ドライ酸化とは
ドライ酸化とは、酸素ガスだけを流した高温の炉でシリコンの表面を酸化させ、酸化シリコンの膜を育てる方法です。 水蒸気を使うウェット酸化と対になる呼び方です。
膜を作る工程には、外から材料を運んでくる方法と、下地そのものを作り変える方法があります。SCREENセミコンダクターソリューションズの入門解説は、成膜の方法をスパッタ、CVD、熱酸化の三つに大きく分け、熱酸化を、酸素などのガスを入れた反応室へウェーハを入れて加熱し、表面に酸化シリコンの膜を作る方法としています。同解説は、熱酸化を多数枚まとめて焼ける方法として、生産性の高さも挙げています。
熱酸化は、下地を材料にします。アイテスの技術コラムは、熱酸化膜をシリコンウェーハ自身を反応させて育つ成長膜と位置づけ、1,000Åの厚さの熱酸化膜を作るときには表面のシリコン440Å分が反応に使われ、シリコンが2.27倍の厚みへ育つと書いています。同社の技術コラムの記述です。
その反応に何を当てるかで、二つの名前が付きます。電子情報通信学会の知識ベースは、MOSトランジスタのゲート絶縁膜が1000℃程度の高温の熱酸化で作られてきたとし、そこで働く酸化種として酸素(O2)分子と水(H2O)分子を挙げています。酸素分子だけを当てる側がドライ酸化で、水分子を当てる側がウェット酸化です。
遅いことが、この方法の役目です
Section titled “遅いことが、この方法の役目です”ドライ酸化は、時間あたりに育つ厚さが小さい方法です。厚い膜が要る工程では炉の時間を食う性質ですが、数nmの膜を目標の厚さで仕上げる工程では、この遅さが味方になります。速く育つ方法では、目標の厚さを通り過ぎる余地が大きくなります。
しかも、育ちは進むほど鈍くなります。アイテスの技術コラムは、熱酸化膜には膜厚が厚いほど成長速度が遅くなるという性質があるとし、その理由を、酸化種がすでにできた熱酸化膜の中を通り抜けて膜とシリコンの界面まで届く必要があるためと書いています。膜が厚くなるほど通り抜ける距離が伸び、到達までに時間がかかるという記述です。育つほど自分の育ちを鈍らせるので、薄い領域では時間あたりの変化が大きく、厚い領域では時間で押し込みにくくなります。
薄い膜ほど、酸化に入る前の表面が結果を決めます
Section titled “薄い膜ほど、酸化に入る前の表面が結果を決めます”酸化はシリコンの表面をそのまま巻き込む反応なので、酸化前の表面に残ったものは膜と界面へ持ち越されます。電子情報通信学会の知識ベースは、ゲート絶縁膜を作る前の洗浄でパーティクル汚染、金属汚染、有機物汚染を除去してから酸化に入ると記しています。
薄くするほど、この前工程への要求が上がります。SEAJの技術ロードマップは、ゲート絶縁膜の等価酸化膜厚が0.7nm以下になる領域では、従来の酸化炉やRTAの前洗浄よりも低い炭素濃度と酸素濃度が要求されてきたと書いています。2012年版の記述です。膜そのものを測った時点で分かることには限りがあり、酸化炉へ入る前の状態が仕上がりを左右します。
炉の中では何を動かすのか
Section titled “炉の中では何を動かすのか”ドライ酸化は、ウェット酸化やアニールと同じ炉を共有します。産総研のナノプロセシング施設は、共用の横型ウェハー酸化炉について、試料室を乾いた酸素の雰囲気にも、水分を含んだ酸素の雰囲気にも、窒素という不活性ガスの雰囲気にもできると公開し、使用ガスとしてO2、N2、H2Oを挙げています。ガスを切り替えるだけで、ドライ酸化にもウェット酸化にもアニールにもなります。装置の仕様として、常用温度は1100℃で到達時間は2時間、4インチのウェーハを一度に25枚まで入れられるとしています。共用施設にある1台の仕様です。
温度と枚数の桁は、量産の炉でも同じ発想で決まってきました。日本半導体歴史館は、1960年代前半の横型拡散炉について、酸化のときには800〜1,100℃程度に加熱した炉へ酸素または水蒸気を含んだ酸素を流してシリコン酸化膜を作ったと記しています。同館は、後の縦型炉の項で、横型炉が石英ボートに100〜150枚のウェーハを並べて全体を加熱する形を取っていたこと、挿入時の大気の巻き込みによる自然酸化膜の成長が微細化の障害になり始めたこと、1986年に国際電気から酸化・拡散・CVD用の縦型炉が販売され、ウェーハの回転機構によって面内の均一性が大きく上がったことを書いています。
現場で動かすものは、炉の温度分布、流すガスの種類と流量、保持する時間です。測るものは、仕上がった膜厚と、その面内のばらつきです。膜厚と目標との差を、次のロットの時間と温度へ返します。
何を差し出すことになるのか
Section titled “何を差し出すことになるのか”一つ目は、時間と熱です。昇温だけで時間がかかり、そのうえ厚くするほど育ちが鈍るので、厚い膜をドライ酸化だけで作ろうとすると炉の占有時間が伸びます。同時に、ウェーハがすでに持っている不純物の分布も動きます。ここで使った分は熱バジェットの合計へ足し算されるため、工程の後ろへ行くほど使いにくくなります。
二つ目は、選べる場面の狭さです。熱酸化が進むのは露出したシリコンの上に限られるので、下地が金属や絶縁膜になった後の工程では別の方法へ移ります。膜そのものが要るだけなら、外から材料を運ぶLPCVDやCVDという手があります。
その代わりに得るものが、膜の質です。東芝の技報は、ドライ酸化で作った膜が原理的に水酸基(OH基)と無縁になること、水蒸気を使うパイロジェニック酸化より高い温度で酸化するためち密な膜になることを、絶縁破壊電界が高くなる理由として挙げています。同報告は、シリコンの熱酸化膜の絶縁破壊電界が一般に約12MV/cmになるとも書いています。
ただし、膜の質と界面の質は別に決まります。同じ技報は、炭化ケイ素(SiC)の炭素面に1,100℃のドライ酸化で作ったMOSキャパシタの絶縁破壊電界がシリコンの酸化膜と同等の12MV/cm付近に分布した一方、ドライ酸化だけで作ったトランジスタは界面準位密度が高く、チャネル移動度が測定不能なほど低かったと報告しています。同社が試作した素子の結果です。同報告は、ドライ酸化でち密な膜を作った後に水蒸気で界面を作り直す組み合わせを考案し、破壊までの注入電荷量を17.5C/cm2まで伸ばしたとしています。ち密さは膜の内部の話で、界面の出来はその後にもう一度手当てします。この順番がここに表れています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ドライ酸化とは何ですか?
