ダイナミックレンジとは
ダイナミックレンジとは、一度に扱える信号の、いちばん大きいところからいちばん小さいところまでの幅です。 カメラで言えば、白飛びしない明るさと、黒つぶれしない暗さに挟まれた範囲にあたります。
ソニーセミコンダクタソリューションズは技術情報で、日中の太陽から夜の星明かりまで、身のまわりの明るさには非常に大きな幅があると述べています。以下は同社の説明に沿います。イメージセンサーが一度に受け止められる範囲はそれより狭いため、人の眼と同じようには写せません。明るい側へ合わせれば暗い部分が黒く沈み、暗い側へ合わせれば明るい部分が白く飛びます。
つまり幅には上端と下端があります。上端は、画素がそれ以上の光を受けても値が増えなくなる飽和の限界です。下端は、信号がノイズに埋もれて区別できなくなる限界です。この2つに挟まれた範囲がダイナミックレンジで、範囲の外にある明るさは白飛びか黒つぶれのどちらかになります。
上端は、画素にためられる電子の数で決まります
Section titled “上端は、画素にためられる電子の数で決まります”上端を押し上げるとは、画素がためられる電荷を増やすことです。ソニーセミコンダクタソリューションズは、1つの画素が蓄積できる電子の最大値を飽和信号量と呼び、限られた面積の中でこの値をどこまで伸ばせるかが、幅の広い高画質な撮影を実現するうえで重要だとしています。
同社は2021年12月、フォトダイオードと画素トランジスタを別々の基板に形成して積層する2層トランジスタ画素積層型の技術を発表し、従来型の裏面照射型と比べて約2倍の飽和信号量を確保したと述べています。この比較は1マイクロメートル角に換算した場合の同社製品どうしの値です。それぞれの層を最適な構造にできるようになったことが、この差につながっています。
別の手もあります。同社が2026年6月に発表したモバイル用イメージセンサーは、フォトダイオードから溢れた電荷をためておける横型オーバフロー蓄積容量(LOFIC)という構造を採り入れ、飽和電荷量を広げました。あふれた分を捨てずに受け止める入れ物を画素に足す形です。
下端は、ノイズをどこまで抑えられるかで決まります
Section titled “下端は、ノイズをどこまで抑えられるかで決まります”下端の方は、暗いところの信号がノイズに埋もれてしまう境目です。2層トランジスタ画素の発表では、転送ゲート以外の画素トランジスタをフォトダイオードのない層へ移したことでアンプトランジスタを大きくでき、夜景などの暗所撮影で出やすいノイズを大幅に低減したとされています。上端と下端が同じ技術で同時に動く例です。
先ほどのモバイル用イメージセンサーでは、電荷から電圧への変換効率を高めるUHCGという回路技術により、ランダムノイズの発生を従来品と比べて約30パーセント減らしたと発表されています。これは同社の同型サイズの製品どうしの比較です。上端を押し上げる工夫と、下端を押し下げる工夫が、1つの製品の中で組み合わされています。
画素を小さくすると、幅は自然に狭くなります
Section titled “画素を小さくすると、幅は自然に狭くなります”幅を広げる努力が続く背景には、画素を小さくする流れがあります。電子情報通信学会の公開知識ベースは、画素サイズが小さくなると1画素当たりの入射光量が減るため、微細化が進むほど感度やダイナミックレンジが低下するという課題を挙げています。
同じことは製品の側からも語られています。ソニーセミコンダクタソリューションズは、小型化が求められるスマートフォン用のイメージセンサーでは受光する力が落ち、写せる明るさの範囲がいっそう狭まると説明しています。逆光の場面をスマートフォンで撮ると肉眼の見え方と違う結果になることがあるのは、この狭さによります。画素を増やして解像度を上げるほど、1画素あたりの幅は苦しくなるという関係です。
合成で広げる道もあります
Section titled “合成で広げる道もあります”画素そのものを変えずに幅を広げる道が、明るさの異なる画像を合成するHDRです。ソニーセミコンダクタソリューションズは、露光時間や増幅の度合いを変えて明暗の違う画像信号を何枚か撮り、それらを1つのデータへまとめることで、幅の広い信号を作り出すと説明しています。そのうえで画面の明るさの分布をもとに調整をかけ、人間が見たイメージに近い画像を得ます。
同社のモバイル向けのHF-HDRは、この考え方をさらに組み合わせた例です。長時間露光のフレームを、変換効率の高い読み出しと低い読み出しで合成し、その結果と非常に短い露光のフレームを後段の処理で重ねます。非常に短い露光のフレームが高輝度の領域を受け持つため、幅を明るい側へ広げられるとされています。
車載向けでは、時間をずらさない合成が選ばれています。同社は、性質のそろわない2種類の画素が出す信号を足し合わせる方式について、その2つが同じタイミングで撮像するため、合成するときに時間的なずれが生じず、物体検知や認識に適した信号が得られるとしています。逆光やトンネルの出入り口のような場面で、白飛びと黒つぶれの両方を減らす狙いです。
合成には代償があります
Section titled “合成には代償があります”合成の代償は、時間のずれです。ソニーセミコンダクタソリューションズは、HDRを得るには露光時間を変えて撮った何枚かの画像を重ねる多重露光方式が一般に要るとし、特に動くものを撮ったときにAIの誤認識を招くアーティファクトが出る課題があると述べています。
同社のセキュリティカメラ向けイメージセンサーIMX585では、この課題への答えとして単露光方式で88dBのダイナミックレンジが示され、同じ製品の多重露光方式では106dBという値が併記されています。どちらも同製品の公表値です。単露光は動く被写体に強く、多重露光は幅が広いという、正反対の長所が並んでいます。使用環境に応じて使い分けられる点が特徴として挙げられています。
2026年6月に発表されたモバイル用イメージセンサーは、露光1回ぶんの電荷を3通りの変換効率で読み出すTCG-HDRという技術により、単一の露光で100dBを達成したとされています。複数回の露光を行わないため、動く被写体のブレや照明のちらつきも抑えられると説明されています。合成の枚数を減らしながら幅を保つ方向へ、設計が進んでいることが読み取れます。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ダイナミックレンジとは何ですか?
