エッチング選択比とは
エッチング選択比とは、削りたい膜のエッチレートを、残したい膜のエッチレートで割った比です。 この比を桁ごと振らせるのは、表面に積もる膜の収支です。同じ材料の相手でも、ガスの足し方ひとつで1.3から40まで動きます。
同じ膜を同じガスで削っていながら、なぜ比が桁で動くのでしょうか。プロセス担当が回すつまみは解離とイオンエネルギーとウェーハ温度の3つで、いずれも比を上げた分だけ速さを差し出します。一方で均一性は、この綱引きから独立に動きます。
相手は2つあります。マスクに対する比と、削り止めたい下地に対する比です。比そのものの立て方は選択比のページにまとめてあります。マスク側が不足するとフォトレジストやハードマスクが先に抜けてパターン幅が動き、下地側が不足すると削り止めたい層まで掘り進みます。
下地に対する比は、オーバーエッチの長さを買う原資になります。SEAJの半導体製造装置用語集は、下地の段差に沿って残るエッチング残渣をストリンガと呼び、段差部で縦方向の膜厚が厚くなるため異方性エッチングでオーバーエッチングが不足すると起こりやすい、として、歩留まりや信頼性へ影響する可能性がある、としています。段差の厚い場所まで削り切るには余分な時間が要り、その時間を下地が耐え切れるかが下地に対する比です。
同じガス系のまま、1.3から40まで動きます
Section titled “同じガス系のまま、1.3から40まで動きます”名古屋大学の関根誠氏がプラズマ・核融合学会誌に載せた解説は、CF₄のみでは選択比が小さくSiO₂/Siで約1.3にとどまる、として、H₂を加えるとSiのエッチング速度が低下して選択比が向上し、CF₄とH₂の混合ガスでH₂流量を増加させることで下地Siに対して約40の選択比が得られる、としています。フルオロカーボン系での値です。
機構は膜の収支です。同解説は、H₂を入れると気相のF原子がHFとなって抜け、ラジカル全体で見たC対Fの比が上がって表面にCFx系の重合膜が付きやすくなる、としています。そしてSiO₂の面ではエッチングの進行そのものが酸素を供給するため、重合膜がCOやCO₂、COF₂といった形で運び去られる一方、Si側で重合膜を減らす経路はイオン衝撃による反応だけである、として、イオンエネルギーなどの条件を選べばSiの面だけに重合膜を残して削る速さを抑えられる、と述べています。同じガスで削っていながら、片方の面にだけ蓋が残る構図です。
つまみは、解離とイオンとウェーハ温度です
Section titled “つまみは、解離とイオンとウェーハ温度です”積もる速さを左右するのはガスの解離の度合いです。関根氏の同じ解説は、高密度プラズマでフルオロカーボンガスを高度に解離してF原子が多く生成されることが低選択比の一因である、として、チャンバ体積が大きいこともガスの滞在時間を増やして解離度を上げた、としています。逆向きの例も同解説にあり、マグネトロンRIEが3cm程度の電極間隔とCOあるいはArガスの大流量によってガスの滞在時間を短くしてフルオロカーボンガスの分解を抑え、Si₃N₄膜に対するSiO₂の高選択比エッチングを実現した、としています。さらに同解説は、ガス分子が排気されるまでにプラズマ中で受ける電子衝撃の回数、すなわち滞在時間と電子密度と衝突解離レートの積を制御することが、解離制御の一指針として示された、と述べています。流量を上げれば滞在時間が短くなって比は上がり、差し出すのはガスの使用量と排気の能力です。
イオンエネルギーは両側へ働きます。ソニーの辰巳哲也氏が同じ小特集に載せた解説は、イオンが基板SiO₂表面にエネルギーを与える深さが数nm程度である、として、この非常に活性な領域で単位時間に何個のCF系活性種中のFが反応するかによりエッチング速度が決まる、と述べています。同解説は、表面に定常状態で形成されるC-Fポリマーがその厚さに応じてイオンを減速する、ともしています。実測の側では、京都大学の斧高一氏らがプラズマ・核融合学会誌に載せた解説が、ICP装置のCl₂プラズマによる2分のエッチング実験で、イオンエネルギーの増大とともにSiとSiO₂のエッチング速度がともに増大し、Si/SiO₂の選択比は低下する、としています。上げれば速く、そのぶん比が落ちます。
ウェーハ温度も同じ列に並びます。関根氏の解説は、ウェーハを0℃から液体窒素温度という低い温度に維持することで選択比や形状制御を行う低温エッチング技術が提案されている、として、静電チャックで吸着したウェーハと電極の間へ1kPa程度のHeガスを導入して温調する構成が同じ時期に進んだ、としています。1980年代から1990年代中期の話です。
量産で直接取れる量は限られます。辰巳氏の解説は、量産設備で実際に応用されている機器が少なく、観測窓の外の光ファイバで分光する簡易的なOESと、基板のRF供給系の一部分の電位、基板電極の温度のモニタリングなど極めて限られた範囲に留まる、としています。2007年時点の記述です。選択比そのものは、この終点検出と電位の指標から間接的に推し量ることになります。
