チョクラルスキー法(CZ法)とは
CZ法(チョクラルスキー法)とは、溶かしたシリコンの表面へ種結晶を触れさせ、回転させながらゆっくり引き上げて単結晶を育てる方法です。 現在のシリコンウェハの大半がこの方法で作られます。
ウェハには、全体が1つの結晶であることという要求条件が付きます。融けたシリコンをそのまま冷やして固めると、あちこちで独立に結晶が育ち、方位が互いにずれた多結晶になります。粒界は電子の動きを妨げ、欠陥の発生源にもなります。
CZ法は、育つ向きを1つに揃えます。向きの定まった小さな種結晶を融液の表面へ触れさせ、そこから成長させます。種結晶の向きが引き継がれるため、径いっぱいまで1つの結晶として育ちます。
引き上げながら育てるという操作が、形も定めます。速く引けば細く、ゆっくり引けば太くなります。融液の温度分布も断面の形へ影響するため、引き上げ速度と温度を同時に制御して狙う口径を得ます。回転させるのは、るつぼ内の温度と不純物の濃度を均一に保つためです。SUMCOは公式製品ページで、円柱状のインゴットをおよそ1mmの厚さへスライスしてウェーハにすると述べています。
炉の中の条件は、公式資料に具体的な数字が載っています。SUMCOは公式の製造方法紹介で、金属不純物の濃度がppb以下(1ppb=10億分の1)まで高純度化された多結晶シリコンを、ホウ酸(B)やリン(P)とともに石英ルツボへ入れて約1420℃で融解させると述べています。グローバルウェーハズ・ジャパンは公式の製造プロセス紹介で、不活性雰囲気の減圧下で黒鉛ヒーターにより加熱溶融したうえ、引上速度と炉内温度を制御して育成すると記しています。電子情報通信学会の知識ベース「シリコン結晶技術」は、種結晶を触れさせたあと直径を約3mm程度まで絞ると種結晶に入っていた転位が消滅するとし、この無転位化が1958年にDashによって発見され、現在の大口径・大重量の大量生産の土台になったと記しています。
るつぼが持ち込む酸素
Section titled “るつぼが持ち込む酸素”CZ法は石英のるつぼで融かします。石英は酸素を含むため、その一部が融液へ溶け出し、育つ結晶へ取り込まれます。この酸素は両面を持ちます。結晶中で欠陥を捕まえるゲッタリングの働きをする一方、多すぎれば電気特性へ影響するため、狙う濃度に収める制御が要ります。
配分の比率が、どの条件を動かせばよいかを教えます。知識ベースは、石英坩堝から融液へ溶出した酸素のうち約99%が融液表面からSiOとして蒸発し、残りの約1%が結晶へ取り込まれると記しています。結晶へ入るのは溶出量の1%ですから、蒸発側の条件をわずかに動かすだけで結晶中の濃度が大きく振れます。同じ資料はCZ結晶で最も多い不純物をおよそ10の18乗 atoms/cm³の桁の酸素とし、冷却とともに過飽和になって酸素析出物(SiO2)を形成するとしています。
酸素の両面性は、深さで分けると整合します。同じ知識ベースは、MOSメモリなどが表層サブミクロンの領域だけを使うため、その領域の酸素析出物は電気特性を劣化させる一方、内部の析出物は歪み場へ有害な金属不純物を固着させるので有益とし、酸素が転位の運動を防止する働きも挙げています。グローバルウェーハズ・ジャパンは公式の製品一覧で、表層(表面から数μm〜数10μm)の酸素濃度を熱処理技術で、内部(バルク)を結晶成長技術で制御し、表層の酸素濃度を高くするとウェーハの強度が向上すると述べています。深さ方向のどこへ析出物を配置するかが、酸素析出物(BMD)を使いこなす条件です。
蒸発したSiOの行き先も、転位の発生源になります。知識ベースは、炉の低温部へ析出したSiOが融液へ落下して成長界面へ付着すると転位の発生源として働くため、Arガスによる排出構造になっていると記しています。排出能力を上げるためにパージチューブが考案され、大口径化とともに液面直上まで長くなり、その後は輻射をさえぎる漏斗状の遮へい体が加わったという経緯も示されています。石英部材とガス流の設計が、結晶の質へ跳ね返ります。
育成速度と点欠陥の型
Section titled “育成速度と点欠陥の型”育成速度は、生産量のつまみである前に欠陥の型のつまみです。知識ベースは、点欠陥として格子間原子と原子空孔の2種類を考える必要があるとし、点欠陥の移動速度より育成速度が速い場合は熱平衡濃度から離れたまま結晶内部が過飽和となり、ある過飽和度で凝集して2次欠陥を作ると述べています。そして高速育成側では空孔型欠陥、低速育成側では格子間型欠陥が支配的になるとしています。
速度の絶対値のみで判断を下すのは難しく、ここが現場の勘所になります。同じ資料は、点欠陥の熱平衡濃度が温度に依存するため、温度分布の異なる引上炉を比べるには「育成速度/温度勾配」という規格化因子が必要とします。炉を替えて同じ速度でも欠陥の型が移るのは、分母の温度勾配が異なるためです。
