段差解消性とは
段差解消性とは、研磨によってウェーハ上の段差がどこまで下がるかを表す性質です。 削る速さとは別の指標で、凸部と凹部の除去レート差が保たれているあいだだけ段差が下がります。
日立化成工業の芦沢寅之助氏と天野倉仁氏による日立評論の解説は、段差の下がり方をこう述べています。段差のあるシリコンウェーハを研磨すると突起部に応力が集中し、凹部は局所的に低圧力状態になります。基本的にはこの局所的な圧力差によって平坦化が進みます。ただし現実には研磨パッドが弾性により変形するため、凹部も研磨されます。プレストン式の圧力を場所ごとの値として書き直すと、段差解消性は凸部と凹部の圧力差の大きさと寿命そのものになります。
九州大学の礒部晶氏による2014年の博士論文は、その寿命に名前を付けています。研磨を始めた時点では凸部と凹部でローカル圧力に差があるため凸部のレートが高く、研磨が進んで凸部の高さが減るとその圧力差も縮みます。やがて凸部と凹部のレート差が消え、そこで平坦化は頭打ちになります。同氏はこの到達点を限界平坦性と呼び、到達点がパッドの変形量に左右されること、変形量が小さいときは限界平坦性の凹凸間の距離が伸びるか、凹凸の段差そのものが低くなることを述べています。
同論文は工程ごとの要求も分けています。層間絶縁膜のCMPは層間膜の途中で研磨を終えて残膜を制御する必要があり、mm単位の平面上距離での平坦性、つまりグローバル平坦性が問われます。STIやCu-CMPのように複数の膜が露出して選択比で構造を作る工程では、エロージョンやディッシングというローカル平坦性の制御になります。
何を測っているのか
Section titled “何を測っているのか”日立評論は、CMPプロセスで平坦性を測るにはライン/スペースが100/100 µm部の太い配線上の凹凸を触針式の段差計で測るのが一般的だと述べています。レゾナック(日立化成テクニカルレポート No.55)のセリアスラリー表も、平坦性をActive/Trench=100/100 µm部のディッシングとして定めています。礒部氏は触針式プロファイロメータでライン/スペース9.0/1.0 µmのパターンを代表値とし、中心から外周にかけて半径上の4チップで面内分布を取っています。太幅の1本と細密アレイの1組を同時に持つテストパターンが、段差解消性の測り口になります。
数値の並びも公開されています。日立評論の表1は、Sematec 864のSTI用テストパターンで初期段差600 nm、研磨時間140 s、100 µmライン/スペースの残留段差10 nm、トレンチ酸化膜のばらつき25 nm、ストッパ膜のばらつき5 nmを挙げ、研磨の終点をすべてのストッパ膜が露出した時点としています。レゾナックのメタルスラリー表は、Cu用HS-H700が研磨圧力14.0 kPaでCu 850 nm/min、100/100 µmのディッシング50 nm未満、9/1 µmのエロージョン10 nm未満、バリア用HS-T915が10.5 kPaでCu 27/TaN 95/SiO₂ 90/SiOC 31 nm/min、ディッシング10 nm未満、エロージョン5 nm未満と示しています。いずれもロータリータイプの研磨機とポリウレタン系硬質パッドを使った同社の公表値です。
つまみ:パッドの圧縮率
Section titled “つまみ:パッドの圧縮率”パッドの圧縮率 は、限界平坦性を直に動かします。礒部氏は同一条件のCu研磨で積層パッドIC1400と単層パッドIC1000を比べています。ウェーハ圧力20.7 kPa、リテーナリング圧力6.9 kPa、プラテン83 min⁻¹、ヘッド78 min⁻¹、スラリー流量270 ml/min、毎回ex-situで30 sのドレッシングという条件で、MIT754パターン上にCu 1000 nmとTa 15 nmを載せたウェーハを終点検出まで研磨すると、エロージョンとディッシングの合計はIC1400で72 nm、IC1000で59 nmでした。バルク圧縮率はIC1400が3から4%、IC1000が約1%です。差し出したものはレートで、ブランケット膜での研磨レートはIC1400が925 nm/min、IC1000が765 nm/minでした。面内均一性は1σで1.9%と2.0%です。同氏は、低い圧縮率が平坦性を改善する一方、パッドの追随性が落ちてウェーハとの接触部が減りレートが下がったと解釈しています。九州大学へ提出された同論文の実験系の値です。
