コンテンツにスキップ

IPA乾燥とは

IPA乾燥とは、ウェーハに残った水をイソプロピルアルコール(IPA)へ置き換えてから乾かす乾燥方式です。 水とシリコンが接している時間そのものを縮めます。

SCREENセミコンダクターソリューションズは、技術ページ「洗浄工程」で、ウェットステーションのラインの最後に付く乾燥ユニットを2つ挙げています。1つは洗濯機の脱水と同じく回転の遠心力で水を切るスピンドライヤ、もう1つはアルコールが蒸発する力で水分もろとも飛ばすIPAベーパドライヤです。IPAはイソプロピルアルコールの略称、ベーパは蒸気の意味で、現在はこの方法が主流だとしています。

同じページは、スピンドライヤの利点を乾燥時間が短いことと記し、欠点として、回転中のウェーハと空気の摩擦で静電気が起きること、脱水の後にウェーハ上へ残る水模様(業界ではウォーターマークと呼びます)というシリコンの錆びが出やすいことを挙げています。IPAは静電気とウォーターマークの心配を避けられる代わりに、引火して火災を起こすリスクを抱えるとしています。

洗浄の良し悪しは、薬液で汚れを落とし切った後、水を抜き切った瞬間に決まります。IPA乾燥は、その最後の数十秒を担う工程です。

水滴が残留すると、そこで何が起きているのか

Section titled “水滴が残留すると、そこで何が起きているのか”

SEAJ(日本半導体製造装置協会)の「半導体製造装置用語集」は、ウォータマークについて、シリコンが露出したゲート酸化膜形成前などのデバイス表面へ純水の水滴が残ると、純水へシリコンが溶け出し、水滴のふちではシリコンの酸化で生じたSiO2も溶けると記しています。この水滴が乾いた跡にはシリコン水和物がクレータ状に残り、後で作るゲート酸化膜などの欠陥を呼び込んでデバイスの特性を落とすと言われる、としています。

水滴は、水たまりというより小さな反応容器です。乾き切るまでの間、シリコンは水へ溶け続けます。

日本伝熱学会の学会誌Thermal Science & Engineeringに載った論文「マランゴニ乾燥におけるウェーハ上残留液滴の乾燥過程とその制御」(2010年、大日本スクリーン製造と芝浦工業大学の共著)は、水切りが不十分な場合に残留物が生じ、これが歩留まりを低下させる原因になっていると記しています。パーティクルも同じで、液膜や液滴が残留して蒸発すれば、液中にあった粒子はウェーハ上へ残留します。

残った1粒の水が、シリコンを溶かす容器になります
時間が進みます水のまま飛ばします純水がのっています小さな水滴が残留しますウォーターマークになります水をIPAへ置き換えますIPA蒸気が溶け込みます純水がのっています水がIPAへ置き換わりますきれいな面で乾きます水がシリコンを溶かします水と接する時間を縮めます
回転で水を振り切る乾燥では、大半の水が飛んだあとも小さな水滴が残留し、その中でシリコンが水へ溶けてウォーターマークになります。IPA乾燥は水をIPAへ置き換えてから乾かすため、水とシリコンが接する時間そのものを縮めます。

マランゴニ乾燥は、どうやって水を追い払うのか

Section titled “マランゴニ乾燥は、どうやって水を追い払うのか”

日本伝熱学会の論文は、マランゴニ乾燥法を、ウェーハを純水で洗浄したあと洗浄槽から引き上げる際に、雰囲気を有機物(しばしばIPAが使われます)と窒素の混合ガスで満たしておく方法として記しています。ウェーハと純水の界面にできるメニスカスは、先端の薄膜部分で根元よりも有機物成分の濃度が高まり、表面張力がより低下します。根元との間に生じた表面張力の勾配が、マランゴニ力でメニスカスを根元へ引きつけ、水切りが促進されると考えられている、としています。

液面を動かしているのは、ポンプでも風でもなく、同じ液面の中にできた表面張力の差です。

枚葉スピン洗浄の装置では、これを回転と組み合わせます。SEAJの用語集は、Rotagoni乾燥法として、300から1000rpmで水平回転するウェーハの中心へ純水の供給管とIPA蒸気を含む窒素ガスの吹き出し管をペアで設ける構成を載せています。純水ノズルを中心から半径方向へゆっくり移動させ、ガスノズルが追うように薄いIPA蒸気を吹き付けると、中心部から乾いた面がエッジ方向へ広がって全面が乾き、遠心力とマランゴニ効果でキャリオーバー層が20秒程度で除去されるとしています。利点としては、スピン乾燥より回転数が低くて済むこと、ウェーハ上部に高速の乱流が生じにくく雰囲気汚染を受けにくいことを挙げています。

何を測り、どのつまみを回すのか

Section titled “何を測り、どのつまみを回すのか”

