RCA洗浄とは
RCA洗浄とは、過酸化水素を基本にした薬液の組み合わせで、シリコンウェーハから有機物・粒子と金属汚染を落とす洗浄体系です。 アルカリ性のSC-1と酸性のSC-2を順に流します。
RCA洗浄の骨格は、汚染を性質で分けて片づけることにあります。ウェーハ表面に付く汚染は種類ごとに性質が異なります。有機物と粒子は物理的に載っており、金属は表面に取り込まれています。同じ薬液で両方を狙うと、どちらかが不十分になります。
そこで2種類の薬液を順に流します。SC-1はアンモニアと過酸化水素を含むアルカリ性で、有機物と粒子を落とします。SC-2は塩酸と過酸化水素を含む酸性で、金属汚染を落とします。W. Kernによる査読論文「The Evolution of Silicon Wafer Cleaning Technology」(Journal of The Electrochemical Society 137, 1887, 1990)は、シリコンウェーハ洗浄技術の変遷をまとめた標準的な参照文献であり、この体系の位置づけを示しています。電子情報通信学会の知識ベースにある森田博志の解説は、1970年に発表されたRCA洗浄が今なおウェット洗浄の基盤技術だとし、過酸化水素水にアンモニア水を加えて超純水で希釈したAPM(SC-1)がウェーハ表面のわずかなエッチングと異物の再付着防止機能を併せ持つこと、過酸化水素水に塩酸を加えたHPM(SC-2)が強酸性と強酸化性で金属汚染の除去に役立つことを述べています。SEAJの用語集は、RCA洗浄を1975年頃にRCA社のKernらが考案したレシピの総称とし、高温・高濃度の硫酸過水、室温の希フッ酸、アンモニア水と過酸化水素水、塩酸と過酸化水素水による洗浄方法だと記しています。
粒子が落ちる仕組みは、表面をわずかに溶かすことに依存します。粒子の下のシリコン酸化膜が溶けると粒子が表面から浮き、同時に表面と粒子が同じ符号に帯電するため再付着しにくくなります。したがって粒子除去と表面の荒れは同じ作用の裏表であり、微細化が進むほど濃度と時間の設計が結果を左右します。
落ちる理由は、pHと酸化還元電位で並べ替えられます
Section titled “落ちる理由は、pHと酸化還元電位で並べ替えられます”SC-1の中身はもう少し細かく分かっています。関東化学の技術誌「THE CHEMICAL TIMES」2005年No.4の宮崎正男による記事は、過酸化水素でシリコン表面を酸化し、その酸化物をアルカリのアンモニアでエッチングしてリフトオフで各種パーティクルを落とす機構を示し、pH10.5付近のSC-1液中ではシリコン基板とパーティクルのゼータ電位がともに負になるため、静電反発力による除去と再付着の防止が同時に進むと述べています。住友化学の技術誌「住友化学2000-I」も同じ機構を示したうえで、アンモニア水単独では基板表面のエッチングが激し過ぎるため、過酸化水素水を加えて表面を薄く酸化させて過度のエッチングを防いでいると書いています。過酸化水素はここでブレーキの役です。
酸性側の理由も同じ記事にあります。関東化学の記事は、pHが0〜2程度の酸性溶液中で多くの金属が溶解してイオンとして安定に存在するため、ウェーハ上の金属不純物も溶解して除去されると述べています。SC-1とSC-2の役割分担は、pHという1本の軸の両端にあります。
東芝レビュー2014年の記事は、この並べ方にもう1軸足して示しています。同記事は、酸化還元電位が高いと金属の溶解性や有機物の分解性が高くなり、pHが高いアルカリ性ではウェーハと粒子がともに負に帯電して付着が抑えられると述べ、SPMは有機物と金属、SC-2は金属、SC-1はパーティクルの除去に優れると位置づけています。同記事は、過酸化水素とオゾンがアルカリ性の雰囲気では分解するため高い酸化還元電位を持つアルカリ洗浄液の開発が難しかったとし、有機アルカリの塩酸塩を電解した洗浄液をSC-1と同じpH10.2に調製したところ、酸化還元電位がSC-1の3.6倍、エッチング速度はi線(波長365 nm)露光用レジストで2.0倍、タングステンで29.2倍になったと報告しています。
