酸素析出物(BMD)とは
酸素析出物(BMD)とは、シリコンウェーハの中に溶け込んでいた酸素が、デバイス工程の熱処理で固まってできた微小な析出物です。 同じ析出物が、ウェーハのどの深さにあるかで役割を入れ替えます。
SUMCOの栗田一成が応用物理学会の学会誌『応用物理』第84巻第7号(2015年)に書いた解説には、用語解説が付いています。そこではBMDをBulk Micro Defectの略とし、CZ法で育てたウェーハには溶けきれる量を超えた酸素が不純物として残っており、デバイス工程の熱処理を受けた分だけ酸素が固まってBMDになると記しています。同じ用語解説は、そうしてできたBMDが、デバイス工程で入った重金属の受け皿になるとしています。
酸素の出どころは、結晶を育てるるつぼです。SUMCOはシリコンウェーハの製造方法のページで、高純度の多結晶シリコンを石英ルツボへ入れて約1420℃で融解させると述べています。同じページは、石英ルツボを使わずに育てる方式としてFZ法を挙げ、こちらは低酸素濃度の単結晶インゴットを成長させると記しています。つまりチョクラルスキー法(CZ法)を選んだ時点で、酸素はシリコンウェハへ入っています。
豊田中央研究所の中嶋健次らが日本金属学会の学会誌『まてりあ』第44巻第1号(2005年)に書いた報告は、この酸素の二面性を短く記しています。同報告によれば、析出物が素子を作る領域に居座った場合は素子の特性と信頼性を落とし、ウェーハの奥に居る場合は工程で紛れ込んだ重金属をつかまえる側へまわります。同じ相手が、深さによって不良の原因にも守り手にもなります。
現場では、重金属の行き先が問題になります
Section titled “現場では、重金属の行き先が問題になります”栗田の解説は、デバイス工程で入った重金属が素子の電気特性を強く左右するとし、その行き先としてpn接合の漏れ電流、再結合ライフタイム、ゲート酸化膜の耐圧の三つを挙げています。同じ解説は、300mmのULSI製造ラインでも活性層への重金属汚染の懸念が続くとしています。
同じ解説は、ゲッタリングを三つの段取りとして示しています。第一に、表面の近くから重金属をはがして動ける状態にします。第二に、はがした重金属を捕獲層まで運びます。第三に、捕獲層でつかまえます。捕獲層の作り方は二つあり、同じ解説の用語解説がそれぞれを記しています。イントリンシックゲッタリング法は、ウェーハへ元から溶けている酸素を元手にし、デバイス工程の熱で析出の核を生じさせ、結晶の内部へ酸素析出物を育てる方法です。エクストリンシックゲッタリング法は、ウェーハ裏面へSiO2砥粒などのサンドブラストを照射するか、裏面へポリバック膜を付けて捕獲層を作る方法です。BMDそのものを元手にするのが前者です。
BMDが乏しいと、工程で入った金属汚染の行き先がデバイス層のままになります。SUMCOは製品一覧で、ウェーハ中の電気特性を劣化させる重金属不純物を捕獲するゲッタリング能力を付加したポリッシュト・ウェーハも製造していると記しています。ウェーハを買う側は、この能力を込みで買っています。
表層に残ると、耐圧の不良率が上がります
Section titled “表層に残ると、耐圧の不良率が上がります”中嶋らの報告は、ウェーハ表面近傍に残留する酸素析出物がデバイスの特性へ悪影響を及ぼすと述べ、デバイス作製プロセス実施後のウェーハで表面無欠陥層の幅を二通りの方法で測っています。薬液エッチングでは、表面に幅約20マイクロメートルの無欠陥層が明確に観測されました。ところが同じウェーハを異方性ドライエッチングで深さ6マイクロメートルまで削ると、そこに酸素析出物が観測されました。薬液エッチングの検出下限を下回る微小な酸素析出物が、表面近傍に残っていたわけです。
