ジッタとは
ジッタとは、信号が来るはずの時刻から前後にずれる、時間軸方向のゆらぎです。 エプソン水晶デバイスの用語集は、ジッタを信号波形に生じる時間軸のずれや揺らぎとしています。
エプソン水晶デバイスのTechnical Notesは、この現象をオシロスコープの画面で説明しています。単一の周期で発振しているはずのデジタル信号を映すと、波形の輝線が太く幅を持って見えることがあります。この幅の広がりがジッタです。1周期の単位で眺めると、理想の波形が同じ周期を繰り返すのに対して、実際の波形は部分的にタイミングが早く変化したり、遅く変化したりします。
同社は原因として、電気信号の読み取りデバイスのわずかな不安定さや、信号の伝送経路の悪影響を挙げています。
チップの中では、もう少し具体的な出どころが分かっています。電子情報通信学会の公開知識ベース『知識の森』は、集積回路の配線設計の節で、電源電圧の時間的な変動などの要因により、同一のフリップフロップに到着するクロック信号が期待される時間から前後に揺らぐことがあるとし、この到着時刻のずれをクロックジッタと呼んでいます。同節は、電源・グラウンド配線の寄生抵抗と回路の動作電流によって生じる電源電圧降下、いわゆるIRドロップを、クロックスキューやクロックジッタの原因として挙げています。
振幅の乱れは押し返せて、時刻のずれは残ります
Section titled “振幅の乱れは押し返せて、時刻のずれは残ります”ジッタが独立した用語として立っているのは、デジタル回路が振幅の乱れに強いためです。
同知識ベースの通信測定の章は、発振器の出力を数式で書き下し、振幅の変動成分と位相の変動成分に分けています。そのうえで、位相の側から導かれる時間のずれをジッタと呼んでいます。
続けて同章は、二つの成分の扱いやすさの差を書いています。振幅の側の雑音はダイオード検波器などで容易に取り出せ、コンパレータやリミッタ回路などで抑えることも可能です。論理回路を動かすクロック信号では、振幅の雑音を無視する場合が多いとも述べています。一方で論理回路は高速性を追求するため、論理素子の入出力間の遅延時間や、その時間変動であるジッタ、あるいはスキューと呼ばれる論理素子間の遅延時間のばらつきが問題になる、という並びです。
デジタル回路は電圧の高低を0と1へ丸めるので、丸めた先で振幅の乱れは落ちます。 丸めた後まで残るのが、いつ来たかのずれです。
一つの数値には、まとまりません
Section titled “一つの数値には、まとまりません”エプソン水晶デバイスのTechnical Notesは、ジッタが時間とともに細かく変動し、変動のパターンもさまざまなので、一つの数値だけで評価することは難しいとしています。同社が種類として挙げるのは、Period Jitter(Peak to Peak)、RMS Jitter(1-sigma)、Random Jitter、Deterministic Jitter、Accumulated Jitter(Long Term Jitter)の五つです。
同社の用語集は、このうち周期ジッタを信号の1周期長のずれや揺らぎと定義し、Peak to peakジッタは最大周期長と最小周期長の差、RMSジッタは周期長の分布の標準偏差(1シグマ)だとしています。サイクル間ジッタは、隣接するクロック・サイクル間の周期の一時的なずれです。
累積ジッタは、見る単位が違います。同Technical Notesは、1周期長のばらつきに加えて、2周期長、3周期長と連続する多周期長の波形のばらつきを示したものだとしています。横軸は何周期長目まで測ったか、縦軸はそれぞれの周期長での1シグマです。累積された周期長のジッタはある周期長から1シグマが収束していく傾向を見せるため、これによりPLL回路のバンド幅や過渡応答特性を判断できると書かれています。
同じ話を、電子情報通信学会の公開知識ベースのPLLの章は周波数の側から書いています。1サイクルジッタには位相ノイズの高周波成分が寄与し、何周期分を積み上げるかを示すnが大きくなるにつれ低周波成分が寄与を始め、最終的には出力ジッタに発振器の持つ全位相ノイズが寄与するようになる、という説明です。
周波数の軸から見ると、位相雑音になります
Section titled “周波数の軸から見ると、位相雑音になります”同Technical Notesは、位相雑音を周波数領域で表した周波数の不安定さ、ジッタを時間領域における信号波形の揺らぎとし、二つを同じ現象の別の見え方として並べています。位相雑音の積分値にあたる部分が位相ジッタとなり、RMSジッタに相当します。位相雑音はすべてジッタになる、とも書かれています。
