過渡増速拡散(TED)とは
過渡増速拡散(TED)とは、イオン注入の後のアニールで、その立ち上がりの区間に限ってドーパントが通常の熱拡散より速く動く現象です。 SEAJ(日本半導体製造装置協会)は半導体製造装置用語集で、TEDをイオン注入後のアニールの初期段階に認められる通常より拡散速度の速い不純物拡散だとしています。
見積りより深くなるのは、Dの側が動いているためです
Section titled “見積りより深くなるのは、Dの側が動いているためです”見積りの出発点は拡散係数です。日新イオン機器はイオン注入ディクショナリーの拡散係数の項で、濃度勾配があればドーパントはフィックの法則に従って拡散するとし、拡散係数Dは温度の関数で、拡散粒子と物質によって決まるとしています。同社は、拡散長Lは√(Dt)で表され、tは熱処理時間だとしています。
この式のとおりなら、アニールの温度と時間を決めた時点で接合の伸びも決まります。実際には、同じ温度と時間でも、その手前の注入の履歴で伸びが変わります。Dの側が注入の履歴で上下するためです。
日新イオン機器は増速拡散の項で、熱処理の途中で通常より速く進む拡散を増速拡散と呼び、酸化やシリサイド化によって格子間シリコンが過剰に供給された条件では、ドーパントがその過剰シリコンと対を組んで速く動くとしています。同社は、イオン注入では過剰な格子間シリコンからなる{311}欠陥との相互作用によりドーパントが異常拡散することが知られているとし、この現象を過渡増速拡散(TED)と呼ぶとしています。以上は同社の用語解説の記述です。
「過渡」が示すのは、速い区間が有限であることです。格子間シリコンという在庫が供給源として残っているあいだだけ速く進み、在庫が尽きれば通常の拡散へ戻ります。レシピの熱量が同じでも、在庫の量が違えば接合深さが違います。
在庫を作るのは、注入1発ぶんのカスケードです
Section titled “在庫を作るのは、注入1発ぶんのカスケードです”供給源は前工程で作られます。日新イオン機器は一次欠陥の項で、注入されたイオンが格子原子と衝突すると、弾き飛ばされた原子がエネルギーを受け取ってさらに格子原子と衝突するカスケードを繰り返すとしています。同社は、弾き飛ばされてできた欠損を空孔、格子間に存在する原子を格子間原子と呼び、1個のイオン注入で数100から数万個発生するとしています。同社は、これらの空孔や格子間原子およびその複合体を一次欠陥あるいは点欠陥と呼び、格子原子と対になって非常に速く拡散すると知られているとしています。以上は同社の用語解説の記述です。
数100から数万個という幅は、イオン種とエネルギーで決まる幅です。イオン注入のドーズ量とエネルギーを確定した時点で、後のアニールで供給される在庫の量も確定しています。見積りの手立てもあります。同社はモンテカルロシミュレーションの項で、この方法は注入イオンの分布に加えて格子間原子や空孔の分布も計算できるとし、代表例としてSRIM/TRIMコードと、ターゲット側の結晶性まで織り込んだCrystal-TRIM、MARLOWEコードを挙げています。
在庫の行き先は2つあります。1つはドーパントとペアを組んで拡散を速める側で、もう1つは熱処理で集まって残る側です。同社は二次欠陥の項で、イオン注入後の熱処理では過剰な格子間原子の発生による転位ループや酸素誘起積層欠陥(OSF)が発生するとし、高濃度注入でアモルファス層が形成された場合には、注入の飛程の少し深い位置であるアモルファスと単結晶の界面に発生するためEOR(End of range)欠陥と呼ぶとしています。同社は、二次欠陥がキャリアの生成再結合中心として働き、接合リーク電流を招くとしています。同じ熱処理が、結晶欠陥の側とドーパントの側を同時に動かします。
出方は、接合深さの伸びとシート抵抗のずれです
Section titled “出方は、接合深さの伸びとシート抵抗のずれです”作用する先は接合の深さです。日新イオン機器はシャロージャンクションの項で、MOSトランジスタの微細化とともに短チャネル効果を抑制するために浅接合が必要になるとし、浅接合を形成するには注入エネルギーの低加速化に加えて、注入後の熱処理による拡散を抑制する必要があるとしています。同社は、浅くするほど抵抗が上がる副作用も出るため、微細トランジスタではチャネル端だけを浅接合にするエクステンション構造が使われるとしています。以上は同社の用語解説の記述です。TEDが乗るのは、この浅接合の側です。
深さを直接測るのは深さ方向の濃度分布です。同社はSIMS(二次イオン質量分析法)の項で、この方法はイオン注入分布とその後のアニールによる拡散状態を調べるために広く用いられるとしています。注入直後のプロファイルとアニール後のプロファイルを重ねれば、伸びた分がそのまま数値になります。
