CMP後洗浄とは
CMP後洗浄とは、CMPで研磨した直後のウェーハから砥粒と研磨屑と金属不純物と有機残渣を落として、次工程が受け取れる表面へ渡す工程です。 剥がす仕事と、剥がしたものの再付着を抑える仕事が、別々のつまみで動きます。
荏原製作所の今井正芳氏による関東化学の技術誌への解説は、CMP後の表面には砥粒に加えて削る行為で発生した研磨屑や有機残渣が付き、他の工程を大きく上回る種類の異物が乗っているとしています。関東化学の大和田拓央氏による同誌の解説は、その内訳を、スラリー中の砥粒(主にSiO₂)や研磨パッドの破片によるパーティクル、絶縁膜表面に残ったCu酸化物などの金属不純物、そしてスラリー中のCu防食剤とCuが研磨中の圧力と熱で反応した生成物に由来する有機残渣へ分けています。CMPスラリーとCMPパッドを削りながら進む工程なので、削った分だけ汚れが増えます。
桁の感覚として、花王ケミカルの半導体用薬剤のページは、シリカ系研磨剤を使うシリコンウェーハの研磨工程について、300mmウェーハ1枚当たり7兆個ほどのシリカ粒子が付着すると推定しています。同社の推定値で、対象はシリコンウェーハの研磨工程です。同社はCMP後洗浄向けにも薬剤を出し、シリカやセリアの付着物を大幅に低減するとしています。
失敗の形もCMP固有です。今井氏は、研磨後のウェーハが洗浄前に一部でも乾くと、残っていたスラリーが固着して除去が大変困難になると書いています。第一世代のCMPが専用室からクリーンルームまで通路にシャワーを設けて搬送していたのはこのためで、現在主流の第二世代は、洗浄装置を装置内へ取り込んだDry-in / Dry-out方式によって搬送そのものを短くしています。
剥がすのは物理作用です
Section titled “剥がすのは物理作用です”今井氏は、パーティクルを浮かせる手段を、薬液でウェーハ表面を微量エッチングして下から切り離すリフトオフ作用と、物理的に粒子を動かす物理作用の組み合わせとして並べ、近年のデバイスは構造が微細なためエッチングが制限され、物理作用に頼る場合が多く、薬液は補助的な役割を担うとしています。装置メーカー側の立場からの記述です。
接触式は2種類です。ロールブラシは筒状のPVA(ポリビニルアルコール)スポンジで、ウェーハに当たる面へ円形のノジュールが多数触れる構造を持ち、ロールを回してある程度の圧力を与えて粒子を動かします。ペンシルブラシも同じPVAを使い、液が流れている回転ウェーハの上を中央からエッジへ一方通行で掃き出します。今井氏は、ロールは回転するため一度ロールに付いた粒子が再付着することがあり、ペンシルは再付着が起こりにくいため、一般にロールブラシの後段へ回して仕上げ洗浄を担うと書いています。
非接触式は超音波洗浄(メガソニック洗浄)と二流体ジェット(2FJ)です。同氏は超音波洗浄について、溶存気体をコントロールした状態で超音波によるキャビテーションを起こし、ウェーハ近傍の粒子を剥がす作用だとし、主に研磨後のスラリーによるブラシ側の汚染を下げる粗洗浄として使われることが多いとしたうえで、出力パワーと周波数帯の取り方によってはCMP後のウェーハ表面へダメージが出る場合があるとしています。2FJは液体と気体を専用形状のノズルで混ぜて高速かつ微細な液滴を作り、液滴の変形エネルギーで表面の粒子を弾き飛ばします。
つまみは2つです。物理力を上げると剥離量が増え、差し出すものは表面です。超音波の出力と周波数帯の取り方がそのまま表面のダメージへ出る点は前段の通りで、ブラシ側の代償も同じ向きです。富士フイルムのポストCMPクリーナーのページは、ハイブリッドボンディング向けの品でブラシ洗浄中のCuロスを最小化する設計を挙げています。物理力を下げれば剥離が甘くなり、パーティクルとしてディフェクトマップへ点が上がります。洗浄時間を延ばすと汚れは落ちますが、チャンバー数とスループットを差し出します。大和田氏は、洗浄時間を1チャンバーあたり30秒前後とし、量産ラインでは複数のチャンバーを備えたCMP装置を使うとしています。同氏が自社製品CMP-B216の洗浄性を測った条件はブラシスクラブ60秒です。関東化学の測定条件です。