そのため、位相ジッタの数値には積分の範囲が付きます。同Technical Notesは、特定のオフセット周波数範囲の積分値を計算することで、その周波数範囲の成分を持つジッタ値が得られるとしています。エプソン水晶デバイスのプログラマブルSPXOの製品ページは、実際に位相ジッタの欄を「位相ジッタ(12 kHz〜20 MHz)」のように積分範囲つきで書き、SG-8201シリーズについて125 MHzで位相ジッタ1.1 ps Typ.を実現したとしています。ここは同社製品の値です。
低い周波数の側には、別の名前も付いています。同知識ベースの通信測定の章は、キャビティやLC同調回路を共振回路に使う通常の自励発振器では周波数変動がフリッカ雑音になっているとし、そのためジッタの低域成分は非常に複雑な動きをするのでワンダと呼ばれることもあると述べています。ワンダの測定には、周波数安定度測定器などの専用の測定器を使います。
ジッタが増えると、余裕が減ります
Section titled “ジッタが増えると、余裕が減ります”電子情報通信学会の公開知識ベースの集積回路の章は、クロックスキューとクロックジッタについて、いずれもゼロであることが理想であり、ゼロとならない場合にはタイミング余裕を減少させるとしています。
クロックの1周期は、回路の中でいちばん遅い経路の計算時間を収める長さが要ります。そこにジッタが加わると、ずれる可能性のある分だけ、あらかじめ空けておく必要が生じます。周波数を上げる余地を、ジッタが先に取っていく形です。
通信の側では、別の困りごとが出ます。エプソン水晶デバイスのTechnical Notesは、ジッタがあまりにも大きいと信号が隣接する信号と干渉し、映像や音楽を伝送する信号の場合には画像や音質の劣化を引き起こすとしています。
減らす手立てと、その代償
Section titled “減らす手立てと、その代償”同Technical Notesは、ジッタを減らしていくことをDeterministic Jitterをいかに減らしていくかという課題として整理し、この成分の最適化によって左右のRandom Jitterの間が重なり、理想的な正規分布として存在できるようになると書いています。
回路の側の手当ては、PLLが担います。ただし、そこには取り合いがあります。電子情報通信学会の公開知識ベースのPLLの章は、ΔΣ型分数分周シンセサイザについて、ループフィルタのカットオフを低くするほど分周比の切り替えで出る雑音を取り除ける一方、低くしすぎると電圧制御発振器の位相ノイズが出力へ漏れるとし、出力位相ノイズを最小にするループ帯域に最適値があるとしています。
面積との取り合いも同じ章に書かれています。チャージポンプ型PLLでフィルタを小型化するとき、チャージポンプ電流と容量は比例する一方で抵抗値は反比例するため、容量値を削減すると抵抗値が大きくなって出力熱雑音が増え、PLLのジッタ特性が劣化します。
ジッタの根は、抵抗が出すノイズにあります。 周波数の軸で雑音として現れるものが、時間の軸ではジッタとして見えます。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ジッタとは何ですか?
信号が来るはずの時刻から前後にずれる、時間軸方向のゆらぎです。エプソン水晶デバイスの用語集は、ジッタを信号波形に生じる時間軸のずれや揺らぎとしています。
ノイズとジッタは、どう違うのですか?
乱れが出る軸が違います。電子情報通信学会の公開知識ベースは、発振器の出力を振幅の変動成分と位相の変動成分に分け、位相の側から導かれる時間のずれをジッタと呼んでいます。同知識ベースは、振幅の側の雑音はダイオード検波器などで取り出せ、コンパレータやリミッタ回路で抑えることも可能だとしています。論理回路を動かすクロックでは振幅の雑音を無視する場合が多く、残る時間のずれが問題になる、という並びです。
ジッタの数値には、なぜ範囲が付くのですか?
どの周波数のゆらぎまで数えるかで値が変わるためです。エプソン水晶デバイスのTechnical Notesは、位相雑音の積分値が位相ジッタとなりRMSジッタに相当するとし、特定のオフセット周波数範囲の積分値を計算すればその範囲の成分を持つジッタ値が得られるとしています。同社の製品ページは、位相ジッタの欄を「12 kHz〜20 MHz」のように積分範囲つきで書いています。
位相雑音とジッタは、同じものですか?
同じゆらぎを、別の軸で表したものです。同Technical Notesは、位相雑音を周波数領域で表した周波数の不安定さ、ジッタを時間領域における信号波形の揺らぎとし、位相雑音はすべてジッタになるとしています。
ジッタが大きいと、何が困りますか?
時間の余裕が減ります。電子情報通信学会の公開知識ベースは、クロックスキューとクロックジッタがゼロである状態を理想とし、値を持つ場合にはタイミング余裕を減少させるとしています。エプソン水晶デバイスは通信の側について、ジッタが大きすぎると信号が隣接する信号と干渉し、映像や音楽を伝送する信号では画像や音質の劣化を引き起こすとしています。
チップの中では、何がジッタの原因になりますか?
