オゾン水洗浄とは
オゾン水洗浄とは、純水にオゾンを溶かした液で、有機物を酸化分解して落とす洗浄です。 強酸を使わずに有機物へ働くため、薬液の使用量と排水処理の負荷を抑えられます。
オゾン水が答える課題は、薬液のコストと環境負荷です。有機物を落とす代表的な薬液のSPMは、硫酸と過酸化水素水を高温で使います。分解力は高い一方で、使用量が多く、排水処理の負担も大きくなります。W. Kernによる査読論文「The Evolution of Silicon Wafer Cleaning Technology」(Journal of The Electrochemical Society 137, 1887, 1990)は、洗浄技術がこうした課題に応じて変化してきた経緯をまとめています。電子情報通信学会の知識ベースにある森田博志の解説は、RCA洗浄系の薬液のうち希フッ酸以外はすべて高温で用いるため、エネルギー消費と濃度の維持が難しいと以前から指摘されてきたと述べ、その答えとして、SPMとHPMを酸化力の強いオゾン水で代用し、微粒子は微量のアルカリを加えた水素水の超音波洗浄で落とす全室温の洗浄プロセスを挙げています。
オゾン水は純水を基本にします。オゾンは強い酸化力を持ち、有機物を酸化して分解します。強酸を避けられるため薬液コストが下がり、排水も軽くなります。常温付近でも働くため、加熱の設備も軽く済みます。SCREENの技術ガイド「洗浄工程」も、機能水洗浄をオゾンなどを含んだ純水でウェーハを洗う技術として挙げ、これが普及すれば毒性や腐食性の強い廃液が減るとしています。同ガイドは、現在の洗浄のほぼ99 %がウェット洗浄だとも書いています。
濃度は、作った先から減っていきます
Section titled “濃度は、作った先から減っていきます”オゾン水の難しさは、液を作る側にあります。オゾンは気体で供給され、超純水へ溶かして初めて薬液になります。住友精密工業は半導体分野向けの製品紹介で、板型放電方式のオゾン発生機として業界トップクラスの400 g/m³(N)というガス側の濃度を挙げ、放電面に高純度セラミックスを使ってパーティクルと金属コンタミネーションの発生を抑えているとしています。同社はオゾン水製造装置を、この発生機のオゾンガスを超純水へ溶解させる装置と位置づけ、原料ガスの酸素に加えて、濃度減衰の抑制対策として二酸化炭素を添加すると書いています。
溶かし方そのものが清浄度を左右します。日本ゴアはオゾネーションモジュールのページで、延伸多孔質PTFEのメンブレンを通したガス圧の差による拡散で溶解させるため、無気泡で最高200 mg/Lの溶存オゾン濃度が得られるとし、0.40 MPaまでの耐水圧を実現したとしています。同ページは、エジェクターやスタティックミキサーのような機械混合方式ではガスを直接注入するため気泡が生じ、ガス中のパーティクルがそのまま液へ入り、水とガスの圧力変動で生成濃度が揺れると比較しています。
減衰は配管の中でも進みます。住友精密工業は、ユースポイントの近くで溶解させることで配管移送中の濃度減衰を抑え、オゾン発生機1台から複数の溶解部へガスを供給できるとしています。同社はオゾン濃度計と組み合わせたフィードバック制御と、使用後のオゾンガスとオゾン水を無害化する分解器も製品に挙げています。作る、運ぶ、測る、壊すの4点が装置構成に並ぶ薬液です。
現場では何を測り、どう動かすのか
Section titled “現場では何を測り、どう動かすのか”第一のつまみは溶存オゾン濃度です。明電舎はピュアオゾン水生成装置の製品ページで、ほぼ100 %のピュアオゾンガスと減圧生成方式によって50〜300 mg/Lのオゾン水を安定的に連続生成する仕様を公開し、主要金属イオンをsub-pptレベルに保つとしています。同ページは用途として、半導体ウエハの高イオン注入レジスト除去を挙げています。濃度を上げれば有機物の分解が速くなり、代わりに発生機の消費電力と分解器の負荷が増えます。
第二のつまみは水温です。明電舎の同じ仕様は水温5〜15℃を条件に挙げています。オゾンは低い水温ほど溶けやすく、高い水温では分解が速くなります。温度を下げれば濃度を稼げますが、有機物との反応そのものは温度が低いほど鈍くなるため、冷却設備と洗浄時間のどちらで払うかという配分になります。
第三のつまみは供給量と液性です。明電舎は流量0.5〜5 L/minを仕様に挙げています。SEAJの用語集は、東北大学の大見教授の研究グループが開発した室温四工程洗浄の第1工程として、オゾン水(5 ppm O₃、炭酸添加でpH4)による有機汚染の除去を記し、一部の金属汚染も落ちるとしています。東芝レビュー2014年の記事は、過酸化水素とオゾンがアルカリ性の雰囲気では分解するため、高い酸化還元電位を持つアルカリ洗浄液の開発が難しかったと述べています。オゾン水をSC-1・SC-2のようなアルカリ側の薬液へ足す道は、この分解のために閉ざされています。
