ウェット酸化とは
ウェット酸化とは、水蒸気を酸化種にして高温の炉でシリコンの表面を酸化させ、酸化シリコンの膜を育てる方法です。 酸素ガスだけを流すドライ酸化と対になる呼び方で、水分酸化やパイロジェニック酸化とも呼ばれます。
熱酸化は、外から材料を運んでくる成膜と反応の出どころが違います。アイテスの技術コラムは、熱酸化膜をシリコンウェーハ自身を反応させて育つ成長膜と位置づけ、高温炉の中でシリコンに水蒸気(H2O)もしくは酸素ガス(O2)を加えて二酸化ケイ素を作ると書いています。同社の技術コラムの記述です。同コラムは、1,000Åの厚さの熱酸化膜を作るときには表面のシリコン440Å分が反応に使われるとも書いています。
炉に何を流すかで、二つの名前が付きます。電子情報通信学会の知識ベースは、MOSトランジスタのゲート絶縁膜が1000℃程度の高温の熱酸化で作られてきたとし、そこで働く酸化種として酸素(O2)分子と水(H2O)分子を挙げています。水分子を当てる側がウェット酸化です。日本半導体歴史館も、1960年代前半の横型拡散炉について、酸化のときには800〜1,100℃程度に加熱した炉へ酸素または水蒸気を含んだ酸素を流したと書いています。二つの選択肢は、横型の炉を使っていた時代から並んでいました。
水は炉の手前で作ります
Section titled “水は炉の手前で作ります”ウェット酸化と聞くと湯気を送り込む絵を思い浮かべますが、量産の現場での作り方は違います。東芝の技報は、炭化ケイ素の炭素面に対する酸化方法として、酸素(O2)と水素(H2)を燃やして進めるパイロジェニック酸化を挙げ、これをウエット酸化と同じものとしています。水素と酸素を炉の手前で燃やして水を作り、その水蒸気をそのまま炉へ送ります。
装置としては、ドライ酸化と同じ炉を使います。産総研のナノプロセシング施設は、共用の横型ウェハー酸化炉について、試料室を乾いた酸素の雰囲気にも、水分を含んだ酸素の雰囲気にも、窒素という不活性ガスの雰囲気にもできると公開し、使用ガスとしてO2、N2、H2Oを挙げています。共用施設にある1台の仕様です。同じ炉、同じウェーハの並べ方で、流すものを切り替えるだけで工程の性格が変わります。
どこで速さが要るのか
Section titled “どこで速さが要るのか”厚い膜を作る工程では、育つ速さがそのまま炉の占有時間になります。膜は厚くなるほど育ちが鈍るので、遅い方法で厚い膜を目指すと時間が伸びます。ここでウェット酸化が選ばれます。東芝の技報は、ドライ酸化に比べてパイロジェニック酸化は酸化する力が強いと述べています。
分かりやすい例が、トランジスタどうしを電気的に切り分ける工程です。電子情報通信学会の知識ベースは、LOCOSプロセスについて、シリコン表面に薄い酸化膜と窒化膜を積み、トランジスタを作る領域以外の窒化膜をドライエッチングで取り除いた後、高温の水分酸化を施すと窒化膜を取り除いた部分にだけ酸化膜が成長し、この酸化膜を分離層として使うと書いています。最後に窒化膜はホットリン酸で除去します。窒化膜が酸化をさえぎるので、マスクを貼ったまま厚い膜だけを育てられます。
後の世代の素子分離でも、熱酸化は工程の中に残っています。SEAJの技術ロードマップは、STIの形成手順の一例として、初期酸化、LPCVDによる窒化膜形成、リソグラフィ、エッチング、熱酸化、ギャップフィルのCVD酸化膜形成、CMP、アニール、窒化膜除去という順で挙げています。2012年版の記述です。同ロードマップは、STIの開口部や底のコーナーに応力を緩める丸みを作るための酸化技術も関連技術として重要になっていると書いています。掘った溝の内壁を酸化して整える、という役どころです。
薄い膜のほうでも、水蒸気は使われてきました。電子情報通信学会の知識ベースは、ゲート絶縁膜の形成について、一般的な条件として750〜850℃程度の水分酸化を挙げています。同知識ベースが厚さ5.4nmの膜を持つMOSダイオードで絶縁破壊の起きやすさを比べた図でも、比較の基準にした熱酸化膜は750℃のウェット酸化で作られています。水蒸気の出番は、厚い膜から薄い膜まで広がります。
何を得て、何を差し出すのか
Section titled “何を得て、何を差し出すのか”速さと引き換えに差し出すのは、膜の内部の質です。東芝の技報は、パイロジェニック酸化で作ったゲート酸化膜が、ドライ酸化で作った膜に比べてち密さに欠け、水酸基(OH基)を多量に含むと述べ、その結果として絶縁破壊電界が8MV/cm程度と低かったと報告しています。炭化ケイ素(SiC)の炭素面に作った直径100μmのMOSキャパシタで測った値です。同報告は、シリコンの熱酸化膜の絶縁破壊電界が一般に約12MV/cmになるとも書いているので、差し出した分の大きさが読み取れます。
一方で、界面のほうには利点があります。同じ技報は、パイロジェニック酸化のほうが酸化力が強いために膜中や界面に残る炭素の脱離が進むこと、さらに水蒸気に含まれる水素原子が界面の未結合手を終端することで界面準位密度が下がることを挙げ、二次イオン質量分析で酸化膜の界面に3×10の21乗atoms/cm3という高い濃度の水素が局在していたと報告しています。界面の出来が反映されるチャネル移動度は、この方法で作った素子のほうが高く出ています。
現場では何を測るのか
Section titled “現場では何を測るのか”動かすものは、炉の温度、燃やす水素と酸素の量、保持する時間です。測るものは、仕上がった膜厚と、その面内のばらつきです。日本半導体歴史館は、縦型炉の導入によってウェーハの回転機構が入り、プロセスの面内均一性が大きく向上したと書いています。同館は、横型炉では石英ボートを反応管へ挿入するときのこすれによるパーティクルの発生が避けられず、挿入のときに大気を巻き込むと自然酸化膜が育ってしまい、それが微細化の障害になり始めたとも記しています。膜厚を測る前に、入れ方と炉の状態が結果を左右する部分があります。
酸化に入る前の表面も同じです。電子情報通信学会の知識ベースは、ゲート絶縁膜を作る前の洗浄でパーティクル汚染、金属汚染、有機物汚染を除去してから酸化に入ると書いています。ウェット酸化はシリコンの表面をそのまま巻き込んで進むので、酸化前に残ったものは膜と界面へ持ち越されます。
差し出すものの三つ目は、熱バジェットです。速く育つとはいえ、800℃から1,100℃という温度の中でウェーハが過ごす時間は依然として長くなります。すでに打ち込んだ不純物の分布はその間も動くので、工程の後ろへ行くほど厚い膜を熱酸化で作りにくくなります。だからこそ、厚い膜を外から運んで載せるCVDが並んで使われます。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ウェット酸化とは何ですか?
