スクラッチとは
スクラッチとは、CMPの最中にまわりの砥粒より大きな粒子や異物が挟まって、被研磨膜が線状にえぐり取られる欠陥です。 平均粒径を揃えた条件でも発生するところが、この欠陥の性格です。
日立評論2008年2月号のProfessional Report「半導体平坦化用CMP研磨材」は、研磨傷の出どころを、研磨材の中の異常に大きい粒子と外から入った異物の2つに分類しています。それが挟まって被研磨膜へ過大な機械的な力が掛かった結果として発生すると推定し、傷の付いた場所では膜が深くまでえぐられるとしています。同報告は、傷が相対的に軟質のSTI部つまりSiO₂に多く見られるが、まれにストッパ膜のSiN上にも発生するとしています。同報告は、傷がSTI部に連続して発生した例について、硬質のストッパが膜付けされた仮想素子部では傷がストッパの手前でとどまったと書いています。硬い膜が傷の進行を抑える側に回ります。
力の入り方はフジミインコーポレーテッドの森永均氏による解説が述べています。圧力が一様に掛かる前提で進む研磨に粗大な砥粒や異物が入ると、そこだけ圧力が集まり、傷や凹凸状の欠陥になる、という記述です。同氏は、溶ける異物でも、その場で反応が起きれば欠陥になりうるとも書いています。CMPは面圧で削る工程なので、面圧の前提を1粒が壊すと、そこだけ別の工程になります。
日立評論は、欠陥の発生原因として研磨装置、パッド、研磨材、ドレス、ウェーハのすべてが関与するとしたうえで、同報告の範囲を研磨材に関する要因へ絞っています。
裾が生まれる場所
Section titled “裾が生まれる場所”日立評論は、研磨材の側で傷を作る主因として粗大結晶と凝集粒子と外から入る異物を挙げ、粗大粒子が生まれる筋道として、結晶が異常に育つ場合、分散が落ちて粒どうしが固まる場合、粒径を揃える技術が不足する場合を挙げています。同報告は、STI用研磨材の粒径が平均するとサブミクロン域にあり、100 nmを切る品も出てきているとしたうえで、そのサブミクロン粒子を1 wt%で分散させた場合の粒子数をおよそ10の17乗から18乗個/mLと見積もっています。ここへ1 µm以上の大粒子が入ると、10の7乗個/mLを超えたあたりから、傷の数が混入個数に比例して伸びました。同報告は、大粒子の混入量を個数で比較すると10のマイナス10乗レベルの汚染でも研磨傷は増加することになるとし、大粒子の発生を抑制することで研磨傷を従来の5分の1に低減したとしています。同社の研磨材についての2008年時点の記述です。
裾はスラリーの外でも生まれます。森永氏は、見落としやすいものとして加工対象物そのものが持ち込む汚染を挙げています。粗研磨で使った一段大きい砥粒が仕上げ工程へ回り込む経路と、基板の縁の欠けかけが、傷の出どころになるという指摘です。対策として同氏が挙げるのは、加工工程ごとの装置とエリアの分離、粗研磨後の洗浄、エッジの面取りです。ラッピングや鏡面研磨から仕上げ工程へ持ち込まれる1粒は、スラリーのろ過をすり抜けます。
同氏はまた、CMPを、対象の表層を剥ぎ取りながら進む汚染発生型のプロセスと呼んでいます。剥がれた研磨副生物が砥粒やパッドや加工面へ乗り、正常な研磨を邪魔する側へ回るためです。副生物や砥粒が固まったり乾いたりして粗大粒になり、パッドを目詰まりさせることもある、という指摘です。対策はゼータ電位の制御で、pHや界面活性剤、分散剤の添加によって行うとしています。裾は研磨中に自分で作られる場合もあります。
1本の傷が壊すもの
Section titled “1本の傷が壊すもの”日立評論は、傷が招くものを3つ挙げています。ゲート電極材料の残り、トランジスタのI-V特性のばらつき、そして素子そのものの破壊で、いずれも歩留りを下げる側へ働きます。同報告は、試験用のSTIパターンを研磨した場合について、ひと続きの傷1本でまわりの素子8個へ影響が及ぶと見積もり、傷の寸法が同じままでも素子が小さくなるほど影響の範囲は広がるとしています。さらに、傷は小さいものほど数が指数関数的に増えるため、寸法が縮むにつれて小さい傷の側が支配的になると書いています。同報告の試験パターンについての記述です。
