ノッチと結晶方位とは
ノッチと結晶方位とは、ウェーハ外周に刻んだ小さな切り欠きで、結晶の向きを以後の全工程へ伝える仕組みです。 グローバルウェーハズ・ジャパンは製造プロセスのページで、外周研削の工程で外周の一部に結晶方位を示す溝(ノッチ)あるいは平面(オリエンテーションフラット、オリフラ)を加工すると述べています。
シリコンの単結晶には向きがあります。SUMCOのシリコンウェーハの製造方法のページは、ルツボ内で融解したシリコンの液面へ種結晶シリコン棒をつけ、回転させながら引き上げると、種結晶と同じ原子配列をした単結晶インゴットができると述べています。つまりウェーハの結晶の向きは、チョクラルスキー法で使う種結晶の段階で決まります。
困るのは、丸い板になった後です。円盤は回転対称の形なので、向きの手がかりを外から足す必要があります。そこで外周へ目印を刻みます。SUMCOは、単結晶インゴットを直径が均一になるよう外周研削し、その後にワイヤーソーなどで厚さ1mm程度へスライスすると述べています。グローバルウェーハズ・ジャパンは、その外周研削で結晶方位を示すノッチあるいはオリフラを加工すると述べています。シリコンインゴットの向きが、シリコンウェハの縁の1か所へ移る瞬間です。
オリフラとノッチは削る量の取引です
Section titled “オリフラとノッチは削る量の取引です”SCREENセミコンダクターソリューションズの初心者のための半導体入門は、ウェーハには各工程で位置決めをするときのために目印が付いており、200mmウェーハまではオリフラが一般的で、300mmウェーハではより小さなノッチと呼ばれる切れ目が付いていると述べています。同じ役目に対して、差し出すウェーハの縁の量が変わります。オリフラは外周を直線に削り落とし、ノッチは小さなV字の溝で済みます。
口径の推移が、この取引の背景にあります。日本半導体歴史館は、1960年頃に0.75インチ(約20mm)口径のシリコンウェーハが供給されるようになり、2001年に300mmシリコンウェーハによるULSI生産が開始されたと記しています。同館は、加工レベル90nm以下のULSIがほとんど300mmウェーハで生産される一方、パワー半導体、MEMS、センサ、加工レベル110nm以上のVLSIには8インチ(200mm)ウェーハが引き続き使われたとしています(2020年時点の記述です)。オリフラの世代とノッチの世代が現場に併存する理由がここにあります。
外形の標準化も同じ流れの上にあります。日本半導体歴史館は、ウェーハの外形寸法の標準化が1974年にSEMIによって進められ、以後は製造装置や材料の標準化もSEMIを中心に進められたと記しています。同館は、300mm世代のSEMIスタンダードがウェーハ形状、ウェーハ搬送、装置のロードポートやオペレーションインターフェース、ファブのユーティリティやCIMシステム、EHSに及び、デバイスメーカーの装置・材料調達の自由度の増大と、装置・材料サプライヤの開発・製造コストの低減に効果をもたらしたとしています。各社が独自の外形を選ぶ自由と引き換えに、FOUPでの搬送から装置の受け渡しまでが共通の形へ収まりました。
方位ごとに加工の進み方が変わります
Section titled “方位ごとに加工の進み方が変わります”向きを伝える理由は、シリコンの加工が結晶面ごとに異なる速さで進むからです。電気学会論文誌Eの解説論文「異方性ウエットエッチングによるモノづくり」(2008年、J-STAGEで無料公開されています)は、アルカリ性水溶液での単結晶シリコンの結晶異方性エッチングについて、(100)面の速度を基準にすると、(111)面とその付近の面を除く結晶面は1〜2倍の数値になり、(111)面のみが極端に小さい速度の面になると述べています。同論文はこれらの面を、向きの等しい面をまとめて指す波括弧の書き方で記しています。この記事では、ウェーハメーカーの仕様表にそろえて丸括弧で書いています。方位を取り違えたウェーハでアルカリのエッチングを進めると、断面は設計と別の形へ育ちます。
同解説論文は、単結晶シリコンのすべり面を(111)とも記しています。結晶がずれる面も方位で決まります。アニールウェーハのような高温の熱処理でスリップ転位が課題に挙がるのも、この結晶のずれに関わる現象です。
方位は注文の仕様でもあります。グローバルウェーハズ・ジャパンの製品ラインアップは、拡散ウェーハと小口径両面研磨ウェーハの一般仕様で結晶方位を(100)と(111)と記し、厚膜SOIウェーハでは(100)、(111)、(110)を挙げたうえで、(111)と(110)について別途相談としています(同社製品の仕様表の記述です)。標準の方位から離れる注文は、納入の条件も別立てになります。
現場ではノッチの位置と角度を毎回合わせます
Section titled “現場ではノッチの位置と角度を毎回合わせます”ノッチの位置がずれたまま流すと、装置がウェーハを載せる向きもずれます。SCREENセミコンダクターソリューションズの半導体入門が述べるとおり、この目印は各工程の位置決めに使うため、ダイシングで切る方向も、オーバーレイ計測で重ねる向きも、アルカリで削れる形も、同じ1か所の切り欠きを基準にしています。装置は毎回この目印で角度と中心を合わせます。
こうして、冒頭の仕組みへ戻ります。丸い板が持つ回転対称の形に対し、外周研削で刻んだ1か所の切り欠きが、種結晶の段階で決まった結晶の向きを最後の工程まで運びます。そのかわりに、ウェーハの縁の一部を差し出します。オリフラは直線ぶんを削り落とし、ノッチは小さなV字で済ませます。300mmで縁の削り方が小さい側になったのは、この取引の答えの1つです。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ノッチとは何ですか?
