SPM洗浄(硫酸過酸化水素水洗浄)とは
SPM洗浄とは、硫酸と過酸化水素水を混ぜた薬液で、有機物とレジストを強く分解して落とす洗浄です。 混合時の発熱で高温になり、有機物への分解力が高くなります。
SPMが担うのは、落ちにくい有機物です。リソグラフィで使ったレジストは、露光と現像を経たあと、エッチングやイオン注入にさらされます。特にイオン注入を受けたレジストは表面が硬化し、通常の薬液では落ちにくくなります。
硫酸と過酸化水素水の組み合わせは、この用途に向きます。混合すると発熱して高温になり、有機物を分解する力が上がります。発熱そのものが薬液の状態そのものになるため、温度と混合比が管理項目になります。W. Kernによる査読論文「The Evolution of Silicon Wafer Cleaning Technology」(Journal of The Electrochemical Society 137, 1887, 1990)は、過酸化水素を基本にしたこれらの薬液体系の変遷をまとめています。電子情報通信学会の知識ベースにある森田博志の解説も、過酸化水素水に硫酸を加えたSPMで、ウェーハ上のレジストやそのアッシング後の残渣といった濃厚な有機汚染を除去できると述べています。同じ資料は、洗浄の回数がフォトリソグラフィ工程数の2〜3倍にのぼり、近年のLSI製造では100回を優に超えると書いています。
液温は自分で上がり、そこから落ちていきます
Section titled “液温は自分で上がり、そこから落ちていきます”発熱の中身は希釈熱です。東芝レビュー2009年の報告は、濃硫酸と過酸化水素水を混ぜると両者が反応してペルオキソ一硫酸が生成すると言われている、と述べたうえで、濃硫酸の希釈熱によって液温が急に上がり、当初の液温と混合比率によって差はあるものの100〜120℃程度まで上昇すると書いています。同じ報告は、そこで水の沸騰と過酸化水素の分解で出る酸素によって発泡が起き、そのバブリング効果も均一性の向上に寄与すると言われている、としています。つまり泡は副産物でもあり、面内分布を助ける撹拌にもなります。
温度の帯も示されています。同報告は、SPMを通常90〜130℃、場合によっては150℃程度で行うとし、温度が高いほどレジスト除去性能は上がる一方で過酸化水素の消耗が激しくなると述べています。剥離を速める方向と薬液を長持ちさせる方向を、温度という1本のつまみが同時に引っ張ります。
液温は下がる側にも動きます。同報告は、300 mmのシリコンウェーハで一般的なノボラック系レジストを20秒程度で溶解させた測定を示したうえで、耐酸化性の強いレジストの完全な除去には180秒を要したこと、そして1枚ずつ回転させる枚葉スピンタイプの装置を使ったため、ウェーハ表面温度が下がった可能性が高いことを述べています。槽の設定温度が同じでも、ウェーハの上の液温は別になります。この記述は、その現場の感覚を裏づけます。
現場では何を測り、どう動かすのか
Section titled “現場では何を測り、どう動かすのか”第一のつまみは液温です。上げれば剥離が速くなり、テールの厚い硬化レジストにも届きます。代わりに過酸化水素が速く消え、薬液の寿命が短くなります。下げれば薬液は持ちますが、イオン注入を受けた層の抜けが遅くなり、時間で埋める分だけ装置の占有が伸びます。
第二のつまみは混合比と過酸化水素の濃度です。東芝レビュー2009年の報告は、濃度の高い過酸化水素水が爆発性を持つため、運搬と保管のリスクが大きく法令の面でも制限が加わるとし、一般には爆発性を避けた濃度30〜35 %程度の水溶液がよく使われると述べています。同報告は、この場合65〜70 %が水であり、水の蒸発速度が過酸化水素の分解・消耗速度を下回るときは一定のタイミングで全液の交換が要ると書いています。混合比を過酸化水素側へ振れば分解力は上がり、同時に持ち込まれる水が増えて硫酸が薄まります。
第三のつまみは装置側の供給です。東京エレクトロンはZETA+シリーズの製品ページで、高温での薬液を可能にしたViPR+技術によりレジストやシリサイドを短時間で剥離するバッチスプレー式の装置として、最大8種類の薬液供給と密閉式のシングルチャンバーを挙げ、各薬液の混合比や濃度および温度をレシピにより設定できるとしています。300 mmと200 mmのウェーハに対応する仕様も同ページの記述です。混合比と温度がレシピ側の量になれば、槽の履歴に頼らずに条件を作り直せます。
