ミリ秒アニールとは
ミリ秒アニールとは、ウェーハの表面をミリ秒の単位だけ高温へ持ち上げて、ドーパントを深さ方向へ動かさずに活性化する熱処理です。 キセノンフラッシュランプの閃光を使う方式が代表で、フラッシュランプアニールとも呼びます。
活性化と拡散は、同じつまみで動きます
Section titled “活性化と拡散は、同じつまみで動きます”日新イオン機器のイオン注入ディクショナリーは、活性化アニールを、注入した原子を格子位置へ入れると同時に、注入で発生した格子間原子や空孔を回復させる熱処理としています。高濃度で打ち込んで注入領域がアモルファス化した場合は、アモルファスと単結晶の界面から固相成長して結晶化しつつ、ドーパントが格子位置へ入るとしています。ここまでは温度を上げるほど進みます。同じ項は、活性化アニールの温度が高いほど活性化率は高くなる一方で、同時にドーパントが深さ方向へ拡散してしまうと述べ、先端デバイスでは拡散抑制と活性化を両立させるために、高温でミリ秒程度の短時間の熱処理が用いられるとしています。
逃げ道は温度の側より時間の側にあります。同じ辞典のサーマルバジェットの項は、熱バジェットを熱処理工程の総和とし、高温であっても加熱の時間が短ければ小さく、比較的低温でも加熱の時間が長ければ大きくなるとして、温度と時間のトータルで考える必要があると述べています。
温度をベースと上乗せの二段に分けます
Section titled “温度をベースと上乗せの二段に分けます”ミリ秒アニールの装置は、ウェーハ全体の温度と、表面だけの温度を別々に持ちます。キヤノンマーケティングジャパンは、mattson Millios Rapid Thermal Annealerの公式製品ページで、適応プロセス温度を中間温度700〜1000℃、フラッシュランプによる温度を+550℃としています。昇温レートは下部ランプで50〜150℃/秒、フラッシュランプで1×10の5乗℃/秒以上です。ウェーハサイズは300mm、標準プロセスでのスループットは55枚/時、熱処理設定時間は10秒以下で、スパイクアニールとミリ秒アニールを続けて実行できるとしています。同社が掲載する仕様値です。32nmプロセス以降の次世代デバイス向けと位置づけ、同一装置内でスパイクアニールとのプロセスインテグレーションを実現したとも述べています。
この数字の並びが、工程の形をそのまま表します。下部ランプで秒のオーダーかけてウェーハ全体を700〜1000℃へ運び、そこから表面だけをさらに550℃引き上げます。引き上げの速さは下部ランプの1000倍近くになります。表面が最高温度に触れている時間は、フラッシュの光っているあいだだけです。
表面だけが熱くなる理由
Section titled “表面だけが熱くなる理由”熱が表層にとどまる理由は、熱の伝わる時間の短さにあります。ウシオ電機はFAQで、他の熱源が照射対象を全体的に加熱するのに対し、フラッシュランプは極短時間の発光であるため、照射対象の表層付近だけを選択的に加熱できるとしています。同社はフラッシュランプの公式製品ページで、パルス幅を制御することで加熱の深さを変え、基板の熱ダメージを抑えて表層だけを加熱できるとし、フラッシュランプの波長がシリコンの吸収特性に合致するため効率よく昇温できること、大面積基板への一括照射ができることを挙げています。いずれも同社の製品ページとFAQの記載です。同社が挙げる用途には、極浅接合層の形成、シリサイド形成、超極薄酸化膜の形成、アモルファスシリコンの結晶化、SiおよびSiC基板の活性化アニールが並びます。
SCREENセミコンダクターソリューションズは、フラッシュランプアニール装置LA-3100の公式製品ページで、瞬間発光するキセノンフラッシュランプからの数ミリ秒の光照射によってウェーハの表面温度を昇降温でき、低いサーマルバジェットの熱処理ができるとしています。ソース・ドレインへ注入した不純物を高く活性化しつつ、濃度プロファイルも制御できるとし、枚葉方式のため、管理された低酸素雰囲気でアニールできるとしています。同社の製品ページの記載です。
同じページは、加熱照射時のウェーハ温度を実測する機能を新しい機能として挙げています。ここは装置を選ぶときの比較軸になります。数ミリ秒で完了する温度履歴を追うには、応答の速い温度計が要ります。キヤノンマーケティングジャパンも同製品の温度制御について、表面と裏面の両方へ超高速のラジオメータを配置し、裏面側では放射率をリアルタイムに補正する構成としています。温度で管理する工程は、その時間分解能で温度を測れる計器とセットになります。
