トレーサビリティとは
トレーサビリティとは、手元の製品が、いつ・どこで・何を使って作られたのかを、後から遡ってたどれる状態のことです。 半導体では、パッケージ表面に捺印された数文字が、そのたどり始める入口になります。
半導体は、完成した時点で樹脂やセラミックの中に封じられています。外へ出ている情報は、表面の印字と、包装に貼られたラベルだけです。そこで各社は、この印字そのものを記録の入口として設計しています。
ソニーセミコンダクタソリューションズが公開している半導体品質・信頼性ハンドブック 第3版は、出荷した製品のトレーサビリティを、最終製品に捺印されたマークロットナンバーを鍵とする仕組みだとしています。この番号から、使用した部材のロットと製造履歴へ届きます。さらに出荷梱包箱のラベルにも製品名とマークロットナンバーが載るため、梱包のままでも製造履歴へたどれるとしています。同社の公開資料に書かれた同社の仕組みです。
手元の1個から遡る道が、2本用意されている形になります。1本は製品そのものの印字、もう1本は箱のラベルです。どちらも同じ番号を指しています。
何を守るための仕組みか
Section titled “何を守るための仕組みか”記録が値打ちを持つのは、異常が見つかった瞬間です。
ロームが公開している品質・信頼性ハンドブックは、管理基準の外に出る異常が見つかった場合の動きを示しています。エンジニアが速やかに原因を調べ、あわせて波及範囲を特定します。異常と判断された製品は隔離され、次の工程の手前でシステム上のロックがかかります。顧客への流出が分かった場合には、速やかな報告と処置の協議を行うとしています。同社が公表した自社の運用です。
ここで働くのが「波及範囲」という言葉です。1個の不良が出たとき、同じ条件で作られた仲間も同じ疑いを負います。その仲間がどこまで広がっているかを言えるかどうかで、取れる手が変わります。範囲を言えるなら、そのロットだけを隔離すれば済みます。範囲が霧のままなら、手は「全部を隔離する」の一つに絞られます。
同ハンドブックは、統計的な管理でもロットや生産単位を単位にしていると述べています。出荷テストの特定項目に不良率の規格を設けてロットの異常を監視するSBLと、歩留まりのカットリミットで生産単位を切るSYLについて、実力値から±3シグマを逸脱した場合は異常のフラグを立ててロットや生産単位を識別管理し、±4シグマを逸脱した場合は良品群から隔離して、技術的な検証が済むまで出荷を保留する、という運用を示しています。処置の単位が「1個」から「ロット」へ広がるところに、トレーサビリティが働いています。
ソニーセミコンダクタソリューションズのハンドブックも、部材の購入から製造工程の品質管理、検査、入庫、出荷情報までを1つのデータ収集システムで管理し、万一トラブルが起きた場合に波及範囲を迅速に特定するために使うとしています。
鍵の側は、細くなっていきます
Section titled “鍵の側は、細くなっていきます”トレーサビリティは鎖であり、鎖は一番細いところで切れます。 半導体で最も細くなるのは、鍵を書き込む場所です。
同ハンドブックによれば、同社のマークロット番号は7桁で、製造年1桁、製造週2桁、通し記号3桁、組立場所記号1桁という構成です。製造年は西暦年の下1桁の数字、製造週は年初から数えた捺印時の週に対応する01から53までの数字、通し記号はサイト内の製品名単位の通し番号に対応する英字、組立場所記号は封止工程の組立場所を表す記号です。同社が公開している表記の内容です。
製造年が西暦年の下1桁であるという点は、同じ数字が10年ごとに戻ってくることを意味します。これは同ハンドブックの記述から読み取った内容です。
印字スペースの都合で桁数を削る場合には、省略の順番が決められています。まず製造週を省き、次に製造年を2進法で符号表記し、最後に組立場所記号を省きます。小さなパッケージほど、鍵に残る情報が少なくなっていきます。
さらに先があります。同ハンドブックは、識別の捺印ができるのはパッケージ製品に限られるとしたうえで、ベアダイ製品では品質問題が生じたときの波及範囲の明示が困難になると述べています。そのうえで、購入する側にもトレーサビリティを確保できる管理システムなどの協力を求めています。鍵を刻む面がパッケージだけのものである以上、そこから先は買う側の仕事になります。