現場では何を測り、どう動かすのか
Section titled “現場では何を測り、どう動かすのか”第一のつまみは混合比です。住友化学の技術誌は、一般的なAPM洗浄液の組成をアンモニア水と過酸化水素水と水の容量比1:4:20とし、このときのアンモニア濃度が約1 %だと述べています。関東化学の記事は、比較の基準として容積比1/2/12のSC-1洗浄液を使っています。アンモニア側へ振れば粒子の落ち方が良くなり、同時に表面の荒れとタングステンなどの露出膜の目減りが増えます。過酸化水素側へ振れば表面の酸化が勝ち、荒れは減る一方で粒子の抜けが悪くなります。
第二のつまみは温度です。関東化学の記事は、SC-1とSC-2がともに70℃前後の加熱プロセスだと述べています。上げれば反応が速く進み、下げれば薬液の寿命と表面の荒れが有利になります。電子情報通信学会の知識ベースは、希フッ酸以外の薬液がすべて高温で用いられるため、エネルギー消費と濃度の維持の難しさが以前から問題として指摘され、その答えとしてAPMとHPMの低濃度化と低温化という部分的な変更が半導体製造各社に普及したと述べています。
第三のつまみは薬液の作り方と装置です。東京エレクトロンはZETA+シリーズの製品ページで、RCA洗浄とDHFウェットエッチを適用プロセスに挙げ、最大8種類の薬液供給と密閉式のシングルチャンバーを備えて、各薬液の混合比や濃度および温度をレシピにより設定できるとしています。関東化学の記事は薬液側の工夫として、キレート剤の添加で金属水酸化物の形成を妨げる方法を示す一方、代表的なEDTAはSC-1洗浄液の調製直後には各種金属とキレート結合を作るものの、30分ほどで結合が不安定になり、pH10.5付近ではアルミニウムのような両性金属とのキレート形成がごく限られると述べています。薬液の寿命そのものが管理項目になります。
測る側には具体的な単位があります。関東化学の記事は、洗浄液へ各種金属不純物を1〜10 ppbの範囲で強制的に加えたときの再付着を測り、開発した洗浄液で銅、鉄、アルミニウムを10¹⁰ atoms/cm²のレベルまで落とせたとしています。住友化学の技術誌は、粒子側の測定に0.23 μmの標準ポリスチレン粒子を使い、原子間力顕微鏡で測った表面荒れを算術平均粗さ0.45 nmから0.36 nmという桁で示しています。
現在の位置づけ
Section titled “現在の位置づけ”RCA洗浄は、濃度と装置の形を変えながら使われています。薬液の使用量と表面の荒れという2つの課題に対して、濃度を下げた希薄版、1枚ごとに新しい薬液を使う枚葉式装置への適用、DHFやSPMなど目的別の薬液との組み合わせとして発展しています。関東化学の記事は、300 mmウェハの導入により数十枚を1槽でまとめて浸漬するバッチ式から枚葉式洗浄装置の導入が加速したとし、枚葉式ではスループットの向上が必至なため従来のRCA洗浄では対応が難しくなりつつあると述べています。同記事の希薄側の例では、開発した酸タイプの洗浄液を室温で10〜30倍に希釈して使えるとしています。
骨格は共通しています。過酸化水素を基本にして、有機物・粒子を落とす側と金属を落とす側を分けるという設計は、現在の薬液体系にも引き継がれています。
何を差し出すことになるのか
Section titled “何を差し出すことになるのか”第一に、面を荒らします。関東化学の記事は、SC-1がシリコン表面を酸化してエッチングする機構のため洗浄後のマイクロラフネスが増大するとし、電荷蓄積容量の関係から薄膜化が進むゲートシリコン酸化膜に対して非常に深刻だと述べています。同記事は45 nmや32 nmの世代を挙げ、数nm程度まで薄くなったゲート酸化膜では、SC-1によるマイクロラフネスの増大が無視しがたいレベルになったとしています。粒子を落とす作用と面を荒らす作用は同じものですから、この取引をずらす手立ては薬液の側にあります。
