ダイシフトとは
ダイシフトとは、基板の上に並べ直したダイの実際の位置が、設計上の位置に対してずれる現象です。 ずれた分だけ、あとから描く配線の行き先が変わります。
NEDOとオーク製作所は、2025年8月27日のニュースリリースで、先端パッケージの一つの型を挙げています。配線をつなぐための小さなチップを中間基板であるインターポーザの中へ埋め込み、その上に載せる半導体チップどうしを電気的につなぐ型です。両者は、埋め込んだチップの実際の位置と設計上の位置とのズレをダイシフトと呼び、それに応じた露光位置の補正が要るとしています。
なぜこの現象が生まれるのかは、ファンアウトの作り方をたどると分かります。SEAJの用語集は、FOWLPを、チップと配線基板をつなぐ再配線層を半導体工程で作るウェーハレベルパッケージの一種としています。同用語集によれば、できあがるパッケージはチップそのものより広い面積を持ち、端子をチップの外側まで引き出せます。FOPLPについては、FOWLPの一括製造の考え方をウェーハより大きなパネルへ広げたものとし、パネルの材料としてプリント基板やガラス基板を挙げています。
工程の順はこうなります。ウェーハを個片化し、ダイをキャリアの上へ間隔を空けて配置し、樹脂で固めて1枚の板に仕立て、その上に再配線層を作ります。ここで、描いた配線はダイのパッドへ当たる必要があります。前工程のリソグラフィでは位置の基準がウェーハ1枚でしたが、ここでの基準は1つ1つのダイです。ダイが動いていれば、設計座標どおりに描いた配線はパッドの縁へ掛かります。ファンアウトパッケージやチップレットの歩留まりが、この一点で決まります。
ダイは、樹脂で固める工程で動きます
Section titled “ダイは、樹脂で固める工程で動きます”TOWAは、樹脂成形技術のページで、半導体の樹脂封止をトランスファ方式とコンプレッション方式の2つに分けています。トランスファ方式は、プランジャの中でいったん溶かした樹脂をキャビティへ送り込み、そこで固める方式です。コンプレッション方式は、液状または顆粒状の樹脂をキャビティへ先に入れて溶かし、そこへワークを浸して形をつくる方式です。
同社は、コンプレッション方式について、樹脂の流動がごくわずかであり、チップやワイヤへの影響を最小限に抑えられるとしています。ゲートやランナが不要になるため樹脂の使用効率がほぼ100%になる点、ワークにかかる圧力を下げられる点も挙げています。樹脂の流動が抑えられる点を利点として並べているところからは、樹脂が流れる工程がチップを動かす力を持つことが読み取れます。
同社はさらに、フェイスダウン方式とフェイスアップ方式を比べた表を掲げ、樹脂流動性、チップシフト、真空度、SIP製品、フィラー分離(反りの要因)の5項目を並べています。チップシフトの項目は、フェイスダウンが◯、フェイスアップが△です。同社は、フェイスダウン方式がフェイスアップ方式と比べて成形時に生じる反りが小さく、優位性が認められるとしています。この節の記述は、同社が公表する技術ページによります。
直すのは、描くパターンの側です
Section titled “直すのは、描くパターンの側です”ずれたダイを1つずつ動かして設計座標へ揃える作業は、量産の速度と釣り合う範囲を超えます。そこで、直す相手を入れ替えます。オーク製作所は、NEDOとの共同リリースで、ダイバイダイ・アライメント技術を開発したとしています。同リリースの注釈によれば、この技術はキャリアへ並べ直したダイを1つずつ測って現在地をつかみ、焼き付けるパターンの側をその現在地へ合わせ込みます。
土台になるのは、フォトマスクを用いる代わりに回路パターンを直接焼き付けるダイレクト露光です。同リリースによれば、オーク製作所は空間光変調素子を高速で制御する技術と高解像光学系により、回路基板上の感光性材料へ線幅1μmの回路を形成し、有機材料上で線幅2μmの銅めっき配線が実現可能であることも確かめています。位置合わせは、繰り返しの再現性を高めた本体ステージと、基材のアライメントマークを高精度カメラで見つけるしくみが支え、露光の最中に位置を補正します。同社はこれにより、510×515mmの露光サイズ全面にわたり0.5μmの精度でパターンを配置できるとしています。この510×515mmという寸法は、SEMI規格SEMI3D20がパネルレベルパッケージ向けに定めた標準寸法の1つにあたります。この段落の数値と条件は、同リリースによります。
露光の側は、マスクをやめて大判へ向かいます
Section titled “露光の側は、マスクをやめて大判へ向かいます”ニコンは2025年7月16日の報道資料で、アドバンストパッケージング向けのデジタル露光装置DSP-100の受注開始を発表しています。同社が挙げる仕様は、解像度1.0μm(L/S)、光源はi線相当、重ね合わせ精度は±0.3μm以下、対応基板サイズは角型基板で600×600mmまで、スループットは510×515mm基板の場合に1時間あたり50パネルです。受注開始が2025年7月、上市予定が2026年度中です。
