チャネリングとは
チャネリングとは、単結晶の結晶軸や結晶面に沿った方向では原子の間隔が広く空いて見えるため、注入イオンが原子とほとんど衝突しないまま奥まで入り込む現象です。 加速エネルギーが同じでも、ビームの向きが数度ずれれば、入る深さが変わります。
結晶は、見る向きによって透けて見えます
Section titled “結晶は、見る向きによって透けて見えます”日新イオン機器はイオン注入ディクショナリーのチャネリングの項で、イオンとターゲット原子の衝突確率は両者の距離が離れるほど小さくなるとし、単結晶には結晶軸や結晶面に沿って原子間隔の広いチャネルがあり、それぞれ軸チャネル、面チャネルと呼ぶとしています。同社は、その方向に沿って注入した場合、大部分のイオンは原子と衝突せず、電子との小角散乱を繰り返して結晶の内部まで侵入するとしています。以上は同社の用語解説の記述です。
止まり方が変わるのは、エネルギーを削る相手が入れ替わるためです。同社は阻止能の項で、注入イオンは原子との衝突による核阻止能と、電子との衝突による電子阻止能でエネルギーを失うとし、入射直後は電子との衝突が支配的で、エネルギーが下がると原子との衝突が支配的になって静止するとしています。チャネルの中では核阻止能の出番が減り、電子阻止能だけがゆっくり効きます。イオン注入の深さを決めるのは、加速電圧だけではありません。
深さの見積りは、この2つの阻止能から立てます。同社は飛程の項で、注入イオンが電子と原子との衝突で軌跡を描いて静止するまでの長さを全飛程と呼び、それを注入方向へ投影した長さを投影飛程Rpと呼ぶとしています。LSS理論の項では、電子阻止能と核阻止能からRpと深さ方向の標準偏差ΔRpを求め、注入量を与えれば深さごとの不純物濃度がガウス分布として出る、という組み立てを示しています。ただし同社は、実際の分布はこのガウス分布とは違って左右非対称になるとし、イオンと原子の衝突で広角散乱の確率が増えるため分布が表面側へ偏るのが理由だとしています。そのうえで、いまはモンテカルロ法によるシミュレーションで注入分布を正確に求められるとしています。RpとΔRpで引いた見積りに対して、チャネリングは裾だけを設計より深くへ伸ばします。
同社によれば、臨界角はイオンのエネルギーが高いほど小さく、原子番号が小さいほど小さくなります。軽い元素を高いエネルギーで打つ条件ほど、通り道と見なされる角度の幅は狭くなります。ホウ素を高加速で入れる条件と、ヒ素を低加速で入れる条件とでは、外すべき角度の余裕が違います。
現場で先に出るのは、深さ方向のテールです
Section titled “現場で先に出るのは、深さ方向のテールです”チャネリングは、狙いのピークより深い側へ長く伸びる裾、つまりテールとして現れます。日新イオン機器はチャネリング注入の項で、浅い接合形成においては深さ方向にテールを引く分布になるため抑制しなければならないと述べています。
効く先は接合深さです。同社はシャロージャンクションの項で、MOSトランジスタの微細化にともない短チャネル効果を抑えるために浅い接合が必要になるとし、浅い接合を作るには注入エネルギーの低加速化に加えて、注入後の熱処理による拡散を抑える必要があるとしています。同社は、浅くすると抵抗が上がる副作用も出るため、微細なトランジスタでは、深めに取ったソースドレイン拡散層に対し、チャネル端だけを浅くするエクステンション構造を使うとしています。裾はこの浅い側へ直接乗ります。
ばらつきの出方にも特徴があります。チャネリングが起きるかどうかは向きで決まるため、面内でビームの角度がそろっていない装置では、そろっていない場所だけが深く入ります。同社は注入角度精度の項で、注入角度はウェーハとビームのあいだの複数の角度の組み合わせで決まるとし、ウェーハ側のチルト角、Yチルト角、ツイスト角と、ビーム側の入射角、ビーム発散角、ビーム平行度を挙げています。同社は、ウェーハの機械的な位置は搬送系や駆動ユニットで、ビームの方向は輸送制御システムで角度精度が定まるとしています。面内で深さが割れているときは、レシピより先にこの角度の系を見に行く順序になります。追い方は均一性の考え方と同じです。
つまみは角度と、注入前の下ごしらえです
Section titled “つまみは角度と、注入前の下ごしらえです”第一のつまみは角度です。日新イオン機器はティルト角を、ウェーハ中心に立てた法線とイオンビームが交わる角度と定義し、ツイスト角を、オリフラまたはノッチを基準にウェーハを回した角度と定義しています。同社はチャネリングの項で、浅い接合形成ではチャネル方位から外れるようにチルト角とツイスト角を設定して注入すると述べています。松定プレシジョンは技術コラムで、注入角度はチャネリングを回避するためウェーハの結晶方向と異なる角度に設定する必要があるとし、垂直から7度程度傾けることが多いとしています。基準面はノッチと結晶方位です。
