フラッシュメモリとは
フラッシュメモリとは、電源を切っても内容が残り、しかも書き換えられるメモリです。 JEITAの半導体用語集は、記憶している情報を全ビットあるいはブロック単位で電気的に一括消去できるメモリだとしています。
メモリは、ふつう2つに分けられます。ルネサス エレクトロニクスの解説は、データの読み書きは自由に行えるものの電源を切ると内容が消えるメモリを、RAM(Random Access Memory)と呼ぶとしています。
もう一方のROMは、電源を切っても内容が保たれます。そのかわり、用途は読み出しだけ ── というのが元々の意味でした。
フラッシュメモリは、この二分法をまたぎます。ルネサスの同解説は、フラッシュメモリを、電源を切っても中身が残るROMでありながらデータ内容の書き換えができるメモリだとしています。
東京エレクトロンの半導体用語集も同じ性質を挙げ、電気的に消去・再書き込みができる読み出し専用メモリであり、電源を切ってもデータが残るうえ、書き込んだデータを書き換えられるとしています。
「読み出し専用メモリなのに書き換えられる」という言い回しには、矛盾があるように感じます。これは分類上の名称がROM系のまま残っているためで、実際には書き換えられます。
どうやって覚えているのか
Section titled “どうやって覚えているのか”仕組みそのものは素朴です。
キオクシアの技術情報は、記憶の最小単位から書き起こしています。メモリセルはデータを記憶する最小単位で、フラッシュメモリは近年では数千億個ものメモリセルから構成されているとしています。
そのセルが何をしているのかも、同じページに書かれています。絶縁体に囲まれた電荷蓄積膜に電子を出し入れすることによって、データを記憶します。
要点は、電子を閉じ込める箱があることです。 まわりが絶縁体なので、電気を切っても電子は膜の中にとどまります。
そのため、これら「0」「1」の状態は電源を切った状態でも保持されます。これが、電源を切ってもデータが残るというフラッシュメモリの特徴です。
電子情報通信学会の公開知識ベースは、この箱の構造について、NAND型の単位メモリセルが電荷をためる浮遊ゲートと、その電荷を制御する制御ゲートから構成されるとしています。ためる場所と、それを操作する電極の2つでできています。
名前は「一括で消せる」ことから来ています
Section titled “名前は「一括で消せる」ことから来ています”なぜ「フラッシュ」なのでしょうか。この点は、開発した側の記録が残っています。
キオクシアの技術開発ヒストリーは1984年の項目として、一度に大量のデータを消去できる不揮発性メモリを“Flash” EEPROM(“Flash” Memory)と命名したと記しています。
名前の由来は、一括消去です。 同じ年の項目には、フラッシュメモリを世界で初めて*発表したとも記されています(*は同ページ内の注記記号で、キオクシアによる自社の主張です)。
では、一括で消せることの何がありがたいのでしょうか。比較の相手はJEITAの同じ段落にあり、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)はバイト単位で記憶情報を消去するとしています。
EEPROMは1バイトずつ消せます。細かく消せるほうが便利に思えます。ところが、細かく消せるようにするには、セル1つ1つに消去用の仕掛けが要ります。
JEITAは、粗くしたことの見返りも書いています。セル構成が簡略なため大容量化が可能で、ビット当たりのコストを低く抑えられるとしています。
フラッシュメモリは、細かく消す便利さを手放して、安さと大きさを取った設計です。
東京エレクトロンの用語集は、さらに前の世代との差も挙げています。データの消去に紫外線消去などの物理的な方法を使わずに済むため、UVEPROMより便利だとしています。かつては紫外線を当てて消していました。電気だけで消せるようになったこと自体が、大きな前進でした。
なお、読み書きと消去では単位が違います。電子情報通信学会の同知識ベースは、書き込みと読み出しの動作が同一の制御ゲートにつながる複数のセル、すなわちページと呼ばれる単位で行われ、消去動作はブロックと呼ばれる単位で行われるとしています(NAND型についての記述です)。
NAND型とNOR型
Section titled “NAND型とNOR型”フラッシュメモリは、大きく2種類あります。セルのつなぎ方が、NAND型とNOR型を分けます。
JEITAの同用語集は、それぞれを別の見出し語で記しています。
- NAND型フラッシュメモリ ── メモリセルの構造がビット線に対して直列となる単純な構造のため、NOR型に比べて集積度を上げやすいメモリです。
- NOR型フラッシュメモリ ── メモリセルの構造がDRAMと同じように並列となるため、ランダムアクセスが可能なメモリです。