方式にも意味があります。同社は、DSP-100がフォトマスクを使う代わりに、回路パターンを映したSLM(空間光変調器)へ光源の光を当て、投影レンズを通して基板へ写し取るとしています。これにより、フォトマスクの寸法によらず大型のアドバンストパッケージングへ対応でき、フォトマスクを作る手間の分だけコストとリードタイムも抑えられるとしています。同社はまた、角型基板では100mm角の大型パッケージについて300mmウェハ比で9倍の生産性を実現し、アドバンストパッケージングで課題となる基板の反りや変形についても高い精度で補正するとしています。この段落の仕様と数値は、同社が公表する報道資料によります。
パターンがデータとして与えられる方式であれば、描く内容を基板ごとに変えられます。ダイシフトへの補正が露光工程で成り立つのは、この性質があるためです。
並べ直す手間を減らすと、貼る力の取引が出てきます
Section titled “並べ直す手間を減らすと、貼る力の取引が出てきます”ずれの入り口である再配置の工程そのものへ手を入れた例もあります。日立化成(現レゾナック)のテクニカルレポートNo.61(2019年1月、本田一尊ほか)は、WLPの組立工程でダイシング後にマウンター装置でダイをキャリアへ再配置する従来の進め方について、ダイの小型化や薄型化に伴い1つ1つの配置に時間を要し、ハンドリングの際にダイクラックが生じる課題を挙げています。
同レポートが報告する新しい進め方は、エキスパンドフィルム上でダイ間隔を広げてからキャリアへ一括転写するもので、再配置の工程そのものを省けます。示された値は次のとおりです。ピール強度は、従来のダイシングフィルムがUV照射前1.0N、エキスパンドフィルムが6.0Nで、UV照射後はどちらも0.2Nです(ピール強度の幅25mm)。ダイ間隔は、ダイシング後の約0.05mmに対して、エキスパンド後は1.5mmまで広げられます。測定の対象は8インチウェーハ、ダイサイズ5mm×5mmで、エキスパンド条件は温度50℃、突き上げ速度5mm/s、突き上げ高さ100mmです。同レポートは、拡幅の後とモールドの後に外観を観察してダイ間隔を測った結果として、一連の工程でのダイ剥離とダイシフトの発生数をいずれもゼロと報告しています。この段落の数値と条件は、同レポートによります。
ここに取引が出ています。ダイを大きく広げるあいだはフィルムがダイを強く保持する必要があり、キャリアへ渡すときには弱い保持へ切り替える必要があります。UV照射前の6.0Nと照射後の0.2Nという2つの値は、この相反する要求を1枚のフィルムで両立させた結果です。保持を強めるほど剥がす工程が難しくなる、という関係が数字に表れています。
パネルを大きくするほど、取り数と位置合わせが同時に増えます
Section titled “パネルを大きくするほど、取り数と位置合わせが同時に増えます”TOWAはCPMシリーズの製品ページで、CPM1080を12インチ(φ300mm)のFOWLP/FIWLPや320mm×320mmのFOPLP/FIPLPの樹脂成形に適した装置とし、1台で顆粒樹脂と液状樹脂の両方へ対応する点、離型フィルムのプリカット方式により1成形あたりのフィルム使用量を約25%削減する点(同社比)を挙げています。CPM1080-HPについては、HBM、2.5D、3D、チップレットおよびFOWLP/PLPなどの先端パッケージに適した装置とし、モールド厚み平坦度と到達真空度の向上を挙げています。CPM1180では、最大625mm×620mmの超大判パネルの自動成形が可能としています。この段落の仕様は、同社が公表する製品ページによります。
パネルが大きくなるほど、1枚あたりの取り数は増えます。ニコンが挙げる100mm角パッケージでの9倍という値は、その差を表しています。一方で、面が広がるほど、端から端まで0.5μmや±0.3μmの精度で位置を合わせる仕事の量も増えます。TOWAが反りとフィラー分離を比較表の項目に並べているとおり、パネルが大きくなるほど平らさを保つ仕事も増えます。
まとめると、ダイシフトへの手は2種類です。樹脂の流れと収縮でダイが動く量そのものを小さくする手と、動いたあとの位置を測って描く側を合わせる手です。前者はモールドの方式と保持材が担い、後者は露光装置の計測とデータ補正が担います。どちらの手も、パネルが大きくなるほど負担が増えます。3D積層の生産計画は、この2つの負担の配分を選ぶ作業でもあります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”ダイシフトとは何ですか?