角度を大きく外すほど裾は減りますが、代わりに影が増えます。ゲート電極やマスクの側壁が斜めのビームを遮り、パターンの片側だけ注入量が落ちます。同社は斜めイオン注入の項で、一方向からの注入だけでは非対称性が発生するため、ツイスト角を変えて注入するステップ注入を用いると述べています。角度を取るほど、この分割の手間とスループットを払います。逆に角度を戻せばスループットは戻りますが、臨界角の内側へ入る危険が近づきます。
第二のつまみは、注入前に結晶を壊しておくことです。同社はプリアモルファス化の項で、浅い接合形成でチャネリングによって分布が裾を引くことを避けるため、ドーパントの注入前に結晶を非晶質化する工程だとしています。同社は、質量数の大きい元素のほうが少ない注入量でアモルファス化でき、電気特性に影響を与えないことから、SiデバイスではSiやGeのイオンが用いられるとしています。裾は確実に減ります。手放すのは熱処理側の余裕で、同社は同じ項で、壊した結晶をどう戻すかと、戻した結晶に対してドーパントがどこへ座るかが、効いてくるパラメータだとしています。壊した層を戻す仕事はドーパント活性化と熱バジェットへ回ります。
第三は、イオン種と加速エネルギーの選び方です。臨界角は高エネルギーほど、また原子番号が小さいほど小さくなるという同社の記述からは、軽い元素を高加速で入れる条件ほど角度の余裕が小さいと言えます。重い元素へ替えれば余裕は広がりますが、結晶欠陥の量は増えます。
使う側へ回すと、装置1台分の加速エネルギーが浮きます
Section titled “使う側へ回すと、装置1台分の加速エネルギーが浮きます”チャネリングは、抑える対象であると同時に道具でもあります。日新電機技報は2021年6月号で、SiCにアルミニウムイオンを960キロエレクトロンボルトの加速エネルギーで注入した深さ方向分布を示し、通常のイオン注入では深さ0.9マイクロメートル付近にピークを持つ分布になる一方、[0001]軸に沿った方向で注入した場合は3マイクロメートル以上の深さまでアルミニウムイオンを導入できたとしています。以下も同じSiCとアルミニウムの例です。同誌は、通常のイオン注入で深さ3マイクロメートルの分布を実現するには4メガエレクトロンボルト以上の加速エネルギーが必要で、RF加速器などを搭載した複雑で大きな装置が要るところを、チャネリング技術を用いれば中電流イオン注入装置で実施できるとしています。
マスクの側も軽くなります。同誌は、チャネリングはSiC基板の部分のみで起こり、マスク材料の中では起こらないため、同じ深さの分布を作る場合にマスク厚さを通常の注入に比べて3分の1以下にでき、コスト低減とパターン精度の向上が可能になるとしています。同誌は、縦方向と横方向のどちらも分布の拡がりが抑制でき、急峻な分布が実現できるとし、スーパージャンクション構造を持つSiC MOSFETのN型とP型のピラー構造を、精度よく簡略なプロセスで形成できるとしています。
払うのは角度精度です。日新イオン機器はチャネリング注入の項で、この方式では注入の角度が効くので、ビームの角度を正確に制御できることが条件になるとしています。日新電機技報も、ビーム角度の制御性が極めて高い装置だからこそ、チャネリングを量産で安定して回せるとしています。装置の角度精度が足りない条件では、深さの再現性がそのまま失われます。SiC MOSFETやパワーMOSFETの縦構造では、この深さが耐圧とオン抵抗の設計値そのものです。
見えるかどうかは、測り方の分解能で決まります
Section titled “見えるかどうかは、測り方の分解能で決まります”裾の長さは深さ方向の濃度分布で測ります。日新イオン機器はSIMS(二次イオン質量分析法)の項で、酸素やセシウムのイオンを試料へ入射させ、スパッタされた原子を質量分析することで定量解析する方法だとし、注入分布と、その後のアニールでどこまで拡散したかを見る用途で広く使われるとしています。
裾の長さを読むときは、装置側の分解能を差し引く必要があります。材料科学技術振興財団(MST)は分析事例B0243で、深さ方向分解能をイオン強度が最大の84パーセントに相当する深さと16パーセントに相当する深さの差で定義し、GaAsとAlAsの試料では約6ナノメートルと求めています。以下も同じ分析事例の記述です。同財団は、深さ方向分解能は主に一次イオン種、イオンビームミキシング、試料表面の凹凸で決まるとし、一次イオンの入射エネルギーを下げると分解能が向上する一方、十分な電流密度が得られず深い位置までの分析や微量元素の高感度分析が難しくなるとしています。裾を深くまで追う条件と、界面を鋭く見る条件は、同じレシピでは取れません。
日々のQCは電気で回すほうが早く済みます。日新イオン機器はシート抵抗の項で、シート抵抗は注入層の濃度と深さで決まる量なので、イオン注入装置のQC手段として広く使われているとしています。測定は四探針法です。テールが伸びれば同じドーズ量でもシート抵抗はずれるため、角度の系が崩れた日の早期発見に使えます。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”チャネリングとは何ですか?