電源電圧のゆらぎが代表格です。同知識ベースは、電源電圧の時間的な変動などの要因により、同一のフリップフロップに到着するクロック信号が期待される時間から前後に揺らぐとし、これをクロックジッタと呼んでいます。電源・グラウンド配線の寄生抵抗と動作電流によって生じる電源電圧降下、いわゆるIRドロップも、クロックスキューやクロックジッタの原因として挙げられています。
ジッタを減らすと、何と引き換えになりますか?
面積や別の雑音と取り合いになります。同知識ベースのPLLの章は、ΔΣ型分数分周シンセサイザについて、ループフィルタのカットオフを低くするほど分周比の切り替えで出る雑音を取り除ける一方、低くしすぎると電圧制御発振器の位相ノイズが出力へ漏れるとし、出力位相ノイズを最小にするループ帯域に最適値があるとしています。同章はまた、ループフィルタの容量値を削減すると抵抗値が大きくなって出力熱雑音が増え、PLLのジッタ特性が劣化するとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- エプソン水晶デバイス Technical Notes 1「ジッタと位相雑音」公開PDF(2026年8月30日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── ジッタがデジタル信号を伝送するときに波形へ生じる時間軸のずれや揺らぎであること、オシロスコープ上で波形の輝線が太く幅を持って見えること、原因が読み取りデバイスのわずかな不安定さや伝送経路の悪影響であること、ジッタが大きすぎると隣接信号と干渉し画像や音質の劣化を引き起こすこと、変動パターンが多様で一つの数値だけでの評価が難しいこと、種類としてPeriod Jitter・RMS Jitter・Random Jitter・Deterministic Jitter・Accumulated Jitterが挙がること、累積ジッタが多周期長のばらつきを示しPLL回路のバンド幅や過渡応答特性の判断に使えること、位相雑音が周波数領域・ジッタが時間領域の表現であり位相雑音の積分値が位相ジッタとなりRMSジッタに相当すること、特定のオフセット周波数範囲の積分値でその範囲のジッタ値が得られること、Deterministic Jitterの最適化が低ジッタ化の要点になること
- エプソン水晶デバイス「用語集」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── ジッタが信号波形に生じる時間軸のずれや揺らぎであること、周期ジッタが信号の1周期長のずれや揺らぎでPeak to peakジッタが最大周期長と最小周期長の差・RMSジッタが周期長の分布の標準偏差(1シグマ)であること、サイクル間ジッタが隣接するクロック・サイクル間の周期の一時的なずれであること、位相ジッタが位相雑音より導出されるジッタであること
- 電子情報通信学会『知識の森』10群1編2章「基本構成」公開PDF(2026年8月30日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── 電源電圧の時間的な変動などの要因により同一のフリップフロップに到着するクロック信号が期待される時間から前後に揺らぎ、この到着時刻のずれをクロックジッタと呼ぶこと、到着時間が同一に保たれるべき場所間での到着時間差をクロックスキューと呼ぶこと、スキューとジッタはいずれもゼロであることが理想でゼロとならない場合にはタイミング余裕を減少させること、電源・グラウンド配線の寄生抵抗と動作電流により生ずるIRドロップがクロックスキューやクロックジッタの原因となること
- 電子情報通信学会『知識の森』12群6編6章「通信測定」公開PDF(2026年8月30日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── 発振器出力が振幅雑音成分と位相雑音成分に分けて表され位相成分から導かれる時間のずれがジッタと呼ばれること、振幅雑音がダイオード検波器などで容易に抽出できコンパレータやリミッタ回路で抑圧も可能であること、論理回路を駆動するクロック信号では振幅雑音を無視する場合が多いこと、論理回路では入出力間の遅延時間やその時間変動であるジッタ・素子間の遅延時間のばらつきであるスキューが問題となること、通常の自励発振器では周波数変動がフリッカ雑音になりジッタの低域成分がワンダと呼ばれること、ワンダの測定に周波数安定度測定器などの専用測定器を用いること
- 電子情報通信学会『知識の森』10群6編8章「位相同期回路(PLL)」公開PDF(2026年8月30日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── 1サイクルジッタには位相ノイズの高周波成分が寄与し積み上げ回数nが大きくなるにつれ低周波成分が寄与を始め最終的に全位相ノイズが寄与すること、ΔΣ型分数分周シンセサイザでループフィルタのカットオフを低くするほど分周比切り替えの雑音を除去できる一方でVCOの位相ノイズが漏れ出力位相ノイズを最小とするループバンド幅の最適値が存在すること、チャージポンプ型PLLでは容量値を削減すると抵抗値が大きくなって出力熱雑音が増えジッタ特性が劣化すること
- エプソン水晶デバイス 製品情報「ベーシック SG-8200CJ/CG|高精度・低ジッタ SG-8201CJ/CG」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 位相ジッタの規格が「12 kHz〜20 MHz」のように積分範囲つきで記載されること、SG-8201シリーズがFo = 125 MHzにおいて位相ジッタ1.1 ps Typ.を実現したとされること