シャドウイングとは
シャドウイングとは、斜めに入るイオンビームがレジストやゲート電極の段差に遮られ、段差のきわだけ注入量が落ちる現象です。 チャネリングを避けるためにビームを傾けた瞬間、同じ角度が影を作ります。角度は、深さ方向の裾と、平面方向の影のあいだで選ばれます。
現場でよくある誤解は、チャネリング対策で角度を取れば注入の質が上がる、という受け取り方です。同じ角度がマスクのきわに幅のある帯を作り、そこだけドーズが目減りします。なぜ7度という設定が選ばれるのか、影を狭めるために何を差し出すのかを、装置メーカーの公開資料に載る数値から追います。
影の幅は、段差の高さとティルト角のかけ算です
Section titled “影の幅は、段差の高さとティルト角のかけ算です”日新電機技報は2017年3月号のイオン注入装置事業と技術のあゆみで、通常のイオン注入ではビームの静電走査機構によりイオンのウェーハに対する入射角度がウェーハ中心と周辺部で2度から3度異なるとし、ウェーハ表面にパターンによる段差がある部分では段差の周辺部に陰ができ、イオン注入の欠ける領域が生じるとしています。同誌は、これをシャドゥ効果と呼び、DRAMメモリでは面内のデバイス特性ばらつきの問題となったとしています。以上は同誌に載る同社の記述です。
幾何そのものは単純です。影の幅は、段差の高さにティルト角の正接を掛けた長さになります。松定プレシジョンは技術コラムで、注入角度はチャネリングを回避するためウェーハの結晶方向と異なる角度へ設定する必要があるとし、垂直から7度程度傾けることが多いとしています。この7度で段差の高さが1マイクロメートルなら影の幅は約0.12マイクロメートル、2マイクロメートルなら約0.25マイクロメートルです。この節に出てくる影の幅は、いずれもこの正接の式から本稿で計算した値です。段差を作っているのが厚いフォトレジストなら、影は開口の内側へ0.1マイクロメートル台で食い込みます。
面内の角度差は、そのまま影の幅の面内分布になります。7度を中心に、この3度の幅で振れると仮定すると、高さ1マイクロメートルの段差では、入射角5.5度の場所で影の幅が約0.096マイクロメートル、8.5度の場所で約0.149マイクロメートルになり、差は約0.05マイクロメートルです。ドーズ量は同じでも、開口のきわ0.05マイクロメートル分の注入量が場所ごとに動きます。
影は、面内とパターンの向きの2方向へ出ます
Section titled “影は、面内とパターンの向きの2方向へ出ます”第一の方向は面内です。角度そのものが中心と周辺で2度から3度動く装置では、同じ段差でも影の幅が場所ごとに動きます。ウェーハ端のチップだけドーズが目減りする面内分布になります。追い方は均一性の管理と同じ枠です。
第二の方向はパターンの向きです。ツイスト角が影の向きを与えるため、同じチップの中でも、ビームに対して背を向けた側の段差だけ注入量が落ちます。日新イオン機器は斜めイオン注入の項で、ウェーハに傾斜をつけてイオン注入する技術はトレンチの側壁やゲート電極下のチャネル端へ不純物を導入するために使われるとし、一方向からの注入のみでは非対称性が発生するため、ツイスト角を変化させて注入するステップ注入が用いられるとしています。
いちばん敏感なのは、ゲート電極そのものをマスクに使う注入です。同社はハロー/ポケット注入の項で、ハロー構造はゲート電極形成後に斜めイオン注入を行うことでセルフアラインで形成できるとしています。SEIテクニカルレビュー第179号(2011年7月)に載る同社の論文は、中電流プロセスではハロー注入の角度精度がしきい値電圧Vtのばらつき量の決定要因となっているため、最も高精度の注入角度制御が要求されるとしています。影がそのままVtのばらつきになる、という筋道です。
段差が高く開口が狭いほど、影は開口の面積を食い潰します。日新イオン機器は3Dドーピングの項で、イオンビームは非常に優れた直進性を持つ一方、デバイス構造の三次元化により等方的に均一にドーピングする技術が要求されるとし、finFETのfin領域やトレンチなどの高アスペクト比の構造へ均一にドーピングする必要があるとしています。アスペクト比が上がるほど、直進するイオンで底や側壁を埋める手は行き詰まります。
つまみは5つあります
Section titled “つまみは5つあります”プロセス担当が最初に動かす第一のつまみはティルト角です。小さくするほど影は狭まります。代わりにチャネリングの臨界角へ近づきます。日新イオン機器はチャネリング注入の項で、接合深さを小さく作る条件では深さ方向にテールを引く分布になるため抑制する必要があるとしています。影と裾は、同じ1本のつまみの両端です。
第二はツイスト角の分割数です。ステップ注入で影の向きを平均化する代わりに、1枚あたりの注入時間が分割数だけ伸びます。4分割なら、同じドーズを4回に割ることになります。