酸素ガスだけを流した高温の炉でシリコンの表面を酸化させ、酸化シリコンの膜を育てる方法です。電子情報通信学会の知識ベースは、ゲート絶縁膜が1000℃程度の高温の熱酸化で作られてきたとし、その酸化種には酸素(O2)分子と水(H2O)分子があると記しています。このうち酸素分子を使う側がドライ酸化にあたります。
「ドライ」とは何が乾いているのですか?
炉へ流すガスです。乾いた酸素だけを流す側をドライ酸化、水蒸気を混ぜる側をウェット酸化と呼びます。日本半導体歴史館は、酸化のときには800〜1,100℃程度に加熱した炉へ、酸素または水蒸気を含んだ酸素を流すと書いています。
膜はどこから来るのですか?
ウェーハそのものから来ます。アイテスの技術コラムは、熱酸化膜をシリコンウェーハ自身を反応させて育つ成長膜と位置づけ、1,000Åの膜を作るときにはシリコン440Å分が使われると書いています。
なぜ膜が厚くなるほど育ちが遅くなるのですか?
酸化種が、すでにできた膜を通り抜けてから下のシリコンに届くためです。アイテスの技術コラムは、膜厚が増えるほど通り抜ける距離が長くなり、到達までに時間がかかると書いています。
ウェット酸化とどう違いますか?
速さと膜の性格が違います。東芝の技報は、ドライ酸化に比べて水蒸気を使うパイロジェニック酸化のほうが酸化する力が強いとし、一方でドライ酸化の膜が原理的に水酸基(OH基)と無縁になると述べています。
現場では何を動かすのですか?
炉の温度と、流すガスと、時間です。産総研のナノプロセシング施設は、共用の横型酸化炉について、試料室を乾いた酸素の雰囲気にも、水分を含んだ酸素の雰囲気にも、不活性ガスの雰囲気にもできると公開し、使用ガスとしてO2、N2、H2Oを挙げています。
ドライ酸化の膜なら界面もよくなりますか?
膜の質と界面の質は別に決まります。東芝の技報は、炭化ケイ素(SiC)の炭素面では1,100℃のドライ酸化だけで作った素子の界面準位密度が高く、チャネル移動度が測定不能なほど低かったと報告しています。同社が試作した素子の結果です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- SCREENセミコンダクターソリューションズ「成膜工程」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 成膜の三つの方法としての熱酸化の位置づけと、まとめて焼けるぶんの生産性
- 電子情報通信学会 知識ベース「集積回路プロセス技術概論」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 酸素分子や水分子を酸化種とする1000℃程度の高温熱酸化、ゲート絶縁膜形成前の洗浄で除去する汚染
- 日本半導体歴史館「1960年代前半 横型拡散炉による熱酸化膜及び気相拡散へ移行」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 800〜1,100℃程度の炉へ酸素または水蒸気を含んだ酸素を流す酸化
- 産業技術総合研究所 ナノプロセシング施設「【NPF041】ウェハー酸化炉」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── ドライ・ウェット・不活性を切り替える試料室、使用ガス、常用温度1100℃と到達時間2時間、4インチ25枚
- 株式会社アイテス「恋する半導体(セミコイ)熱酸化膜編」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 熱酸化膜が下地を材料に育つ成長膜になること、1,000Åの膜にシリコン440Å分を使い2.27倍になること、厚いほど成長速度が遅くなる理由
- 東芝レビュー Vol.63 No.10(2008)「高チャネル移動度と高信頼性を両立したSiC-MOSFET」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── ドライ酸化膜が水酸基と無縁になること、シリコン熱酸化膜の絶縁破壊電界が一般に約12MV/cmになること、炭化ケイ素の炭素面での試作結果
- SEAJ 半導体製造装置技術ロードマップ「ウェーハプロセス」2012年版(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 等価酸化膜厚0.7nm以下の領域で前洗浄に求められた炭素濃度と酸素濃度
- 日本半導体歴史館「縦型炉」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 横型炉が100〜150枚を並べて焼いたこと、自然酸化膜の成長が障害になったこと、1986年の縦型炉とウェーハ回転による均一性の向上