除去レートとは
除去レートとは、CMPで単位時間あたりに削れる膜厚のことです。 研磨前と研磨後の膜厚差を研磨時間で割った値で、ふつうnm/minで書きます。
東亞合成の研究年報は、CMP用ポリマー添加剤の社内測定について、膜厚計に大塚電子製OPTM-A1を用い、研磨量を研磨前後の膜厚変化から算出したと記しています。この一行が除去レートの正体です。装置の銘板に刻まれた速度に時間を掛けた予測値というより、その膜・そのスラリー・その荷重で前後の膜厚を実測して引き算した量へ、時間の目盛りを付けたものです。
同じ工程名でも、数値は桁で動きます。日立評論に載る日立化成工業(当時)の報告は、プラズマTEOS法のSiO₂膜に対して、酸化セリウム研磨材(研磨材中の酸化セリウム濃度1wt%)で600nm/min、シリカ研磨材(シリカ濃度12wt%)で200nm/minという3倍の差を示しています。直径200mmウェーハでの同社の測定値です。同じ報告は、陰イオン性の有機化合物を含む研磨材をSiN膜表面へ加えると、SiNの研磨速度が10nm/min以下になったとも述べています。同じ報告によれば、シリカ研磨材または酸化セリウム研磨材を単独でSTIへ用いた場合、SiO₂とSiNの研磨速度比は1対3から1対5程度にとどまり、SiNの研磨量が大きくなりすぎます。極端な場合にはストッパ膜が消えて素子部までえぐられる、という困りごとが出発点でした。
レートの本体は摩擦です
Section titled “レートの本体は摩擦です”フジミインコーポレーテッドの森永均氏による解説は、様々な粒径・材質・形状の砥粒で研磨したときのシリコン酸化膜の研磨速度が、研磨時の摩擦エネルギーとよく相関することを示しています。摩擦エネルギーは研磨定盤の駆動電流値から測ったもので、研磨機はEbara EPO-222、研磨圧力5psi(35kPa)、定盤回転速度110rpmという条件です。同氏は、摩擦エネルギーを増やす要素として、作用する砥粒個数の増加、砥粒1個あたりの接触面積の増加、転がりにくさの増大を挙げ、球形砥粒に対して異形な砥粒が転がりにくく研磨速度を向上させるとしています。
ここから、砥粒径のつまみが二面を持つ理由が出てきます。同氏は、砥粒数を一定にしたときは砥粒径を大きくすれば砥粒1個あたりの接触面積が増えて研磨速度が向上する一方、砥粒濃度を一定にした場合は粒径が大きくなるほど単位容積あたりの砥粒数が減り、作用点の数が減じて研磨速度の向上に限界が生じると述べ、通常の実験は後者の側にいることが多いとしています。ガラスハードディスクをスエードパッドとコロイダルシリカ+KOH(pH10)で研磨し、圧力75g/cm²、回転数40rpmで測った同社のデータです。
化学の側からも摩擦を増やせます。同解説は、Si₃N₄膜の研磨速度がpH4で最大になる理由として、このpH域では砥粒と基板の表面電位(ゼータ電位)が正負の関係になって引力が生じ、より多くの砥粒が研磨面へ付着して摩擦が増大する点を挙げています。付着砥粒数と摩擦エネルギーが、研磨速度と並走して山を作ります。コロイダルシリカ5wt%、圧力2.6psi(18kPa)、研磨機CETR CP4、ヘッドと定盤の回転数300/300rpmでの測定です。CMPスラリーのpHは、選択比のつまみと同時にレートのつまみです。
ベタ膜のレートと、製品ウェーハのレート
Section titled “ベタ膜のレートと、製品ウェーハのレート”JEITAの2011年度版DFM用語集は、Cuダマシン構造の配線のCMPについて、Cuと絶縁膜のそれぞれの研磨レートが、研磨パッドの凹凸と弾性などの要因によりパターンサイズやパターン密度および断面構造といったパターン形状依存性をもって変化すると述べています。同用語集はエロージョンを、微細ピッチのパターン密集部で絶縁膜部の研磨レートがバルク絶縁膜の研磨レートより増大し、残膜厚が減少する現象として記しています。密集部は、ベタ膜の数値より速く削れます。