副作用が使い道になる点も特徴です。オゾンは有機物を分解すると同時に、シリコン表面へ薄い酸化膜を作ります。この酸化膜は続くDHFで狙って除けるため、酸化と除去を交互に繰り返す組み合わせが取れます。表面を大きく削らずに清浄化を進められます。荏原製作所は公式ページで、UFPのめっきおよびオゾン水装置を半導体向けとして掲載しています。
レシピの中では、どの位置に入るのか
Section titled “レシピの中では、どの位置に入るのか”交互供給には具体的な時間が公開されています。SEAJの用語集は、ソニーが開発した枚葉式スピン洗浄のSCROD法として、オゾン水とdHFをジェットノズルから回転中のウェーハ面へ交互に供給する洗浄を記し、1回の薬液をかける時間を約10秒、繰り返し回数をウェーハの汚染の程度と目的とする清浄度に応じて設定するとしています。同じ記述は、微細なパターンのあるウェーハへ適用するためメガソニックを外した構成だとしています。物理力を捨て、酸化と溶解の往復で清浄度を積み上げる形です。
バッチ側のレシピも同じ用語集にあります。欧州のデバイスメーカーが発表したDDC法として、オゾン純水20 ppmで5分の洗浄で有機汚染を除き、1 %のHFと1 %のHClの混合液と30秒のオーバーエッチで酸化膜と金属を落とし、純水リンスの後にオゾン純水3 ppmで10分、最後に0.01 %のHClを含むオゾン水で7分の仕上げをする、という室温の流れが記されています。同用語集はIMECクリーンの第1工程にも、90℃のSOM(硫酸とオゾン)または純水とオゾンによって有機物を除きながら、次工程のパーティクル除去のためのchemical oxide膜を作る役割を与えています。濃度はppmの桁で、時間は分の桁です。
何を差し出すことになるのか
Section titled “何を差し出すことになるのか”第一に、濃度の天井を受け入れます。電子情報通信学会の知識ベースは、オゾン水が非常に高い酸化還元電位を持ちながら、せいぜい100 ppm前後という濃度の低さ、つまり酸化種の量の少なさに限界を持ち、レジストのような濃厚な有機物の除去には濃度が不足すると述べています。同じ資料は、だからレジスト剥離ではSPM洗浄が使われ続けてきたとし、代替の道として硫酸の電解を挙げています。オゾン水が置き換えられるのは、フォトレジスト本体より手前の軽い有機汚染です。
第二に、設備を1式増やします。関東化学の技術誌「THE CHEMICAL TIMES」2005年No.4の宮崎正男による記事は、オゾン水や電解イオン水などの機能水を用いた洗浄技術が一部の洗浄プロセスへ採用されていると述べたうえで、機能水や超臨界流体を作るために新たな設備の導入が要ると書いています。薬液そのもののコストは下がっても、発生機、溶解部、濃度計、分解器という設備側の投資と保守が加わります。明電舎が仕様に添えた120時間ごとに5時間の自動再生も、その保守の一部です。
第三に、表面を削ります。オゾン水が作る酸化膜をDHF洗浄で除く往復は、1回ごとにシリコン側を薄く消費します。SCREENの技術ガイドは、ウェーハが大気に触れるだけで10〜20 nmの酸化膜ができ、そこに大気中の不純物も含まれるため汚染の一つとして数えると述べています。狙って作る酸化膜も放置でできる酸化膜も、最後はDHFの削り量として跳ね返ります。ゲート酸化膜の下地になる面では、この往復回数そのものがマージンの上限になります。
第四に、別の機能水と組み合わせる前提になります。電子情報通信学会の知識ベースは、水素水が軽度の微粒子汚染の除去には有効だとしたうえで、基板表面の溶解を要する強い汚染は水素水の範囲外だとしています。オゾン水も同じ枠の中にあり、パーティクル側はメガソニック洗浄などの物理力へ振り分けます。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- 洗浄・表面処理の工程ページ ── 工程分類と、この工程に接続している公開求人
- 超純水・排水処理の工程ページ ── 純水と排水の設備側
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”オゾン水洗浄とは何ですか?
純水にオゾンを溶かした液で、有機物を酸化分解して落とす洗浄です。強酸を使わずに有機物へ働くため、薬液の使用量と排水処理の負荷を抑えられます。
SPM洗浄との違いは何ですか?
使う薬液が異なります。SPMは硫酸と過酸化水素水の混合液で、高温で強く分解します。オゾン水は純水ベースで、常温付近でも有機物へ働きます。分解力ではSPMが上ですが、薬液コストと排水負荷ではオゾン水が有利です。
オゾン水は何に働きますか?
軽い有機汚染と、表面を酸化させたい場面です。オゾンは有機物を酸化して分解し、同時にシリコン表面へ薄い酸化膜を作ります。この酸化膜は、続くDHFで狙って除けます。
濃度はどのくらいですか?
電子情報通信学会の知識ベースは、オゾン水が非常に高い酸化還元電位を持つ一方で、せいぜい100 ppm前後という濃度の低さに限界を持つと述べています。装置側では明電舎が50〜300 mg/L、日本ゴアが最高200 mg/Lという公称値を公開しています。
DHFと組み合わせるのはなぜですか?
