GaN(窒化ガリウム)とは
GaN(窒化ガリウム)とは、ガリウムと窒素からなる化合物半導体です。 バンドギャップが広く、強い電界に耐えられるため、パワー半導体の材料として使われます。
電力を扱う素子に求められるのは、まず高い電圧に耐えることです。耐えられなければ、そもそも回路に入れられません。
耐えられる電圧は、材料が壊れずに支えられる電界の強さで決まります。Nexperiaが公開しているアプリケーションノートの材料物性表には、次の値が並んでいます。
| 材料 | バンドギャップ | 臨界電界 | 電子移動度 | 熱伝導率 |
|---|---|---|---|---|
| GaN | 3.4 eV | 3.5 MV/cm | 2,000 cm²/Vs | 1.3 W/cmK |
| SiC | 3.3 eV | 2.2 MV/cm | 950 cm²/Vs | 3.7 W/cmK |
| Si | 1.12 eV | 0.23 MV/cm | 1,400 cm²/Vs | 1.5 W/cmK |
臨界電界の列を見ると、GaNとSiCがシリコンの一桁上にあります。同じ電圧を支えるのに要る厚みが薄くて済むということです。厚みが薄ければ、そこを通る電流の抵抗も小さくなります。耐圧と低損失が同時に取れることが、ワイドバンドギャップ材料が選ばれる理由です。
得意が違います ── GaNとSiC
Section titled “得意が違います ── GaNとSiC”同じ表をもう一度見ると、GaNとSiCの性格の違いがはっきりします。
電子の速さでは、GaNが勝ちます。 電子移動度はGaNが2,000、SiCが950 cm²/Vsで、倍以上の開きがあります。電子が速く動けるほど、素子は高い周波数で切り替えられます。
熱を逃がす力では、SiCが勝ちます。 熱伝導率はSiCが3.7、GaNが1.3 W/cmKです。GaNの1.3は、シリコンの1.5よりも低い値です。
つまりGaNは、速く動かせる代わりに、出た熱が逃げにくい材料です。速く切り替えれば損失は減りますが、残った損失は溜まりやすくなります。GaNの設計が放熱の設計と一体になるのは、この物性から来ています。
電流の通り道が、自然にできてしまいます
Section titled “電流の通り道が、自然にできてしまいます”GaNのパワー素子は、シリコンのMOSFETとは電流の作り方が違います。
Nexperiaの同資料は、GaN HEMTの断面について、GaNとAlGaNの界面で自発分極とピエゾ分極が合わさることによって2次元電子ガス(2DEG)が形成されると説明しています。異なる2つの結晶を貼り合わせた境目に、電子が薄いシートのように集まる層ができる、という現象です。
この2DEGが電流の通り道になります。同資料は、GaNのエピ層がシード層とGaN・AlGaNのグレーデッド層を介してシリコン基板の上に形成され、その上の薄いAlGaN層が2DEGを作ると記述しています。
ここに、扱いの難しさが1つ生まれます。2DEGは外から電圧をかけなくても、自然にできています。 何もしなければ電流が流れる状態、つまり「常にON」が出発点になります。電源回路では、電源を入れた瞬間に電流が流れる素子は困ります。だから何らかの手当てをして、電圧をかけないとOFFのまま、という状態を作ります。同資料はこの方法として、単一ダイのエンハンスメントモードと、2ダイ構成のデプレッションモードという2つの選択肢を挙げています。
imecも公開技術記事で、市販のGaNパワートランジスタがほぼすべて横型のAlGaN/GaN HEMTであることと、2DEGが外部バイアスなしに自然形成されることを挙げています。
シリコンの上に作れることの意味
Section titled “シリコンの上に作れることの意味”材料としての性能と同じくらい効くのが、どこで作れるかです。
基板がシリコンであれば、既存のシリコン向け設備を使える範囲が広がります。ウェーハの口径も、シリコンで確立された大きさをそのまま使えます。新しい材料を導入するとき、専用の工場をゼロから建てる必要があるかどうかは、価格に直結します。
用途の側も、公的機関から示されています。産総研はプレスリリースで、GaNの主戦場が600V以下であると述べています。より高い電圧の領域では、耐圧と放熱の両方を持つSiCが向きます。
同じプレスリリースは弱点も挙げています。GaN高電子移動度トランジスタにはボディダイオードがない構造であるため、回路の異常動作時におけるノイズエネルギーの吸収力が小さいという点です。シリコンのMOSFETが構造上ついでに持っていた逃げ道が、GaNには最初からありません。
構造が変われば、これまで無償で付いてきたものが消えます。 新しい材料を入れる判断には、必ずこの確認が要ります。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- 材料の工程ページ ── 工程分類と、この工程に接続している公開求人
- デバイス製品開発の工程ページ ── 素子として設計する側
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”GaNとは何ですか?
