吸湿レベル(MSL)とは
吸湿レベル(MSL)とは、樹脂で封止された部品について、防湿袋を開けてからはんだ付けするまでに許される時間を、番号で示した区分です。 英語の Moisture Sensitivity Level を略した呼び方で、耐湿レベルや実装レベルとも書かれます。
半導体のパッケージに使われるエポキシ樹脂は、空気中の水分をわずかずつ吸います。ソニーセミコンダクタソリューションズの「半導体品質・信頼性ハンドブック 第3版」は、防湿梱包を開けた表面実装デバイスが保管や実装工程の雰囲気に曝されると、大気中の水分が樹脂表面へ吸着し、内部へ拡散していくとしています。拡散は時間の経過とともに進み、やがてパッケージ内部のチップやダイパッドと樹脂の界面まで水分が届きます。
ここまでは、室温で静かに進む現象です。事故になるのは、次の工程で一気に熱が加わったときです。同ハンドブックは、この状態でリフローなどの全体加熱によるはんだ付けを行うと、界面に存在する水分が気化膨張し、界面の微小な間隙内の水蒸気圧が急激に上昇して、チップやダイパッドの端面へ応力が集中し、樹脂の熱時強度を上回るとクラックが生じるとしています。
つまりパッケージが割れる原因は、保管中の吸湿と、実装時の加熱の掛け算です。どちらか一方であれば、樹脂はそのまま耐えます。吸湿レベルという区分は、この掛け算の片側、つまりどれだけ吸湿した状態で加熱工程へ入るかを、時間で管理するための番号です。
番号が大きいほど、許される時間が短くなります
Section titled “番号が大きいほど、許される時間が短くなります”ルネサス エレクトロニクスは、防湿袋の開封後にどれだけの期限があるかを、JEDEC規格に準拠したレベルの表として公開しています。同社が示す環境条件は5〜30℃かつ70%RH以下で、レベル2が1年、レベル2aが4週間、レベル3が168時間、レベル4が72時間、レベル5が48時間です。これは同社が製品ラベルへ表記するときの一覧です。
番号の向きに注意が要ります。等級の番号が大きいほど余裕が増える目盛りとは逆で、MSLは番号が大きいほど時間が短くなります。レベル5に許されるのは48時間で、レベル2に許されるのは1年です。同じ表の中に、時間と年という別の単位が並ぶほどの開きがあります。
日本ケミコンは、同社の積層セラミックコンデンサのMSL Levelを「1」とし、開封後の保管には乾燥剤入りのデシケータを使うよう求めています。同社はあわせて、MSLがリフロー対応品を対象とする区分であり、フロー対応品であるリード形のシリーズを対象外だとしています。
時計は、袋を開けた時点から動き始めます
Section titled “時計は、袋を開けた時点から動き始めます”防湿梱包の中身について、ソニーのハンドブックは、吸湿による品質への影響があるデバイスを、乾燥剤と湿度インジケータとともにアルミラミネート袋へ入れ、脱気と熱シールを行って外気から隔てているとしています。同社は、開封直後に表示湿度が30%を越えている場合、不具合が発生している可能性があるため連絡してほしいとしています。
ルネサスも、防湿袋の開封後は5〜30℃・70%RH以下の環境で168時間以内に実装するよう求め、湿度インジケータの30%検湿部がラベンダー(ピンク)色へ変色していた場合、または期限を超えた場合には、同社の半導体パッケージ実装マニュアルに記載の条件でベークするよう案内しています。これは同社製品についての条件です。
袋そのものの丈夫さも、この期限の前提に入ります。同社は、防湿袋を通常の作業台やコンクリートなどの硬い部分へ角から落とすと、数cmレベルの高さでも容易に穴が生じることが分かっているとしています。ソニーのハンドブックも、防湿梱包のわずかな傷でも梱包内へ湿度が進入し、その結果、推奨条件で実装した場合でもパッケージクラックが発生する可能性があるとしています。未開封の梱包であっても、ラミネート袋からわずかに水分が透過するため、長期の保管は避けるよう同ハンドブックは求めています。
期限を超えた品は、ベークで乾かしてから使います