空孔型欠陥の下流での姿が、COPです。JEITA半導体部会は公式の技術トピックスで、COP(Crystal Originated Particle)を単結晶の格子点にシリコン原子が欠けた空孔の集まった微細な欠陥と定め、ゲート酸化膜の耐圧へ悪影響を及ぼすとしています。同じ資料は、表面に露出したCOPを消滅させる手段として水素雰囲気下の高温アニールを挙げ、育成段階でCOPサイズを小さくして消滅させやすくする組み合わせの実用化も述べています。育成速度で作り込んだ空孔が、ゲート酸化膜の耐圧まで届きます。
磁場をかけるMCZ法
Section titled “磁場をかけるMCZ法”口径を上げると、対流そのものが敵になります。知識ベースは、結晶径の増加とともに融液量が増えて熱対流による温度変動が増大するため、その制御手段として磁場中での結晶育成(MCZ)が始まったとし、磁場による融液流れ制御が温度変動と同時に石英坩堝からの酸素の溶出・輸送・蒸発の制御にもなること、450mmφでは磁場中育成技術の最適化が要点になることを述べています。SUMCOも、CZ法に強力な磁場をかけるMCZ法(Magnetic field applied Czochralski法)を用いる場合があると記しています。
磁場を作る側の設備規模も公開されています。住友重機械工業は公式のMCZ用超電導マグネット紹介で、4個の超電導コイルで融液へ水平磁場を印加する水平磁場型を、中心磁場0.4 Tesla、室温ボア径1,600mm、外径2,400mm、高さ1,380mm、質量12ton、冷凍機4台としています。上下1対の2個のコイルでカスプ磁場を印加する型は、中心磁場が半径400mmの位置で0.12 Tesla、外径2,340mm、質量6ton、冷凍機3台です。どちらも液体ヘリウムを省き、自社製冷凍機のみで冷却する構成です。酸素濃度と温度変動を買うために、12tonのマグネットと4台の冷凍機を炉のまわりへ据える取引です。
FZ法を選ぶ条件
Section titled “FZ法を選ぶ条件”酸素を避けたい用途では、るつぼを省くフローティングゾーン法が選ばれます。高い抵抗率を要するパワー半導体などが該当します。SUMCOも、石英ルツボを省くことで低酸素濃度の単結晶インゴットを成長させるFZ法を、顧客の要望に応じて使う場合があると述べています。支え方の違いが、そのまま上限を作ります。知識ベースは、FZ法がCZ法と上下逆で単結晶の上に融液が乗る構成で、融液が表面張力と電磁場の拘束力で保持されるため、多結晶の溶融量が多すぎるとこぼれ落ちて有転位化すると記しています。同じ資料はFZ結晶の製造可能な直径を200mm以下としています。
面内分布の弱点も具体的です。同じ資料は、成長界面の不純物制御が不十分で高周波加熱の温度分布が回転軸対称になりにくいことから、FZ結晶の抵抗率面内分布を±10%としています。半導体素子で通常求められる面内分布は5%以下ですから倍以上の開きがあり、その対策として中性子照射で質量数31のリンを均一に生成するNTD法が開発されました。詳細はFZ法(浮遊帯域溶融)のページで述べます。
現場のつまみと、その代償
Section titled “現場のつまみと、その代償”- 引き上げ速度:上げると炉の占有時間が縮んで生産量が伸びますが、点欠陥が過飽和になり空孔型が優勢になってCOPが増えます。下げると格子間型が支配的になり、炉の占有時間と電力が伸びます。どちらへ振るかは温度勾配で割った値で判断します。
- 磁場強度:強くすると熱対流が抑えられて温度変動が下がり、石英坩堝からの酸素の溶出と輸送も抑えられます。代わりに12tonのマグネットと4台の冷凍機を抱え、その電力と保守が固定費になります。弱くすれば設備は軽くなりますが、口径の大きい炉では温度変動と酸素濃度の振れが戻ってきます。
- 不活性ガスの流量:上げるとSiOの排出が進み、融液へ落下する凝集物が減ります。代わりにガス消費が増え、蒸発が進んで酸素濃度が下がる方向へ動くため、所定の濃度を別の条件で取り返す必要が出ます。下げるとガス費用は下がりますが、炉の低温部へ析出したSiOが成長界面へ届く確率が上がります。
- るつぼの選択:CZ法は大口径化しやすく酸素をゲッタリング源へ使えます。FZ法は高抵抗率の用途へ向きますが、直径200mm以下と面内分布±10%を引き受けます。
CZ法が差し出すのは石英坩堝から入る酸素と、それを制御する設備と時間です。得るのは、大口径・大重量まで伸ばせる育成と、内部の析出物を金属汚染の捕獲源へ使える設計自由度です。ここで定めた酸素濃度と欠陥の型は、アニールウェーハやエピタキシャルウェハの選択とキラー欠陥の出方まで持ち越されます。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- 単結晶育成・インゴットの工程ページ ── 工程分類と、この工程に接続している公開求人
- ウェーハ・基板(全体)の工程ページ ── ウェハ製造の全体
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”CZ法とは何ですか?