もう一つのトレーサビリティ
Section titled “もう一つのトレーサビリティ”同じ言葉が、まったく別の鎖にも使われています。
産業技術総合研究所の計量標準総合センター(NMIJ)が公開している計量標準とはは、測定器が標準器によって校正され、その標準器も不確かさのより小さい標準器によって校正される、という連鎖を示しています。上位をたどっていくと、最後は国家計量標準に行き着きます。校正の連鎖によって国家標準を基準に校正されたとたどれる場合、その測定器で得た結果は国家標準にトレーサブルである、という言い方をします。同センターは、食品や製造の分野でもトレーサビリティが重要になっているため、計量標準の分野のものであることを明確にするために計量トレーサビリティと呼ぶことがある、とも述べています。
経済産業省が公開している計量標準FAQは、日本の国家標準が計量法において特定標準器・特定標準物質と定められ、個々に経済産業大臣によって指定・告示されているとしています。あわせて、測定器や分析装置を国家標準にトレーサブルとするためには、関係する全ての国家標準の整備が前提になると述べています。鎖の一続きがそろって初めて、端まで届く形です。
利用する側の手間は、制度の側で軽くなります。NMIJは、認定された校正機関の利用によって計量トレーサビリティが確保されるとしています。その仕組みがJCSSです。製品評価技術基盤機構の認定センター(IAJapan)は、JCSSを計量法トレーサビリティ制度の略称とし、同センターがそのうちの校正事業者登録制度を運営しているとしています。NMIJによれば、JCSSは計量標準供給制度と校正事業者登録制度の2本柱から成り、後者はISO/IEC 17025(JIS Q 17025)の要求事項に適合している校正事業者を登録する制度です。いずれも、公的機関が公開している制度の内容です。
2本の鎖は、工場で交わります
Section titled “2本の鎖は、工場で交わります”この2本は、同じ工場の中でつながっています。
半導体の合否は、測って決まります。測る道具が狂えば、良品として出した箱の中身も一緒に狂います。ソニーセミコンダクタソリューションズのハンドブックは、計測器の精度管理として、購入時の受け入れ検査と使用時の定期点検を行い、定期的に校正を実施することで、故障や精度の低下を未然に防ぐ予防保全の体制を築いているとしています。同社の公開資料に示された体制です。この「定期的に校正を実施する」という一行が、計量トレーサビリティの鎖の末端にあたります。
まとめると、半導体1個の品質を後から示すには、2つの遡りが要ります。どの製造条件で作られたのかを示す遡りと、そのとき測った値がどこまで信用できるのかを示す遡りです。2本そろって、初めて証拠になります。
偽造半導体が問題になるのは、この2本の鎖がどちらも切れた品物が市場に混じるためです。機能安全が求める故障率の数値も、遡れる記録の上に立っています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”トレーサビリティとは何ですか?
手元の製品が、いつ・どこで・何を使って作られたのかを、後から遡ってたどれる状態のことです。半導体では、パッケージ表面に捺印された番号が、そのたどり始める入口になります。
半導体では何が鍵になるのですか?
パッケージに捺印されたロット番号です。ソニーセミコンダクタソリューションズの公開ハンドブックは、最終製品に捺印されたマークロットナンバーを鍵として、その番号から使用部材のロットと製造履歴へたどれるとしています。
何のために必要なのですか?
異常が見つかったときに、影響が及ぶ範囲を絞り込むためです。ロームの公開ハンドブックは、管理基準の外に出る異常が見つかった場合にエンジニアが原因調査と波及範囲の特定を行い、異常と判断された製品を隔離して、次の工程の手前でシステム上のロックをかけるとしています。
ロット番号の桁には何が入っているのですか?
