エクステンションとは
エクステンションとは、ソース/ドレインの先端だけを薄く作り、ゲートの真下まで届かせた部分です。 深いソース/ドレイン本体と、ゲート直下のチャネルとをつなぐ位置にあります。
ソース/ドレインには、チャネルの近くで深さを詰めたいという要求がかかります。一方で、電流の通り道として抵抗を低く保ちたいという要求も同時にかかります。この2つは同じ深さの寸法を逆向きに引っ張ります。エクステンションは、その板挟みに対して、ソース/ドレインを先端と本体の二段へ切り分けるという答えを与えた構造です。
トランジスタのソース/ドレインは、シリコンにドーパントを打ち込んで作ります。1つの領域で深さと抵抗の両方を満たす代わりに、いまのトランジスタは領域そのものを2つに切り分けています。チャネル側の薄い部分がエクステンション、その外側の厚い部分が深いソース/ドレイン本体です。
電子情報通信学会の知識ベースは、先端CMOS技術ではソース・ドレインのPN接合をなるべく浅く作るとしたうえで、拡散領域の全体を浅接合にすると抵抗が大きくなるため、通常はスペーサの下にエクステンションと呼ばれる浅接合を作り、スペーサの外には深い接合を作ることで、拡散領域の抵抗を抑えるよう設計すると記しています。
名称の来歴も残っています。日本半導体製造装置協会(SEAJ)の2012年版ウェーハプロセス技術報告書は、この領域をソース/ドレインのエクステンション領域(SDE)と呼び、LDD(Lightly Doped Drain)とも言われるとしています。同報告書の用語解説は、LDDがもともとホットエレクトロンを抑える目的で生まれた領域であり、その後はショートチャネル効果を抑えるために次第に浅く作られていき、エクステンションと呼ばれるようになったとしています。同じ場所を指す2つの名称が、そのまま役目の移り変わりを示しています。
この部分を省いたとき何が起きるのか
Section titled “この部分を省いたとき何が起きるのか”深い接合だけでソース/ドレインを作ると、ゲートの制御が届く範囲の外側で、ドレイン側から空乏層が伸びます。電子情報通信学会の知識ベースは、これが短チャネル効果を助長するとしています。日本半導体製造装置協会の半導体製造装置用語集は、ショートチャネル効果を、ソースとドレインの端部が近づくことでチャネル領域にかかるゲート電界が低下し、しきい値電圧が低下する現象としています。スイッチが入り始める電圧が設計値からずれるため、回路として使う前提が崩れます。
逆に、ソース/ドレインの全体を薄く作ると、電流の通り道の断面が細くなり、抵抗が上がります。電子情報通信学会の知識ベースが二段の設計を挙げているのは、この両方を避けるためです。
電界の集中をやわらげる役目もあります。電子情報技術産業協会(JEITA)の半導体用語集は、LDDをMOS FET構造の一種とし、ソース・ドレイン領域のうち、ゲート端に近いチャネル側の拡散層だけ、不純物の濃度を低めに作った構造としています。同用語集は、この薄い濃度の部分があるとチャネル側へ空乏層が広がりにくくなり、実効的なチャネル長を長く保てるため、電界の集中がやわらぎ、リーク電流やホットキャリアの発生を抑えられるとしています。同用語集はホットキャリアを、半導体の中を走るあいだに大きなエネルギーを得てしまった電子や正孔とし、ゲート酸化膜へ飛び込んでしきい電圧を変えるため、特性の不安定要因になるとしています。
どの工程で作られるのか
Section titled “どの工程で作られるのか”順序そのものが、この構造を作ります。
- ゲートを作ります。
- ゲートを覆いとして、低い加速電圧のイオン注入でエクステンションを打ち込みます。
- ゲートの側面にサイドウォール(スペーサ)を付けます。
- サイドウォールを覆いとして、深いソース/ドレイン本体を打ち込みます。
- 熱処理でドーパントを活性化させます。
エクステンションの端がゲート端にそろい、深い接合の端がサイドウォールの外側にそろうのは、この順序のためです。サイドウォールの幅が、そのまま先端と本体の距離になります。
