CMPスラリーとは
CMPスラリーとは、化学機械研磨でウェーハと研磨パッドの間へ供給する液体です。 表面を反応させる化学的な作用と、反応層を取り除く機械的な作用の両方を担います。
スラリーの役割は、CMPという工程名そのものに出ています。化学機械研磨は化学と機械を組み合わせる方式であり、その化学の側をスラリーが持ち込みます。東京エレクトロンの公式用語集は、典型的なCMPプロセスにおいて、研磨パッドで覆われた回転テーブルへウェーハを押し当て、コロイダルシリカ研磨剤を含むスラリーをウェーハとパッドの間へ供給すると述べています。
コロイダルシリカは、液中に細かいシリカ粒子が分散した状態を指します。この粒子が研磨剤として働き、パッドの動きとともに表面を削ります。粒子径と分散状態が、削れる速さと傷の入り方を左右するため、スラリーの設計はそのまま仕上がりの表面品質へ直結します。
砥粒を除いた選択肢もあります。同じ公式用語集は、除去するウェーハ表面の材料に応じて、研磨剤を除いたスラリーを使う場合があると述べています。化学作用の比重を上げて機械的な削りを抑える設計であり、傷や欠陥を避けたい材料で選ばれます。したがってスラリーの選定は、削る材料と下地の組み合わせから逆算します。
スラリーが担う3つの機能
Section titled “スラリーが担う3つの機能”フジミインコーポレーテッドの森永均氏による解説(トライボロジスト 第70巻 第5号、2025年、263〜270ページ)は、CMPを用いた精密研磨に要る機能を3つに大別しています。1つ目が材料除去(機能1)、2つ目が表面保護(機能2)、3つ目が汚染制御(機能3)です。材料除去では砥粒が表層を機械的にはく離し、薬液がはく離された表層材料を溶かします。薬液は表層そのものの溶解や改質も担いますが、過剰な溶解が進むと腐食によって凹状の欠陥が出るため、機械作用と化学作用の釣り合いへ表面保護の考え方が入ります。
表面保護は、凹部の過研磨を抑えるための機能です。同解説は、水溶性ポリマー、界面活性剤、防食剤といった表面保護剤が界面へ吸着して凹部を薬液の攻撃から守り、凸部では砥粒とパッドの摩擦で保護剤がはく離するため、砥粒の機械作用と薬液の化学作用が釣り合って進むと述べています。銅配線と層間絶縁膜のように耐薬品性の異なる材料を1つのスラリーで削る場面で、この機能が要ります。ディッシングの抑え込みは、ここへ直結します。
働く砥粒を増やす設計 ── ゼータ電位
Section titled “働く砥粒を増やす設計 ── ゼータ電位”同解説は、パッドとスラリーを用いるCMPでは固定砥粒と異なり、表面で作用する砥粒が一部にとどまるとし、摩擦作用を最大化するには表面で作用する砥粒数を増やす必要があると述べています。化学的に安定なSi3N4膜の研磨速度がpH4で最大になった実測では、その pH 域での膜の溶解がごくわずかなまま速度が上がりました。理由は、液中の砥粒と基板のゼータ電位が正負の関係になって引力が生じ、研磨面へ付着する砥粒が増えて摩擦が増大したことです。測定条件は、コロイダルシリカ 5wt%、圧力 2.6psi(18kPa)、CETR CP4、ヘッドと定盤の回転数 300/300rpm、pH は 2 から 10 の範囲です。
砥粒の数を増やすことに加えて、砥粒が相手へ向かうように仕向ける化学が要る、というのが同解説の骨子です。同じゼータ電位の考え方は研磨副生物や砥粒の分散にも使われ、pH と界面活性剤・分散剤の添加で制御されます。
圧力応答性と研磨選択性 ── 添加剤で買う2つの指標
