FIB(集束イオンビーム)とは
FIB(集束イオンビーム)とは、細く絞ったイオンのビームを試料に当て、表面を像として見ながら、その場で狙った1点だけを削り取る装置です。 名前はFocused Ion Beamの頭文字です。
不良解析の現場では、電気の測定で「このチップが落ちました」というところまでは早く分かります。困るのはその先です。どの層のどこがどう壊れているのかを言うには、内側の姿が要ります。
東京都立産業技術研究センターの設備紹介は、不良要因の調査ではまず表面を観察し、表面の観察で判断できる範囲を超えた要因については、内部の断面まで観察へ進む場合が多いと述べています。そのうえで、数十μm以下の微小な領域について、機械加工で断面を作ることは非常に困難であるとしています。同センターの記述です。
この隙間を埋めるのがFIBです。日本電子のアプリケーションノートは、ガリウムの液体金属イオン源へ引き出し電極の電界をかけてイオンビームを取り出し、コンデンサーレンズと対物レンズという2組の静電レンズで細く絞って試料上へ集める構成を示しています。走査は偏向板が担い、SEMと同じようにビームをX方向とY方向へ振ります。
日本分析機器工業会(JAIMA)の解説も同じ構成を示し、試料から出る二次電子を走査に合わせて拾って走査顕微鏡像を作ること、その像の上で加工する範囲を決め、決めた範囲へだけビームを当てて削ることを述べています。像を見て、その像の上で削る場所を指定する、という順番です。
なぜイオンを使うのか
Section titled “なぜイオンを使うのか”同解説は、イオンの質量が電子よりはるかに大きいため、試料の原子と強く相互作用すると述べています。この重さの差が、そのまま削れるかどうかの差になります。原理としてはスパッタリングと同じで、当たったイオンが試料の原子をはじき出します。
ガリウムが選ばれる理由も3つ挙げられています。1つは、原子量69.723という比較的重い原子のため、加工に足りるスパッタリング速度が出ることです。2つめは、融点29.8℃という低さのおかげで、一度温めれば過冷却によって室温でも液体の状態を保つことです。3つめは、タングステンの針に対して化学的に安定でありながら濡れ性も保つため、針先へ流れる量が安定することです。市販の汎用機のビーム仕様についても、電流は1pAから100nA、電圧は30kV程度までの範囲に収まるものがほとんどだとしています。同解説が示す理由と値です。
写す・削る・付ける
Section titled “写す・削る・付ける”FIBの働きは3つに分けて示されています。JAIMAの区分では、写す(SIM)、削る(スパッタリング)、付ける(FIB-AD)です。
写す側では、イオンが最初にぶつかった時点で運動エネルギーの大半を使い切るため、画像になるのは試料のいちばん外側です。結晶になっている試料では、チャネリングによるコントラストが強く出ます。日本電子も、SIM像のコントラストを表題にしたアプリケーションノートで、この像がSEM像とは別のコントラストになること、結晶の向きを映すコントラストがよく出るため金属の組織を調べる用途に向くことを述べています。
削る側では、ビームが飛んでくる向きに沿って形が付きます。走査する場所と当てる時間を組み合わせると、立体的な形も彫れます。材料を取り除くという点ではエッチングと同じ操作ですが、FIBでは設定した範囲へだけビームを当てて削ります。
付ける側では、ガスを併用すると狭い範囲にだけ膜を作れます。都産技研は、ガスノズルで原料ガスを当てるとビームの当たった範囲にだけ炭素・タングステン・白金などを積めるとし、この働きが試料表面の保護や配線をつなぐ用途へ使えると述べています。
現場では何をするのか
Section titled “現場では何をするのか”一番多い使い道は、透過電子顕微鏡(TEM)で観察するための薄い試料を作ることです。日鉄テクノロジーは、FIBが主にTEMの薄片試料作製のために利用され、SEMを載せたFIB-SEM複合装置なら、場所を決めた断面の加工と観察に加えて、立体での観察まで行えると述べています。
手順は都産技研の記述が具体的です。観察したい範囲の上へ保護層を置き、その周りをFIBで削り落とします。残った塊へ金属プローブをデポジションでくっつけ、下側を削り切って基材から離します。取り出した薄片をTEM用のメッシュへ付け替え、プローブを切り離してから、両面を削って電子線が抜ける厚さまで追い込みます。
どこまで薄くするかについて、JAIMAは、厚さを100nm以下まで落とすと高エネルギーの電子線が通り抜けてTEMでの観察ができるとし、最先端デバイスでは構造どうしを切り分けるために10nm程度まで落とす必要が生じているとしています。日鉄テクノロジーは、関心のある領域を100nm未満の位置精度で加工でき、機械加工やイオンミリングを使う場合よりも加工のダメージと凹凸を抑えられるとしています。いずれも各社が自社の装置や解説で示した値です。
何を差し出すのか
Section titled “何を差し出すのか”削る道具である以上、代償があります。JAIMAは、FIBの加工面にダメージ層ができるとし、シリコンを断面加工する場合は加速電圧を10kVまで下げた条件でも9nm程度のアモルファス層が生じると述べています。ですから実際の加工では、この層の分を織り込んでビーム条件を選ぶことになります。同解説が示す値です。
薄い層を測る場面ほど、この9nmが結論を左右します。膜の厚みそのものが数nmから数十nmのバリアメタルや高誘電率膜を測るとき、加工でくずれた層と本来の膜を取り違えると、答えが変わります。
狭い代わりに、正確です
Section titled “狭い代わりに、正確です”もう1つの代償は、一度に扱える範囲の狭さです。日本電子が示した比較では、FIBの最大加工幅は数100μmで、加工位置精度は10nm程度です。一方、アルゴンの広いイオンビームを使うCP(クロスセクションポリッシャ)は最大加工幅8mm、加工位置精度3μm程度です。位置を絞る精度と、見渡せる広さが逆になっています。
広さの側を埋める動きもあります。JAIMAは、ICPプラズマのイオン源を使うFIBならμAオーダーのビームも作れ、TSVのような大面積の加工へ用いられ始めていると述べています。ロームも、分析センターが現在5台のFIBを持ち、いちばん新しいプラズマFIBなら数百ミクロン規模の断面まで解析できると公表しています。いずれも各社が自社の装置や解説で示した値です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”FIB(集束イオンビーム)とは何ですか?