どのつまみを、どちらへ回しますか
Section titled “どのつまみを、どちらへ回しますか”つまみは大きく2つです。1つは中間温度、もう1つはフラッシュの照射条件です。
中間温度を上げると、表面の到達温度はその分だけ上がり、フラッシュ側で足す量が減ります。ウェーハ全体が長く高温にいることになるので、イオン注入で作った分布は、その滞在時間のぶんだけ動きます。下げると全体の熱の総量は減りますが、同じ表面温度へ届かせるためにフラッシュ側の負担が増えます。中間温度の上げ下げそのものの速さは、下部ランプの昇温レートで決まります。mattson Milliosでは50〜150℃/秒とされており、これはキヤノンマーケティングジャパンが掲載する同機の仕様値です。
フラッシュ側は、パルス幅を通じて加熱の深さを動かします。ウシオ電機はパルス幅の制御で加熱深度を変えられるとしています。幅を広げれば熱の届く深さが増え、下の層まで温度が上がる代わりに、拡散する時間も長くなります。幅を詰めれば表層だけに絞れる代わりに、同じ温度へ届かせるための瞬間の投入エネルギーが増えます。
削った時間の代わりに、何を差し出しますか
Section titled “削った時間の代わりに、何を差し出しますか”差し出すものは、深さと、欠陥の回復と、測りにくさです。
1つ目は深さです。熱が表層にとどまるということは、深いところの熱処理を別に用意することを意味します。ウェルのように深い層や、裏面側の熱処理は、縦型炉アニールやRTAの受け持ちになります。キヤノンマーケティングジャパンが、同一装置内でスパイクアニールとミリ秒アニールを続けて実行できることを特長に挙げているのは、この2つを組で使うためです。ミリ秒アニールは秒のアニールの置き換えというより、その上へ乗せる層になります。
2つ目は欠陥の回復です。日新イオン機器のイオン注入ディクショナリーは、活性化アニールを、注入原子を格子位置へ入れるのと同時に格子間原子や空孔を回復させる熱処理としています。時間を削れば、この回復に使える時間も同じだけ減ります。同じ辞典は、熱処理で発生する二次欠陥として、過剰な格子間原子による転位ループや、アモルファスと単結晶の界面に生じるEOR欠陥を挙げ、これらがキャリアの生成再結合中心となって接合リーク電流を引き起こすとしています。したがって、ミリ秒アニールを入れた後に接合リークが動いたら、活性化率より先に、残った結晶欠陥(COP)の側を疑うことになります。
3つ目は、活性化率そのものに天井があることです。同じ辞典は固溶度を、物質中に許容される不純物濃度で温度によって決まる量とし、固溶度を超えて導入された原子は格子間への析出へ回るとしています。時間を詰めても、温度で決まるこの上限はそのままです。同じ辞典はシャロージャンクションの項で、浅接合には抵抗が上昇する副作用があるとし、微細なトランジスタでは比較的深いソース・ドレイン拡散層に対して、チャネル端だけへ浅接合を作るエクステンション構造が使われるとしています。接合深さと抵抗の綱引きは、ミリ秒へ落としても続きます。
どの工程へ入るか
Section titled “どの工程へ入るか”キヤノンマーケティングジャパンは、同製品のプロセスアプリケーションとして、ソース・ドレインのエクステンションの活性化、ゲート空乏層の低減、ポリシリコンの粒径の制御を挙げています。同社の製品ページの記載です。ゲート空乏層の低減は、電極の中でドーパントを活性化しきる話なので、レーザアニールやスパイクアニールで問題になる低温化の代償と、ちょうど裏表になります。低温化で電極側の活性化が足りなくなるところへ、表面だけを一瞬持ち上げる手が働きます。
時間のスケールで整列させると、拡散炉が数十分、RTAが秒、スパイクアニールが頂点で折り返す形、ミリ秒アニールが数ミリ秒、レーザアニールがさらに短い側になります。短いほど熱は表面へ集まり、深い層は前の工程で作りきる前提になります。工程表の組み方が、装置の選び方と一緒に決まります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ミリ秒アニールとは何ですか?
表面をミリ秒の単位だけ高温へ持ち上げてドーパントを活性化する熱処理です。日新イオン機器のイオン注入ディクショナリーは、先端デバイスでは拡散抑制と活性化を両立させるために、高温でミリ秒程度の短時間の熱処理が用いられるとしています。
なぜミリ秒まで短くするのですか?