第三は走査方式です。日新イオン機器はパラレルビームの項で、ウェーハ上の全ての位置においてウェーハに対して一定の角度でイオン注入が行えるよう平行なイオンビームが用いられるとし、電場もしくは磁場スキャンとコリメータを組み合わせる方法などがあり、最近の中電流イオン注入装置では主流だとしています。同社はコリメータの項で、走査していったん角度を持ったイオンビームを平行ビームへ変換するために用いられ、入射した角度の大小に応じた偏向を与えることで、どの角度で入射したビームも一定の方向へ平行に出射するよう設計されるとしています。面内の角度差が縮めば、影の幅の面内分布も縮みます。代わりにコリメータの分だけビームラインが伸びます。
第四はプラテンの回転です。日新電機技報は2017年3月号で、シャドゥ効果への手当てとして、注入中にビームに対してウェーハ自身が回転する機能を持ち、広範囲の注入角度可変機能を持つエンドステーションを開発したとし、この回転注入機構エンドステーションが半導体デバイス性能を改善したとして1993年に市村産業賞を受賞したとしています。日新イオン機器は中電流イオン注入装置の項で、この機種は枚葉式のエンドステーションを備え、その回転注入機構により高精度かつ広範囲の注入角度で注入が行えることを特徴として挙げ、立体構造の注入分布制御に用いられるとしています。設定できる角度の範囲そのものが、この手当ての上限です。
第五はマスクの厚さです。日新電機技報は2021年6月号で、チャネリングはSiC基板の部分に限って起こるため、同じ深さの分布を形成する場合、通常の注入に比べてマスク厚さを3分の1以下にでき、コスト低減とパターン精度の向上が可能になるとしています。影の幅は段差の高さに比例するため、厚さが3分の1なら影の幅も3分の1です。この対応は本稿で計算した関係です。同誌は、IMPHEAT-IIはイオンビームの角度制御性が極めて高いため、チャネリング技術を安定した量産プロセスとして採用できるとしています。マスク厚を削る代わりに、角度制御の要求が一段上がります。
何を測ると影の量が分かりますか
Section titled “何を測ると影の量が分かりますか”影は開口のきわに限って生じるため、面内平均のシート抵抗より、デバイスの電気特性のほうが先に反応します。日新電機技報は2017年3月号で、シャドゥ効果がDRAMメモリでは面内のデバイス特性ばらつきの問題となったとしています。SEIテクニカルレビュー第179号に載る日新イオン機器の論文は、ハロー注入の角度精度がVtのばらつき量の決定要因だとしています。
装置側からは注入角度の影響を直接量として拾えます。日新イオン機器は注入角度精度の項で、特定の注入条件とウェーハ種を用いれば、注入ドーズ量をモニタできるウェーハ検査・測定のシステムを利用して、定量的に注入角度の影響をつかめるとしています。面内の分布そのものは注入均一性の管理項目です。同社は注入均一性の項で、注入均一性はシート抵抗やダメージ測定などの手法で測定されるとしています。測定は四探針法です。
非対称の量だけを取り出すなら、同社が挙げる非対称性の記述に沿って、ツイスト角を180度変えた条件どうしの差を見比べる手が使えます。差がゼロへ近づくほど、影の向きの偏りが小さいことになります。
影を狭めるたびに、別のどこかが1つ悪化します
Section titled “影を狭めるたびに、別のどこかが1つ悪化します”角度を小さくすれば影は狭まり、チャネリングの裾が伸びます。ツイスト角を分割すれば非対称は縮み、スループットが分割数だけ落ちます。平行ビームへ替えれば面内の角度差は縮み、ビームラインが伸びます。マスクを薄くすれば影は狭くなり、角度制御性の要求が上がります。
直進性そのものを手放す道もあります。日新イオン機器は3Dドーピングの項で、高アスペクト比の構造へ均一にドーピングする手段として、プラズマドーピングや、不純物をドーピングした膜からの固相拡散を挙げています。FinFET以降の立体構造では、影を角度で削り切る代わりに、別の工程へ渡す選択になります。住友重機械技報は2023年のNo.210で、統合型イオン注入装置SAionについて、FinFETやGAAのような立体的構造の製造に必要とされるドーズ精度を満たし、ビーム角度や発散角制御などの品質面でも優れた装置だとしています。角度で押し切る側の投資も、同時に続いています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”シャドウイングとは何ですか?
斜めに入るイオンビームがレジストやゲート電極の段差に遮られ、段差のきわだけ注入量が落ちる現象です。日新電機技報は2017年3月号で、ウェーハ表面にパターンによる段差がある部分では段差の周辺部に陰ができ、イオン注入の欠ける領域が生じるとし、これをシャドゥ効果と呼んで、DRAMメモリでは面内のデバイス特性ばらつきの問題となったとしています。
影の幅はどのくらいになりますか?