オゾン水で作った酸化膜ごと汚染を持ち上げ、DHFでその酸化膜を落とすためです。SEAJの用語集は、ソニーが開発したSCROD法として、オゾン水とdHFをジェットノズルから回転中のウェーハ面へ交互に供給し、1回の薬液をかける時間を約10秒とする洗浄を記しています。
オゾン水洗浄の弱点は何ですか?
濃度の上限と、水中での減衰です。使う直前に発生させて供給する必要があり、濃度と温度の管理が要ります。電子情報通信学会の知識ベースは、レジストのような濃厚な有機物の除去には濃度が不足するとし、レジスト剥離でSPMが使われ続けてきた理由に挙げています。
濃度を保つには何をしますか?
溶かす場所と原料ガスと水温を管理します。住友精密工業は、ユースポイントの近くで溶解させて配管移送中の濃度減衰を抑える構成と、原料ガスの酸素へ二酸化炭素を加える濃度減衰抑制対策を公開しています。明電舎は水温5〜15℃という運転条件を示しています。
アルカリ性の薬液へオゾンを混ぜられますか?
分解が速くなります。東芝レビュー2014年の記事は、過酸化水素とオゾンがアルカリ性の雰囲気では分解するため、高い酸化還元電位を持つアルカリ洗浄液の開発が難しかったと述べています。オゾン水は酸性側または中性付近で使う薬液です。
オゾン水の装置はどこが作っていますか?
荏原製作所は公式ページで、UFPのめっきおよびオゾン水装置を半導体向けとして掲載しています。オゾン発生機は住友精密工業、超高濃度のオゾン水生成装置は明電舎、溶解用の膜モジュールは日本ゴアが公開しています。当サイトの装置カタログDBでは、洗浄と表面処理の製品familyを横断して引けます。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 洗浄と表面前処理 ── 工程としての洗浄の全体像
- エッチングガスと洗浄薬液 ── 薬液とガスの材料側
この記事の事実は次の公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- W. Kern, “The Evolution of Silicon Wafer Cleaning Technology”, Journal of The Electrochemical Society 137, 1887 (1990), DOI 10.1149/1.2086825(Crossrefの書誌と被引用1,509件を2026年8月22日に実測、2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 過酸化水素を基本にした薬液体系の変遷
- 荏原製作所「Semiconductors」公式ページ(2026年8月22日および2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── UFPのめっきおよびオゾン水装置の半導体向け掲載
- 電子情報通信学会 知識ベース「10群2編3章 プロセス要素技術」(3-1 ウェットプロセス技術、執筆者 森田博志。2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 希フッ酸以外を高温で使うことによるエネルギー消費と濃度維持の難しさ、全室温プロセス、オゾン水の濃度がせいぜい100 ppm前後で濃厚な有機物には不足すること、水素水が担う範囲
- 日本半導体製造装置協会(SEAJ)「半導体製造装置用語集(ウェーハプロセス)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── SCROD法の交互供給と1回約10秒、室温四工程洗浄の5 ppm O₃と炭酸添加pH4、DDC法の20 ppmで5分と3 ppmで10分、IMECクリーン第1工程の90℃のSOM
- 明電舎「超高濃度・高純度ピュアオゾン水生成装置」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ほぼ100 %のピュアオゾンガスと減圧生成方式、オゾン水濃度50〜300 mg/L、水温5〜15℃、流量0.5〜5 L/min、主要金属イオンsub-pptレベル、120時間ごとに5時間の自動再生、高イオン注入レジスト除去
- 住友精密工業「半導体分野向け製品紹介」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 板型放電方式で400 g/m³(N)のガス濃度、高純度セラミックス放電面、オゾンガスを超純水へ溶解する装置構成、二酸化炭素添加とユースポイント近傍での溶解による濃度減衰抑制、オゾン濃度計によるフィードバック制御、オゾン分解器
- 日本ゴア「半導体および電子機器製造プロセス用ゴア オゾネーションモジュール」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 延伸多孔質PTFEメンブレンとガス圧差による拡散溶解、無気泡で最高200 mg/Lの溶存オゾン濃度、0.40 MPaまでの耐水圧、機械混合方式との比較
- SCREENセミコンダクターソリューションズ 技術ガイド「洗浄工程」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 機能水洗浄が毒性や腐食性の強い廃液を減らすこと、大気に触れて10〜20 nmの酸化膜ができること、洗浄のほぼ99 %をウェット洗浄が占めること
- 関東化学「THE CHEMICAL TIMES 2005 No.4 半導体・FPD対応新RCA洗浄技術」(宮崎正男。2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 機能水を用いた洗浄技術が一部のプロセスへ採用されていること、機能水を作るために新たな設備の導入が要ること
- 東芝レビュー Vol.69 No.5(2014)「塩酸塩電解による半導体アルカリ洗浄液の生成」(平川雅章。2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 過酸化水素とオゾンがアルカリ性の雰囲気で分解すること