細く絞ったイオンのビームを試料に当て、表面を像として見ながら、その場で狙った1点だけを削り取る装置です。日本電子は、ガリウムの液体金属イオン源から発生させたイオンビームを2組の静電レンズで縮小して試料上へ集束させる構成を示しています。
イオンビームを使うと何ができるのですか?
像の取得に加えて、加工まで行えます。日本分析機器工業会の解説は、イオンの質量が電子よりはるかに大きいため、試料の原子と強く相互作用すると述べています。この重さの差によって、像の上で削る場所を指定し、そのまま加工へ進めます。
なぜガリウムを使うのですか?
同解説は3つの理由を挙げています。原子量69.723という比較的重い原子のため加工に足りるスパッタリング速度が出ること、融点29.8℃という低さのおかげで一度温めれば過冷却により室温でも液体の状態を保つこと、タングステンの針に対して化学的に安定でありながら濡れ性も保つため針先へ流れる量が安定することです。
FIBで何ができるのですか?
同解説は3つの働きに分けて示しています。写す(SIM像の取得)、削る(スパッタリングによる加工)、付ける(ガスを併用したデポジション膜の形成)です。付ける働きは、都産技研によれば試料表面の保護や配線をつなぐ用途へ使えます。
TEM観察には、どこまで薄くするのですか?
同解説によれば、厚さを100nm以下まで落とすと高エネルギーの電子線が通り抜けるようになり、TEMでの観察へ進めます。最先端デバイスでは、構造どうしを切り分けるために10nm程度まで落とす必要が生じているとしています。
加工した面はそのまま信じてよいのですか?
ダメージ層の厚みを差し引いて判断します。同解説は、FIBの加工面にダメージ層ができるとし、シリコンを断面加工する場合は加速電圧を10kVまで下げた条件でも9nm程度のアモルファス層が生じると述べています。
広い断面が要るときはどうするのですか?
別の道具を使うか、大電流のイオン源へ替えます。日本電子の比較では、アルゴンの広いイオンビームを使うCPの最大加工幅は8mmで、FIBは数100μmです。同解説は、ICPプラズマのイオン源を使うFIBならμAオーダーのビームも作れ、TSVのような大面積の加工へ用いられ始めていると述べています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- 日本電子「FIB の概要」アプリケーションノート(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── FIBがFocused Ion Beam Systemの略であること、ガリウムの液体金属イオン源から引き出し電極の電界でイオンビームを発生させ2組の静電レンズで縮小・集束させること、偏向板でX方向とY方向へ走査すること
- 日本分析機器工業会(JAIMA)「集束イオンビーム(FIB)装置の原理と応用」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── イオンが電子と比べて質量が大幅に大きく試料原子と強い相互作用を起こすこと、ガリウムが選ばれる3つの理由(原子量69.723、融点29.8℃、タングステン針との濡れ性)、市販汎用機のビーム仕様が電流1pAから100nA・電圧30kV程度までであること、SIM像の取得・スパッタリングによる加工・デポジション膜の形成という3機能、二次電子を走査と同期して検出し得た画像を基に加工領域を設定すること、シリコンへの断面加工で加速電圧を10kVまで落としてもアモルファス層が9nm程度残ること、100nm以下でTEM観察が可能になり最先端デバイスでは10nm程度まで薄くする必要があること、ICPプラズマイオン源のFIBがμAオーダーのビーム形成を可能にしTSVなどの大面積加工に使われはじめていること
- 東京都立産業技術研究センター「集束イオンビーム(FIB)-走査電子顕微鏡(SEM)複合装置」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 不良要因の調査ではまず表面を観察し、表面の観察で判断できる範囲を超えた要因については内部の断面まで観察へ進む場合が多いこと、数十μm以下の微小領域では機械加工による断面作製が非常に困難であること、原料ガスの吹き付けで照射領域だけに炭素・タングステン・白金を局所的に堆積させられ試料表面の保護や配線をつなぐ用途へ使えること、TEM観察用薄片を作る手順
- 日鉄テクノロジー「集束イオンビーム加工(FIB)」技術紹介(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── FIBが主にTEM薄片試料作製のために利用され、FIB-SEM複合装置なら場所を決めた断面の加工と観察に加えて立体での観察まで行えること、関心領域の微細加工が100nm未満の位置精度で可能であること、機械加工やイオンミリングと比べて加工ダメージや凹凸を減らせること
- 日本電子「CPとFIBによる断面試料作製」アプリケーションノート(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── CPの最大加工幅8mm・加工位置精度3μm程度、FIBの最大加工幅数100μm・加工位置精度10nm程度という比較
- 日本電子「FIBによる断面試料作製とSIM像のコントラスト」アプリケーションノート(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── SIM像がSEM像とは別のコントラストになること、結晶の向きを映すコントラストがよく出るため金属の組織を調べる用途に向くこと
- ローム「品質本部分析センター」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── 分析センターが5台のFIBを持ち、いちばん新しいプラズマFIBなら数百ミクロン規模の断面まで解析できること