日本半導体製造装置協会の半導体製造装置用語集は、ハロー注入を、MOSトランジスタでエクステンションの周囲をぐるりと囲む領域を作るための注入とし、その領域の不純物濃度はウェルや基板より高いとしています。同用語集は、ウェーハを傾けた大チルト角注入で行い、Pocket注入と機能は同等であるとも記しています。エクステンションの周りを逆導電型で囲むこの注入が、同じ時期に加わります。
作るうえでの取引
Section titled “作るうえでの取引”第一の代償は抵抗です。日本半導体製造装置協会の2012年版ウェーハプロセス技術報告書は、ITRS2011の課題として、エクステンション領域における浅接合の達成(約10 nm)とシート抵抗の低減(約500 Ω/sq)の両立を挙げています。この2つの数値は、2011年版ロードマップを引いた当時の目標値です。深さを詰めるほど、電流の通り道は細くなります。
第二の代償は生産性です。同報告書は、hp59 nm世代以降の接合深さ10〜12.5 nmを実現するために、ボロンでは0.25 keV程度の注入が必要になるとしています。あわせて、ビームのエネルギーを下げるほど、ビームの中でイオン同士が反発しあう効果が支配的になって発散が目立ち、ウェーハまでイオンビームが届きにくくなるとしています。薄さを買うために、装置は1枚あたりの時間を払います。
第三の代償は熱です。打ち込んだドーパントは、熱を受けて格子位置へ収まって初めて電気的に働きます。同じ熱が、ドーパントを縦にも横にも広げます。同報告書は、活性化のときに起きる拡散を、ほぼ無視できる範囲まで抑え込む必要があるとし、それを満たせるアニール方法としてフラッシュランプ、ノンメルトのレーザ、固相エピタキシャル成長を挙げています。SCREENセミコンダクターソリューションズは、フラッシュランプアニール装置LA-3100の公式製品ページで、数ミリ秒の光照射によってウェーハの表面温度を上げ下げし、ソース・ドレインへ打ち込んだ不純物を高い割合で活性化させながら、同時に濃度プロファイルも精密に制御すると記しています。同社の前身である大日本スクリーン製造は2005年の発表で、線幅65 nm以降の世代になると、シリコンへ打ち込んだ不純物の広がりが数ナノメートル増えるだけでも、デバイスの性能へ著しく響くとしています(2005年時点の記述です)。
第四の代償は、洗浄の作法にまで及びます。同報告書は、LDD形成では通常、低加速電圧で1〜5E15程度のドーパントを注入し、ドーパントの大半がシリコン表面の近傍(約10 nm)に分布していると考えられるため、わずかなシリコンのロスでもドーパントのロスが起こり、シート抵抗が上昇するとしています。同報告書は、レジスト剥離工程の回数を、DRAMでは通常4回、SoCやRFアナログデバイスではその3倍にあたる12回かそれ以上としています。1回ごとに削れるシリコンの量が、そのままシート抵抗へ跳ね返ります。
立体構造では、さらに別の代償が加わります。産業技術総合研究所は2013年の発表で、14 nm世代以降のフィンFETでは10 nm以下の極薄シリコンフィンへ低抵抗のソース・ドレインを作ることが最大の課題であるとしています。同発表は、厚さ21 nmのシリコン層へ室温でイオン注入すると厚さ11 nmの非晶質層が生じ、結晶回復の種となる部分を失った層は熱処理の後に多結晶や双晶となって抵抗が上がるとしています。同発表は、注入温度500 ℃の高温イオン注入なら結晶層が保たれ、熱処理によって無欠陥の結晶へ回復するとしています(同所の試作結果です)。
この4つの代償は、別々の工程と別々の担当へ散らばります。イオン注入のプロセス担当と熱処理のプロセス担当が、同じ先端の寸法を別の装置で作り込む関係にあります。洗浄のプロセス担当が削るシリコンの厚みも、同じ寸法の一部です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”エクステンションとは何ですか?