第二に、装置と液から汚染が返ります。関東化学の記事は、SC-1洗浄液中に鉄などの金属不純物があるとシリコンウェーハ表面へ非常に吸着しやすいこと、SC-2の塩酸で金属製の部材の腐食が進んでパーティクルの発生源になることを挙げています。薬液の純度と配管材の選定が、そのまま洗浄結果の一部になります。
第三に、露出材料を選びます。住友化学の技術誌は、タングステンをメタルゲートに使うとAPM洗浄でサイドエッチングが起き、アンモニア濃度約1 %という一般的な組成では短時間で膜がエッチングされて制御が難しいと述べ、5 %の過酸化水素水へ45℃で10分浸けたタングステン膜の表面に穿孔状の腐食を観察したとしています。同誌は、銅がアンモニア水と容易に水溶性の錯体を作って溶け出し、過酸化水素も銅と接触すると容易に分解するため、銅を成膜したウェーハのAPM洗浄では洗浄液としての役割を失うと書いています。BPSG膜とUSG膜を積層したホールでは、BPSG側のAPMエッチングレートがUSG膜の数倍から十倍程度速く、ホール側面に数百Åの凹凸が出るという測定も示しています。
第四に、工程数と資源を差し出します。関東化学の記事は、RCA洗浄の課題として工程の長さと廃水・廃液の多さを挙げ、スループットの問題から工程数の短縮が課題になっていると述べています。電子情報通信学会の知識ベースは、これらの洗浄が大量の薬液とリンス用超純水の消費と大量の廃液排出を伴うとし、洗浄の回数がフォトリソグラフィ工程数の2〜3倍で、近年のLSI製造では100回を優に超えると書いています。1回あたりの負荷が小さくとも、回数がそれを大きくします。
関連するデータ・ツール
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よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”RCA洗浄とは何ですか?
過酸化水素を基本にした薬液の組み合わせで、シリコンウェーハから有機物・粒子と金属汚染を落とす洗浄体系です。W. Kernによる査読論文「The Evolution of Silicon Wafer Cleaning Technology」が、シリコンウェーハ洗浄技術の変遷としてこの体系をまとめています。
SC-1とSC-2の違いは何ですか?
落とす対象が異なります。SC-1はアンモニアと過酸化水素を含むアルカリ性の薬液で、有機物と粒子を落とします。SC-2は塩酸と過酸化水素を含む酸性の薬液で、金属汚染を落とします。順番に流すことで、性質の異なる汚染をまとめて片づけます。
なぜアルカリと酸を分けるのですか?
汚染の性質が異なるためです。有機物と粒子はアルカリ側で表面をわずかに溶かしながら剥がすほうが落ちます。金属は酸性側で溶かして流すほうが落ちます。関東化学の技術誌は、SC-2のようなpH0〜2程度の酸性溶液中で多くの金属が溶解し、イオンとして安定に存在すると述べています。
SC-1で粒子が落ちるのはなぜですか?
表面をわずかに溶かすためです。関東化学の技術誌は、過酸化水素でシリコン表面を酸化し、その酸化物をアルカリのアンモニアでエッチングしてリフトオフで粒子を落とす機構を示し、pH10.5付近のSC-1液中ではシリコン基板と各種パーティクルのゼータ電位がともに負になるため静電反発力で除去と再付着防止が進むと述べています。
SC-1やSC-2の温度はどのくらいですか?
関東化学の技術誌は、SC-1とSC-2がともに70℃前後の加熱プロセスだと述べています。電子情報通信学会の知識ベースも、希フッ酸以外の薬液はすべて高温で用いるため、エネルギー消費と濃度の維持が難しいと以前から指摘されてきたと書いています。
SC-1の混合比はどのくらいですか?
住友化学の技術誌は、一般的なAPM洗浄液の組成をアンモニア水と過酸化水素水と水の容量比1:4:20とし、このときのアンモニア濃度が約1 %だと述べています。関東化学の技術誌は、比較の基準として容積比1/2/12のSC-1洗浄液を使っています。現場では希薄側へ振った組成も広く使われます。
RCA洗浄は今も使われていますか?