現場のつまみは、雰囲気ガスの2つの濃度です。日本伝熱学会の論文は、乾燥雰囲気ガスのIPA濃度(相対湿度RhIPA)と水蒸気濃度(相対湿度Rhwater)が液滴の乾燥時間と液滴のIPA濃度へ密接に関与するとして、雰囲気温度25℃、RhIPAを30から80%、Rhwaterを0から30%の範囲で振って測っています。現場の装置では乾燥工程が180から300秒ほどになると知られている、とも記しています。実験室の条件です。

ここから道筋が2本に伸びます。

1本目は、乾燥そのものを速める道です。同論文は、RhIPAが0から50%と比較的低い領域では乾燥時間がRhwaterだけで決まり、RhIPAが高い領域では逆にRhIPAだけで決まるとしています。乾燥時間の短縮でウォーターマークを抑えるなら、Rhwaterを低くし、RhIPAの上げ過ぎを避けるのが有効だとしています。

2本目は、水をIPAへ置き換える道です。同論文は、J. Kooらの報告として、液滴のIPAモル分率が0.26(体積分率では0.6にあたります)へ達すると、ウォーターマークの元になるSiの溶け出しが止まると紹介し、その濃度への到達時間は主にRhIPAで決まるため、RhIPAを高めれば短くできるとしています。数値解析による指針です。

この2本は、RhIPAという同じつまみを逆向きへ引きます。現場の運転条件は、その折り合いの上に決まります。

同じつまみが、2つの目的で逆を向きます
雰囲気の水蒸気濃度Rhwater が高くなります雰囲気のIPA濃度 RhIPA が高くなりますいまの条件乾燥時間を短くしますIPA置換を速めます道筋1 水滴を速く乾かしますRhwater を低く保ちますRhIPA は上げ過ぎを避けます道筋2 水をIPAへ置き換えますRhIPA を高めますモル分率0.26でSiの溶出が止まります日本伝熱学会 2010年の解析による指針です
乾燥時間の短縮を狙うとRhIPAの上げ過ぎを避ける向きへ、液滴のIPA置換の加速を狙うとRhIPAを上げる向きへ、同じつまみが逆に引かれます。日本伝熱学会の論文は、この2本の指針を実験と数値解析から示しています。

第1に、火気の管理です。SCREENの技術ページは、IPAの蒸気へ火が移って火災に至るおそれがあるため、装置の設計と運用に十分な注意が要ると記しています。乾燥ユニットは、可燃性の蒸気を室温で用いる装置になります。同じページは、清浄度の要求が高い洗浄に続く乾燥工程では、大気へ触れて汚れるのを避けるため窒素ガス中で乾かす方法も広まっているとしています。

第2に、設備側の常設です。SEAJの「半導体製造装置技術ロードマップ」は、Al配線形成後のレジスト残渣除去について、水が残留した場合はAl配線の腐食が発生するとし、水の残留を抑えて乾燥性能を高めるため各社の設備メーカがN2雰囲気化やマランゴニ乾燥などのIPA乾燥方式を提供していると記しています。2012年版の記述です。ウェット工程を持つ限り、IPAの供給と排気の系統は工場へ常駐します。

表面張力をゼロへ近づけた先に何があるのか

Section titled “表面張力をゼロへ近づけた先に何があるのか”

IPA乾燥が解いている問題は、突き詰めると表面張力です。表面技術協会の学会誌「表面技術」に載ったNTT物性科学基礎研究所の生津英夫氏による解説「極微細パターン形成のための超臨界乾燥法」(2005年)は、パターン間に残留したリンス液が作る毛細管力をP=2γcosθ/Dと表しています。γがリンス液の表面張力、Dがライン間の距離、θがパターン部での接触角にあたります。この力が曲げのモーメントを与え、最大ストレスが倒壊ストレスを超えたときにパターンが倒れる、としています。

同解説は、倒れを抑える手を3つ挙げます。ライン間隔Dを広げること、アスペクト比を小さくすること、リンス液の表面張力γを小さくすることです。パターンサイズがデバイス設計の側で決まるため、そのうち表面張力を下げることが最も効率的だとしています。数値としては、水を72dyne/cm、エタノールを22dyne/cmとし、有機溶剤で最も低いと知られるパーフロロカーボンでさえ10dyne/cm前後という有限の値を持つとしています。2005年時点の記述です。

ここに天井があります。SCREENホールディングスは2022年7月29日のグループニュース「半導体洗浄時におけるナノ構造物の倒壊メカニズムを解明」で、北海道大学低温科学研究所の木村勇気准教授らとの共同研究を発表しています。同ニュースは、これまで洗浄液を低表面張力の2-プロパノール(IPA)へ置き換えてから乾燥することで倒壊を防いできたとしたうえで、7nmや5nmというシングルナノオーダーの世代へ入ると、IPAを用いた洗浄をもってしても倒壊を抑えるのが難しくなり、表面張力の小さい液体で洗浄と乾燥を行う方法は限界に近づいていると述べています。ナノピラー間に残留する水で同士が付着し、次に先端部の液だまりが接着させる二段階の倒壊も、透過型電子顕微鏡での観察から報告しています。

SEAJの技術ロードマップも、リンス乾燥時の毛管力によるパターン倒壊への対策として、表面張力の低い溶剤による乾燥や、超臨界CO2乾燥の検討が進んでいると記しています。IPA乾燥は、表面張力をゼロへ近づける道の途中に立つ到達点です。

IPA乾燥とは何ですか?