同用語集に載る研磨工程の図は、この食い違いへ名前を与えています。モニタウェーハの研磨レートと製品ウェーハの研磨レートを別々の直線で描き、両者の差をPES(Pattern Effect Shift)と表記する図です。ベタ膜のモニタで引いた直線をそのまま製品の研磨時間へ当てると、目標膜厚を通り過ぎるか、手前で止まります。
つまみと、その裏側
Section titled “つまみと、その裏側”研磨圧力を上げると、プレストン式のとおりレートは1乗で伸びます。引き換えに渡すのは平坦性です。東亞合成の研究年報は、近年の半導体の高性能化と需要増加に伴い、スラリーに平坦性の向上と研磨速度の確保という、ある種相反する特性が同時に必要になっていると記し、同社の水溶性ポリマー製品であるポリアクリル酸を、研磨速度を抑えることで平坦性を向上させる調整剤として挙げています。レートを下げる方向の薬剤が製品として売られている、という一点がこの取引の値札です。
温度は、圧力と速度を上げた分の裏側に付いてきます。森永氏は、研磨における摩擦が加工面の摩耗のみならず摩擦熱を引き起こし、加工面が数十度加温される場合も多いとしたうえで、化学作用が一般に10℃程度の加温で2倍程度促進される(反応の活性化エネルギーが51kJ/molの場合の目安)と述べています。同氏は、大型基板の研磨では中心部に熱がこもりやすく、中心部の研磨速度が増大して平坦性へ悪影響が及ぶとし、対策として研磨定盤のチラー機能の活用、スラリー流量の最適化、CMPパッドへの溝構造形成によるスラリー排出の促進を挙げています。レートを稼ぐ操作は、そのまま面内分布を崩す操作です。
パッドと端部は、レートの分布側のつまみです。森永氏は、軟質パッドによる研磨ではパッドの復元力により加工面の端部に圧力が集中しやすく、対策にリテーナリングやテンプレートが用いられるとしています。ニッタ・デュポンの製品一覧は、研磨パッドの機能として段差解消性と高研磨レートを別項目として掲げ、Ikonic™シリーズについて、さまざまなパッド硬度と異なる孔隙率を組み合わせ、調整が容易なパッド表面を備えることで研磨効率と平坦性を改善する設計としています。カタログの段階から、レートと平坦性は別の軸です。
日立化成工業の報告は、この両立の到達点を数値で示しています。開発したCuメタル用研磨材で、ライン/スペース100/100µmの平坦性30nm、研磨速度600nm/min、研磨面内の均一性1σ=3.0%を得たという報告です。Cu-CMP向けの同社の値です。
レートのドリフトをどこで拾うか
Section titled “レートのドリフトをどこで拾うか”半導体産業人協会の半導体歴史館は、CMPによる平坦化について、凸部には凹部より大きな圧力がかかり、研磨速度の圧力依存性が凸部と凹部の研磨速度の選択性を生んで平坦化を実現するとまとめ、1990年代後半に研磨の終点検出機能を備えたCMP装置が開発されて実用性が向上したとしています。レートが動く前提で工程を組むために、終点を拾う仕掛けが装置側へ入りました。
日々の管理では、膜厚測定で研磨前後を測ってレートを更新し、定盤の駆動電流やトルクで摩擦側の動きを追い、パッドコンディショニングの履歴を同じ時系列へ載せます。装置間で数値がずれるときは装置間差、同一ロット内で振れるときは均一性の側から切り分けます。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”除去レートとは何ですか?
研磨前と研磨後の膜厚差を研磨時間で割った値です。東亞合成の研究年報は、CMP用ポリマー添加剤の社内測定について、膜厚計に大塚電子製OPTM-A1を用い、研磨量を研磨前後の膜厚変化から算出したと記しています。装置の性能値というより、膜とスラリーと荷重の組み合わせごとに測り直す数値です。
同じ装置なら除去レートは同じですか?