再付着を抑える側は流速とpHで動きます
Section titled “再付着を抑える側は流速とpHで動きます”今井氏は、リフトオフや物理洗浄でウェーハから分離したパーティクルをウェーハ外へ運び切る必要があるとしたうえで、薬液の中であればパーティクルは付きにくいものの、その後の純水リンス中ではゼータ電位の相対的な電位が変わり、付きにくくする作用が薄れると書いています。だから薬液の後の純水リンスは、粒子をウェーハから離す作用を持たせるために純水の流速を速める必要があるとしています。流速を上げれば再付着が下がり、下げれば同じ粒子が同じウェーハへ付き直します。差し出すものは純水の使用量です。
pHも同じ側に働きます。大和田氏は、SiO₂のゼータ電位がpHの上昇に伴ってマイナス側へ大きくなるため、アルカリ性領域ではSiO₂粒子同士や粒子と絶縁膜の間の静電的な反発力が高まり、スラリー砥粒由来のパーティクル除去に有利に働くとしています。
乾燥も洗浄の一部です。今井氏は、枚葉式洗浄装置では高速スピン乾燥が一般的で、ウォーターマークを嫌う工程では表面の純水をIPA(2-プロパノール)へ置換してから乾かすことで、純水中の酸素に起因するウォーターマークを防げるとしています。IPA乾燥を入れる代わりに、装置構成と薬品コストが増えます。
薬液のpHには窓があります
Section titled “薬液のpHには窓があります”大和田氏は、Cu-BTA錯体がpH2〜10の領域で安定に存在することをプールベ線図から述べ、CMPで生じた有機残渣は研磨時の加圧と加熱による重合でモノマーのCu-BTA錯体より分子量が大きく溶解性が低いと指摘されている、と書いています。同氏がTMAH水溶液で測ったところ、pH9.0以上ではpHの上昇に伴ってCuのエッチングレートが下がり、Cu-BTA錯体の除去性が上がりました。測定は、BTA水溶液(10mM、pH8.0)へ浸けてCu-BTA錯体で覆ったCuブランケットウェーハを30℃で1分間撹拌浸漬し、Cuだけを溶かす腐食液へ移して腐食液中のCu濃度から定量しています。関東化学の測定条件です。
上げすぎる側にも壁があります。同氏は、強アルカリ側では表面にできたCuOが溶け出し、Low-k層間絶縁膜の加水分解によって誘電率が上がる懸念があるため、最適pHを11.0〜12.0と判断したとしています。同社製品CMP-B216のpHは11.4で、塩基には急性毒性が高く使用制限が進むTMAHを外した組成を選び、推奨希釈倍率は100倍です。同氏は、パーティクル除去性が洗浄液組成とスラリーの相性に依存する場合が多く、そのつど最適pHが動くとも書いています。
差し出すものはバリアメタルの腐食です
Section titled “差し出すものはバリアメタルの腐食です”汚れを落とす力を上げると、露出した卑な金属が溶けます。大和田氏は、バリアメタルにCoを使う世代では、CuとCoが電解質溶液を介して電気回路を作るとCoのガルバニック腐食(異種金属の腐食電位差で卑な側の腐食が進む現象)が起きるとしたうえで、多くのデバイスメーカーの要求事項としてCoのエッチングレート1Å/min以下を挙げています。有機残渣を落とす錯化剤としてL-ヒスチジンを入れるとCoにも配位して溶けるため、同氏はアミノ基以外の官能基を持つ含窒素芳香族化合物へ切り替えました。pH12.0の水溶液での測定値は、化合物AがCu 0.45/Co 0.22Å/min・Cu-BTA除去率29%・Cu粒子のゼータ電位−76mV、化合物BがCu 1.55/Co 0.12Å/min・除去率40%・−71mV、L-ヒスチジンがCu 0.70/Co 1.20Å/min・除去率25%・−73mVでした。関東化学の測定値です。