電気側と重ねると、活性化と拡散を切り分けられます。同社は拡がり抵抗法の項で、SR法は斜め研磨した試料の拡がり抵抗から深さ方向のキャリア濃度分布を求める方法だとし、SIMSによる注入イオンの分布と合わせることで活性化率を求められるとしています。日々のQCは四探針法によるシート抵抗です。同社はシート抵抗の項で、シート抵抗はイオン注入層の濃度と深さに依存するため、イオン注入装置のQC法として広く用いられるとしています。TEDが動いた日は活性化率がそのままでも深さが動くため、シート抵抗の1点だけで原因を切り分けると読み違えます。
つまみの1つめは、熱の入れ方の形です
Section titled “つまみの1つめは、熱の入れ方の形です”温度には逆向きの2本の要求がかかります。日新イオン機器は活性化アニールの項で、活性化アニールの温度が高いほどドーパントが活性化する割合(活性化率)が高くなるとし、同時にドーパントが深さ方向に拡散してしまうとしています。同社は、先端デバイスでは拡散抑制と活性化を両立させるために、高温でミリ秒程度の短時間での熱処理が用いられるとしています。以上は同社の用語解説の記述です。
温度を上げると活性化率が上がってシート抵抗が下がる一方、在庫が溶ける速さも上がって接合が深くなります。温度を下げると接合は浅く保てますが、活性化率が落ちてシート抵抗が上がり、エクステンションの寄生抵抗として跳ね返ります。
そこで削るのは時間の側です。SEAJは半導体製造装置用語集でスパイクアニールを極短時間の急速加熱処理とし、昇温速度と降温速度の例として300℃/sから100℃/sが報告されているとしています。これはSEAJの用語集に載る報告例です。頂点で折り返して保持を作らなければ、在庫が溶けている区間にかける時間そのものが短くなります。条件の組み方はスパイクアニールとRTA(急速熱処理)にまとめてあります。
さらに短い側もあります。SCREENセミコンダクターソリューションズはフラッシュランプアニール装置LA-3100の製品ページで、キセノンフラッシュランプを瞬間発光させ、数ミリ秒だけ光を当てることでウェーハ表面の温度を中高速に上げ下げでき、サーマルバジェットを低く抑えた熱処理になったとしています。同社は、これによってソースドレインの不純物を高く活性化しながら、濃度プロファイルの側も精密に制御できるとしています。以上は同社の製品ページの記述です。同社は同じページで、ウェーハ全面へミリ秒単位で制御された熱処理を行いながら、加熱照射時のウェーハ温度を実測定する機能を搭載したとしています。ミリ秒側へ短くするほど、温度そのものを測る手当てが要ります。局所加熱の系統はレーザアニールです。
総和の勘定も同時に動きます。同社はサーマルバジェットの項で、高温であっても時間が短ければサーマルバジェットは小さく、比較的低温でも時間が長ければ大きくなるとし、温度と時間のトータルで考える必要があるとしています。温度だけを並べた比較では、熱バジェットの総和が別物になります。
つまみの2つめは、注入側の下ごしらえです
Section titled “つまみの2つめは、注入側の下ごしらえです”在庫の量そのものを注入の側で減らせます。日新イオン機器は高温注入の項で、ヒーターなどで基板を温めながら打ち込む技術だとし、加熱した状態では注入で生じる結晶欠陥そのものが減り、あわせてセルフアニーリング効果が働いて、できた欠陥も消えるとしています。同社は、Siプロセスでは1E13/cm2程度の比較的低ドーズな注入に使い、基板温度は200から300℃とすることが多いとしています。同社は、マスク材には高温でも形を保つ高温対応の特殊レジストを使うとしています。以上は同社の用語解説の記述です。基板温度を上げるほど在庫は減りますが、その分だけフォトレジストの選択肢が狭まります。
逆向きに、壊しきってしまう手もあります。同社は低温注入の項で、基板をマイナス30℃程度以下に冷却しながら注入すると結晶がアモルファス化しやすくなり、アモルファス層と結晶Siの界面もスムースになるとしています。同社は、高濃度注入後の結晶回復では飛程より少し深い位置にEOR欠陥が残留しやすいところ、低温注入ではアモルファス層が厚くなってEOR欠陥が発生する領域までアモルファス化されるため、残留欠陥が減るとしています。同社は、低温注入を1E15/cm2程度以上の高濃度な注入で使うことが多いとしています。
同じ系統の前処理がプリアモルファス化です。同社はプリアモルファス化の項で、浅接合の形成でチャネリングにより分布がテールを引くことを避けるため、ドーパントの注入前に結晶を非晶質化する工程だとし、SiデバイスではSiやGeのイオンが用いられるとしています。同社は、この工程では結晶回復のプロセスと、ドーパントとの位置関係がパラメータになるとしています。裾そのものはチャネリングの側で減りますが、壊した層を回復させる仕事は熱処理側へ移ります。