Section titled “期限を超えた品は、ベークで乾かしてから使います”ルネサス エレクトロニクスの「半導体信頼性ハンドブック(日本語版)」は、80ピンQFPを例に、ベークしたときのパッケージの脱湿特性を示し、このケースでは125℃で20〜24時間程度のベークにより十分脱湿されるとしています。同ハンドブックは、樹脂厚により125℃での脱湿に必要な時間が異なるとも述べています。これは同社の例です。
ここで条件になるのが、部品を入れている容器の耐熱性です。同社の包装の案内は、耐熱トレイに耐熱温度の表示か「HEAT PROOF」または「熱」の表示があり、具体的な温度の記載が省かれている場合は125℃耐熱にあたるとしています。同社は、納入仕様書等で個別の指示がある場合を除き125℃で24時間の加熱が可能だとしたうえで、125℃を超えるベークについてはアウトガスによるリード腐食などの懸念があるため避けるよう求めています。エンボステープとリールは耐熱仕様の対象外であるためベークを避け、開封後の許容時間を超えることが予想される場合には常温の乾燥炉(30%RH以下)での保管を推奨するとしています。マガジンも耐熱仕様の対象外であるため、耐熱容器への移し替えを案内しています。
ソニーのハンドブックは、防湿梱包を開けて実装へ回らなかった製品について、30℃30%RH以下での保管を求めています。ベーク条件そのものについては、界面水分濃度を適切な値まで低下させる条件がパッケージによって異なるため、必要な場合は営業担当へ問い合わせるよう同ハンドブックは案内しています。
レベルは、湿らせてから焼く試験で定めます
Section titled “レベルは、湿らせてから焼く試験で定めます”レベルの番号は、メーカーが自社製品を試験して定めます。ロームは、同社のダイオードについて、J-STD-020のLEVEL 1に準拠する試験の内容を公開しています。試験フローは、125℃・24時間のベーキングで乾かしたのち、85℃・85%RHで168時間かけて吸湿させ、そのうえでリフローを3サイクル通すという順序です。リフロー条件は、プリヒートが150〜200℃で90〜150秒、ソルダリングが220℃で60〜120秒、ピークが260℃以下で30秒です。結果はPn/n=0/11で、同社は試験前後の電気的特性と外観の状態が同社の異常判断基準を満たすとしています。これは同社ダイオードについての公表値です。
熱の側の厳しさも、数字で示されています。ソニーのハンドブックは、曝露温度が220℃と260℃の場合を比べると、後者は水蒸気圧が約2倍上昇し、樹脂強度が約1/2に低下することが飽和水蒸気圧の温度依存性から分かるとしています。ピーク温度が高いほど、同じ吸湿量でもクラックの発生確率が上昇する、というのが同ハンドブックの記述です。
同ハンドブックが示す代表的なLSI製品の信頼性試験項目の一覧では、はんだ耐熱性の欄に略号MSL、試験条件としてLevel-3(標準ランク)、規格としてJ-STD-020が記載されています。つまりレベルの番号は、製品仕様の一部として、静電破壊試験や温度サイクル試験と同じ表の中に載る項目です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”吸湿レベル(MSL)とは何ですか?
樹脂で封止された部品について、防湿袋を開けてからはんだ付けするまでに許される時間を番号で示した区分です。日本ケミコンは、MSLをJEDECの規格の一つとし、封止樹脂などが空気中の水分を吸い、リフロー時に気化して体積膨張を起こし破損に至る現象を防ぐ目的で定められたとしています。
番号が大きいほど良いのですか?
番号が大きいほど、許される時間が短くなります。ルネサス エレクトロニクスが公開する表では、レベル2が1年、レベル2aが4週間、レベル3が168時間、レベル4が72時間、レベル5が48時間で、環境条件は5〜30℃かつ70%RH以下です。等級の番号が大きいほど余裕が増える目盛りとは逆向きになります。
なぜ湿気で割れるのですか?
吸湿と加熱が重なるためです。ソニーセミコンダクタソリューションズの半導体品質・信頼性ハンドブックは、防湿梱包を開けた表面実装デバイスの樹脂表面へ大気中の水分が吸着して内部へ拡散し、チップやダイパッドと樹脂の界面へ届いた水分がリフロー時に気化膨張して水蒸気圧が急上昇し、樹脂の熱時強度を上回るとクラックが生じるとしています。
期限を超えた部品はどうしますか?