Section titled “圧力応答性と研磨選択性 ── 添加剤で買う2つの指標”東亞合成のグループ研究年報 TREND 2025 第28号は、スラリーの一般組成として研磨粒子(シリカ、セリア、アルミナなど)と pH調整剤、酸化剤、安定剤を挙げ、界面活性剤やポリマー添加剤で研磨性能を調整すると書いています。同号は、研磨量がプレストン式 RA=k・p・ν・t で圧力に比例する一方、CMP後の膜平坦性を上げるには、研磨量に対して圧力が1乗より大きく影響する非プレストニアン性を示す添加剤が有効だとしています。同号の社内での研磨条件は、Engis製 EJ-380CH-Y、研磨盤回転数 60rpm、研磨時間 2min、研磨荷重 1kg と 6kg、研磨パッド IC1000/SUBA400、研磨対象は SiO2 膜と SiN 膜、ウェハサイズ 30mm×30mm です。スラリー配合は高純度コロイダルシリカの一次粒径 80nm、シリカ 10wt%、ポリマー 0.05wt%、pH 11(水酸化カリウムで調整)で、膜厚は大塚電子製 OPTM-A1 で測っています。圧力応答性は 6kgf と 1kgf の研磨速度比、研磨選択性は SiO2 膜と SiN 膜の研磨速度比です。膜への吸着は QCM-D(水晶振動子マイクロバランス法、Biolin製 QsenseExplorer)で測り、サンプル流量 0.1mL/min、リンス流量 1.0mL/min(純水)という条件です。分子量分布の狭いリビング重合品が圧力応答性で有利になり、疎水ブロックを持つポリマーのみが SiN のレートを下げて選択性を大きく動かしたと同号は報告しています。
材料ごとに配合を替える ── 公開製品リストの区分
Section titled “材料ごとに配合を替える ── 公開製品リストの区分”ニッタ・デュポンの研磨スラリー製品一覧は、工程で 11 区分(Cuバリア、Cuバルク、DSPリンス、TSV、エッジ研磨、タングステン、ポリシリコン、一次研磨、二次研磨、仕上げ研磨、酸化膜)、機能(課題)で 12 項目(ウェーハ欠陥低減、ウェーハ端部高平坦性、ウェーハ表面粗さ低減、エッジ形状最適化、コスト低減、不純物金属低減、低摩擦抵抗、段差解消性、自然酸化膜除去効率性、超高研磨レート、高研磨レート、高選択性)の絞り込みを公開しています。区分数と項目数は当サイトで数えました。酸化膜向けの ILD™ シリーズはヒュームドシリカ砥粒、CuバリアとTSV向けの Acuplane™ シリーズは調整可能な選択性、タングステン向けの Novaplane™ シリーズは段差解消性で、削る材料と工程が製品の軸になっています。
SEAJ(日本半導体製造装置協会)の半導体製造装置用語集は、選択比を、同一スラリーで異なる材料を研磨したときのレート比とし、材料AとBのレートをa、bとすればA基準で 1:b/a と書くと記述しています。同用語集は廃液の沈殿物をスラッジと呼びます。
汚染制御 ── 3番目の機能
Section titled “汚染制御 ── 3番目の機能”森永氏の解説は、CMPを、加工対象物の表層をはぎ取りながら進む汚染発生型のプロセスと位置づけています。粗大な砥粒や異物が混ざると、その1点へ圧力が集中してスクラッチや凹凸状の欠陥が出ます。研磨副生物や砥粒が凝集または乾燥すると、粗大粒化やパッドの目詰まりも起きます。対策は、混入防止(ろ過、分級、精製)、発生した汚染の無害化(溶解と分散)、ゆらぎ排除(温度、圧力、環境因子)の3つです。
同解説は、シリコンウェーハ仕上げ用スラリー中で 0.6μm を超える粗大粒子数の相対値と、300mm シリコンウェーハ上で 37nm を超える欠陥数(LPD)の相対値が、1985年から2025年のスラリー開発年の軸で並んで下がった経過を示しています。欠陥検査は KLA Surfscan SP2、パッドはスエード、洗浄は SC1 です。パーティクルの管理がスラリー側の管理そのものになる理由が、この対応関係です。環境からの二酸化炭素の溶解がアルカリ性スラリーの pH を下げ、砥粒凝集や研磨不良の原因になるとも同解説は述べています。