配線層では、傷の深さより傷が跨ぐ配線の本数が結果を左右します。日立化成テクニカルレポート No.55は、バリアメタル研磨ではTaとSiO₂がCuより機械の作用で削れやすいため砥粒の選定が結果を左右するとしつつ、砥粒の機械的強度を上げすぎると傷が出るとしています。同報告によれば、細い傷でも配線と配線のあいだの絶縁を落とす側へ働くため、柔らかいコロイダルシリカ砥粒を薄く混ぜる側へ振って欠陥を抑えています。Cu-CMPとバリアメタルの研磨では、傷の深さより配線間の絶縁抵抗が測定項目になります。産総研は、こうしたマイクロ・ナノスケールの欠陥がデバイスの電気的短絡や回路断線などの不良の発生要因として危惧されているとしています。キラー欠陥へ分類する根拠がここにあります。
表層に閉じた傷を測る方法
Section titled “表層に閉じた傷を測る方法”産総研TODAY 2014年3月号は、CMPが半導体ウエハーと砥粒の摩擦による機械的な相互作用を利用しているため、ウエハー表層にマイクロスクラッチなどの欠陥を形成させてしまうと述べ、これらの欠陥は表層の内側で閉じているため、従来の欠陥検査装置では壊さずに見つけることができなかったとしています。同記事が報告する応力誘起光散乱法は、ウェーハをたわませて表層に引張応力を作り、傷の先端へ集まった応力を光弾性効果として検出する方法です。応力誘起の前後でレーザー光を入射し、応力集中による先端の屈折率変化を光散乱強度の変化として検出して、変化量が大きい点を選択的に拾います。同記事は、応力の作用する傷だけが光散乱強度を変えるため、マイクロスクラッチのみを顕在化させられるとしています。パーティクルと傷を切り分ける原理がここにあります。産総研は、この成果がルネサスセミコンダクタ九州・山口とのマイスター型連携研究の一部であり、量産ラインへ載せることを目標に実証試験を進めているとしています。
日常の管理では、スラリー側とウェーハ側の2つの数を並べて追う形になります。森永氏の解説は、シリコン用CMPスラリー中の0.6 µmより大きい粗大粒子数の相対値と、CMP後のウエハ上の37 nmより大きい欠陥数の相対値を、1985年から2025年までのスラリー開発年に沿って並べています。条件は300 mmシリコンウエハ、パッドはスエード、SC1洗浄、欠陥検査はKLA Surfscan SP2、対象はフジミインコーポレーテッド製のシリコンウエハ仕上げ用スラリーです。同氏は、CMP後のウェーハ表面のナノ欠陥数が、スラリーを徹底して清浄化してきたぶんだけ下がり続けているとしています。欠陥検査の数とスラリー側の粗大粒子数を並べて追うと、どちらが動いたのかを切り分けられます。
現場のつまみと、その裏側
Section titled “現場のつまみと、その裏側”砥粒径と粒度分布 を絞ると傷は落ちます。日立化成テクニカルレポート No.55は、同社のセリアスラリーについて、SiO₂膜の研磨速度とSiN膜の研磨速度、平坦性、研磨傷の相対値を並べています。HS-8005が350 nm/minで研磨傷の相対値100、HS-8005-Xが330 nm/minで40、HS-8005-X2が300 nm/minで20、HS-8005-X3が250 nm/minで10未満、超微粒子品のHS-NCが250 nm/minで1未満です。SiN膜の研磨速度は前4者が8 nm/min、HS-NCが4 nm/min、平坦性はいずれも10 nm未満とされています。同報告は、HS-8005-X3において研磨傷はHS-8005の10分の1以下に低減しているとしています。添加剤使用時、ロータリータイプ研磨機、ポリウレタン系硬質パッドでの同社の公表値です。レートを100 nm/min渡した見返りが、傷の1桁ぶんという読み方になります。