3つめは、ドーパント以外のイオンを一緒に入れることです。同社はコインプラの項で、ドーパントと同時にドーパント以外のイオンを注入することでドーパントの拡散や活性化を制御する技術だとし、Siの場合はボロン(B)の拡散を抑制するために窒素(N)や炭素(C)を同時に注入するとしています。同社は、過剰に導入された格子間のN原子とC原子がBの拡散を抑制し、浅接合の形成が可能になるとしています。両側があります。同社は、フッ素(F)を注入した場合はBの拡散が増速される一方、不活性化も抑制されるとしています。拡散を抑える側を取るか、活性を保つ側を取るかで、足す元素が入れ替わります。
濃度の上限も同時に作用します。同社は固溶度の項で、固溶度は物質中に許容される不純物濃度で温度によって決まるとし、固溶度以上に導入された原子は格子間に析出した状態になるとしています。シート抵抗を下げにいってドーズ量を上げる方向は、在庫の量と析出の両方を増やす方向です。
取引は、活性化率と接合深さと残留欠陥の3つで組みます
Section titled “取引は、活性化率と接合深さと残留欠陥の3つで組みます”- 温度を上げると、活性化率が上がってシート抵抗が下がり、接合は深くなります。下げると逆向きに動きます。
- 保持時間を削ってスパイクやミリ秒側へ短くすると、接合は浅く保てます。代わりに、照射中のウェーハ温度を実測する手当てが要ります。
- 高温注入で在庫そのものを減らすと、欠陥の発生が抑えられます。代わりに、マスク材が高温対応の特殊レジストへ限られます。
- 低温注入やプリアモルファス化で壊しきると、EOR欠陥の残留が減ります。代わりに、結晶回復の条件設計が熱処理側へ移ります。
- コインプラで窒素や炭素を足すと、ボロンの拡散が抑えられます。フッ素を足すと拡散は増速され、不活性化のほうが抑えられます。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”過渡増速拡散とは何ですか?
イオン注入の後のアニールで、その立ち上がりの区間に限ってドーパントが通常の熱拡散より速く動く現象です。SEAJは半導体製造装置用語集で、TEDをイオン注入後のアニールの初期段階に認められる通常より拡散速度の速い不純物拡散だとしています。
なぜ「過渡」と呼ぶのですか?
速い区間が有限であるためです。日新イオン機器は増速拡散の項で、イオン注入では過剰な格子間シリコンからなる欠陥との相互作用によってドーパントが異常拡散するとしています。供給源である格子間シリコンが残っているあいだだけ速く進み、尽きれば通常の拡散へ戻ります。
現場ではどこに出ますか?
接合深さの伸びと、シート抵抗のずれです。同じレシピの温度と時間でも、手前の注入条件が違えば深さが変わります。日新イオン機器はシャロージャンクションの項で、浅接合を作るには注入エネルギーの低加速化に加えて注入後の熱処理による拡散の抑制が要るとしています。
何を測ると分かりますか?
深さ方向の濃度分布です。日新イオン機器はSIMSの項で、イオン注入分布とその後のアニールによる拡散状態を調べるために広く用いられるとしています。同社は拡がり抵抗法の項で、SR法の結果とSIMSの分布を合わせると活性化率が求まるとしています。日々のQCはシート抵抗の四探針測定です。
どのつまみで抑えますか?
熱の入れ方の形です。日新イオン機器は活性化アニールの項で、先端デバイスでは拡散抑制と活性化を両立させるために高温でミリ秒程度の短時間の熱処理が用いられるとしています。SEAJはスパイクアニールについて、昇温速度と降温速度の例として300℃/sから100℃/sが報告されているとしています。
注入の側でできる手はありますか?
あります。日新イオン機器は高温注入の項で、基板を加熱しながら注入すると結晶欠陥の発生を抑制でき、Siプロセスでは基板温度200から300℃、注入量1E13/cm2程度の比較的低ドーズで使われることが多いとしています。同社はコインプラの項で、ボロンの拡散を抑えるために窒素や炭素を同時に注入するとしています。
抑えた代わりに何を差し出しますか?
温度を下げれば接合は浅く保てますが、日新イオン機器の活性化アニールの項によれば活性化率が下がるため、シート抵抗が上がります。高温注入では高温対応の特殊レジストへマスク材が限られます。低温注入やプリアモルファス化では、壊した層を回復させる条件設計が熱処理側へ移ります。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- スパイクアニールとは ── 在庫が溶けている区間にかける時間を、頂点で折り返して削る熱処理です
- ドーパント活性化とは ── 同じ熱で得たい側が活性化率、失う側が接合深さです
- チャネリングとは ── 裾を作るのが注入の角度、その裾を伸ばすのがアニールの熱です
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