基礎として使われています。電子情報通信学会の知識ベースは、1970年に発表されたRCA洗浄が今なおウェット洗浄の基盤技術だとし、APMとHPMの低濃度化と低温化という部分的な変更が半導体製造各社に普及したと述べています。枚葉式装置への適用や、DHFやSPMなど目的別の薬液との組み合わせとしても発展しています。
RCA洗浄の弱点は何ですか?
薬液の使用量と、表面の荒れです。関東化学の技術誌は、SC-1がシリコン表面を酸化してエッチングする機構のため洗浄後のマイクロラフネスが増大し、薄膜化が進むゲートシリコン酸化膜に対して深刻だと述べ、SC-2の塩酸による金属部材の腐食がパーティクルの発生源になる点や、工程が長く廃水と廃液が多い点も挙げています。
新しい材料には使えますか?
露出材料を選びます。住友化学の技術誌は、タングステンをメタルゲートに使った場合にAPM洗浄液でサイドエッチングが起き、アンモニア濃度約1 %では短時間で膜がエッチングされて制御が難しいと述べています。同誌は、銅がアンモニア水と容易に水溶性の錯体を作って溶け出し、過酸化水素も銅と接触すると容易に分解するとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 洗浄と表面前処理 ── 工程としての洗浄の全体像
- エッチングガスと洗浄薬液 ── 薬液とガスの材料側
この記事の事実は次の公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- W. Kern, “The Evolution of Silicon Wafer Cleaning Technology”, Journal of The Electrochemical Society 137, 1887 (1990), DOI 10.1149/1.2086825(Crossrefの書誌と被引用1,509件を2026年8月22日に実測、2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── シリコンウェーハ洗浄技術の変遷とこの体系の位置づけ
- 電子情報通信学会 知識ベース「10群2編3章 プロセス要素技術」(3-1 ウェットプロセス技術、執筆者 森田博志。2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 1970年発表のRCA洗浄が今なお基盤技術にあたること、APMのわずかなエッチングと再付着防止、HPMの強酸性と強酸化性、希フッ酸以外の高温使用、低濃度化と低温化の普及、薬液と超純水の消費、洗浄回数100回超
- 日本半導体製造装置協会(SEAJ)「半導体製造装置用語集(ウェーハプロセス)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── RCA洗浄を1975年頃にRCA社のKernらが考案したレシピの総称とすること、高温・高濃度の硫酸過水と室温の希フッ酸
- 関東化学「THE CHEMICAL TIMES 2005 No.4 半導体・FPD対応新RCA洗浄技術」(宮崎正男。2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── SC-1の酸化とリフトオフ、pH10.5付近のゼータ電位、SC-2のpH0〜2、70℃前後、容積比1/2/12、EDTAの30分での不安定化、1〜10 ppbと10¹⁰ atoms/cm²、45 nm・32 nm世代のマイクロラフネス、鉄の吸着と部材腐食、10〜30倍希釈
- 住友化学「住友化学2000-I 次世代デバイス用機能性薬品の開発」(高島正之、一木直樹。2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── APM洗浄液の容量比1:4:20とアンモニア濃度約1 %、過酸化水素で過度なエッチングを抑える機構、タングステンのサイドエッチングと穿孔状腐食、銅の錯体形成、BPSGとUSGのレート差と数百Åの凹凸、粗さ0.45 nmから0.36 nm
- 東芝レビュー Vol.69 No.5(2014)「塩酸塩電解による半導体アルカリ洗浄液の生成」(平川雅章。2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 酸化還元電位とpHによる並べ方、過酸化水素とオゾンのアルカリ性での分解、pH10.2でORPがSC-1の3.6倍、レジストで2.0倍とタングステンで29.2倍
- 東京エレクトロン「洗浄 ZETA+シリーズ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── RCA洗浄とDHFウェットエッチへの適用、最大8種類の薬液、混合比と濃度と温度のレシピ設定