同論文は、ローカル平坦性についてはバルク物性より表面の実効弾性率が支配的だとして、パッド表面をバネの集合に見立てています。バネ定数が大きい、つまり表面の実効弾性率が高い場合は、段差によるローカル圧力差が短時間で大きくなり、ローカル平坦性の悪化がそこで止まります。バネ定数が小さい場合は圧力差が大きくならず、段差が育っても悪化が続きます。CMPパッドの選定とパッドコンディショニングの強さが、そのまま段差解消性へ回ります。
パッド表面温度 も同じ側のつまみです。礒部氏は、IC1400では研磨中に温度が上がり続ける一方、IC1000では研磨開始から30 sで上昇が頭打ちになると報告しています。下層のクッション層がある積層パッドのほうが熱伝導率が低く、発生した熱をプラテンへ逃がしにくいためです。プラテン設定温度を上げると研磨レートもディッシングとエロージョンの合計も増え、その傾きはIC1000のほうが大きくなります。横軸をパッド表面の到達温度へ置き換えると、パッドの種類にかかわらず平坦性とレートの両方が温度と強く相関しました。IC1400ではディッシングとエロージョンの面内ばらつきも出て、ウェーハ中心部が大きく周辺部が小さい傾向を示しました。フジミインコーポレーテッドの森永均氏による公開解説も、大型基板の研磨では中心部に熱がこもって中心部の研磨速度が増大し、これが平坦性へ悪影響を及ぼすとして、定盤のチラー機能の活用、スラリー流量の最適化、パッドへの溝構造形成によるスラリー排出の促進を対策に挙げています。チラー設定を下げれば段差解消性は上がり、レートが落ちます。
つまみ:凹部を守る添加剤
Section titled “つまみ:凹部を守る添加剤”凹部の保護 は、凸部と凹部のレート差を広げる手です。日立評論は、段差解消性能の改善には凹部を保護する作用を持たせることが有効だとして、日立化成が陰イオン性の有機高分子を添加して段差を大幅に低減した経緯を述べています。特定の陰イオン性有機高分子は酸化セリウム粒子の表面へ吸着し、SiO₂膜の研磨を阻害します。吸着力の弱い有機高分子は圧力や温度といった外乱で酸化セリウム表面から脱離しやすいため、段差の突起部分では引きはがされて凸部の研磨が進み、凹部では吸着状態が保たれて研磨速度が低く保たれます。研磨開始直後は段差が大きく凸部と凹部の圧力差も大きく、段差が解消すると局所圧力は平準化されます。有機高分子の添加量が多いと引きはがすのに必要な圧力が高くなるため、添加量を適切に設定すると、段差が残っている状態では凸部の研磨が進み、完全に平坦化したときには研磨抑制へ転じます。同社によれば、この有機高分子はSiNの研磨抑制作用も持ち、添加量の調整で段差の低減とSiN上での研磨停止の両方が成り立ちます。SiNの研磨速度は10 nm/min以下が得られています。
差し出すものは、幅の広いパターンです。日立評論は、SiNの研磨を抑えた研磨材でも幅100 µm以上の比較的大きなパターンではディッシングが発生し、その結果として大きなパターン近傍のSiN膜が削り取られる場合があったと述べています。いったん大きなパターンでディッシングが生じると、その近傍へ局所的に大きな圧力が加わってSiNの研磨速度を抑えられなくなります。対策として同社は、研磨材へ凹部の保護作用を付与すること、パッドの弾性を高くして変形量を小さくすること、幅広のパターンを除くようパターン設計を変更することを並べています。レゾナックのセリアスラリー表では、添加剤を使った条件でSiO₂ 350から250 nm/min、SiN 8から4 nm/minに対し、平坦性はいずれのグレードも10 nm未満です。この節の膜別レートは、いずれも各社が自社スラリーについて公表した値です。