さらに同報告は、表層に居残った析出物の密度と、MOSキャパシタで測ったゲート酸化膜の耐圧不良率とを突き合わせ、両者に相関を得ています。これは、薬液エッチングでは全ての試料に幅10〜20マイクロメートルの明確な無欠陥層が観測された条件での結果です。無欠陥層が広く観測されたウェーハでも、ゲート酸化膜の耐圧は落ちていました。検出下限を下回った析出物は数のうえで消えますが、耐圧へは響きます。
増えすぎた酸素析出物は、別の欠陥の種にもなります。1997年の『応用物理』第66巻第7号に載った用語解説は、OSFリングを、高い温度で酸化したときに成長軸のまわりへ輪の形に積層欠陥が並ぶ、CZ結晶だけに出る領域だとしています。同じ用語解説によれば、この輪の中では酸化の最中に析出物が高い密度で立ち、その一つ一つが積層欠陥の核になります。
何を測るのか
Section titled “何を測るのか”中嶋らは、酸素析出物の検出に薬液エッチングや光散乱法が広く使われており、その検出下限が数十ナノメートル程度だと記しています。TEMは極微小な析出物を撮れますが、観察範囲が限られるため、低密度の析出物の分布を測ることが難しくなります。
同じ報告が示す手法は、シリコンウェーハを反応性イオンエッチングで削り、SiO2に対する選択比の大きい条件を採ることで、SiOx(xは2未満)を成分とする酸素析出物を頂点としたシリコンの円錐として検出する方法です。円錐の数の面内分布と高さの分布から、酸素析出物の密度の面内分布と深さ方向分布が出ます。円錐の先端を拡大観察すると、板状か八面体かという区別も測れます。同社の条件では、約25マイクロメートルの深さまでナノメートルサイズの酸素析出物を検出し、二つのエッチング条件でそれぞれ8ナノメートルと4ナノメートルまで届き、従来法に比べ約1桁の高感度化を得ました。深さ方向分解能は±0.3マイクロメートル程度です。
BMDを保つために払うもの
Section titled “BMDを保つために払うもの”栗田の解説は、近年の二つの流れがイントリンシックゲッタリング法とエクストリンシックゲッタリング法の力を削っていると述べています。一つは前工程です。熱処理の低温化と短時間化が進んだため、ウェーハ内部で形成される酸素析出物の成長が抑制されます。もう一つは後工程です。デバイスを実装する際のシリコンウェーハの薄厚化が進むと、ゲッタリング層が減ります。この二つが重なった結果、従来の二つの方法による捕獲が手薄になる場面が出てきた、というのが同解説の見立てです。熱バジェットを削る動きとウェハ薄化の動きは、BMDの側では引き算になります。
打ち手として、同じ解説は二つを紹介しています。一つは炭素添加です。同社はCZ単結晶を育てる段階であらかじめ炭素を混ぜたn型シリコンウェーハを作り、通常のウェーハに比べ、デバイス工程の熱処理で酸素が析出しやすくなると述べています。用途は、一眼レフカメラの撮像素子(CCD/CMOSセンサ)向けのシリコンウェーハが主でした。もう一つは炭素クラスタイオン照射です。分子イオンを低いエネルギーで加速してウェーハ表面の近くへ濃い炭素の層を打ち込み、そのうえでエピタキシャル成長を行う方法で、成長させた層のすぐ下が捕獲層になります。照射エネルギーが低いため、回復熱処理を省いたままエピタキシャル成長へ進めます。同社の測定では、クラスタサイズC3H5・ドーズ量1E15cm⁻²という条件で、表面へ塗布したFe・Cu・Niがエピタキシャル層の直下の炭素の注入飛程レンジへ捕まりました。
表層側の手当ても要ります。SUMCOは製品一覧で、ポリッシュト・ウェーハを水素またはアルゴンの雰囲気で高温熱処理し、ウェーハ表面近くの酸素を除いて表層の結晶完全性を高めたものをアニール・ウェーハとして挙げています。信越化学工業もシリコンウエハーの製品ページで、アニールウエハーをシリーズ名称に含めています。表層の酸素を抜く操作と、内部で析出物を育てる操作は向きが逆です。両方を同じウェーハで成り立たせるところに、酸素濃度と熱処理の条件を刻む理由があります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”酸素析出物(BMD)とは何ですか?
