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ノックオンとは

ノックオンとは、入射した粒子に衝突された原子が、自分の格子位置から弾き飛ばされて動く現象です。 注入したイオンがどこで止まったかとは別に、叩かれた側の原子がどこへ動いたかが基板に残ります。

叩かれた原子が、次の原子を叩きます

Section titled “叩かれた原子が、次の原子を叩きます”

日本電子は透過電子顕微鏡の用語集で照射損傷を、電子線の照射による試料の構造劣化と定義し、一次的な損傷にノックオンとイオン化があるとしています。同社は、ノックオンを、入射電子にぶつかられた原子が自分の格子点を追い出されて格子の隙間に移り、空いたその格子点が原子空孔として残る過程だとしています。以上は同社の用語集の記述です。当てられた側の原子の行き先を数える言葉です。

イオン注入でも同じ連鎖が走ります。日新イオン機器は一次欠陥の項で、格子原子にぶつかった原子は、そこを追い出されるのと引き換えにエネルギーを受け取り、それがまた次の格子原子へぶつかっていく、というカスケード現象が続くとしています。同社は、抜けた跡にできる欠損を空孔、格子の隙間に居座ることになった原子を格子間原子と呼び、注入イオン1個あたり数100から数万個できるとしています。同社は、これらを一次欠陥あるいは点欠陥と呼び、格子原子と対になってきわめて速く拡散することが知られているとしています。

チャネリングと並べると、役割の分かれ方が見えます。チャネリングは、当たらずに進んだイオンがどこまで届くかの話です。ノックオンは、当てられた側の原子がどこへ動いたかの話です。同じ1回のイオン注入で両方が走り、前者は深さ方向の裾に、後者は欠陥の数と位置に出ます。

1個の入射で、動く原子は数100から数万個まで増えます
当たるたびに、動く原子が分かれて増えます1個が、多数になります入射イオンです抜けた跡が空孔です叩き出された原子が次を叩きます入射イオンは1個です空孔と格子間原子が数100から数万個できます日新イオン機器の記述による数です
日新イオン機器は、格子原子との衝突で弾き飛ばされた原子が再び格子原子と衝突するカスケード現象を繰り返すとし、空孔と格子間原子が1個のイオン注入で数100から数万個発生するとしています。注入した元素の分布とは別に、この数だけ動かされた原子が基板に残ります。

請求書は、熱処理を通ってから届きます

Section titled “請求書は、熱処理を通ってから届きます”

一次欠陥は速く動くため、効きが出るのは熱処理の後です。日新イオン機器は二次欠陥の項で、二次欠陥を熱処理によって出てくる結晶欠陥だとし、注入後の熱処理で現れるものに、格子間原子が余った結果できる転位ループや、酸素誘起積層欠陥などを挙げています。同社は、濃く打ってアモルファス層ができた場合、こうした欠陥が飛程よりやや深い側、つまりアモルファスと単結晶の境目に出るので、これをEOR欠陥と呼ぶとしています。同社は、二次欠陥がキャリアの生成再結合中心としてはたらき、接合リーク電流につながるとしています。以上は同社の用語解説の記述です。

深さ方向の分布そのものも動きます。同社は増速拡散の項で、イオン注入では過剰な格子間シリコンからなる欠陥との相互作用によりドーパントが通常より速く異常拡散することが知られているとして、これを過渡増速拡散と呼ぶとしています。狙いの飛程に合わせて組んだレシピが、熱バジェットを通した後で別の位置に来ます。結晶欠陥ドーパント活性化を別々の管理項目として扱っていると、この結び目を見落とします。

熱処理側にも同じ綱引きがあります。同社は活性化アニールの項で、注入原子を格子位置に入れると同時に、発生した格子間原子や空孔を回復させる熱処理を活性化アニールと呼ぶとしています。同社は、温度が高いほどドーパントが活性化する割合が高くなる一方、同時にドーパントが深さ方向に拡散してしまうとし、先端デバイスでは拡散抑制と活性化を両立させるために高温でミリ秒程度の短時間での熱処理が用いられるとしています。温度を上げれば活性化率を取って深さを失い、下げれば深さを守って活性化率を失う形です。日々の追い方は電気で足ります。同社はシート抵抗の項で、シート抵抗は注入層の濃度と深さで決まる量なので、イオン注入装置のQC手段として広く使われているとしています。測定は四探針法です。

基板温度が、その場で消える分を決めます

Section titled “基板温度が、その場で消える分を決めます”