活性化率と拡散が同じつまみで動くためです。同ディクショナリーは、活性化アニールの温度が高いほどドーパントの活性化率は高くなる一方で、同時にドーパントが深さ方向へ拡散してしまうとしています。温度を上げたまま時間を削れば、活性化だけを取りにいけます。
装置はどのくらいの温度と速さで動きますか?
キヤノンマーケティングジャパンはmattson Milliosの公式製品ページで、中間温度を700〜1000℃、フラッシュランプによる温度を+550℃、昇温レートを下部ランプで50〜150℃/秒、フラッシュランプで1×10の5乗℃/秒以上としています。同社の掲載する仕様値です。
なぜ表面だけが熱くなるのですか?
発光している時間が短いためです。ウシオ電機はFAQで、他の熱源が対象を全体的に加熱するのに対し、フラッシュランプは極短時間の発光なので照射対象の表層付近だけを選択的に加熱できるとしています。同社は、パルス幅を制御すると加熱の深さを変えられるとも述べています。
スパイクアニールの置き換えになりますか?
上乗せとして使う構成があります。キヤノンマーケティングジャパンは同製品について、同一装置内でスパイクアニールとのプロセスインテグレーションを実現したとし、熱処理設定時間10秒以下でスパイクアニールとミリ秒アニールを続けて実行できるとしています。同社の掲載する仕様です。
どの工程で使いますか?
同社は用途にソース・ドレインのエクステンションの活性化、ゲート空乏層の低減、ポリシリコンの粒径の制御を挙げています。ウシオ電機はフラッシュランプの用途として、極浅接合層の形成、シリサイド形成、超極薄酸化膜形成、アモルファスシリコンの結晶化、SiとSiC基板の活性化アニールを挙げています。
時間を削ると困ることはありますか?
欠陥の回復に使える時間も同時に減ります。日新イオン機器のイオン注入ディクショナリーは、活性化アニールを、注入原子を格子位置へ入れると同時に、発生した格子間原子や空孔を回復させる熱処理としています。同じ辞典は、熱処理で生じる二次欠陥がキャリアの生成再結合中心となり、接合リーク電流を引き起こすとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- スパイクアニールとは ── 秒のオーダーで頂点を折り返す方式で、ミリ秒アニールの下地としても使います
- レーザアニールとは ── さらに短い側で、局所を走査しながら加熱する方式です
- RTA(急速熱処理)とは ── ランプで1枚ずつ秒のオーダーで加熱する、ミリ秒アニールの土台にあたる工程です
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- キヤノンマーケティングジャパン「mattson Millios Rapid Thermal Annealer」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 中間温度700〜1000℃とフラッシュランプ+550℃、下部ランプ50〜150℃/秒とフラッシュランプ1×10の5乗℃/秒以上、熱処理設定時間10秒以下、55枚/時、超高速ラジオメータと放射率補正、用途の一覧
- SCREENセミコンダクターソリューションズ「フラッシュランプアニール装置 LA-3100」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── キセノンフラッシュランプの数ミリ秒の光照射、低サーマルバジェット、枚葉の低酸素雰囲気、加熱照射時のウェーハ温度の実測機能
- ウシオ電機「ウシオの光加熱 フラッシュランプ」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── パルス幅制御による加熱深度の調整、シリコンの吸収特性との合致、大面積一括照射、極浅接合層形成やSiとSiC基板の活性化アニールなどの用途
- ウシオ電機「FAQ「瞬間加熱・高温焼成 フラッシュランプアニール」」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 極短時間の発光により照射対象の表層付近だけを選択的に加熱できること
- 日新イオン機器「イオン注入ディクショナリー「活性化アニール」」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 格子位置への取り込みと欠陥回復、固相成長、温度が高いほど活性化率が上がる一方で拡散すること、先端デバイスでのミリ秒程度の短時間熱処理
- 日新イオン機器「イオン注入ディクショナリー「サーマルバジェット」」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 熱処理工程の総和、高温でも短時間なら小さく低温でも長時間なら大きくなること
- 日新イオン機器「イオン注入ディクショナリー「二次欠陥」」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 転位ループとEOR欠陥、生成再結合中心となって接合リーク電流を引き起こすこと
- 日新イオン機器「イオン注入ディクショナリー「シャロージャンクション」」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 浅接合の抵抗上昇という副作用、チャネル端だけへ浅接合を作るエクステンション構造
- 日新イオン機器「イオン注入ディクショナリー「固溶度」」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 固溶度が温度で決まること、超えて導入された原子の格子間への析出