ベークで乾かしてから使います。ルネサスの半導体信頼性ハンドブック(日本語版)は、80ピンQFPの脱湿特性の例として、125℃で20〜24時間程度のベークにより十分脱湿されるとしたうえで、樹脂厚により125℃での脱湿に必要な時間が異なるとしています。これは同社の例です。
袋のまま焼いてもよいのですか?
容器の耐熱性が条件になります。ルネサスは、耐熱トレイに耐熱温度の表示か「HEAT PROOF」または「熱」の表示があり、具体的な温度の記載が省かれている場合は125℃耐熱にあたるとしています。同社は、エンボステープとリール、マガジンを耐熱仕様の対象外とし、マガジンについては耐熱容器への移し替えを求めています。
レベルはどうやって定めるのですか?
湿らせてから焼く試験で定めます。ロームは同社ダイオードのJ-STD-020 LEVEL 1準拠の試験フローとして、125℃・24時間のベーキング、85℃・85%RHで168時間の吸湿、リフロー3サイクルという順を公開し、結果をPn/n=0/11としています。これは同社ダイオードについての公表値です。
半導体以外の部品にもありますか?
あります。日本ケミコンは、同社の積層セラミックコンデンサのMSL Levelを「1」とし、開封後の保管に乾燥剤入りのデシケータを使うよう求めています。同社は、MSLがリフロー対応品を対象とする区分であり、フロー対応品であるリード形のシリーズを対象外としています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- JEDECとは ── レベルの区分と試験手順を定めている規格団体の側
- リフローとは ── 吸湿した水分へ熱を加える、当の実装工程の側
- 偽造半導体とは ── 期限を超えた保管品が劣化品として市場流通品に混じる側
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- ルネサス エレクトロニクス「パッケージ 包装 取り扱い」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── JEDEC規格準拠のMSL表(環境条件5〜30℃/70%RH以下、レベル2が1年・2aが4週間・3が168時間・4が72時間・5が48時間)、防湿袋開封後は5〜30℃・70%RH以下で168時間以内に実装すること、湿度インジケータの30%検湿部の変色または期限超過でベークすること、耐熱トレイの表示と125℃・24時間の加熱、125℃超のベークを避けること、エンボステープ・リール・マガジンが耐熱仕様の対象外であること、防湿袋が角からの数cmの落下でも穴を生じること
- ルネサス エレクトロニクス「半導体信頼性ハンドブック(日本語版)」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── パッケージクラックが吸湿と実装時の加熱の組み合わせで起こること、80ピンQFPの脱湿特性の例として125℃で20〜24時間程度のベークにより十分脱湿されること、樹脂厚により125℃での脱湿に必要な時間が異なること
- ソニーセミコンダクタソリューションズ「半導体品質・信頼性ハンドブック 第3版」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── パッケージクラックの発生過程(吸着・拡散・界面への到達・気化膨張・応力集中)、曝露温度220℃と260℃の比較で水蒸気圧が約2倍・樹脂強度が約1/2になること、防湿梱包の構成(乾燥剤・湿度インジケータ・アルミラミネート袋・脱気・熱シール)、開封直後に表示湿度が30%を越えた場合の連絡、わずかな傷でも湿度が進入すること、未開封でも透湿するため長期保管を避けること、開封後に実装へ回らなかった製品を30℃30%RH以下で保管すること、ベーク条件がパッケージによって異なること、信頼性試験項目一覧のはんだ耐熱性の欄にMSL Level-3(標準ランク)とJ-STD-020が記載されていること
- ローム「耐湿レベルについて(ダイオード)」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── 同社ダイオードがJ-STD-020のLEVEL 1に準拠すること、試験フロー(125℃・24時間のベーキング、85℃・85%RHで168時間の吸湿、リフロー3サイクル)、リフロー条件(プリヒート150〜200℃で90〜150秒、ソルダリング220℃で60〜120秒、ピーク260℃以下で30秒)、結果Pn/n=0/11
- 日本ケミコン「積層セラミックコンデンサのMSL(Moisture Sensitivity Level)について」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── MSLがJEDECの規格の一つであること、封止樹脂などが吸湿しリフロー時に気化して体積膨張を起こし破損に至る現象を防ぐ目的で定められたこと、同社の積層セラミックコンデンサのMSL Levelが「1」であること、開封後の保管に乾燥剤入りデシケータを使うこと、MSLがリフロー対応品を対象としフロー対応品のリード形シリーズが対象外であること