マスク側の比は、守り方の選択になります
Section titled “マスク側の比は、守り方の選択になります”日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏と伊澤勝氏が同じ小特集に載せた解説は、HARC加工では高エッチレートと高マスク選択比が要求されるため、付着係数が高く比較的厚いフルオロカーボンポリマーを堆積させてマスクを保護しながら1〜3keVの高エネルギーイオンを用いてエッチングを行う、としています。同解説は、圧力を0.7Paから8Paまで変えた実験で堆積速度が低い低圧力条件ほどArFレジストのダメージが抑えられて良好な形状が得られた、とも述べています。同解説によれば、解離が抑制された堆積膜ほど、また薄い堆積膜ほどダメージが抑えられます。厚さで押し切る守りには上限があります。
希釈ガスの選び方も同じ列にあります。同解説は、HARC加工の希釈ガス種をHe、Ar、Ar+Xe(20%)、Xeの順に替えるとArFレジストのダメージが改善し、アッシング後の形状はAr+Xe(20%)希釈で最も良好であった、としています。同解説は、Xe希釈では低電子温度によってフルオロカーボンガスの解離が抑制され、XPSで見積もった堆積膜のF/C比が他の希釈ガスより高くなる、と述べています。ここでも比の側を取るために解離を落としています。レジスト自体を固める手も同解説にあり、EBキュアでArFレジストのダメージは改善する一方、4000μC/cm²のドーズ量ではエッチング後のマスクトップ寸法がキュアを省いた場合より約100nm縮んだ、としています。同解説が挙げる実験値です。
レジストの側で不足するぶんは、材料を替えて買います。アルバックの公開記事は、フォトレジストをそのままエッチングの型紙にする方法では、微細化で深く鋭く削る必要が出たときに樹脂製のレジストが加工の負荷を受け止めきれず、型紙そのものが減ったりパターンの形が崩れたりした、として、レジストの下に金属膜を一層敷くメタルハードマスクが採用された、としています。同記事は材料に高硬度のTiNを挙げ、膜の密度を維持する条件で成膜すると内側へ縮もうとする強い圧縮応力を持つ膜になり、応力が大きい場合にはウェーハの反りや微細パターンの倒壊が発生する、としています。同社の公表です。マスクに対する比を材料で買う代金は、応力の管理になります。
比の上限を、条件そのもので作ります
Section titled “比の上限を、条件そのもので作ります”ソニーセミコンダクタソリューションズの久保井信行氏らがプラズマ・核融合学会誌に載せた解説は、絶縁膜のALEについて、SiO₂膜では入射Ar⁺イオンが膜へ届くようになると、膜から出てくる酸素がポリマー膜をさらに削り落とし、SiO₂の削れる速さがそこで最大になる、としています。同解説は、Si₃N₄膜では入射Ar⁺イオンがポリマー層の下部まで入り始めた時点から、膜から出てくる窒素がポリマー膜の中で強いCN結合を作り、エッチングが止まる側へ働く、とも述べています。酸素を持つSiO₂膜との差はここにあります。
そこから同解説は、1サイクルを26秒としてSi₃N₄膜上にポリマー膜が残存している段階で次のサイクルへ切り替えると、高選択比を保ちつつSiO₂を原子1層ずつ加工できる、としています。さらに、6サイクルでSi₃N₄膜上のポリマー層を厚くしたうえで7から11サイクルのAr⁺イオンエネルギーを80Vから650Vへ、続く12から21サイクルで1000Vへ上げると、Si₃N₄膜との選択比を100以上に保ったままSiO₂のエッチングレートを通常のALEの0.1nm/minオーダーから40nm/min程度まで向上できた、と述べています。同社のシミュレーション結果です。同解説は、実プロセスとして使うにはさらに1桁のエッチングレート向上が要る、とも書いています。ドライエッチングで比とレートを同時に取りにいく設計は、ここまで細かい時間の切り方に降りてきています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”エッチング選択比とは何ですか?
削りたい膜のエッチレートを、残したい膜のエッチレートで割った比です。相手はマスクと下地の2つで、前者はマスクが最後まで残るかを、後者はオーバーエッチの長さをどれだけ取れるかを左右します。
選択比はどのくらい動きますか?
同じガス系のままで桁ごと動きます。名古屋大学の関根誠氏の解説は、CF₄のみではSiO₂/Siが約1.3にとどまり、H₂を加えて流量を増やすと下地Siに対して約40の選択比が得られる、としています。フルオロカーボン系での値です。
なぜガスを足すだけで比が上がるのですか?