腐食の抑え方も取引です。同氏は、Cuに対してのみ錯化する添加剤でCuの開放回路電位を卑側へ寄せ、CoのOCPをCuより貴にすることでCoのガルバニック腐食を抑えたとしています。代わりにCuの溶解が進みますが、実プロセスではCoに対してCuの露出面積が圧倒的に大きく酸化反応が平均化されるため、膜減り量は小さくとどまるという筋です。Cu-CMPの防食剤がプレストン式の側で平坦性へ働いた分は、そのまま洗浄側の負荷として跳ね返ります。
工程ごとに落とす相手が入れ替わります
Section titled “工程ごとに落とす相手が入れ替わります”今井氏は、絶縁膜-CMP(STI、ILD)、W-CMP、Cu-CMPのそれぞれで、除去すべき対象物質の性質を念頭に置き、薬液の化学作用とブラシや液流の物理作用のメカニズムを考慮してレシピを作る必要があるとしています。FEOL側の薬液は、電子工業用グレードのアンモニア水と過酸化水素水を水で割ったSC-1、希釈アンモニア水、希フッ酸(DHF)が中心です。
薬液メーカーの製品構成もこの区分に沿います。関東化学の製品ページは、Cu-CMPとW-CMP向けの酸性標準品、Cu-CMPとCo-CMP向けでTa・Ti・Coに対応するアルカリ性系列、絶縁膜-CMP向けでCeO₂スラリー除去性を高めた酸性系列を並べ、SiC-CMPには酸化マンガンスラリー用の酸性品を当てています。三菱ケミカルのページは、Cu/Low-k膜のCMP後に要る機能を、パーティクル除去、有機残渣除去、メタル除去、Cu腐食低減、副反応抑制、基板親水化の6つとして掲げています。富士フイルムのページは、プラテン上でのバフ洗浄液とpCMP洗浄液を兼ねる2-in-1製品を並べ、Cu向けにアルカリ性、W向けに中性、W・Mo・絶縁膜向けに酸性と中性のプラットフォームを用意しています。いずれも各社の自社製品についての記述です。
何を測って動かすか
Section titled “何を測って動かすか”関東化学の製品ページは、CMPスラリーで強制汚染したウェーハ表面の洗浄状態を100nmより大きいパーティクルサイズで載せ、SiNベタ膜とCuベタ膜のCMP後洗浄後のディフェクトマップを並べています。現場で回すのはこのマップです。今井氏は、洗浄装置の環境と消耗材と薬液と純水が管理されていてもディフェクトが出る場合があるとしたうえで、洗浄技術者がよく経験する表面状態として、洗浄・リンス中の逆汚染や再付着、表層の膜に異物が取り込まれる形、取り込まれていた異物が脱離して穴が空く形、前段のドライエッチング残渣や残留ガスが配線へダメージを与える形を挙げ、前後の工程の条件まで併せて追う必要があるとしています。欠陥検査で拾った点をこの4つのどれに当てるかで、手を入れる工程が変わります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”CMP後洗浄とは何ですか?
CMPで研磨した直後のウェーハから、砥粒と研磨屑と金属不純物と有機残渣を落として、次工程が受け取れる表面へ渡す工程です。現在はCMP装置に付帯した洗浄チャンバーで洗います。
なぜCMPの後だけ専用の洗浄が要るのですか?
汚れの種類と量が他工程と桁違いだからです。荏原製作所の今井正芳氏による関東化学の技術誌への解説は、CMP後の表面には砥粒に加えて研磨屑や有機残渣が乗り、他の工程を大きく上回る種類の異物が付着しているとしています。有機残渣は、スラリー中のCu防食剤とCuが研磨中の圧力と熱で反応した生成物に由来します。
洗浄より前に乾いてしまうと何が起きますか?