溶かしたシリコンの表面へ小さな種結晶を触れさせ、回転させながらゆっくり引き上げて大きな単結晶を育てる方法です。チョクラルスキー法、または引き上げ法と呼ばれます。
なぜ種結晶を使うのですか?
育てる結晶の向きを定めるためです。融液から自然に固まると、方位が互いにずれた多結晶になります。あらかじめ向きの定まった小さな結晶を触れさせておけば、その向きを引き継いで成長します。
口径はどうやって制御しますか?
引き上げる速度と融液の温度で定まります。速く引けば細く、ゆっくり引けば太くなります。温度の分布も断面の形へ影響するため、両方を同時に制御します。信越半導体は白河工場の公式製品案内で、温度や引き上げ速度を調整することで直径を制御すると述べています。
なぜ回転させるのですか?
融液の温度と組成を均一に保つためです。回転させなければ、るつぼ内で温度や不純物の濃度に偏りが生じ、育つ結晶の性質が場所ごとに変わります。
フローティングゾーン法との違いは何ですか?
るつぼを使うかどうかです。CZ法は石英のるつぼで融かすため、るつぼから酸素が結晶へ入ります。フローティングゾーン法はるつぼを省くので酸素が低く抑えられますが、大口径化が難しくなります。電子情報通信学会の知識ベースは、FZ結晶の製造可能な直径を200mm以下としています。
酸素が入るのは困りますか?
用途によります。酸素は結晶中で欠陥を捕まえるゲッタリングの働きを持つ一方、多すぎれば電気特性へ影響します。狙う濃度に収める制御が要ります。パワー半導体など高い抵抗率を要する用途では、酸素の低いFZ法が選ばれます。
結晶へ入る酸素はどれくらいですか?
電子情報通信学会の知識ベースは、石英坩堝から融液へ溶出した酸素のうち約99%が融液表面からSiOとして蒸発し、残りの約1%が結晶へ取り込まれると記しています。同じ資料は、CZ結晶で最も多い不純物がおよそ10の18乗 atoms/cm³の桁の酸素であるとしています。
MCZ法は何が違いますか?
融液へ磁場をかけて対流を抑える方式です。SUMCOは公式の製造方法紹介で、CZ法に強力な磁場をかけるMCZ法を用いる場合があると述べています。住友重機械工業は公式ページで、シリコン単結晶引き上げ装置向けの水平磁場型超電導マグネットの中心磁場を0.4 Tesla、室温ボア径を1,600mm、質量を12tonとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ウェーハと基板 ── 工程としてのウェーハ製造
この記事の事実は次の一次資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- SUMCO「Products」公式製品ページ(2026年8月22日にリンク生存を実測、200)── 厚さおよそ1mmへのスライスの根拠です。
- SUMCO「シリコンウェーハの製造方法」公式ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 金属不純物濃度ppb以下、石英ルツボで約1420℃、MCZ法とFZ法の根拠です。
- 電子情報通信学会「知識ベース 10群2編2章 シリコン結晶技術」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── 約3mmへの絞りと1958年Dashの無転位化、溶出酸素の約99%がSiOとして蒸発し約1%が結晶へ入ること、酸素の桁、高速側の空孔型と低速側の格子間型、育成速度/温度勾配、MCZと450mmφ、FZの200mm以下・面内分布±10%・要求5%以下の根拠です。
- 住友重機械工業「MCZ用超電導マグネット」公式ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 水平磁場型の0.4 Tesla・ボア径1,600mm・外径2,400mm・高さ1,380mm・12ton・冷凍機4台と、カスプ磁場型の0.12 Tesla・6ton・冷凍機3台の根拠です。
- グローバルウェーハズ・ジャパン「製造プロセス」公式ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 減圧下の黒鉛ヒーター加熱と引上速度・炉内温度の制御の根拠です。
- グローバルウェーハズ・ジャパン「製品一覧」公式ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 表層数μm〜数10μmを熱処理で、内部を結晶成長で制御することと、表層の酸素濃度と強度の関係の根拠です。
- 信越半導体 白河工場「製品案内」公式ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 温度と引き上げ速度による直径制御と、石英ルツボ由来の微量酸素の根拠です。
- JEITA半導体部会「大口径化の進むシリコンウェハ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── COPの正体とゲート酸化膜耐圧への悪影響、水素高温アニールによる消滅の根拠です。