表面に積もる膜の収支が材料ごとに異なるためです。関根氏の解説は、H₂を入れると気相のF原子がHFとなって抜け、ラジカル全体で見たC対Fの比が上がって表面にCFx系の重合膜が付きやすくなる、としています。SiO₂側では膜が酸素とともにCOやCO₂の形で運び去られ、Si側で膜を運び去る道はイオン衝撃だけになります。
選択比を上げるつまみは何ですか?
解離の度合いとイオンエネルギーとウェーハ温度です。関根氏の解説は、マグネトロンRIEが3cm程度の電極間隔とCOあるいはArガスの大流量でガスの滞在時間を短くしてフルオロカーボンガスの分解を抑え、Si₃N₄膜に対するSiO₂の高選択比エッチングを実現した、としています。同解説は0℃から液体窒素温度に保つ低温エッチングも挙げています。
選択比を上げると何を差し出しますか?
速さです。京都大学の斧高一氏らの解説は、ICP装置のCl₂プラズマによる実験でイオン入射エネルギーの増大とともにSiとSiO₂のエッチング速度がともに増大し、Si/SiO₂の選択比は低下する、としています。関根氏の解説も、エッチング速度と選択比、ダメージ低減が基本的にトレードオフの関係にある、と述べています。
マスクに対する選択比はどう作りますか?
膜で守るか、材料を替えるかの2通りです。日立製作所中央研究所の根岸伸幸氏と伊澤勝氏の解説は、HARC加工では付着係数が高く比較的厚いフルオロカーボンポリマーを堆積させてマスクを保護しながら1〜3keVの高エネルギーイオンで加工する、としています。アルバックの公開記事は、レジストの下に金属膜を敷くメタルハードマスクを挙げ、その材料としてTiNを示しています。
量産では選択比を何で追っていますか?
間接的な指標です。ソニーの辰巳哲也氏の解説は、量産設備で実際に応用されている機器が少なく、観測窓の外の光ファイバによる簡易的なOESと基板のRF供給系の一部分の電位、基板電極の温度など極めて限られた範囲に留まる、としています。2007年時点の記述です。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 選択比(エッチング)とは ── 比の立て方と2つの相手を先に取る側です
- エッチングガスとは ── 比を作っているガス種と添加の側です
- ALE(原子層エッチング)とは ── 比を条件そのもので担保する方法です
- イオン入射角分布とは ── 同じイオンエネルギーのつまみが形へ出る側です
この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- プラズマ・核融合学会誌 83巻4号 関根誠「2. プラズマエッチング装置技術開発の経緯、課題と展望」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── CF₄単体でのSiO₂/Si約1.3とH₂添加による約40、重合膜による選択性の機構、高密度プラズマでの解離とチャンバ体積、マグネトロンRIEの3cm電極間隔と大流量、電子衝撃回数の指針、低温エッチングと静電チャックのHeガス温調、速度と選択比とダメージのトレードオフ、均一性の独立性
- プラズマ・核融合学会誌 83巻4号 辰巳哲也「3. フルオロカーボンプラズマのモニタリング」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── イオンがSiO₂表面へエネルギーを与える深さが数nm程度であること、C-Fポリマーが厚さに応じてイオンを減速すること、量産設備で使える計測が簡易的なOESとRF供給系の電位、電極温度に留まること
- プラズマ・核融合学会誌 83巻4号 根岸伸幸・伊澤勝「4. フルオロカーボンプラズマのエッチングメカニズム」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── HARC加工での高マスク選択比の作り方と1〜3keVの高エネルギーイオン、0.7Paから8Paの圧力依存性、解離が抑制された薄い堆積膜ほどダメージが抑えられること
- プラズマ・核融合学会誌 97巻9号 久保井信行ほか「2. シリコン絶縁膜材料における原子層エッチングの予測・制御技術」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── SiO₂での酸素アウトフラックスとSi₃N₄での窒素アウトフラックスによるCN結合、1サイクル26秒での切り替え、選択比100以上を保ったままの0.1nm/minから40nm/minへの向上
- プラズマ・核融合学会誌 90巻7号 斧高一ほか「5. プラズマエッチングにおけるナノスケール表面形状揺らぎ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ICP-Cl₂プラズマの実験で、イオン入射エネルギーの増大とともにSiとSiO₂のエッチング速度が増大しSi/SiO₂選択比が低下すること
- SEAJ「半導体製造装置用語集(ウェーハプロセス)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ストリンガの意味と、オーバーエッチングの不足で起こりやすいこと
- アルバック「半導体の微細化を支える「メタルハードマスク」成膜技術とは」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 樹脂製レジストの負荷限界とメタルハードマスクの採用、TiNの圧縮応力とウェーハの反り・微細パターン倒壊