各社が意味を決めています。ソニーセミコンダクタソリューションズの公開ハンドブックは、同社のマークロット番号を7桁とし、製造年1桁・製造週2桁・通し記号3桁・組立場所記号1桁で構成するとしています。
印字が短い製品もありますが、なぜですか?
印字できる面積に限りがあるためです。同ハンドブックは、印字スペースの都合で桁数を削る場合に、製造週を省く、製造年を2進法で符号表記する、組立場所記号を省く、という優先順位で省くとしています。
ベアダイでも同じようにたどれますか?
たどる役目が買う側へ移ります。同ハンドブックは、識別の捺印ができるのはパッケージ製品に限られるとしたうえで、ベアダイ製品では品質問題が生じたときの波及範囲の明示が困難になるため、購入する側にもトレーサビリティを確保できる管理システムなどの協力を求めています。
計量トレーサビリティも同じ言葉ですか?
遡る対象が別になります。産総研 計量標準総合センターは、測定器が校正の連鎖によって国家標準を基準に校正されたとたどれる状態を計量トレーサビリティと呼び、食品や製造分野のトレーサビリティと区別するためにこの言い方を使うことがあるとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- ソニーセミコンダクタソリューションズ「半導体品質・信頼性ハンドブック 第3版」2018年8月(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 製品のトレーサビリティが最終製品に捺印されたマークロットナンバーを鍵とし使用部材ロットと製造履歴に結びつくこと、出荷梱包箱のラベルに製品名とマークロットナンバーが記載され梱包のままでも製造履歴へたどれること、マークロット番号の7桁の構成(製造年1桁・製造週2桁・通し記号3桁・組立場所記号1桁)と各桁の意味、印字スペースの都合で桁数を削る場合の優先順位(製造週の省略、製造年の2進法による符号表記、組立場所記号の省略)、識別の捺印がパッケージ製品に限られベアダイ製品では波及範囲の明示が困難になること、購入側の管理システムへの協力を求めていること、部材購入から出荷情報までをデータ収集システムで管理しトラブル時の波及範囲の迅速な特定に利用していること、計測器の受け入れ検査・定期点検・定期的な校正による予防保全体制
- ローム「品質・信頼性ハンドブック」2026年8月 rev.001(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 管理基準外の異常発見時に原因調査と波及範囲の特定を行うこと、異常と判断された製品を隔離し次工程の手前でシステムロックがかかること、顧客への流出が判明した場合に速やかな報告と処置の協議を行うこと、SBL(出荷テストの特定項目に不良率の規格を設けロットの異常を監視する手法)とSYL(歩留カットリミットで生産単位を切る手法)の内容、±3シグマ逸脱で異常のフラグを立ててロット・生産単位を識別管理し±4シグマ逸脱で良品群から隔離して技術的検証の完了まで出荷を保留する運用
- 産業技術総合研究所 計量標準総合センター(NMIJ)「計量標準とは」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 測定器が標準器で校正されその標準器も不確かさのより小さい標準器で校正され上位をたどると国家計量標準に行き着くこと、校正の連鎖によって国家標準を基準に校正されたとたどれる場合に国家標準にトレーサブルと呼ぶこと、食品や製造分野のトレーサビリティと区別するため計量トレーサビリティと呼ぶことがあること、認定された校正機関の利用によって計量トレーサビリティが確保されること、JCSSが計量標準供給制度と校正事業者登録制度の2本柱から成り後者がISO/IEC 17025(JIS Q 17025)適合の校正事業者を登録する制度であること
- 経済産業省「計量標準FAQ(計量標準・計量標準物質に関すること)」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 日本の国家標準が計量法において特定標準器・特定標準物質と定められ個々に経済産業大臣によって指定・告示されていること、測定器や分析装置を国家標準にトレーサブルとするには関係する全ての国家標準の整備が前提になること
- 製品評価技術基盤機構 認定センター(IAJapan)「計量法校正事業者登録制度(JCSS)」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── JCSSが計量法トレーサビリティ制度の略称であること、同センターが校正事業者登録制度を運営していること