直列にして詰め込むか、並列にして個別に届くようにするか ── この一点が、用途を分けます。
面積の差も公開されています。電子情報通信学会の同知識ベースは、NAND型についてゲート長の最小寸法をFとすると単位のセルあたりの面積は約4 F2となり、DRAMやNOR型など他のメモリデバイスと比べて最少で、これがNAND型の大容量化を可能にしているとしています。NOR型については、セルサイズがほぼ10 F2の関係を保ってスケーリングされているとしています。
約4 F² と 約10 F² ── 同じ面積へ詰め込めるセルの数が、およそ2倍以上違います。なお、この節で引く学会資料の数値は、2010年公開時点の平面型フラッシュメモリについての記述です。
さらに、書き込みの物理的なやり方まで違います。同知識ベースは、NAND型では浮遊ゲートへの電荷の注入にFowler-Nordheimトンネル電流を使うため、NOR型に比べて書き込みのための電流が小さいとしています。NOR型については、ドレイン端でChannel-Hot-Electronをフローティングゲートへ注入することで書き込みを行うとしています。
同じ「フラッシュメモリ」でも、電子の入れ方そのものが別物です。
東京エレクトロンの用語集は、発明の経緯も記しています。NOR型は1984年に舛岡富士雄氏(当時東芝勤務)が発明し、1988年にインテルが商用のNOR型フラッシュメモリを発売しました。NAND型は1987年に舛岡富士雄氏(当時東芝勤務)が発明したもので、NOR型フラッシュメモリに比べて回線規模も小さく、安価で大容量化ができるとしています。
1つのセルに、複数のビットを詰める
Section titled “1つのセルに、複数のビットを詰める”容量を増やす方法は、2つあります。セルを小さくする道と、1つのセルに入れる情報量を増やす道です。
キオクシアの技術情報は、これを多値化技術と呼び、一つ一つのメモリセルに記憶できるデータの量を増やせるとしています。
仕組みは、しきい値の刻み方です。1つのメモリセルに1ビットを記憶する従来のメモリセルでは、「1」と「0」の2つのパターンを記憶させていました。これを細かく分けると、1つのメモリセルのデータ量がNビットの場合、しきい値電圧分布の数やパターンの種類は2のN乗個になります。
ただし、増えたぶんの代償が付きます。同ページは、Nが大きくなるほど容量やコストを重視する用途に向き、Nが小さくなるほど性能や寿命の長さを重視する用途に向くとしています。
詰め込むほど安く大きくなり、そのぶん速さと寿命を差し出すことになります。消去の粒度で見た取引と、同じ形の判断がここでも起きています。
平面での微細化には、限界が来た
Section titled “平面での微細化には、限界が来た”セルを小さくする道は、あるところで限界に突き当たりました。
キオクシアの技術情報は、その経緯を書いています。微細化技術にも限界があり、メモリセルどうしが近いことで意図せぬ電流が流れてしまう現象や、1つのメモリセルに蓄積される電子の個数が微細化により減少することで、ごくわずかな電子のリークがデータの安定性に影響を与えるようになったとしています。
小さくするほど、ためられる電子の数が減ります。数が少なくなれば、わずかな漏れが致命的になります。
そこから先は、平面を離れて積み上げる方向へ移りました。詳しくは3D NANDの記事で書きます。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”フラッシュメモリとは何ですか?
JEITAの半導体用語集は、記憶情報を全ビットあるいはブロック単位で電気的に一括消去できるメモリだと定め、セル構成が簡略なため大容量化が可能でビット当たりのコストを低く抑えることができるとしています。
なぜ電源を切っても内容が残るのですか?
キオクシアの技術情報は、絶縁体に囲まれた電荷蓄積膜に電子を出し入れすることによってデータを記憶するとし、これら「0」「1」の状態は電源を切った状態でも保持されるとしています。
名前の由来は何ですか?
キオクシアの技術開発ヒストリーは1984年の項目として、一度に大量のデータを消去できる不揮発性メモリを“Flash” EEPROM(“Flash” Memory)と命名したと記しています。
EEPROMとの違いは何ですか?
消せる単位です。JEITAの同用語集は、フラッシュメモリの項に続けて、EEPROMはバイト単位で記憶情報を消去すると記しています。フラッシュメモリはブロック単位でまとめて消します。
NAND型とNOR型の違いは何ですか?
JEITAの同用語集は、NAND型をビット線に対して直列となる単純な構造のためNOR型に比べて集積度を上げやすいとし、NOR型をDRAMと同じように並列となるためランダムアクセスが可能としています。
読み書きと消去の単位は同じですか?
