窒化処理とは
窒化処理とは、すでにできている膜やシリコンの表面を窒素と反応させて、その表面へ窒素を取り込ませる工程です。 電子情報通信学会の知識ベースは、ゲート絶縁膜が3nm程度以下になる世代では、ポリシリコンのゲート電極から来るボロンの突き抜けを抑えるねらいで、酸化膜の表面をプラズマで窒化する工程を挟むと書いています。
窒素を使う工程には、性格の異なる二つがあります。ひとつは、窒化膜を上から積む成膜です。同知識ベースは、STIやLOCOSの素子分離で、シリコンの上へ薄い酸化膜と窒化膜を先に積み、その窒化膜をエッチングのマスクやCMPのストッパーに使って、最後はホットリン酸へ浸けて落とす手順を挙げています。この窒化膜は、途中で役目を終えて取り除かれる部材です。
もうひとつが窒化です。こちらは新しい層を上から載せる代わりに、下にある膜やシリコンそのものを窒素と反応させます。同知識ベースは、Xe と NH3 をプラズマの励起空間へ送ると NH ラジカルができ、そのラジカルがシリコンと反応して600℃で窒化膜を作る、という反応の道筋を示しています。2010年に受領された章の記述です。相手は下地なので、できあがる層は元の表面をまたいで内側に入り込みます。
それが無いと、現場で何が起きるのか
Section titled “それが無いと、現場で何が起きるのか”困りごとは、電極から漏れてくる不純物です。日立評論に載った日立国際電気(現KOKUSAI ELECTRIC)の記事は、ゲート絶縁膜を薄くすると経時絶縁破壊の特性が落ちること、ストレス誘起リーク電流が増えること、そしてボロンをドープしたゲート電極ではボロンの突き抜け耐性が下がってデバイス特性のばらつきが大きくなることを挙げ、その対策として窒素プラズマによるゲート酸化膜の窒化が有望視されていると述べています。2003年時点の同社の記述です。
窒素が働くのは、密度の高い網目を作るからです。JEITAが公開している国際半導体技術ロードマップ1999年版の日本語版は、短期的な技術解としてシリコン窒化膜を挙げ、高いボロン拡散抑止能と7という比較的高い誘電率が魅力的だとしています。止めたいものを止めながら、誘電率も稼げます。
この道筋の始まりは古くにあります。日本半導体歴史館は、1970年代後半に富士通がシリコン熱酸化膜を活性窒素で熱処理した酸窒化膜のほうがゲート絶縁膜として優れていることを世界で初めて実証したこと、2nm以下の膜厚が要る90nm世代から使われ始め、65nm世代で世界中の標準になったことを記しています。同館は、45nm以降でHigh-k材料が入ったあとも、シリコンとの界面を守るバリア層には窒化酸化膜が要ると見られている、と続けています。
入れたい場所と避けたい場所が、数nmの中で隣り合います
Section titled “入れたい場所と避けたい場所が、数nmの中で隣り合います”窒素を入れてよい場所は限られます。日本真空学会の論文誌に載った三菱電機とルネサステクノロジと東北大学の共同研究は、45nmノードでは約1nmのゲート絶縁膜が要ること、そこではシリコン酸化膜をラジカル窒化したSiON膜が使われていること、窒化の目的がボロン拡散による閾値電圧のシフトとばらつきの増大を防ぐことにあると述べています。そのうえで、酸化膜とシリコンの界面近傍へ入った窒素は負バイアス時の温度不安定性、いわゆるNBTIを増やすため、表面を強く窒化しつつ界面の窒化はできる限り抑える必要がある、としています。2007年に受理された報告です。
何を測り、何を動かすのか
Section titled “何を測り、何を動かすのか”深さの分布そのものが管理の対象になります。前述の共同研究は、フッ酸で膜を少しずつ薄くしながらX線光電子分光で測るやり方で、窒素の深さ分布と化学結合の状態を調べています。同報告は、希ガスと窒化ガスの組み合わせを Ar/N2、Xe/N2、Ar/NH3、Xe/NH3 と変えるとラジカルの生成効率が変わり、界面近傍の窒素の量が Ar/NH3、Xe/NH3、Ar/N2、Xe/N2 の順に少なくなることを示しました。同じ装置でも、流すガスの選び方で界面の窒素が動きます。
装置の側の手も、電位です。日立評論の記事は、サセプタの高周波インピーダンスを制御することでプラズマ空間電位と基板表面の電位差を制御でき、酸化膜の表面を高濃度に窒化しながら窒素の深さプロファイルを整えられると述べています。同記事は、酸素と不活性ガスの混合ガスを使えば400℃以下で面内均一性を±1.5%以下に保ちつつ、時間を変えるだけで0.8〜4.0nmの膜を再現性よく作れるとしています。同社製品での値です。同じ反応室で酸化と窒化を続けて行えば、ゲート界面層の汚染を極力抑えられる、とも書いています。
熱で進めるか、プラズマで進めるか
Section titled “熱で進めるか、プラズマで進めるか”熱でやると、余計なものまで動きます。同記事は、従来の高温の酸化プロセスが格子欠陥を誘発したり、すでに作ってあるデバイスの不純物の再拡散を引き起こしたりすること、ウェーハの大口径化にともなって高温プロセスがウェーハの反りを招くことを挙げています。窒素を入れたいだけなのに、熱バジェットを使い切ってしまう格好になります。
装置に条件が付きます。電子情報通信学会の知識ベースは、ラジカル酸化やラジカル窒化を実現するには基板表面を汚染やダメージから守れるプラズマ装置が要るとしたうえで、当時のプラズマ装置は基板に大量の汚染とダメージを与えるためトランジスタの製造には使えなかった、と述べています。はじめに触れたものと同じ2010年の章です。同知識ベースは、窒化を始める前にシリコン表面のダングリングボンドを終端している水素を完全に取り除いておく必要があるとも書いています。前処理まで含めて一組の工程になります。
現在の装置は、この条件を正面から掲げています。東京エレクトロンは、枚葉の成膜装置Triase+のSPAシリーズについて、対応プロセスを酸化と窒化とし、低い温度で進み基板を傷めにくいプラズマ処理と、高密度で電子温度の低いプラズマを特長に挙げています。
何を差し出すのか
Section titled “何を差し出すのか”窒素を入れれば、突き抜けは止まり、リークも減ります。日立評論の記事は、同じ反応室で酸化と窒化を続けて行うことで、移動度の劣化を抑えながら実効酸化膜厚を1.2nm以下まで下げ、窒化を省いた酸化膜に比べてリーク電流を1けた以上減らせたとしています。同社が2003年に示した見通しです。
差し出すものは、余裕です。窒素は界面へ届けば害になり、プラズマは装置を選び、窒化の前には表面をそろえておく必要があります。ゲート酸化膜を薄くする代わりに窒化を足すという選択は、工程を1つ増やし、その工程の窓を狭くします。数nmの膜の上下を撃ち分ける精度が、そのまま歩留まりの側に返ってきます。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”窒化処理とは何ですか?