第一のつまみは基板温度です。日新イオン機器は高温注入の項で、基板を温めておくと注入で生じる結晶欠陥そのものが出にくくなり、あわせてセルフアニーリング効果が出た欠陥を消していくとしています。同社は、加熱によりアモルファス化する臨界注入量を大きくできるとし、Siプロセスの場合は注入量が10の13乗個毎平方センチメートル程度の比較的低ドーズの注入に用いられ、基板温度は200から300度で使われることが多いとしています。以上は同社の用語解説の記述です。

上げた代わりに手放すのはマスクです。同社は、高温注入では高温でも形を保つ高温対応の特殊レジストが用いられるとしています。SiCではさらに条件が動きます。同社は、SiC基板では注入で入った欠陥が後の高温アニールを通しても戻りにくく、抵抗を押し上げてしまうため、基板を500度程度まで温めて打つことが多く、とくに高濃度のAl注入では高温注入が欠かせないとしています。同社は、500度に耐えるレジストがないため、マスクにはSiO2などのハードマスクを使うとしています。フォトレジストを降りてハードマスクへ移る判断は、この温度で決まります。

下げる側も同じつまみです。同社は低温注入の項で、基板をマイナス30度程度以下まで冷やして打つと結晶がアモルファスになりやすく、あわせてアモルファス層と結晶Siの境目もなめらかになるとしています。同社は、空孔と格子間原子の対が大量にできる分だけアニールで結晶に戻りやすく、アモルファス層が厚くなってEOR欠陥の出る領域まで非晶質に含まれるので残留欠陥が少なく、主に10の15乗個毎平方センチメートル程度以上の高濃度注入に用いられることが多いとしています。温度を上げれば欠陥は減ってマスクを失い、下げれば残留欠陥は減って厚いアモルファス層を戻す仕事がRTAへ回ります。

第二のつまみは、電荷1個あたりで運ぶ原子の数です。同社は分子イオン注入の項で、BF2やN2のような分子イオンでは各原子の質量数に応じてエネルギーが分配されるとし、5キロエレクトロンボルトのBイオンと同じプロファイルを得るには、BF2では5に49を掛けて11で割った22.3キロエレクトロンボルトでの注入になるとしています。同社は、浅い接合形成には低エネルギー注入が必要である一方、エネルギーが低くなるとビームが発散して輸送効率が悪くなり、ビーム電流が低くなる問題があるとしています。同社はクラスター注入の項で、B10H14やB18H22のようなクラスターイオンは質量が大きいため加速エネルギーを高くでき、多くのビーム電流を取ることができるとしています。分子やクラスターへ寄せれば同じ分布を高い加速電圧で作れて電流が戻り、原子イオンへ戻せば輸送の余裕を失います。

測る側でも、同じことが起きます

Section titled “測る側でも、同じことが起きます”

裾が見えたとき、注入が作ったのか分析が作ったのかを分ける手順が要ります。東芝ナノアナリシスはSIMSの解説で、真空中で固体表面にCsやO2などの一次イオンを連続照射すると試料表面から原子が弾き出され、試料が次第に削れていくため深さ方向分析ができるとしています。削る手段が、叩く手段そのものです。

同社は、極表面にドーピングされたBの分布を一次イオンエネルギー250、350、500エレクトロンボルトの3水準で測って比較した結果として、10ナノメートル付近に濃度変曲点を持ち、10ナノメートル以降は3水準で一致する一方、0から10ナノメートルには差異が生じるとしています。同社は、10ナノメートル以降の緩やかな勾配に対してはいずれの水準でも分布を捉えるのに十分であるとし、0から10ナノメートルは分布が急峻なので、350エレクトロンボルトと500エレクトロンボルトでは深さ方向の分解能が届かず、一次イオンが叩き込んだ分までプロファイルに乗ってくるとしています。以上は同社の受託分析サービスの記述です。

叩き込みは、浅い側だけに出ます
極表面に注入されたBの深さ方向分布です濃度0102030深さ(ナノメートル)ここから右は一致します500エレクトロンボルト350エレクトロンボルト250エレクトロンボルト3水準が重なります0から10ナノメートルだけ、分解能の差が出ます
東芝ナノアナリシスは、一次イオンエネルギー250、350、500エレクトロンボルトの3水準で極表面のBを測ると、10ナノメートル以降は一致し、0から10ナノメートルにだけ差異が出るとしています。浅い側の急峻な分布ほど、分析が持ち込む叩き込みを引き算する手間が増えます。