現場のつまみと、その両側
Section titled “現場のつまみと、その両側”砥粒濃度 を上げると作用点が増えて摩擦が増し、レートが上がります。差し出すのは粗大粒子の混入確率とスクラッチです。下げると欠陥は減りますが、レートと面内の作用点のばらつきを差し出します。JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会によるITRS 2013 配線章の和訳は、砥粒濃度を下げて化学反応を強める傾向が続き、砥粒レスの配合も出てくると書いています。
pH と酸化剤(酸化還元電位) について、森永氏の解説は、材料溶解の主要パラメータを pH、酸化還元電位、錯化剤の有無とし、水素より酸化還元電位の高い銅、銀、金の溶解には、より酸化還元電位の高い酸化剤が要ると述べています。過酸化水素が銅配線のCMPで広く使われる酸化剤です。上げる側では溶解が速まってレートが上がり、差し出すのは凹部の過研磨と局部腐食です。下げる側ではレートを差し出します。
表面保護剤の量 を増やすと凹部が守られて段差緩和性と選択性が上がります。差し出すのはレートと、洗浄で剥がしにくくなる残留です。同解説は、保護剤の選定にあたり、膜へ吸着しやすいことと、洗浄で落としやすいことの両方を満たす必要があると述べています。東亞合成の同号も、CMP後洗浄剤用途は金属含有量の制限要求がより厳しいと書いています。
温度 も1本のつまみです。摩擦熱で加工面は数十度加温されることが珍しくなく、活性化エネルギーが 51kJ/mol の反応であれば 10℃ の加温で化学作用が2倍程度促進されます。上げる側でレートを買い、差し出すのは表面荒れと局部腐食です。下げる側では、定盤のチラーで常温に保つだけでも表面荒れが大幅に改善します。
取引:化学へ振るほど、洗浄と腐食が重荷になります
Section titled “取引:化学へ振るほど、洗浄と腐食が重荷になります”ITRS 2013 配線章の和訳は、銅の研磨で機械的な要素が減って化学的な要素が増えてきたとし、これが腐食防止と平坦性の改善の必要を意味すると書いています。同章はまた、スラリー由来の残渣を選んで落とす洗浄薬液の開発が要るとし、この課題がポーラス膜、低温誘電体、金属膜スタック、セリア粒子に対して急がれると述べています。レートと平坦性をスラリーの化学で買った代わりに、CMP後洗浄と腐食管理の負荷を差し出す取引です。Cu-CMPとバリアメタルの研磨、低誘電率膜の露出まで含めると、スラリーの選定は洗浄と信頼性まで巻き込んで決まります。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- CMP(平坦化)の工程ページ ── 工程分類と、この工程に接続している公開求人
- 半導体材料の工程ページ ── スラリーを含む材料領域
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”CMPスラリーとは何ですか?
CMPスラリーは、化学機械研磨でウェーハと研磨パッドの間へ供給する液体です。東京エレクトロンの公式用語集は、典型的なCMPプロセスでコロイダルシリカ研磨剤を含むスラリーをウェーハとパッドの間へ供給すると述べています。
スラリーは何をしていますか?
化学的な作用と機械的な作用の両方を担います。薬液成分が表面を反応させて柔らかい層へ変え、研磨剤の粒子とパッドがその層を機械的に取り除きます。一方のみへ振ると、傷が入るか形状が崩れます。
コロイダルシリカとは何ですか?