実際の工程では、気相と液相を組み合わせます。酸素プラズマでレジストを気相で分解するアッシングで大部分を除き、残った残渣をSPMで落とす、という順です。役割を分けることで、それぞれの薬液の時間を短く保てます。SCREENの技術ガイド「レジスト剥離」は、酸素プラズマが炭素・酸素・水素からできたレジストを二酸化炭素と水と酸素へ変えて気化させる一方、レジストに含まれる重金属などの不純物は気化を免れて残るため、プラズマアッシングの後にウェットステーションで洗うことが好ましいと述べています。SPMが引き受けるのは、まさにこの気化を免れた側です。同ガイドは、ウェットでの剥離が生産性の高さとレジスト中の微量な重金属まで取り除ける利点を持つ一方、レジスト以外の部分へ薬液が悪影響を与える可能性があるため、微細な回路にはプラズマアッシャ、比較的ラフな回路にはウェットステーションを使う傾向があるとしています。露出している金属を侵す場合があるため、層構成によってはSPMを避け、別の薬液を選びます。
何を差し出すことになるのか
Section titled “何を差し出すことになるのか”第一に、薬液そのものを消費します。東芝レビュー2009年の報告は、ライフサイクルアセスメントで見積もった数字として、SPM洗浄では装置1台1年当たり1.04×10⁶ MJのエネルギーと7.94×10⁷ gの二酸化炭素、過酸化水素水を省いた電解硫酸では3.85×10⁵ MJと2.45×10⁷ gという計算結果を挙げています。同報告は、寄与の大きい項目として、SPM側では過酸化水素、硫酸、稼働電力、超純水の精製用電力を挙げています。
第二に、硫酸を回し直しにくくなります。同報告は、硫酸と過酸化水素の反応で生成する水と過酸化水素水に含まれる水によって硫酸が薄まるため、硫酸のリサイクルが難しくなると述べています。電子情報通信学会の知識ベースも、硫酸の一部を過硫酸へ転換する電解の技術について、洗浄槽でレジストの分解に伴って過硫酸が硫酸へ戻り、その液を再び電解して洗浄槽へ送るループを組むことで硫酸を長時間連続で使えるとし、過酸化水素水が要らずレジスト剥離の効果はSPMと同等以上だと書いています。
第三に、置き換えの相手には濃度の天井があります。同じ知識ベースは、オゾン水が非常に高い酸化還元電位を持ちながら、せいぜい100 ppm前後という濃度の低さに限界を持ち、レジストのような濃厚な有機物の除去には濃度が不足すると述べています。明電舎はピュアオゾン水生成装置の製品ページで、ほぼ100 %のピュアオゾンガスと減圧生成方式によって50〜300 mg/Lのオゾン水を連続生成する仕様を示し、水温5〜15℃、流量0.5〜5 L/minという条件と、半導体ウエハの高イオン注入レジスト除去という用途を挙げています。濃度の側から追いつく開発が進む一方で、現在の量産の主戦場は依然としてSPMです。
第四に、露出材料への当たりが強くなります。住友化学の技術誌「住友化学2000-I」は、RCA洗浄の薬液をまとめた表でSPMの除去対象を有機物と金属不純物とし、コンタクトホール工程では酸素プラズマとSPM洗浄液でレジストを除いた後もホール内部にドライエッチング堆積物が残るためAPM洗浄が要るとしています。SPM単独で工程が完結する場面は限られ、SC-1・SC-2やDHF洗浄との組み合わせで初めて次工程が要求する面になります。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- 洗浄・表面処理の工程ページ ── 工程分類と、この工程に接続している公開求人
- アッシング・レジスト剥離の工程ページ ── 気相側のレジスト除去
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”SPM洗浄とは何ですか?
硫酸と過酸化水素水を混ぜた薬液で、有機物とレジストを強く分解して落とす洗浄です。混合時に発熱して高温になるため、有機物への分解力が高くなります。
SPMは何を落としますか?
レジストの残渣を含む有機物が主な対象です。電子情報通信学会の知識ベースは、SPMがウェーハ上のレジストやそのアッシング後の残渣といった濃厚な有機汚染の除去に使えると述べています。イオン注入後の硬化したレジストのように、通常の薬液で落ちにくい有機物まで分解します。
SPMの液温はどのくらいですか?
東芝レビュー2009年の報告は、濃硫酸の希釈熱で液温が急に上がり、当初の液温と混合比率によって差はあるものの100〜120℃程度まで上昇すると述べています。同じ報告は、SPMを通常90〜130℃、場合によっては150℃程度で行うとしています。
液温を上げると何が悪くなりますか?
過酸化水素の消耗が速くなります。東芝レビュー2009年の報告は、温度が高いほどレジスト除去性能は上がる一方で過酸化水素の消耗が激しくなると述べています。薬液の寿命と剥離速度を同じつまみで引っ張る形になります。
アッシングとの違いは何ですか?