つまみと代償も同社が書いています。同社は、一次イオンエネルギーは150エレクトロンボルトから15キロエレクトロンボルトの間で選択でき、低いほど高い深さ方向分解能が得られる一方、分解能と感度はトレードオフの関係にあるため必要最低限のエネルギーを選ぶ必要があるとしています。深さ軸そのものもずれます。同社は、表面近傍でスパッタ率が試料内部よりも高いため、クレーター深さから換算した深さ軸が真値からずれるとし、ISO 23812:2009に準拠した深さ校正法を導入したとしています。

高濃度層の下を見る場合には、裏返す手があります。同社は、濃い層の下へ不純物がどれだけ拡散したかを測る場面では、表面の凹凸やスパッタエッチングに伴って、濃い層に由来するクレーターエッジ効果とノックオンが混ざり込むことがあるとし、これらを避ける方法として基板側から測るBackside SIMSを挙げています。同社は、Fを添加したSiO2膜と下層SiO2膜の界面付近に表面側の分析で見えたF分布が、高濃度層の影響であることが分かったとしています。

分解能の読み方は、分析側の定義に合わせます。材料科学技術振興財団は分析事例B0243で、深さ方向分解能をイオン強度が最大の84パーセントに相当する深さと16パーセントに相当する深さの差と定義し、GaAsとAlAsの試料で約6ナノメートルと求めています。同財団は、一次イオンの入射エネルギーを下げると分解能が向上する一方、十分な電流密度が得られず深い位置までの分析や微量元素の高感度分析が難しくなるとしています。断面をTEMで見る場合も同じ筋です。

叩くこと自体を、道具に回す場面もあります

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日新イオン機器はゲッタリングの項で、プロセス中にウェーハへ入り込んだ重金属を捕獲する手法として、イオン注入によりダメージを導入する外部ゲッタリングを挙げています。同社は、デバイスを作る際の熱処理が低温へ寄った結果、金属の拡散長が短くなって捕獲が効きにくくなったとし、これに応えるかたちで、デバイスを作る領域のすぐ近くに捕獲層を置く近接ゲッタリングが注目されているとしています。同社は、そのイオン種には炭素や窒素を使うとしています。以上は同社の用語解説の記述です。壊した場所へ金属汚染を集める組み立てです。

削る側にも同じ原理が出ます。同社は材料改質の項で、材料改質には10の16乗個毎平方センチメートル以上の注入が要るとし、半導体プロセスでの用途にエッチング速度を変えること、表面の状態を変えてエリア選択のプロセスを成り立たせること、応力を制御すること、エッチング中にマスクを硬くすることなどを挙げ、エッチング速度を操って選択比を上げる使い方が注目されているとしています。同社はイオンビームエッチングの項で、加速したイオンを対象へぶつけ、スパッタリングによって物理的に削り取る技術だとし、反応性エッチングでは加工しにくい金属膜などに使うとしています。スパッタリングは、叩き出された原子が表面の外へ出た側の呼び名です。

装置の側から入ってくる分もあります。同社はメタルコンタミの項で、イオン注入での金属汚染の入口として、質量分析器やエネルギーフィルターを注入イオンと同じ軌道で抜けてくる成分、ビームラインが叩かれて出るスパッタ成分、イオン源から漏れ出る拡散成分などを挙げ、分析には全反射蛍光X線分析やICP質量分析法が用いられ、1平方センチメートルあたり10の8乗個程度までの微量金属を測れるとしています。ビームはウェーハの手前で、ビームラインの壁も叩いています。

ノックオンとは何ですか?

入射した粒子に衝突された原子が、自分の格子位置から弾き飛ばされて動く現象です。日本電子は透過電子顕微鏡の用語集で、ノックオンを、入射電子にぶつかられた原子が自分の格子点を追い出されて格子の隙間に移り、空いたその格子点が原子空孔として残る過程だとしています。

1個のイオンで、どれだけの原子が動きますか?

日新イオン機器は一次欠陥の項で、弾き飛ばされてできた欠損を空孔、格子間に存在するようになった原子を格子間原子と呼び、1個のイオン注入で数100から数万個発生するとしています。同社は、衝突を受けた原子がエネルギーを受け取って再び格子原子と衝突するカスケード現象を繰り返すとしています。

チャネリングとはどう違いますか?