ウェーハの外周に刻んだV字の切り欠きです。グローバルウェーハズ・ジャパンは製造プロセスのページで、外周研削の工程で外周の一部に結晶方位を示す溝(ノッチ)あるいは平面(オリエンテーションフラット)を加工すると述べています。
オリフラとノッチはどう使い分けますか?
口径で変わります。SCREENセミコンダクターソリューションズの半導体入門は、200mmウェーハまではオリフラが一般的で、300mmウェーハではより小さなノッチと呼ばれる切れ目が付いていると述べています。
結晶方位はいつ決まりますか?
単結晶を引き上げる段階です。SUMCOは、ルツボ内で融解したシリコンの液面へ種結晶シリコン棒をつけ、回転させながら引き上げると、種結晶と同じ原子配列の単結晶インゴットができると述べています。
結晶方位は加工にどう作用しますか?
加工の進み方が方位ごとに異なります。電気学会論文誌Eの解説論文は、アルカリ性水溶液での結晶異方性エッチングにおいて、(100)面の速度を基準にすると、(111)面とその付近の面を除く結晶面は1〜2倍の数値になり、(111)面のみが極端に小さい面になると述べています。
ノッチはどの工程で使いますか?
位置決めの目印として使います。SCREENセミコンダクターソリューションズの半導体入門は、ウェーハには各工程で位置決めをするときのために目印が付いていると述べています。
(100)以外の方位を頼むとどうなりますか?
グローバルウェーハズ・ジャパンの製品ラインアップは、拡散ウェーハと小口径両面研磨ウェーハの一般仕様に結晶方位(100)と(111)を記し、厚膜SOIウェーハでは(111)と(110)について別途相談としています(同社製品の仕様表の記述です)。
外形の寸法は誰が決めていますか?
日本半導体歴史館は、ウェーハの外形寸法の標準化が1974年にSEMIによって進められ、以後は製造装置や材料の標準化もSEMIを中心に進められたと記しています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- シリコンインゴットとは ── ノッチを刻む前の、円柱の状態です
- チョクラルスキー法(CZ法)とは ── 結晶の向きを種結晶から引き継ぐ育て方です
- ダイシングとは ── ノッチで合わせた向きのまま切り分ける工程です
この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- グローバルウェーハズ・ジャパン「製造プロセス」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 外周研削の工程で結晶方位を示すノッチあるいはオリフラを加工するという記述です
- SUMCO「シリコンウェーハの製造方法」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 種結晶と同じ原子配列で育つインゴットと、外周研削からスライスへ進む順序です
- SCREENセミコンダクターソリューションズ「初心者のための半導体入門 ウェーハの調達」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 位置決めの目印という役割と、200mmまでのオリフラ、300mmのノッチという区別です
- 日本半導体歴史館「300mm標準化活動」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 1974年のSEMIによる外形寸法の標準化と、300mm世代の標準化の範囲と効果です
- 日本半導体歴史館「300mmウェーハプロセスのスタート」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 0.75インチから300mmまでの口径の推移と、200mmの併存です
- グローバルウェーハズ・ジャパン「製品ラインアップ」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 結晶方位(100)、(111)、(110)の仕様表と、別途相談という条件です
- 電気学会論文誌E「異方性ウエットエッチングによるモノづくり」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── アルカリ性水溶液でのエッチング速度の方位依存と、すべり面を(111)とする記述です