すでにできている膜やシリコンの表面を窒素と反応させて、その表面へ窒素を取り込ませる工程です。上から窒化膜を積む成膜とは別に、下地そのものを窒素と反応させます。
なぜ窒素を入れるのですか?
ゲート電極のボロンが絶縁膜を突き抜ける動きを抑えるためです。電子情報通信学会の知識ベースは、ゲート絶縁膜が3nm程度以下になる世代では、ポリシリコンのゲート電極から来るボロンの突き抜けを抑えるねらいで、酸化膜の表面をプラズマで窒化する工程を挟むと書いています。
窒素はどこに入れたいのですか?
膜の表面側です。日本真空学会の論文は、SiO2の表面を強く窒化しつつ、SiO2とシリコンの界面の窒化はできる限り抑える必要があると述べています。界面へ入った窒素が負バイアス時の温度不安定性を増やすためです。
界面に窒素が入ると何が起きるのですか?
同論文は、界面近傍へ導入された窒素がNBTIを増加させると記しています。日立評論も、窒素の深さ方向のプロファイルを制御して界面の窒素を減らせば、トランジスタ特性を保ったまま窒化できるとしています。
熱で窒化するのとプラズマで窒化するのは何が異なるのですか?
ウェーハの温度です。日立評論は、電子温度1eVのプラズマが10,000℃の高温に相当し、熱エネルギーでは反応しにくいガスもプラズマ中では容易に反応するため、酸素や窒素のプラズマなら室温から400℃以下の低温でも短時間で酸化や窒化ができるとしています。
プラズマを当てるとウェーハは傷みますか?
装置しだいです。電子情報通信学会の知識ベースは、ラジカル酸化やラジカル窒化を実現するには、基板表面を汚染やダメージから守れるプラズマ装置が要ると述べています。日立国際電気は、自社のMMTプラズマではダメージが極めて少なく、400℃以下で酸化や窒化を行ってもダメージ回復のためのポストアニールを省けるとしています。
High-k材料が入ったあとも窒化は要りますか?
日本半導体歴史館は、45nm以降でHigh-k膜が採られ始めた後も、シリコンとの界面を守るバリア層には窒化酸化膜が要ると見られていると記しています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ゲート酸化膜とは ── 窒化が加えられる相手の膜そのもの
- High-k材料とは ── 窒化で薄くする方向とは別に、誘電率を上げて厚さを稼ぐ側
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- 電子情報通信学会 知識ベース「集積回路プロセス技術概論」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 3nm程度以下の世代での酸化膜表面のプラズマ窒化、ラジカル窒化の反応の道筋と600℃という温度、素子分離で堆積した窒化膜をマスクやストッパーに使いホットリン酸で除去する手順、基板を汚染やダメージから守れるプラズマ装置が要ること、前処理として水素終端を除去する必要
- 日立評論 Vol.85 No.4「90〜65nmプロセス対応のプラズマ酸化・窒化装置」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── ボロン突き抜け耐性の低下とばらつき、窒素の深さプロファイル制御と界面の窒素低減、電子温度1eVが10,000℃に相当すること、400℃以下での酸化と窒化と面内均一性±1.5%以下、0.8〜4.0nmの膜厚、実効酸化膜厚1.2nm以下とリーク電流1けた以上の低減、高温プロセスによる欠陥と再拡散と反り
- 日本真空学会 真空 第50巻11号「ラジカル窒化シリコン酸窒化膜における窒素プロファイルのX線光電子分光分析による評価」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 45nmノードで約1nmのゲート絶縁膜が要ること、SiON膜と窒化の目的、界面の窒素とNBTI、フッ酸ステップエッチングとX線光電子分光による深さ分析、ガスの組み合わせによる界面窒素量の順序
- 日本半導体歴史館「極薄酸窒化ゲート絶縁膜技術の先駆的研究」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 1970年代後半の富士通による実証、90nm世代からの採用と65nm世代での標準化、High-k採用後の界面バリア層としての位置づけ
- JEITA 国際半導体技術ロードマップ1999年版 日本語版「フロントエンドプロセス」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── シリコン窒化膜のボロン拡散抑止能と誘電率7という位置づけ
- 東京エレクトロン「成膜 Triase+シリーズ」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── SPAシリーズが酸化と窒化に対応すること、低い温度で進み基板を傷めにくいプラズマと、高密度で低電子温度のプラズマという特長