結晶欠陥(COP)とは
結晶欠陥(COP)とは、シリコンの単結晶を育てるあいだに結晶の中へできた小さな空洞が、ウェーハの表面まで達してくぼみになったものです。 名前にパーティクルという語が入りますが、正体はウェーハ自身の一部です。
ウェーハの表面検査では、光を当てて散った光を数える装置が輝点を拾います。この輝点のうち、洗浄を重ねても数が横ばいのままの一群があります。応用物理学会の学会誌『応用物理』第66巻第7号(1997年)に載った用語解説は、COPをCrystal Originated Particleの略とし、CZウェーハをパーティクルカウンターで測ったときに輝点として観察される成長時導入欠陥の一種だとしています。同じ用語解説は、その正体を0.1マイクロメートル程度のピットとし、(100)面では正方形、(111)面では六角形のピットとして観察されると記しています。八面体の空洞がウェーハ表面まで達したものと考えられています。
生まれる場所は結晶育成の途中です。同じ号に載った大阪府立大学の井上直久による総論は、成長時導入欠陥を、融液と結晶の境目から取り込まれた点欠陥(原子空孔と格子間原子)や不純物の酸素が、固まったあとの冷却の途中で集まってできた二次的な欠陥だとしています。つまりチョクラルスキー法(CZ法)でインゴットを育てている最中に、すでに仕込まれています。シリコンウェハへスライスするより前の段階の話です。
だから洗浄で減るのは付着物のほうだけです。住友シチックスと住友金属工業の宝来正隆らは、SC-1洗浄を繰り返して表層のシリコンを約80ナノメートル削ったところ、埋まっていたCOPが凸状の姿で観察され、さらに洗浄を続けると通常のピットへ変化したと報告しています。洗うほど新しいCOPが表層へ顔を出します。パーティクルとの差はここに出ます。
現場では、ゲート酸化膜の耐圧が落ちます
Section titled “現場では、ゲート酸化膜の耐圧が落ちます”同じ第66巻第7号に載ったコマツ電子金属の米良朋洋らの報告は、酸化膜のTZDB測定でのBモード不良の原因をCOPとし、その道筋を断面TEMで追っています。熱処理前のCOPは、内壁に2〜10ナノメートルの酸化膜を持つ八面体でした。ゲート酸化をすると角が丸くなり、内壁の酸化膜はウェーハ表面の酸化膜より厚く育ちます。ところが凹んだ角の部分だけは薄いままです。同報告は、電圧をかけたときにこの一番薄い場所で絶縁破壊が起こると推測しています。同社が使ったウェーハでの測定では、酸化膜耐圧劣化の原因の80%程度をCOPが占めました。
つまりゲート酸化膜が薄くなるほど、直径0.1マイクロメートル程度の空洞が製品の合否へ響きます。井上の総論も、MOSトランジスタのゲート酸化膜の薄層化にともなって耐圧の低下が現実の問題になったと述べ、COPの寸法が微細加工の寸法と同じくらいになった点も挙げています。
測り方ごとに、別の名前が付きます
Section titled “測り方ごとに、別の名前が付きます”現場でCOPを追うときは、次の道具が使われます。
- SC-1洗浄のあと、パーティクルカウンターで輝点の数と面内分布を測ります。これがCOPです。
- 無攪拌でセコエッチングし、楔型のフローパターンの先端を数えます。これがFPDです。
- 赤外のレーザ光散乱トモグラフィで散乱体を数えます。これがLSTDです。
- 断面TEMで、八面体の空洞そのものを撮ります。
- 銅析出法では、絶縁膜の電流が漏れる箇所へ銅を析出させ、破壊点の座標をSEMで記録します。米良らは10V・10分の条件を採り、その座標をパーティクルの座標と重ね合わせました。
宝来らは、これらが同一の欠陥であり、内壁が4ナノメートル程度の酸化物で覆われた八面体の空洞だと推定しています。
数の減り方には落とし穴があります。宝来らは、1000℃以上の熱処理のあとに鏡面研磨とSC-1洗浄を施すと、COPの内壁に厚さ20〜40ナノメートルの酸化物が育ち、ピットとして数えられなくなると報告しています。ここでフッ酸により内壁の酸化物を除くと、COPは再びピットとして数えられ、その密度は育成直後の状態と一致しました。数が減った理由が欠陥の消滅か検出の取りこぼしかを取り違えると、欠陥検査の結論ごと誤ります。
COPを消すために払うもの
Section titled “COPを消すために払うもの”宝来らは、温度分布の異なる4つのホットゾーンで結晶を育て、引き上げ速度Vと融点直下の温度勾配Gの比V/Gが欠陥の種類を左右すると報告しています。同報告の実験では、結晶中心で約0.22(単位はmm²/℃・min)という臨界値よりV/Gが大きい場合、結晶の中央に原子空孔に由来するLSTD・FPD・COPが生じました。臨界値より小さい場合には、格子間シリコンに由来する転位クラスターが生じました。COPを減らす向きへV/Gを動かすと、行き過ぎた先で別の欠陥が待ちます。
ウェーハメーカーは、結晶の育て方のほかに表層を作り直す手も持ちます。SUMCOは製品一覧で、ポリッシュト・ウェーハを水素またはアルゴンの雰囲気で高温熱処理し、ウェーハ表面近くの酸素を除いて表層の結晶完全性を高めたものをアニール・ウェーハとして挙げています。同社は製造方法のページで、結晶の完全性を要する用途には表面へ単結晶シリコンの層を気相成長させたエピタキシャルウェハを挙げています。信越化学工業もシリコンウエハーの製品ページで、アニールウエハーとエピタキシャルウエハーをシリーズ名称に含めています。
どちらの手も工程が一つ増えます。熱処理炉やエピタキシャル炉の時間と、そのぶんの費用が加算されます。これがCOPを避けるために払う代金です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”結晶欠陥(COP)とは何ですか?