違います。電子情報通信学会の公開知識ベースは、書き込み・読み出し動作がページと呼ばれる単位で行われ、消去動作はブロックと呼ばれる単位で行われると述べています。
1つのセルに何ビット入りますか?
複数入れられます。キオクシアの技術情報は、多値化技術では一つ一つのメモリセルに記憶できるデータの量を増やすことができるとし、1つのメモリセルのデータ量がNビットの場合にはしきい値電圧分布の数やパターンの種類は2のN乗個となるとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- NAND型フラッシュメモリとは ── 詰め込む側
- NOR型フラッシュメモリとは ── 個別に届く側
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- JEITA(電子情報技術産業協会)半導体部会「半導体用語集」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── フラッシュメモリの見出し語の記述(記憶情報を全ビットあるいはブロック単位で電気的に一括消去できるメモリであること、セル構成が簡略なため大容量化が可能でビット当たりのコストを低く抑えられること、EEPROMはバイト単位で記憶情報を消去すること)。あわせて不揮発性メモリの見出し語の記述(電源の供給がなくてもデータを記憶しているメモリであり、マスクROM、EPROM、フラッシュメモリ、FeRAM、MRAMなどがあること)、NAND型フラッシュメモリおよびNOR型フラッシュメモリの各見出し語による構造の記述も、それぞれ別の見出し語から採っています
- キオクシア 技術情報「NAND型フラッシュメモリとは」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── メモリセルがデータを記憶する最小単位でありフラッシュメモリが近年では数千億個ものメモリセルから構成されること、絶縁体に囲まれた電荷蓄積膜に電子を出し入れすることによってデータを記憶すること、「0」「1」の状態が電源を切った状態でも保持されること
- キオクシア「技術開発ヒストリー」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 1984年の項目として、一度に大量のデータを消去できる不揮発性メモリを“Flash” EEPROM(“Flash” Memory)と命名したと記されていること。あわせて同ページの「世界で初めて」「世界初」の表記には注記記号が付されており、同社による自社の主張です
- キオクシア 技術情報「フラッシュメモリの大容量化を実現する『多値化技術』とは」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 多値化技術が一つ一つのメモリセルに記憶できるデータの量を増やすものであること、1ビットのセルでは「1」と「0」の2つのパターンを記憶させていたこと、Nビットの場合にしきい値電圧分布の数やパターンの種類が2のN乗個となること、Nが大きくなるほど容量やコストを重視する用途に向きNが小さくなるほど性能や寿命の長さを重視する用途に向くこと。あわせて「3次元フラッシュメモリ BiCS FLASH とは」(同日実測、200)から、微細化技術に限界がありメモリセルどうしが近いことで意図せぬ電流が流れる現象や、蓄積される電子の個数の減少によりごくわずかな電子のリークがデータの安定性に影響を与えるようになったこと
- 東京エレクトロン nanotec museum 半導体用語集「フラッシュメモリ」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 電気的に消去・再書き込みができる読み出し専用メモリであり電源を切ってもデータが残るうえ書き込んだデータを書き換えられること、データの消去に紫外線消去などの物理的方法を使わずに済むのでUVEPROMより便利であること。あわせて同用語集のNAND型・NOR型の項(同日実測、200)から、NOR型が1984年に舛岡富士雄氏(当時東芝勤務)により発明され1988年にインテルが商用品を発売したこと、NAND型が1987年に同氏により発明されNOR型に比べて回線規模も小さく安価で大容量化ができること
- 電子情報通信学会『知識の森』10群4編4章「不揮発性大容量メモリ」公開PDF、ver.1/2010.4.14(2026年8月30日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── 4-1節(NAND-flashメモリ)から、単位メモリセルが電荷をためる浮遊ゲートとその電荷を制御する制御ゲートから構成されること、書き込み・読み出し動作がページ単位、消去動作がブロック単位で行われること、単位セルあたりの面積が約4 F²と他のメモリデバイスと比較して最少になりこれが大容量化を可能にしていること、浮遊ゲートへの電荷の注入にFowler-Nordheimトンネル電流が使われるため書き込みのための電流が小さいこと。4-2節(NOR-flashメモリ)から、NAND型に比べて集積度は劣るがデータのランダム読み出し速度については勝ること、書き込みがドレイン端でChannel-Hot-Electronをフローティングゲートへ注入することで行われること、セルサイズがほぼ10 F²の関係を保ってスケーリングされていること。いずれも2010年公開時点の平面型フラッシュメモリについての記述です