段差の高さにティルト角の正接を掛けた長さになります。松定プレシジョンは技術コラムで、注入角度は垂直から7度程度傾けることが多いとしています。この7度で段差の高さが1マイクロメートルなら影の幅は約0.12マイクロメートル、2マイクロメートルなら約0.25マイクロメートルです。この2つは本稿で計算した値です。
面内で差が出るのはなぜですか?
入射角そのものが場所ごとに動くためです。日新電機技報は2017年3月号で、通常のイオン注入ではビームの静電走査機構によりイオンのウェーハに対する入射角度がウェーハ中心と周辺部で2度から3度異なるとしています。7度を中心に3度の幅で振れると仮定すると、高さ1マイクロメートルの段差では影の幅が約0.096マイクロメートルと約0.149マイクロメートルになり、差は約0.05マイクロメートルです。この3つは本稿で計算した値です。
どの注入がいちばん影に敏感ですか?
ゲート電極そのものをマスクに使う斜め注入です。日新イオン機器は、ハロー構造はゲート電極形成後に斜めイオン注入を行うことでセルフアラインで形成できるとしています。SEIテクニカルレビュー第179号に載る同社の論文は、中電流プロセスではハロー注入の角度精度がしきい値電圧Vtのばらつき量の決定要因となっているため、最も高精度の注入角度制御が要求されるとしています。
影の向きの偏りはどう手当てしますか?
ツイスト角を分割します。日新イオン機器は斜めイオン注入の項で、一方向からの注入のみでは非対称性が発生するため、ツイスト角を変化させて注入するステップ注入が用いられるとしています。差し出すのはスループットで、1枚あたりの注入時間が分割数だけ伸びます。
マスクを薄くする手はありますか?
あります。日新電機技報は2021年6月号で、チャネリングはSiC基板の部分に限って起こるため、同じ深さの分布を形成する場合、通常の注入に比べてマスク厚さを3分の1以下にでき、コスト低減とパターン精度の向上が可能になるとしています。影の幅は段差の高さに比例するため、厚さが3分の1なら影の幅も3分の1です。同誌は、この方式にはイオンビームの角度制御性が極めて高い装置が前提になるとしています。
高アスペクト比の構造では何をしますか?
日新イオン機器は3Dドーピングの項で、イオンビームは非常に優れた直進性を持つ一方、デバイス構造の三次元化により等方的に均一にドーピングする技術が要求されるとし、finFETのfin領域やトレンチなどの高アスペクト比の構造へ均一にドーピングする必要があるとしています。同社は、その手段としてプラズマドーピングや、不純物をドーピングした膜からの固相拡散を挙げています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 注入角とツイストとは ── 影を作る当の角度、その設定と管理の側です
- チャネリングとは ── 角度を小さくしたときに深さ方向で払う代償です
- アスペクト比とは ── 影が開口を食い潰す度合いを与える形状の指標です
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- 日新電機技報「Vol.62 No.1(2017年3月)イオン注入装置事業と技術のあゆみ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── シャドゥ効果という呼称と、段差の周辺部に陰ができること、静電走査による中心と周辺の2度から3度の入射角差、DRAMでの面内ばらつき、回転注入機構と1993年の市村産業賞
- 日新イオン機器「斜めイオン注入」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── トレンチ側壁とチャネル端という用途、一方向注入の非対称性、ツイスト角を変えるステップ注入
- 日新イオン機器「ハロー/ポケット注入」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ゲート電極形成後の斜め注入によるセルフアライン形成
- 日新イオン機器「パラレルビーム」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 面内で一定角度を保つ平行ビームと、中電流機での主流化
- 日新イオン機器「コリメータ」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 角度を持った走査ビームを平行ビームへ変換する仕組み
- 日新イオン機器「中電流イオン注入装置」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 回転注入機構による広範囲の注入角度と、立体構造の注入分布制御という用途
- 日新イオン機器「3Dドーピング」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── イオンビームの直進性と高アスペクト比構造の相性、プラズマドーピングと固相拡散という代替手段
- 日新イオン機器「イオン注入における注入角度精度」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ドーズ量モニタで注入角度の影響を定量的につかむ方法
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- 日新電機技報「Vol.66 No.1(2021年6月)2020年の技術と成果 イオン注入装置」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── マスク厚さを通常の注入に比べて3分の1以下にできること、パターン精度の向上、IMPHEAT-IIの角度制御性
- SEIテクニカルレビュー「第179号(2011年7月)イオン注入機の歴史と今後の展望」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ハロー注入の角度精度がVtばらつきの決定要因になっているという記述
- 松定プレシジョン「半導体製造を支えるイオン注入プロセスと注入装置の基礎」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 注入角度を垂直から7度程度傾けることが多いという運用
- 住友重機械技報「No.210(2023年)半導体製造装置」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── FinFETやGAAのような立体構造向けのドーズ精度、ビーム角度と発散角制御