液中に細かいシリカ粒子が分散した状態を指します。東京エレクトロンの公式用語集は、典型的なCMPプロセスのスラリーがコロイダルシリカ研磨剤を含むと述べています。粒子径と分散状態が、削れる速さと傷の入り方を左右します。
砥粒を除いたスラリーもありますか?
あります。東京エレクトロンの公式用語集は、除去するウェーハ表面の材料に応じて、研磨剤を除いたスラリーを使う場合があると述べています。ITRS 2013の配線章の和訳も、砥粒濃度を下げて化学反応を強める傾向と、砥粒レスの配合が出てくる可能性を挙げています。
材料ごとにスラリーを変えるのですか?
変えます。酸化膜、タングステン、銅、コバルトなど、削る材料によって作用する化学が異なります。同時に、下地に対する選択比も材料の組み合わせで決まるため、層構成ごとにスラリーを選びます。
スラリーは装置と材料のどちらですか?
材料です。装置カタログDBでは装置familyの外にあり、半導体材料の領域に入ります。工程としてはCMP装置と一体で運用されます。
スラリーに要る機能は何個ですか?
フジミインコーポレーテッドの森永均氏による解説は、CMPを用いた精密研磨に要る機能を、材料除去、表面保護、汚染制御の3つに大別しています。材料除去は砥粒の機械作用と薬液の化学作用、およびその複合作用で進みます。
働く砥粒を増やすにはどうしますか?
同じ解説は、砥粒と基板の表面電位(ゼータ電位)を正負の関係にして引力が働く設計を挙げています。化学的に安定なSi3N4膜の研磨速度がpH4で最大になった実測では、コロイダルシリカ5wt%、圧力2.6psi(18kPa)、ヘッドと定盤を300/300rpmという条件でした。
圧力応答性とは何ですか?
東亞合成のTREND 2025 第28号は、圧力応答性を、研磨圧力を動かしたときに研磨速度がどう動くかの指標として挙げ、高圧条件6kgと低圧条件1kgの研磨速度比で示しています。低圧部で膜へ吸着保護してレートを下げ、高圧部では剥がれて元のレートへ戻る添加剤が、平坦性の向上に有効とされています。
スラリーの粗大粒子は何を悪くしますか?
森永氏の解説は、粗大な砥粒や異物が混ざるとその1点へ圧力が集中し、スクラッチや凹凸状の欠陥が出ると述べています。同解説は、0.6μmを超える粗大粒子数の低減と、300mmシリコンウェーハ上で37nmを超える欠陥数の低減が対応して進んだ経過を1985年から2025年の軸で示しています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- CMPスラリー、パッド、コンディショナ ── 消耗品側の深掘り
- CMP:平坦化、欠陥、低k/新金属の判定項目 ── 工程としてのCMP
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- 東京エレクトロン 公式用語集「CMP / Chemical Mechanical Polishing」(2026年8月22日にリンク生存を実測、200)── スラリーの供給位置とコロイダルシリカ、研磨剤を除いたスラリーを裏づけます。
- フジミインコーポレーテッド 森永均「化学機械研磨(CMP)の原理と進化」(トライボロジスト 第70巻 第5号、2025年、263〜270ページ/2026年9月3日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── 3つの機能、ゼータ電位とpH4、0.6μm と 37nm と 300mm、51kJ/mol と 10℃ を裏づけます。
- 東亞合成グループ研究年報「TREND 2025 第28号 CMP用ポリマー添加剤の開発」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── 非プレストニアン性、EJ-380CH-Y の研磨条件、80nm と 10wt% と pH11、QCM-D の流量を裏づけます。
- ニッタ・デュポン「研磨スラリー製品一覧」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 工程 11 区分と機能 12 項目、各シリーズの用途を裏づけます。
- SEAJ 半導体製造装置用語集「ウェーハプロセス」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 選択比 1:b/a とスラッジを裏づけます。
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「ITRS 2013 和訳 配線」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200、application/pdf)── 砥粒濃度を下げる傾向と砥粒レス、洗浄薬液の課題を裏づけます。