ソース/ドレインの先端にあたる、薄く作った部分です。ゲートの真下のチャネルへ届く位置まで伸ばし、その外側にある深いソース/ドレイン本体との間を橋渡しします。
ソース/ドレインを二段に作るのはなぜですか?
深さと抵抗が逆を向くためです。電子情報通信学会の知識ベースは、PN接合がチャネル表面から深い位置にあるとドレイン側から空乏層が伸びて短チャネル効果を助長するため、先端CMOS技術ではPN接合をなるべく浅く作るとしています。同時に、拡散領域の全体を浅接合にすると抵抗が大きくなるため、スペーサの下に浅接合を作り、スペーサの外には深い接合を作るとしています。
LDDとエクステンションは同じものですか?
近い名称です。日本半導体製造装置協会の2012年版ウェーハプロセス技術報告書は、LDDがホットエレクトロンを抑える目的で生まれた領域であり、その後はショートチャネル効果を抑えるために次第に浅く作られていき、エクステンションと呼ばれるようになったとしています。同報告書は、この部分を引き続きLDDと呼ぶ場合もあるとしています。
どの工程で作られますか?
ゲートを作った後、サイドウォールを付ける前に、低い加速電圧のイオン注入で作ります。サイドウォールを付けた後に深いソース/ドレインを注入し、最後に熱処理でドーパントを活性化させます。
ハロー注入とは何ですか?
日本半導体製造装置協会の半導体製造装置用語集は、ハロー注入を、エクステンションの周囲をぐるりと囲む領域を作るための注入としています。同用語集は、その領域の不純物濃度がウェルや基板より高いこと、ウェーハを傾けた大チルト角注入で行うこと、Pocket注入と機能は同等であることを記しています。
作るうえで何を差し出しますか?
抵抗と生産性と熱です。薄く作るほどシート抵抗が上がり、加速電圧を下げるほどイオンビームが発散して装置に届く電流が減り、活性化のための熱がドーパントを広げます。日本半導体製造装置協会の2012年版報告書は、ITRS2011の課題として、エクステンション領域における浅接合の達成(約10 nm)とシート抵抗の低減(約500 Ω/sq)の両立を挙げています。
FinFETのような立体構造でも同じですか?
同じ課題がより厳しく出ます。産業技術総合研究所は2013年の発表で、14 nm世代以降のフィンFETでは10 nm以下の極薄シリコンフィンに低抵抗のソース・ドレインを作ることが最大の課題であるとしています。同発表は、室温のイオン注入では結晶欠陥が生じて抵抗が大きくなり、注入温度500 ℃の高温イオン注入なら結晶層が保たれるとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- イオン注入とは ── 打ち込む工程の側、エクステンションは打ち込まれてできる構造の側
- ドーパント活性化とは ── 熱で電気的に働かせる段、その同じ熱が先端の薄さを削る側
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- 日本半導体製造装置協会「半導体製造装置用語集(ウェーハプロセス)」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── ハロー注入とPocket注入の位置づけ、LDDの語義、ショートチャネル効果の内容
- 日本半導体製造装置協会「2012年版 ウェーハプロセス技術報告書」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── SDEという呼称、LDDからエクステンションへの来歴、浅接合とシート抵抗の目標値、低エネルギー注入でのビーム発散、レジスト剥離の回数
- 電子情報通信学会「知識ベース S2群1編3章 微細デバイスの諸問題」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── スペーサの下の浅接合とスペーサの外の深い接合という二段の設計、ヘイローインプラント
- 電子情報技術産業協会「半導体用語集」(2026年9月2日にリンク生存を実測、200)── LDDとホットキャリアの語義
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