水蒸気を酸化種にして、高温の炉でシリコンの表面を酸化させ、酸化シリコンの膜を育てる方法です。電子情報通信学会の知識ベースは、ゲート絶縁膜が1000℃程度の高温の熱酸化で作られてきたとし、その酸化種には酸素(O2)分子と水(H2O)分子があると記しています。このうち水分子を使う側がウェット酸化にあたります。
水はどうやって用意するのですか?
炉の手前で作ります。東芝の技報は、酸素(O2)と水素(H2)の燃焼による酸化をパイロジェニック酸化と呼び、これをウエット酸化と同じものとしています。
なぜ水蒸気を使うのですか?
酸化する力が強いためです。東芝の技報は、ドライ酸化に比べてパイロジェニック酸化は酸化力が強いと述べています。同じ時間で厚い膜まで届くので、厚い膜が要る工程で選ばれます。
どんな場面で使われますか?
電子情報通信学会の知識ベースは、素子分離のLOCOSプロセスで、窒化膜を残したまま高温の水分酸化を施すと窒化膜を取り除いた部分にだけ酸化膜が成長し、それを分離層に使うと書いています。同知識ベースは、ゲート絶縁膜についても750〜850℃程度の水分酸化を一般的な条件として挙げています。
速く育つ代わりに何を差し出しますか?
膜のち密さです。東芝の技報は、パイロジェニック酸化で作った膜がドライ酸化の膜に比べてち密さに欠け、水酸基(OH基)を多量に含むため、絶縁破壊電界が低いと述べています。炭化ケイ素(SiC)の炭素面で試作した素子の結果です。
界面には良いと聞きますが、膜が弱いこととどう両立しますか?
働く場所が違います。東芝の技報は、水蒸気中の水素原子が界面の未結合手を終端することで界面準位密度が下がるとし、二次イオン質量分析で酸化膜の界面に高濃度の水素が局在していたと報告しています。界面がよくなることと、膜の内部がち密に仕上がることは、別々に決まります。
ドライ酸化とは使い分けるのですか?
組み合わせる例があります。東芝の技報は、ドライ酸化でち密な膜を作った後にパイロジェニック再酸化で界面を作り直す方法を考案し、破壊までの注入電荷量が5.0C/cm2から17.5C/cm2へ伸びたと報告しています。同社が試作した素子の結果です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ドライ酸化とは ── 酸素ガスだけを当てて、遅く、ち密に育てる側
- ISSG(その場水蒸気生成)とは ── 炉でまとめて焼く代わりに、枚葉で水蒸気をその場で作る側
- ゲート酸化膜とは ── 水分酸化が一般的な条件として挙げられてきた、いちばん薄い膜
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- 電子情報通信学会 知識ベース「集積回路プロセス技術概論」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 酸素分子や水分子を酸化種とする1000℃程度の高温熱酸化、LOCOSでの高温の水分酸化と分離層、ゲート絶縁膜での750〜850℃程度の水分酸化、厚さ5.4nmの比較試料
- 東芝レビュー Vol.63 No.10(2008)「高チャネル移動度と高信頼性を両立したSiC-MOSFET」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── パイロジェニック酸化が酸素と水素の燃焼によること、酸化力の強さ、界面の水素終端と二次イオン質量分析の結果、水酸基とち密さと絶縁破壊電界、注入電荷量の値
- 日本半導体歴史館「1960年代前半 横型拡散炉による熱酸化膜及び気相拡散へ移行」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 800〜1,100℃程度の炉へ酸素または水蒸気を含んだ酸素を流す酸化
- 産業技術総合研究所 ナノプロセシング施設「【NPF041】ウェハー酸化炉」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 同じ炉でドライ・ウェット・不活性を切り替えられることと、使用ガスの一覧
- 株式会社アイテス「恋する半導体(セミコイ)熱酸化膜編」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 熱酸化膜が下地を材料に育つ成長膜になること、水蒸気または酸素ガスで二酸化ケイ素を作ること、1,000Åの膜にシリコン440Å分を使うこと
- SEAJ 半導体製造装置技術ロードマップ「ウェーハプロセス」2012年版(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── STI形成の工程例に含まれる熱酸化と、コーナーの丸みを作る酸化技術
- 日本半導体歴史館「縦型炉」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 横型炉のパーティクルと自然酸化膜の問題、縦型炉のウェーハ回転機構による面内均一性の向上