ウェーハに残った水をイソプロピルアルコール(IPA)へ置き換えてから乾かす乾燥方式です。SCREENは技術ページで、アルコールが蒸発する力で水分もろとも飛ばすIPAベーパドライヤを挙げ、現在はこの方法が主流だとしています。

回転で水を振り切る乾燥と、どこが違いますか?

残った水滴の中身が違います。SCREENは、スピンドライヤの利点を乾燥時間が短いことと記す一方、回転中のウェーハと空気の摩擦で静電気が起きること、脱水のあとウォーターマークというシリコンの錆びが発生しやすいことを欠点として挙げています。IPA乾燥は水そのものをIPAへ置き換えるため、水とシリコンが接する時間を縮めます。

ウォーターマークとは何ですか?

SEAJの用語集は、シリコンが露出したデバイス表面に純水の水滴が残留すると、純水へのシリコンの溶解や水滴のふちでのシリコンの酸化が起き、水滴が蒸発した跡にシリコン水和物がクレータ状に残留すると記しています。後で作るゲート酸化膜などの欠陥を呼び込み、デバイスの特性を落とすと言われる、としています。

マランゴニ乾燥はどういう仕組みですか?

日本伝熱学会の学会誌に載った論文は、純水で洗浄したウェーハを引き上げる際に雰囲気をIPAなどの有機物と窒素の混合ガスで満たす方法だと記しています。メニスカス先端の薄膜部分で有機物の濃度が高まって表面張力が下がり、根元との間に生じた表面張力の勾配がメニスカスを根元へ引きつけ、水切りが促進されると考えられている、としています。

現場では何を測りますか?

同じ論文は、乾燥雰囲気ガスのIPA濃度(相対湿度RhIPA)と水蒸気濃度(相対湿度Rhwater)が液滴の乾燥時間と液滴のIPA濃度へ密接に関与するとし、雰囲気温度25℃で両者を振って測っています。乾燥時間を短縮したい場合はRhwaterを低くしてRhIPAの上げ過ぎを避けること、液滴のIPA濃度を速く上げたい場合はRhIPAを高めることを指針として挙げています。

IPA乾燥の代償は何ですか?

火気の管理です。SCREENは、IPAには静電気とウォーターマークの心配を避けられる代わりに、アルコールの蒸気へ火が移って火災に至るおそれがあるため、装置の設計と運用に十分な注意が要ると記しています。

IPA乾燥の限界はどこにありますか?

微細なパターンの倒壊です。SCREENホールディングスは2022年7月のグループニュースで、7nmや5nmというシングルナノオーダーの世代へ入ると、IPAを用いた洗浄をもってしても倒壊を抑えるのが難しくなり、表面張力の小さい液体で洗浄と乾燥を行う方法は限界に近づいていると述べています。

この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。

回答待ち 更新中 公開Q&A

このページの質問窓口

AIに疑問を送る

「匿名で送信する」を押して内容を送ると、受付ID付きの回答URLを発行します。URLでは進捗を追うことができ、通常は1日以内に回答します。個人情報を取り除いて編集した質問と回答だけを、承認済み資料の出典リンクとともに公開Q&A一覧へ掲載します。

通常、1日以内に回答します 回答待ち 更新中

  1. 匿名で送る 分かりにくい箇所、指摘、追加してほしい内容を書きます。
  2. 受付IDと回答URLを保存する 送信後に発行されるURLへ、進捗が順次反映されます。
  3. 進捗と回答を追う URLには、受付済み、回答作成中、解決済みの状態と回答が載ります。
公開Q&A一覧へ 5〜4,000文字。氏名・連絡先などの個人情報、秘密情報は入力禁止です。

このフォームは匿名です。氏名・連絡先・応募情報などの個人情報、秘密情報、社外秘情報、契約情報、非公開資料の入力は禁止です。投稿原文は運営用DBに保存し、公開面には、個人情報・秘密情報・危険な命令を除く安全審査と読みやすい文章への編集を経た質問文と回答だけを載せます。状態は「受付済み」「回答作成中」「解決済み」の3段階です。安全審査の結果によっては公開を保留します。サイト側の機械検査を通った内容だけを運営側のAI回答作成環境へ送り、回答案の作成と、それとは独立したAI審査に使います。機械検査には見落としの可能性があり、回答作成と審査の履歴は利用中の環境に保持されます。IPアドレスや端末情報は送信対象外です。回答URLは公開Q&A用で、共有先からも開けます。送信により、この利用条件と審査後のQ&A公開に同意したものとします。