基板の上に並べ直したダイの実際の位置が、設計上の位置に対してずれる現象です。NEDOとオーク製作所は、インターポーザ内へ埋め込んだチップについて、実際の位置と設計上の位置とのズレをダイシフトと呼んでいます。
なぜダイシフトが起きるのですか?
ダイを樹脂で固める工程が挟まるためです。TOWAは、コンプレッション方式の利点として樹脂の流動が抑えられる点とチップやワイヤへの影響が最小限になる点を挙げ、フェイスダウン方式とフェイスアップ方式の比較表ではチップシフトの項目をフェイスダウンが◯、フェイスアップが△としています。
ダイシフトがあると何が困るのですか?
あとから描く再配線層が、ダイのパッドの縁へ掛かります。SEAJは、FOWLPを、端子をチップの外側まで広げるために再配線層を半導体工程で作るパッケージとしています。この作り方では、位置の基準がウェーハ1枚から1つ1つのダイへ移ります。
どうやって直すのですか?
描くパターンの側を合わせます。オーク製作所は、並べ直したダイの現在地を1つずつ測り、焼き付けるパターンをその現在地へ合わせ込むダイバイダイ・アライメント技術を開発したと、NEDOとの共同リリースで述べています。
どのくらいの精度が要りますか?
NEDOとオーク製作所は、510×515mmの露光サイズであれば、その全面にわたり0.5μmの精度でパターンを配置できるとしています。ニコンはデジタル露光装置DSP-100の重ね合わせ精度を±0.3μm以下としています。
並べ直す工程そのものを減らせますか?
日立化成は技術レポートで、マウンター装置による1つずつの再配置に代えて、エキスパンドフィルム上でダイ間隔を広げてからキャリアへ一括転写する工程を報告しています。同レポートは、8インチウェーハ・ダイサイズ5mm角の条件で、ダイシング後の約0.05mmの間隔を1.5mmまで広げられるとしています。
パネルを大きくすると何が起きますか?
1枚あたりの取り数が増える一方、位置を合わせる仕事の量も増えます。TOWAはCPM1180で最大625mm×620mmの超大判パネルの自動成形を挙げ、ニコンは100mm角の大型パッケージについて300mmウェハと比べて9倍の生産性としています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ファンアウトパッケージとは ── ダイシフトが生まれる舞台そのものです
- 再配線層(RDL)とは ── ずれた位置へ合わせて描く相手です
- 反りとは ── 同じパネルで同時に起きる、面の側の変形です
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- NEDO・オーク製作所「オーク製作所が高解像・高精度なダイレクト露光装置を開発しました」ニュースリリース(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── ダイシフトの意味、ダイバイダイ・アライメント、510×515mm全面で0.5μmの精度、線幅1μmの回路と線幅2μmの銅めっき配線、SEMI3D20の標準サイズ
- TOWA「樹脂成形技術/トランスファモールド・コンプレッションモールド」技術ページ(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 2つの成形方式の中身、樹脂流動とチップやワイヤへの影響、樹脂使用効率ほぼ100%、フェイスダウンとフェイスアップの比較表とチップシフトの評点
- TOWA「CPMシリーズ」製品ページ(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── CPM1080の12インチとFOPLP320mm角への対応、フィルム使用量約25%削減、CPM1080-HPの適用範囲、CPM1180の625mm×620mm
- ニコン「デジタル露光装置「DSP-100」の受注開始」報道資料(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 解像度1.0μm、重ね合わせ精度±0.3μm以下、600×600mm、510×515mm基板で50パネル毎時、SLM方式、300mmウェハ比9倍の生産性、反りや変形の補正
- 日立化成「テクニカルレポートNo.61 半導体プロセスの高生産化技術」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 再配置工程の課題、エキスパンドフィルムのピール強度1.0N/6.0N/0.2N、ダイ間隔0.05mmから1.5mm、8インチ・5mm角・50℃などの測定条件、ダイ剥離とダイシフトの発生ゼロ
- 日本半導体製造装置協会(SEAJ)「半導体製造装置用語集(組立)」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── FOWLP、FOPLP、再配線層、3D実装の各項目の記述