ガリウムと窒素からなる化合物半導体です。バンドギャップが広く、強い電界に耐えられるため、パワー半導体の材料として使われます。
シリコンと何が違うのですか?
Nexperiaの公開資料の表では、バンドギャップがGaN 3.4 eVに対しSi 1.12 eV、臨界電界がGaN 3.5 MV/cmに対しSi 0.23 MV/cmです。同じ厚みでも、GaNのほうがはるかに高い電圧に耐えられます。
SiCとどちらが優れているのですか?
得意が違います。同じ表で電子移動度はGaN 2,000に対しSiC 950 cm2/Vsで、GaNのほうが電子が速く動きます。一方で熱伝導率はGaN 1.3に対しSiC 3.7 W/cmKで、熱を逃がす力はSiCが大きく上回ります。
熱に弱いのですか?
熱の逃がしやすさでは不利です。同じ表では、GaNの熱伝導率1.3 W/cmKはシリコンの1.5 W/cmKよりも低い値です。速く動かせる材料が、熱も逃がしやすいとは限りません。
どうやって電流を流すのですか?
2次元電子ガス(2DEG)を使います。Nexperiaの資料は、2DEGがGaNとAlGaNの界面で自発分極とピエゾ分極が合わさることで形成されると説明しています。
シリコンの工場で作れるのですか?
作れる構成があります。同資料は、GaNのエピ層がシード層とGaN・AlGaNのグレーデッド層を介してシリコン基板の上に形成されると説明しています。基板がシリコンであれば、既存の設備を使える範囲が広がります。
弱点はありますか?
産総研は、GaN高電子移動度トランジスタにボディダイオードがない構造であるため、回路の異常動作時におけるノイズエネルギーの吸収力が小さいことを課題として挙げています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- SiC MOSFETとは ── 高電圧側を担う材料
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- Nexperia アプリケーションノート「AN90021 Power GaN technology」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 材料物性表(GaN/SiC/Siのバンドギャップ3.4/3.3/1.12 eV、臨界電界3.5/2.2/0.23 MV/cm、電子移動度2,000/950/1,400 cm²/Vs、熱伝導率1.3/3.7/1.5 W/cmK)、2DEGがGaNとAlGaNの界面で自発分極とピエゾ分極が合わさって形成されること、GaNエピ層がシード層とグレーデッド層を介してシリコン基板上に形成されること、エンハンスメントモードとデプレッションモードという2つの選択肢
- imec「Unlocking the full potential of GaN technology」公開技術記事(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 市販のGaNパワートランジスタがほぼすべて横型のAlGaN/GaN HEMTであること、2DEGが外部バイアスなしに自然形成されること
- 産業技術総合研究所 プレスリリース(2021年12月)(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── GaNの主戦場が600V以下であること、GaN高電子移動度トランジスタにボディダイオードがない構造であるため回路の異常動作時におけるノイズエネルギーの吸収力が小さいこと