一度に扱える信号の、いちばん大きいところからいちばん小さいところまでの幅です。カメラで言えば、白飛びしない明るさと、黒つぶれしない暗さに挟まれた範囲にあたります。ソニーセミコンダクタソリューションズは、日中の太陽から夜の星明かりまで、身のまわりの明るさには非常に大きな幅があると説明しています。
単位のdBは何を表していますか?
幅の広さを示す目盛りです。同社の商品化発表では、単露光方式で88dB、多重露光方式で106dB、別の製品では単一露光で100dBという値が使われています。数字が大きいほど、一度に扱える明暗の幅が広いことを表します。
白飛びと黒つぶれは何が違いますか?
はみ出す向きが違います。明るい側がセンサーの上限を超えると白飛びになり、暗い側が下限に埋もれると黒つぶれになります。ソニーセミコンダクタソリューションズは、明るい側へ露出を合わせれば暗い部分が沈み、暗い側へ合わせれば明るい部分が飛んでしまうと説明しています。
なぜスマートフォンのカメラは幅が狭いのですか?
センサーを小さくする必要があるためです。同社は、小型化が求められるスマートフォン用のイメージセンサーでは受光する力が落ち、写せる明るさの範囲がいっそう狭まるとしています。逆光の場面で肉眼の見え方と違う写真になるのは、この狭さが理由です。
HDRはどうやって幅を広げているのですか?
明るさの異なる画像を作って合成します。同社の説明では、露光時間や増幅の度合いを変えて明暗の違う画像信号を何枚か撮り、それらを1つのデータへまとめることで、幅の広い信号を作り出します。
単露光と多重露光はどちらが良いのですか?
撮る対象で変わります。ソニーセミコンダクタソリューションズは、多重露光方式では動くものを撮ったときにAIの誤認識を招くアーティファクトが出る課題があるとし、単露光方式のIMX585で88dB、多重露光方式で106dBという2つの値を挙げています。動くものを撮るなら単露光、幅を優先するなら多重露光という選び方になります。
画素を小さくすると何が起きますか?
幅が狭くなります。電子情報通信学会の公開知識ベースは、画素サイズが小さくなると1画素当たりの入射光量が減るため、微細化が進むほど感度やダイナミックレンジが低下する課題があるとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 帯域幅とは ── ダイナミックレンジが信号の大きさの幅を測るのに対し、帯域幅は周波数の幅を測ります
- ADC(A/Dコンバータ)とは ── 分解能は決まった範囲を何段に刻むかを表し、ダイナミックレンジはその範囲の広さそのものを表します
この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- ソニーセミコンダクタソリューションズ「モバイル用ハイダイナミックレンジ(HDR)技術」技術情報(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 明るさの幅という言葉の意味、白飛びと黒つぶれ、小型センサーで範囲が狭まること、明るさの異なる画像を合成する手順
- ソニーセミコンダクタソリューションズ「車載用ハイダイナミックレンジ(HDR)技術」技術情報(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 特性の異なる2種類の画素を同じタイミングで撮像し、時間的ずれなく合成する方式
- ソニーセミコンダクタソリューションズ「Hybrid Frame-HDR(HF-HDR)」技術情報(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 変換効率の異なる読み出しと短い露光のフレームを重ね、幅を明るい側へ広げること
- ソニーセミコンダクタソリューションズ「100dBのダイナミックレンジと低消費電力を両立するLOFIC搭載のモバイル用CMOSイメージセンサーを商品化」お知らせ(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 横型オーバフロー蓄積容量による飽和電荷量の拡大、TCG-HDRによる単一露光100dB、UHCG回路でランダムノイズ約30パーセント低減
- ソニーセミコンダクタソリューションズ「単露光方式で従来比約8倍のダイナミックレンジ セキュリティカメラ向け1/1.2型4K解像度CMOSイメージセンサーを商品化」ニュースリリース(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 単露光88dBと多重露光106dBという同一製品の値、多重露光で動体にアーティファクトが生じる課題
- ソニーセミコンダクタソリューションズ「世界初 2層トランジスタ画素積層型CMOSイメージセンサー技術を開発」ニュースリリース(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 飽和信号量が1画素の蓄積できる電子の最大値であること、従来比約2倍の飽和信号量、暗所ノイズの低減
- 電子情報通信学会『知識の森』「8群4編1章 垂直色分離型センサ」公開PDF(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 画素の微細化が進むほど感度やダイナミックレンジが低下するという課題