2段階目で段差が育つ
Section titled “2段階目で段差が育つ”礒部氏は、STIやCu配線のCMPでは平坦化が2段階で進むとしています。初期の段差を平坦化する段階と、ストッパ膜の上に残った余剰膜を残らず落とすオーバーポリッシュの段階です。ストッパ膜露出時に初期段差が平坦化されていると仮定すると、オーバーポリッシュ時間 は長いほど平坦性を悪化させます。同氏はCuダマシンでCuの研磨レートがバリアメタル膜の10倍だと仮定し、研磨が進むとこのレート差で段差が大きくなり、生じた段差がローカル圧力差を生んで、圧力比が10対1になるまでディッシングが進むと述べています。層間絶縁膜のパターン間距離がmmオーダーである一方、STIやCuダマシンではµmオーダーなので、わずかな段差で圧力差が急激に増大します。
ここでの取引は選択比です。レゾナックは、Cu-CMPで生じた段差をバリアCMPの研磨選択比の制御で回復させられるとし、研磨条件や酸化剤濃度の最適化でCu:Ta:SiO₂の選択比を1:3:3程度に設定すると最終仕上がりが最も平坦になると述べています。同社が挙げる到達点は、100 µm幅の太幅配線のディッシングを10 nm以下、細密配線のエロージョンを数nm以下です。ロジック、メモリ、イメージセンサでパターンが異なるため、顧客の要求特性に応じた調整が要るとも書いています。
レイアウト側で受けるときの代償
Section titled “レイアウト側で受けるときの代償”日立評論は、平坦化効果に乏しい研磨材の場合、大面積パターンをそのまま研磨して段差を10 nmに低減するのは難しく、対策としてダミーパターンの挿入や逆パターン(リバースマスク)による大面積パターンのエッチング除去といった追加プロセスが併用されると述べています。リバースマスクの使用はコスト上昇を招き、ダミーパターンも一部では使用が制限される場合があるため、最近はこうした手法を取らずに段差解消性能の高い酸化セリウム研磨材が広く採用されつつある、というのが2008年時点の同社の見立てです。
設計側の代償はケイデンスの技術記事が書いています。同記事は、密度や配線幅、配線間隔を最適化してデザインルールでチェックする方法が取られている一方、CMPの影響が広範囲なので局所的なデザインルールのチェックでは足りず、密度分布と膜厚分布がずれる領域が存在すると指摘しています。ダミーフィルについては、配線容量が増加してタイミングへ影響するため、最適なダミーフィルルールでの平坦化が課題になっているとしています。同記事はさらに、表面高さのばらつきがリソグラフィー工程での焦点深度のホットスポットを誘発し、28 nmプロセスノード以降では膜厚研磨量が配線断面積に占める割合が高くなって配線抵抗と配線容量のばらつきが回路性能へ及ぶとも書いています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”段差解消性とは何ですか?
研磨によってウェーハ上の段差がどれだけ下がるかを表す性質です。日立化成工業の芦沢寅之助氏と天野倉仁氏による日立評論の解説は、CMP研磨材による段差解消性能の改善には凹部を保護する作用を持たせることが有効だとして、この語を使っています。
除去レートが高ければ段差も速く消えますか?
別の話になります。段差が下がるのは凸部と凹部の除去レート差があるあいだだけで、九州大学の礒部晶氏による博士論文は、研磨が進んで凸部の高さが減るとローカル圧力差が小さくなり、やがてレート差が無くなってそれ以上平坦化が進まなくなるとしています。同氏はこの到達点を限界平坦性と呼んでいます。
段差解消性はどうやって測りますか?
触針式の段差計です。日立評論は、ライン/スペースが100/100 µm部の太い配線上の凹凸を触針式の段差計で測るのが一般的だと述べています。礒部氏の博士論文は、触針式プロファイロメータでライン/スペース9.0/1.0 µmのパターンを測り、中心から外周にかけて半径上の4チップで面内分布を取っています。
どのくらいの段差まで下がりますか?
