信号経路の切り替えに用いる素子としています。
どうして必要になるのですか?
経路の数がアンテナの本数を上回るためです。日清紡マイクロデバイスは、スマートフォンが5GやWi-Fi、Bluetoothなど複数の規格の信号を扱い、規格や周波数帯ごとにフィルタリングと増幅の経路を複数持つとし、限られた本数のアンテナで送受信するために多くの切り替え経路が要ると記しています。
アナログスイッチICでは代わりになりますか?
オン抵抗が桁違いに大きいため、高周波では使いにくくなります。同社の解説は、50 Ω系で挿入損失を0.5 dB以下に抑えたい場合、スイッチICのオン抵抗を6 Ω程度以下にする必要があるとし、一般のアナログスイッチICのオン抵抗が数100 Ωあると負荷との分圧で得られる電圧がかなり小さくなるとしています(抵抗成分だけを考えた計算例です)。
挿入損失とアイソレーションは何が違うのですか?
同社の解説では、挿入損失はスイッチを通過する電力の入出力比で、値が小さいほど高性能です。アイソレーションは通過経路から他の経路へ漏れる電力の比で、値が大きいほど高性能です。前者は通す性能、後者は切り離す性能を表します。
どんな材料で作られていますか?
同社の解説は、初めにPINダイオードが使われ、MESFETの登場でGaAs半導体を使ったRFスイッチへ替わり、HEMTでさらに高性能化したという順序を記しています。そのうえで、近年はSOI(Silicon On Insulator)に代表されるシリコン系のデバイスを使ったRFスイッチが主流になっているとしています(2024年8月公開の記述です)。
SPDTやSP6Tとは何ですか?
入力と出力の端子数で構成を呼び分けたものです。同社の解説は、1入力1出力をSPST、2経路を切り替える1入力2出力をSPDTとし、自社のラインナップにSP6Tや2入力2出力のDPDTがあるとしています。
対応する周波数帯が増え続けるとどうなりますか?
経路を増やす方式に限りが出ます。電子情報通信学会の知識ベースは、バンドとモードの数が限られていればその数だけ送受信系を並列に接続して切り替える方式が考えられるとしたうえで、多数のバンドやモードをまかなう場合は、広帯域デバイスと帯域可変デバイスで組んだ1つの送受信系に、複数のバンドとモードをまとめる必要が出てくるとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- RFフロントエンドとは ── アンテナスイッチが入る回路ブロック全体を指します
- PLLとは ── 経路を選ぶ部品に対し、周波数そのものを作る回路です
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- 日清紡マイクロデバイス RFデバイス連載コラム第5回「RFスイッチ(高周波スイッチ)」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── RFスイッチの役割、送信時に受信側へ回る電力を抑える要求、SPST/SPDT/SP6T/DPDTという構成の呼び方、50 Ω系で挿入損失0.5 dB以下にはオン抵抗6 Ω程度以下という計算例、寄生容量の内訳、PINダイオードからGaAs、HEMT、SOIへという流れ、データシートの指標一覧を裏づけます
- 村田製作所 製品情報「アンテナスイッチモジュール」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 携帯電話の無線回路でアンテナ直下のスイッチと付加回路をLTCC基板へ内蔵したモジュールであることを裏づけます
- 村田製作所 製品情報「RFスイッチ」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── RFスイッチが無線通信機器内の高周波回路で信号経路の切り替えに用いる素子であることを裏づけます
- 村田製作所 統合報告書2021 製品別事業戦略「高周波モジュール」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 高周波モジュールの構成要素にアンテナ切り替えスイッチが含まれること、5Gでマルチバンド化とキャリアアグリゲーションに加えて周波数帯域の拡大などが求められることを裏づけます
- 電子情報通信学会「知識ベース」4群6編2章「要素技術」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── バンドとモードの数だけ送受信系を並列に接続して切り替える方式と、多数のバンドに対応する場合に広帯域デバイスと帯域可変デバイスで1つの送受信系にまとめる必要が出てくることを裏づけます