単結晶の結晶軸や結晶面に沿った方向では原子の間隔が広く空いて見えるため、注入イオンが原子とほとんど衝突しないまま奥まで入り込む現象です。日新イオン機器は、この方向に沿って注入した場合、大部分のイオンは原子と衝突せず、電子との小角散乱を繰り返して結晶の内部まで侵入するとしています。
現場ではどんな形で現れますか?
深さ方向のテール、つまり狙いのピークより深い側へ長く伸びる裾として現れます。浅い接合ほど、この裾が接合深さと電気特性へ直に効きます。面内でビームの角度がそろっていない場合は、そろっていない場所だけ深く入るため、面内分布の割れとしても出ます。
どのつまみで抑えますか?
主に注入角度です。日新イオン機器は、浅い接合形成ではチャネル方位から外れるようにチルト角とツイスト角を設定すると述べています。松定プレシジョンは技術コラムで、注入角度は垂直から7度程度傾けることが多いとしています。ほかに、注入前に結晶を壊しておくプリアモルファス化があります。
角度を外すと何を手放しますか?
パターンの対称性です。斜めに入れるほどゲート電極やマスクの側壁が影を作り、パターンの片側だけ注入量が落ちます。日新イオン機器は斜めイオン注入の項で、一方向からの注入だけでは非対称性が出るため、ツイスト角を変えて注入するステップ注入を用いると述べています。
プリアモルファス化の代償は何ですか?
壊した層を戻す仕事が熱処理側へ回ることです。日新イオン機器はプリアモルファス化の項で、結晶回復のプロセスとドーパントとの位置関係が重要なパラメータになるとしています。裾は確実に減りますが、活性化アニールの条件設計がその分だけ重くなります。
チャネリングを積極的に使うことはありますか?
あります。日新電機技報は2021年6月号で、SiCにアルミニウムイオンを960キロエレクトロンボルトで注入した例を挙げ、通常の注入では深さ0.9マイクロメートル付近にピークを持つ一方、[0001]軸に沿った方向では3マイクロメートル以上の深さまで導入できたとしています。同誌は、通常の注入で深さ3マイクロメートルを実現するには4メガエレクトロンボルト以上が必要だとしています。
何を測ると見えますか?
深さ方向の濃度分布です。SIMS(二次イオン質量分析法)でプロファイルを取ると、裾の長さがそのまま見えます。材料科学技術振興財団は分析事例で、深さ方向分解能はイオン強度が最大の84パーセントになる深さと16パーセントになる深さの差で定義し、一次イオンの入射エネルギーを下げると分解能が向上するとしています。電気的にはシート抵抗の四探針測定で効きを追えます。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ノックオンとは ── 当たらずに進むのがチャネリング、当てて相手を動かすのがノックオンです
- イオン注入とは ── ドーズ量とエネルギーで濃度と深さを決める工程、その深さを崩す要因がチャネリングです
- ノッチと結晶方位とは ── ツイスト角の基準になる面、角度設計はここから始まります
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- 日新イオン機器「チャネリング」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 軸チャネルと面チャネル、小角散乱で内部まで侵入する筋道、臨界角がエネルギーと原子番号で変わること
- 日新イオン機器「チャネリング注入」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 浅い接合ではテールを引くこと、積極利用時の長所と角度制御の要求
- 日新イオン機器「プリアモルファス化」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 注入前の非晶質化という手段、SiやGeを使う理由、結晶回復の位置づけ
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- 日新電機技報「Vol.66 No.1(2021年6月)2020年の技術と成果 イオン注入装置」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── SiCへの960キロエレクトロンボルトのアルミニウム注入で0.9マイクロメートルと3マイクロメートル以上、4メガエレクトロンボルト相当、マスク厚3分の1以下
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- 材料科学技術振興財団「界面および深さ方向分解能について」分析事例B0243(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 84パーセントと16パーセントによる深さ方向分解能の定義、約6ナノメートルの実測、一次イオンエネルギーとの関係