シリコンの単結晶を育てるあいだに結晶の中へできた小さな空洞が、ウェーハの表面まで達してくぼみになったものです。応用物理学会の学会誌に1997年に載った用語解説は、COPをCrystal Originated Particleの略とし、パーティクルカウンターで輝点として観察される0.1マイクロメートル程度のピットだとしています。
パーティクルとどこが違いますか?
出どころが逆です。パーティクルは外から付着した異物なので、洗浄で数が減ります。COPはウェーハ自身のくぼみなので、SC-1洗浄で表層が削れるほど、埋まっていた空洞が新しいくぼみとして表層へ顔を出します。
どの工程で生まれますか?
単結晶を育てる工程です。1997年の総論は、成長時導入欠陥を、融液と結晶の境目から取り込まれた原子空孔や格子間原子、不純物の酸素が、固まったあとの冷却の途中で集まってできた二次的な欠陥だとしています。
何が困りますか?
ゲート酸化膜の耐圧が落ちます。1997年のコマツ電子金属の報告は、ゲート酸化でCOPの内壁にも酸化膜が育つ一方、凹んだ角の部分だけ薄くなり、そこが絶縁破壊の起点になるとしています。同報告の測定では、耐圧劣化の原因の80%程度をCOPが占めました。
どうやって測りますか?
測り方ごとに名前が変わります。SC-1洗浄のあとパーティクルカウンターで数えるとCOP、無攪拌のセコエッチングで楔型模様の先端を数えるとFPD、赤外のレーザ光散乱トモグラフィで数えるとLSTDです。断面TEMでは八面体の空洞そのものが撮れます。
熱処理をすると消えますか?
数のうえで消えたように観察される場合があります。1997年の宝来らの報告は、1000℃以上の熱処理のあとに鏡面研磨とSC-1洗浄を施すと内壁に厚さ20〜40ナノメートルの酸化物が育ち、ピットとして数えられなくなると述べています。フッ酸で内壁の酸化物を除くと再びピットとして数えられ、その密度は育成直後の状態と一致しました。
減らすにはどうしますか?
結晶の育て方と、ウェーハ表層の作り直しの二つがあります。宝来らは、引き上げ速度Vと融点直下の温度勾配Gの比V/Gが欠陥の種類を左右し、結晶中心で約0.22という臨界値より大きいと原子空孔に由来するCOPが、小さいと格子間シリコンに由来する転位クラスターが生じると報告しています。SUMCOと信越化学工業は、表層を作り直したアニールウェーハやエピタキシャルウェーハを製品として挙げています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- パーティクルとは ── 外から付いた異物なので、洗浄で数が減ります
- 酸素析出物(BMD)とは ── 内部にあれば味方になる欠陥、COPは表面まで達すると困る欠陥です
- エピタキシャルウェハとは ── 表層を作り直して、この欠陥を避ける製品です
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- 応用物理学会『応用物理』第66巻第7号「シリコン結晶中の成長時導入欠陥について(総論)」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 成長時導入欠陥が点欠陥や不純物酸素の集合であること、ゲート酸化膜の薄層化と耐圧低下、COPの寸法が微細加工の寸法と同じくらいになったこと
- 応用物理学会『応用物理』第66巻第7号「シリコン結晶中の成長時導入欠陥の実体と生成挙動」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── COPの用語解説、SC-1洗浄の繰り返しによる観察、熱処理後の内壁酸化物とフッ酸による除去、V/Gと欠陥の種類の関係
- 応用物理学会『応用物理』第66巻第7号「シリコン結晶中の成長時導入欠陥と酸化膜耐圧劣化」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 熱処理前のCOPの内壁酸化膜厚、酸化後の角部の薄化と絶縁破壊、耐圧劣化の原因に占める割合、銅析出法の条件
- SUMCO「シリコンウェーハ製品一覧」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── アニール・ウェーハの熱処理条件と表層の結晶完全性、ポリッシュト・ウェーハのゲッタリング能力
- SUMCO「シリコンウェーハの製造方法」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── CZ法の流れ、エピタキシャル・ウェーハとアニール・ウェーハの位置づけ
- 信越化学工業「シリコンウエハー」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── シリーズ名称にアニールウエハーとエピタキシャルウエハーを含めること