気相か液相かが異なります。アッシングは酸素プラズマでレジストを気相で分解します。SPMは薬液の中で分解します。SCREENの技術ガイドは、レジストに含まれる重金属などの不純物は気化を免れて残るため、プラズマアッシングの後にウェットステーションで洗うことが好ましいと述べています。
SPMの注意点は何ですか?
高温の強酸を使う点です。混合時の発熱そのものが薬液の状態そのものになるため、温度と混合比の管理が要ります。露出している金属を侵す場合があるため、層構成によっては別の薬液を選びます。
SPMとRCA洗浄の関係は何ですか?
どちらも過酸化水素を使いますが、対象が異なります。RCA洗浄のSC-1は有機物と粒子、SC-2は金属が対象です。SPMは有機物とレジストへの分解力に振った薬液です。SEAJの用語集も、RCA洗浄を高温・高濃度の硫酸・過酸化水素水や希フッ酸などの総称として記しています。
オゾン水でSPMを置き換えられますか?
軽い有機汚染までです。電子情報通信学会の知識ベースは、オゾン水が非常に高い酸化還元電位を持ちながら、せいぜい100 ppm前後という濃度の低さに限界があり、レジストのような濃厚な有機物の除去には濃度が不足すると述べています。レジスト剥離でSPMが使われ続けてきた理由として、同じ資料は濃度の低さを挙げています。
SPMの後は何をしますか?
純水でリンスし、目的に応じてDHFやSC-1へ続けます。自然酸化膜を除きたければDHF、粒子と金属をさらに落としたければRCA系へ続けます。住友化学の技術誌は、コンタクトホール工程で酸素プラズマとSPM洗浄液でレジストを除いた後も、ホール内部にドライエッチング堆積物が残るためAPM洗浄を足すと述べています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 洗浄と表面前処理 ── 工程としての洗浄の全体像
- エッチングガスと洗浄薬液 ── 薬液とガスの材料側
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- W. Kern, “The Evolution of Silicon Wafer Cleaning Technology”, Journal of The Electrochemical Society 137, 1887 (1990), DOI 10.1149/1.2086825(Crossrefの書誌と被引用1,509件を2026年8月22日に実測、2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 過酸化水素を基本にした薬液体系の変遷
- 電子情報通信学会 知識ベース「10群2編3章 プロセス要素技術」(3-1 ウェットプロセス技術、執筆者 森田博志。2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── SPMがレジストとアッシング後の残渣という濃厚な有機汚染を落とすこと、洗浄回数がリソグラフィ工程数の2〜3倍で100回を超えること、オゾン水の濃度がせいぜい100 ppm前後でレジスト除去には濃度が不足すること、硫酸電解による過硫酸のループと過酸化水素水の不要化
- 東芝レビュー Vol.64 No.5(2009)「環境負荷を大幅に低減する半導体のレジスト除去技術」(速水直哉、田家真紀子。2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 希釈熱による100〜120℃までの液温上昇、発泡のバブリング効果、通常90〜130℃と場合により150℃程度という温度帯、温度と過酸化水素の消耗の関係、過酸化水素水の濃度30〜35 %と水の65〜70 %、全液交換の要否、300 mmウェーハでのノボラック系20秒と耐酸化性レジスト180秒、枚葉スピンでの表面温度低下、LCAによるエネルギーと二酸化炭素の比較
- 日本半導体製造装置協会(SEAJ)「半導体製造装置用語集(ウェーハプロセス)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── RCA洗浄が高温・高濃度の硫酸・過酸化水素水などの総称にあたること、希フッ酸を室温で用いること
- SCREENセミコンダクターソリューションズ 技術ガイド「レジスト剥離」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 酸素プラズマがレジストを二酸化炭素と水と酸素へ変えること、重金属が気化を免れて残るためアッシング後にウェット洗浄が好ましいこと、ウェット剥離の利点と薬液の悪影響、微細な回路と比較的ラフな回路での使い分け
- 東京エレクトロン「洗浄 ZETA+シリーズ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 高温薬液のViPR+技術によるレジストとシリサイドの短時間剥離、最大8種類の薬液供給と密閉式シングルチャンバー、混合比と濃度と温度のレシピ設定、300 mmと200 mmへの対応
- 住友化学「住友化学2000-I 次世代デバイス用機能性薬品の開発」(高島正之、一木直樹。2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── SPM洗浄の液組成と除去対象、コンタクトホール工程で酸素プラズマとSPMの後にAPM洗浄が要ること
- 明電舎「超高濃度・高純度ピュアオゾン水生成装置」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ほぼ100 %のピュアオゾンガスと減圧生成方式、オゾン水濃度50〜300 mg/L、水温5〜15℃、流量0.5〜5 L/min、高イオン注入レジスト除去という用途