見ている側が違います。チャネリングは、当たらずに進んだイオンがどこまで届くかの話です。ノックオンは、当てられた側の原子がどこへ動いたかの話です。同じ1回の注入で両方が走り、前者は深さ方向の裾に、後者は欠陥の数と位置に出ます。

現場では、いつ困りますか?

熱処理を通した後です。日新イオン機器は二次欠陥の項で、高濃度注入でアモルファス層ができた場合、飛程の少し深い位置であるアモルファスと単結晶の界面に欠陥が発生するためEOR欠陥と呼ぶとし、二次欠陥はキャリアの生成再結合中心となり接合リーク電流を引き起こすとしています。

どのつまみで動かしますか?

基板温度です。日新イオン機器は高温注入の項で、加熱により結晶欠陥の発生を抑制し、セルフアニーリング効果で発生した欠陥を消滅させることができるとし、Siプロセスでは基板温度200から300度で使われることが多いとしています。同社は低温注入の項で、マイナス30度程度以下に冷却するとアモルファス層が厚くなり、EOR欠陥が発生する領域もアモルファス化されるため残留欠陥が減るとしています。

温度を上げると、何を手放しますか?

マスク材料です。日新イオン機器は、高温注入では高温でも形を保つ高温対応の特殊レジストが用いられるとし、SiCで基板温度500度程度に上げる場合は、500度の耐熱性を持つレジストを欠くためSiO2などのハードマスクが用いられるとしています。

測ったプロファイルの裾は、注入と分析のどちらが作ったものですか?

分析側でも同じ叩き込みが起きるため、切り分けが要ります。東芝ナノアナリシスは、極表面に注入されたBを一次イオンエネルギー250、350、500エレクトロンボルトの3水準で測った例として、10ナノメートル以降は3水準が一致する一方、0から10ナノメートルには差異が生じ、350と500では深さ方向分解能が足りず一次イオンによる叩き込みがプロファイルに反映されているとしています。

  • チャネリングとは ── 当たらずに進むのがチャネリング、当てて相手を動かすのがノックオンです
  • イオン注入とは ── 入れた元素の分布を決める工程、その裏で動かされた原子の数を決めるのがノックオンです
  • 結晶欠陥(COP)とは ── 基板がもともと持つ欠陥と、注入で作った欠陥を分けて見る出発点です

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  • 日本電子「照射損傷」透過電子顕微鏡 基本用語集(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 照射損傷の定義、一次的な損傷にノックオンとイオン化があること、格子間原子と原子空孔ができる筋道
  • 日新イオン機器「一次欠陥」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── カスケード現象、1個の注入で数100から数万個という発生数、一次欠陥が速く拡散すること
  • 日新イオン機器「二次欠陥」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 転位ループとEOR欠陥、接合リーク電流へつながる筋道
  • 日新イオン機器「増速拡散」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 過剰な格子間シリコンによる過渡増速拡散
  • 日新イオン機器「活性化アニール」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 活性化率と拡散の綱引き、ミリ秒程度の短時間熱処理
  • 日新イオン機器「高温注入」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 200から300度という基板温度、SiCの500度、レジストとハードマスクの切り替え
  • 日新イオン機器「低温注入」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── マイナス30度程度以下という条件、厚いアモルファス層とEOR欠陥の関係
  • 日新イオン機器「分子イオン注入」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 質量数に応じたエネルギー分配、BF2で22.3キロエレクトロンボルトという換算
  • 日新イオン機器「クラスター注入」イオン注入ディクショナリー(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── B10H14やB18H22、電荷1個で多量の原子を運ぶ利点
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  • 東芝ナノアナリシス「二次イオン質量分析(SIMS)」受託分析サービス(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── SIMSでスパッタしながら測る原理、250、350、500エレクトロンボルトの3水準と10ナノメートル、一次イオンエネルギーの選択範囲と感度のトレードオフ
  • 東芝ナノアナリシス「高濃度層から下層膜への不純物拡散評価」受託分析サービス(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ノックオンとクレーターエッジ効果、Backside SIMSによる切り分け
  • 東芝ナノアナリシス「浅い不純物注入プロファイルの精確な評価」受託分析サービス(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 表面近傍の増速スパッタ効果による深さ軸のずれ、ISO 23812:2009に準拠した深さ校正
  • 材料科学技術振興財団「界面および深さ方向分解能について」分析事例B0243(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 84パーセントと16パーセントによる深さ方向分解能の定義、約6ナノメートルの実測、一次イオンエネルギーと感度の関係
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