膜とスラリーで桁が動きます。日立評論に載る日立化成工業(当時)の報告は、プラズマTEOS法のSiO₂膜の研磨速度を、酸化セリウム研磨材で600nm/min、シリカ研磨材で200nm/minとしています。直径200mmウェーハでの同社の測定値です。
除去レートは何で決まりますか?
摩擦です。フジミインコーポレーテッドの森永均氏による解説は、様々な粒径・材質・形状の砥粒で研磨したときのシリコン酸化膜の研磨速度が、研磨時の摩擦エネルギーとよく相関するとしています。摩擦エネルギーは研磨定盤の駆動電流値から測ったものです。
砥粒を大きくすればレートは上がりますか?
濃度を一定にするか個数を一定にするかで結果が別になります。森永氏は、砥粒数一定なら粒径を大きくすると砥粒1個あたりの接触面積が増えて研磨速度が向上する一方、砥粒濃度一定では単位容積あたりの砥粒数が減って作用点が減じ、向上に限界が生じるとし、通常の実験は後者の側にいることが多いとしています。
ベタ膜で測ったレートを製品ウェーハへ当ててよいですか?
ずれます。JEITAの2011年度版DFM用語集は、Cuダマシン構造のCMPでCuと絶縁膜の研磨レートが、研磨パッドの凹凸と弾性などの要因によりパターンサイズやパターン密度および断面構造の依存性をもって変化するとしています。同用語集に載る研磨工程の図は、モニタウェーハと製品ウェーハの研磨レートを別々の直線で描き、両者の差をPES(Pattern Effect Shift)と表記しています。
圧力を上げてレートを稼ぐと何を差し出しますか?
平坦性と温度です。東亞合成の研究年報は、スラリーに平坦性の向上と研磨速度の確保という、ある種相反する特性が同時に必要になっていると記しています。森永氏は、研磨時の摩擦熱で加工面が数十度加温される場合も多いとし、大型基板では中心部に熱がこもって中心部の研磨速度が増大し、平坦性へ悪影響が及ぶとしています。
除去レートの面内分布はどう均しますか?
圧力の均一化と端部の受け方です。森永氏は、軟質パッドによる研磨ではパッドの復元力により加工面の端部に圧力が集中しやすく、対策にリテーナリングやテンプレートが用いられるとしています。日立化成工業の報告は、開発したCuメタル用研磨材で研磨速度600nm/min、研磨面内の均一性1σ=3.0%を得たとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- 日立評論 2008年2月号「半導体平坦化用CMP研磨材」日立化成工業 芦沢寅之助・天野倉仁(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 酸化セリウム研磨材600nm/minとシリカ研磨材200nm/min、SiNの10nm/min以下、SiO₂とSiNの比1対3から1対5、Cuメタル用研磨材の平坦性30nmと研磨速度600nm/minと1σ=3.0%
- フジミインコーポレーテッド 森永均「化学機械研磨(CMP)の原理と進化:半導体・多様な素材への応用」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 摩擦エネルギーと研磨速度の相関とその測定条件、砥粒径と砥粒数の効果、Si₃N₄膜のpH4での最大化、摩擦熱と中心部のレート増大、軟質パッドの端部圧力集中
- 東亞合成グループ研究年報 TREND 2025 第28号「CMP用ポリマー添加剤の開発」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 膜厚変化から研磨量を求める手順と膜厚計の型式、平坦性と研磨速度が相反する事情、ポリアクリル酸の役割
- JEITA 半導体部会「2011年度版 DFM用語集」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 研磨レートのパターン形状依存性、エロージョンの記述、モニタウェーハと製品ウェーハの研磨レートの差をPESと表記する図
- 半導体産業人協会 半導体歴史館「CMP装置および材料のサプライチェーン確立」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 研磨速度の圧力依存性が凸部と凹部の選択性を生む筋道、1990年代後半の終点検出機能付きCMP装置
- ニッタ・デュポン「研磨パッド製品一覧」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 研磨パッドの機能として段差解消性と高研磨レートを別項目に掲げること、Ikonic™シリーズのパッド硬度と孔隙率の組み合わせ