日立評論はSematec 864のSTI用テストパターンでの研磨特性として、初期段差600 nm、研磨時間140 s、100 µmライン/スペースの残留段差10 nm、トレンチ酸化膜のばらつき25 nm、ストッパ膜のばらつき5 nmを挙げています。研磨の終点はすべてのストッパ膜が露出した時点です。同社の公表値です。
パッドを硬くすると段差解消性は上がりますか?
上がる代わりにレートが落ちます。礒部氏の博士論文は、同一条件でのCu研磨で、バルク圧縮率が約1%の単層IC1000がエロージョンとディッシングの合計59 nm、圧縮率3から4%の積層IC1400が72 nmだった一方、研磨レートは765 nm/minと925 nm/minで単層側が低かったと報告しています。
パッド表面温度は段差解消性を動かしますか?
強い相関がありました。礒部氏の博士論文は、プラテン設定温度を上げると研磨レートもディッシングとエロージョンの合計も増え、横軸をパッド表面の到達温度へ置き換えるとパッドの種類にかかわらず両方が温度と強く相関したとしています。IC1400では中心部が大きく周辺部が小さい面内ばらつきも出ました。
ダミーパターンを入れれば段差解消性の不足は埋まりますか?
別の代償が付きます。日立評論は、平坦化効果に乏しい研磨材では大面積パターンをそのまま研磨して段差を10 nmに下げるのが難しく、ダミーパターンの挿入やリバースマスクによるエッチング除去が併用されると述べ、リバースマスクはコスト上昇を招くとしています。ケイデンスの技術記事は、ダミーフィルが配線容量を増やしてタイミングへ影響するため、最適なダミーフィルルールでの平坦化が課題になっていると書いています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- ディッシング(CMP)とは ── 太幅パターンで段差解消性が不足したときに残る形
- エロージョン(CMP)とは ── 細密アレイ側に出る、もう一方の残り方
- プレストン式とは ── 圧力を場所ごとの値として読み直すと段差解消性になる関係
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- 日立評論 2008年2月号「半導体平坦化用CMP研磨材」日立化成工業 芦沢寅之助・天野倉仁(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 局所圧力差による平坦化とパッドの弾性変形、段差解消性能という語の用法、陰イオン性有機高分子の吸着と脱離、Sematec 864での初期段差600 nmと残留段差10 nm、幅100 µm以上でのディッシング、触針式段差計による100/100 µmの測定、ダミーパターンとリバースマスクの併用
- レゾナック「半導体ウエハープロセス材料」日立化成テクニカルレポート No.55、2013年1月(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── セリアスラリーとメタルスラリーの研磨速度と平坦性の表、Active/Trench=100/100 µmという平坦性の測り口、Cu:Ta:SiO₂=1:3:3の選択比、太幅配線10 nm以下という到達点
- 九州大学学術情報リポジトリ 礒部晶「CMPにおける巨視的および微視的モデルに基づいた加工メカニズムに関する研究」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 限界平坦性という呼び方とパッド変形量が及ぶ範囲、グローバル平坦性とローカル平坦性の分け方、IC1400とIC1000の圧縮率・研磨レート・ディッシングとエロージョンの実測、パッド表面温度との相関、2段階の平坦化とオーバーポリッシュでの段差の育ち方
- フジミインコーポレーテッド 森永均「化学機械研磨(CMP)の原理と進化:半導体・多様な素材への応用」トライボロジスト 第70巻第5号、2025年(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 大型基板で中心部に熱がこもり中心部の研磨速度が増大して平坦性へ及ぶこと、チラー・スラリー流量・パッド溝による温度均一化
- ケイデンス「最新CMP平坦化シミュレーション技術と適用事例」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 密度分布と膜厚分布がずれる領域の存在、ダミーフィルによる配線容量の増加とタイミングへの影響、表面高さのばらつきが焦点深度のホットスポットを誘発すること