残ったスラリーが固着して、除去が大変困難になります。今井氏は、この固着を避けるため、第一世代のCMPではCMP室からクリーンルームの洗浄装置までウェーハ全体を濡れた状態に保ち、通路にシャワーを設けて特殊な容器で搬送していたと書いています。現在主流の第二世代は、洗浄装置と一体化したDry-in / Dry-out方式で搬送時間そのものを短くしています。
ブラシ洗浄とメガソニック洗浄はどう使い分けますか?
ロールブラシとペンシルブラシが仕上げを担い、メガソニックは前段の粗洗浄です。今井氏は、超音波洗浄が主に研磨後のスラリーによるブラシ側の汚染を下げる粗洗浄として使われることが多いとしたうえで、出力パワーと周波数帯の取り方によってはCMP後のウェーハ表面へダメージが出る場合があるとしています。ロールは一度付いた粒子が再付着することがあるため、一般にペンシルを後段へ回して仕上げにします。
洗浄時間はどのくらいですか?
関東化学の大和田拓央氏による同誌の解説は、CMP装置に組み込まれたブラシスクラブ洗浄チャンバーでの洗浄時間を1チャンバーあたり30秒前後とし、量産ラインでは複数のチャンバーを備えたCMP装置を使うとしています。同氏が自社製品CMP-B216の洗浄性を測った条件はブラシスクラブ60秒です。
純水リンスで欠陥が増えるのはなぜですか?
薬液が担っていた静電的な斥力が、純水へ置き換わると弱まるためです。今井氏は、薬液中では付きにくいパーティクルが、その後の純水リンス中ではゼータ電位の相対的な電位が変わって付きにくさが薄れるため、純水の流速を速める必要があるとしています。剥がす仕事と再付着を抑える仕事は、別のつまみで動かします。
Cu-CMP後洗浄液のpHはなぜアルカリ性なのですか?
有機残渣が落ちる側とCuが荒れる側の両方がアルカリ側で改善するためです。大和田氏は、pH9.0以上ではpHの上昇に伴ってCuのエッチングレートが下がり、Cu-BTA錯体の除去性が上がったとしたうえで、強アルカリ性領域ではCuOの溶解とlow-k膜の加水分解が懸念されるため最適pHを11.0〜12.0と判断したとしています。関東化学の測定と判断です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- プレストン式とは ── 研磨側の除去レートを圧力と速度で表す式で、洗浄側の負荷はこの式の外側にあります
- メガソニック洗浄とは ── 仕上げはブラシで、メガソニックはブラシ汚染を下げる粗洗浄として前段に入ります
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- 関東化学「THE CHEMICAL TIMES」荏原製作所 今井正芳「半導体製造CMP工程後の洗浄技術」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── CMP後の汚れの種類、乾燥による固着とDry-in / Dry-out方式、ロールブラシとペンシルブラシとメガソニックと2FJ、純水リンスでの斥力低下と流速、IPA置換、洗浄技術者が経験する表面状態の分類
- 関東化学「THE CHEMICAL TIMES」関東化学 大和田拓央「有機残渣除去性を改善した新規なアルカリ性Cu-CMP後洗浄液」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 汚染物の内訳、ブラシスクラブ30秒前後と60秒の測定条件、Cu-BTA錯体の安定pH域、pH9.0以上での除去性向上、最適pH11.0〜12.0、CMP-B216のpH11.4と100倍希釈、Coのエッチングレート1Å/min以下の要求、化合物AとBとL-ヒスチジンの測定値、ガルバニック腐食とOCP制御
- 関東化学 製品情報「洗浄液 CMPシリーズ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 工程別の製品系列と液性、100nmより大きいパーティクルサイズでの洗浄状態、SiNベタ膜とCuベタ膜のディフェクトマップ
- 三菱ケミカル 製品情報「CMP後洗浄剤」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── Cu/Low-k膜のCMP後洗浄に要る6つの機能
- 富士フイルム「ポストCMPクリーナー」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── プラテン上でのバフ洗浄液とpCMP洗浄液を兼ねる2-in-1製品、ハイブリッドボンディング向け品でのCuロス最小化
- 花王ケミカル「半導体用薬剤」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── シリコンウェーハ研磨工程での300mm1枚当たり7兆個というシリカ粒子の推定、CMP後洗浄向け薬剤の提案