シリコンウェーハの中に溶け込んでいた酸素が、デバイス工程の熱処理で固まってできた微小な析出物です。SUMCOの栗田一成による2015年の解説の用語解説は、BMDをBulk Micro Defectの略とし、CZ法で育てたウェーハには溶けきれる量を超えた酸素が残っており、デバイス工程の熱処理を受けた分だけ酸素が固まってBMDになると記しています。
酸素はどこから入りますか?
結晶を育てるるつぼからです。SUMCOはシリコンウェーハの製造方法のページで、多結晶シリコンを石英ルツボへ入れて約1420℃で融解させると述べ、石英ルツボを使わずに育てる方式としてFZ法を挙げ、こちらは低酸素濃度の単結晶インゴットを成長させると記しています。
なぜウェーハの中に欠陥を作るのですか?
重金属を捕まえるためです。栗田の解説は、デバイス工程の熱処理を経たBMDが、工程で入った重金属の受け皿になると記しています。重金属が素子の層に居残ったままになると、pn接合の漏れ電流、再結合ライフタイム、ゲート酸化膜の耐圧が劣化します。
表面の近くにあると何が困りますか?
酸化膜の耐圧が落ちます。豊田中央研究所の中嶋健次らによる2005年の報告は、表層に居残った析出物の密度と、MOSキャパシタで測ったゲート酸化膜の耐圧不良率とのあいだに相関を得ています。薬液エッチングで幅10〜20マイクロメートルの無欠陥層が観測された試料での結果です。
どうやって測りますか?
薬液エッチングと光散乱法が広く使われており、中嶋らはその検出下限を数十ナノメートル程度と記しています。同報告の手法は、反応性イオンエッチングで削ってシリコンの円錐として析出物を検出する方法で、同社の条件では約25マイクロメートルの深さまで、8ナノメートルと4ナノメートルの析出物まで届きました。
イントリンシックゲッタリングとエクストリンシックゲッタリングはどこが違いますか?
捕獲層の作り方です。栗田の解説の用語解説は、前者をCZウェーハに固溶している酸素からバルク結晶内に酸素析出物を作る方法とし、後者をウェーハ裏面へSiO2砥粒などのサンドブラストを照射するか裏面へポリバック膜を付けてゲッタリングシンクを作る方法としています。BMDそのものを使うのは前者です。
最近、従来のやり方が届きにくくなった理由は何ですか?
前工程と後工程の両方から力が削られたためです。栗田の解説は、熱処理の低温化と短時間化によってウェーハ内部の酸素析出物の成長が抑えられること、およびウェーハの薄厚化によってゲッタリング層が減ることを挙げ、従来の二つの方法による捕獲が手薄になる場面が出てきたとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 結晶欠陥(COP)とは ── 表面まで達すると酸化膜の耐圧を落とす空洞、BMDは内部にあると守り手になる析出物です
- 金属汚染とは ── BMDが捕まえる相手そのものです
- 熱処理(半導体製造)とは ── BMDを育てるのも、抑えるのも、この温度と時間です
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- 応用物理学会『応用物理』第84巻第7号「シリコンウェーハのゲッタリング技術の進展」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── BMDの用語解説、ゲッタリングの三つの段取り、イントリンシックゲッタリング法とエクストリンシックゲッタリング法、熱処理の低温短時間化とウェーハ薄厚化の影響、炭素添加と炭素クラスタイオン照射
- 日本金属学会『まてりあ』第44巻第1号「異方性ドライエッチングを利用したシリコン中酸素析出物検出技術の開発」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 酸素析出物の二面性、従来法の検出下限、反応性イオンエッチングによる検出原理と感度、表面無欠陥層の測定結果と耐圧不良率との相関
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