砥粒の種類 は、レートと傷の交換レートそのものを変えます。レゾナックの解説は、砥粒を傷のリスクの順に並べています。コロイダルシリカは粒が球状で揃っており、平坦性と傷の少なさから仕上げ研磨に向く、フュームドシリカは気相法ゆえに凝集構造を抱え、速いかわりに傷のリスクが高い、アルミナは硬度が際立って高く、速さと引き換えに傷のリスクが最も高い、という区分です。同社は、従来のセリアスラリーで速度を稼ごうと粒径を上げると傷が出やすくなった、という経緯を挙げ、ナノセリアスラリーでは粒子を微細かつ均一に制御しつつ粒子表面の化学的活性を高めて研磨速度も両立したとしています。硬い砥粒を選ぶ判断は、傷の予算をレートへ振り替える判断と同じことです。
化学作用の比率 を上げる手もあります。荏原製作所の辻村学氏による精密工学会誌の解説は、Wなどの純金属を砥粒で加工すると傷が入るとして、W表面を酸化したあとにSiO₂などの砥粒で機械加工する順序を挙げています。SiO₂膜については、同じ材料であるシリカ砥粒で共磨りするのが基本で、材料が揃っていると傷が入りにくいと同氏は見ています。それでも傷は入るため、SiO₂を溶かすアルカリ側の液で表面を均す、という組み立てです。機械作用を減らして化学作用の比率を上げると傷は減りますが、森永氏が挙げるように化学作用が過剰になれば表面荒れや局部腐食が生じ、凹部の過研磨も進みます。オーバーポリッシュ側の予算と競合するつまみです。
供給系のクリーン化 は、裾を直接削ります。森永氏は、スラリーを作る側では精度の高いろ過と分級と精製で粗大粒子や異物を落とすこと、研磨する側では環境そのものを清浄に保つことを挙げています。日立評論も、粗大粒子は傷を直に作るため、発生そのものを厳しく抑える対象だとしています。ろ過を細かくすると圧力損失と交換頻度が上がり、砥粒そのものを削ってしまう場合もあるため、CMPスラリーの設計とフィルタの選定は一体の判断になります。
パッドとドレス の側も傷に影響します。日立評論は、被研磨膜へのダメージを減らす対策として柔らかいパッドを使う検討もあるとし、絶縁膜CMPでも荷重を下げる向きへ進む見込みを挙げています。軟質パッドへ振ると傷は減りますが、森永氏が指摘するように、柔らかいパッドは戻ろうとする力で加工面の縁へ圧力を集めるため、リテーナリングやテンプレートが要ります。CMPパッドを柔らかくした分は平坦化性能から出ていきます。パッドコンディショニングの側では、旭ダイヤモンド工業がパッドのコンディショニングをCMPの研磨特性を安定させる要の工程に位置づけ、25年以上コンディショナを供給してきたと述べています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”スクラッチとは何ですか?
CMPの最中に、まわりの砥粒より大きな粒子や異物が挟まって被研磨膜がえぐり取られる線状の欠陥です。日立評論のProfessional Reportは、研磨材の中の異常に大きい粒子や外から入った異物が挟まり、被研磨膜へ過大な機械的な力が掛かった結果として起きると見ています。同報告によれば、傷の付いた場所では膜が深くまでえぐられます。
スクラッチはどこから来ますか?
同報告は、研磨材の側で傷を作る主因として粗大結晶と凝集粒子と外から入る異物を挙げ、粗大粒子が生まれる筋道として、結晶が異常に育つ場合、分散が落ちて粒どうしが固まる場合、粒径を揃える技術が不足する場合を挙げています。フジミインコーポレーテッドの森永均氏による解説は、粗研磨で使った一段大きい砥粒が仕上げ工程へ回り込むことや、基板の縁の欠けかけも原因になると述べています。
平均粒径を小さくすればスクラッチは消えますか?
支配するのは分布の裾です。日立評論は、サブミクロン粒子を1 wt%分散させた場合の粒子数がおよそ10の17乗から18乗個/mLであるのに対し、1 µm以上の大粒子が10の7乗個/mL以上混入すると、混入量の増加に比例して研磨傷が増えたと述べています。個数で比べると10のマイナス10乗レベルの汚染でも増加する、という書き方です。
どれくらい小さい傷が問題になりますか?
日立評論は、試験用のSTIパターンを研磨したときのひと続きの傷1本で、まわりの素子8個へ影響が及ぶと見積もり、傷の寸法が同じままでも素子が小さくなるほど影響の範囲は広がるとしています。同報告は、傷は小さいものほど数が指数関数的に増えるため、寸法が縮むほど小さい傷の側が支配的になるとも述べています。
スクラッチを減らすと何を失いますか?
研磨速度です。日立化成テクニカルレポート No.55は、同社のセリアスラリーについて、研磨傷の相対値100のHS-8005がSiO₂膜350 nm/min、相対値10未満のHS-8005-X3が250 nm/minという値を示しています。レゾナックの解説も、従来のセリアスラリーで速度を稼ごうと粒径を上げると傷が出やすくなった、という経緯を挙げています。
表層に閉じたスクラッチはどう検出しますか?
産総研は、表層の内側で閉じている欠陥は従来の欠陥検査装置では壊さずに見つけられなかったとして、応力誘起光散乱法を開発したと報告しています。ウェーハに曲げ変形を加えて引張応力を誘起し、傷の先端の応力集中による屈折率変化を光散乱強度の変化として検出する方法です。応力が働く傷だけが光散乱強度を変えるため、パーティクルと切り分けられます。
金属膜のスクラッチはどこが違いますか?
深さより配線間の絶縁不良に影響します。日立化成テクニカルレポート No.55は、バリアメタル研磨ではTaとSiO₂がCuより機械の作用で削れやすいため砥粒の選定が結果を左右するとしつつ、砥粒の機械的強度を上げすぎると傷が出るとしています。同報告は、細い傷でも配線と配線のあいだの絶縁を落とす側へ働くため、柔らかいコロイダルシリカ砥粒を薄く混ぜて欠陥を抑えたと述べています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- パーティクルとは ── 応力をかけても光散乱強度が一定にとどまる、表面に乗っているだけの異物
- オーバーポリッシュとは ── 1粒より研磨時間が支配する、削りすぎの側の問題
- キラー欠陥とは ── 傷のうち、素子や配線を実際に落とすものの呼び方
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- 日立評論 2008年2月号 Professional Report「半導体平坦化用CMP研磨材」日立化成工業 芦澤寅之助・天野倉仁(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 研磨傷の発生機構、傷がSTI部に多くストッパ膜上にはまれであること、粗大結晶と凝集粒子と異物混入という原因、10の17乗から18乗個/mLの母数と10の7乗個/mLの大粒子、10のマイナス10乗レベルの汚染、従来の5分の1への低減、周辺8個の素子への影響、軟質パッド採用の検討
- 日立化成テクニカルレポート No.55 総説④「半導体ウエハープロセス材料」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── セリアスラリー5品種の研磨速度と研磨傷の相対値、HS-8005-X3で10分の1以下、液中造粒による超微粒子品、バリアメタル研磨での機械的強度とスクラッチの関係
- 産総研TODAY 2014-03「半導体ウエハー表層のマイクロスクラッチの可視化」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 表層に閉じた欠陥の非破壊検出、応力誘起光散乱法の原理、パーティクルと切り分けられる理由、連携研究の相手先
- フジミインコーポレーテッド 森永均「化学機械研磨(CMP)の原理と進化」トライボロジスト 第70巻 第5号(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 粗大粒子による局所的な圧力集中、加工対象物が持ち込む汚染、汚染発生型プロセスとしての副生物、ろ過と分級と精製、0.6 µm超の粗大粒子数と37 nm超の欠陥数の推移とその測定条件、軟質パッドでの端部圧力集中
- レゾナック「微細化が進む前工程で高速研磨と低スクラッチを両立するナノセリアCMPスラリー」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 砥粒の種類ごとのスクラッチリスクの区分、粒子径を大きくすると傷が出やすくなる課題
- 精密工学会誌「半導体プロセスのCMP技術」荏原製作所 辻村学(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 純金属を砥粒で加工すると傷が入ること、W表面の酸化を挟む順序、SiO₂の共磨りとアルカリ溶液による平滑化
- 旭ダイヤモンド工業「CMPコンディショナ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── パッドコンディショニングが研磨特性を安定させる工程であることと、25年以上の供給実績