精度・再現性・マッチングとは
精度・再現性・マッチングとは、測定のずれを、真の値からの平均のずれ、同じ場所を測り直したときの散らばり、装置と装置の中心の差という3つの量へ切り分ける区分です。 3つは別々の原因から生まれ、別々の作業で詰まります。
ミツトヨの品質管理の解説は、測定の誤差を2つの言葉へ切り分けています。かたよりは、測定を何度も繰り返して得た測定値の平均から、真の値を差し引いた分です。ばらつきは、測定値の大きさが不揃いであること、またはその不揃いの程度で、大きさを表すには通常は標準偏差を用います。同社は、日本規格協会のJISハンドブック品質管理を参考に、自社の判断でこの内容を掲載しているとしています。
産業技術総合研究所のデータサイエンス研究グループは、ばらつきが小さいときには精密である、という言い方をしています。同グループは、測定値にばらつきの大きさを添えて報告すれば、その幅の内側に測ろうとしている量の真の値が入っていると考えられる、と記しています。
3つ目の量が機差です。機差は、同じレシピと同じ試料に対して装置Aと装置Bが返す測定値の中心の差を指す現場語です。日立製作所の研究開発グループは、測長SEMには、安定したデータの計測と、異なる装置間での機差を極力減らすことが要求されているとし、量産の増加に伴って1台の納入から多数台の納入へ移った結果、ものさしがばらついていると安定した測定結果が遠のく、としています。
不確かさという言い方も、同じ範囲を受け持ちます。産業技術総合研究所の計量標準総合センターは、誤差や精度という概念が技術分野や国によってばらばらに使われていたため、国際度量衡委員会の主導で表現方法の統一が進み、1993年にGUMが出版されたとしています。同センターは、GUMの基本的な考え方を、標準偏差の計算という通常の統計解析で求める成分と、データ以外のさまざまな情報から標準偏差に相当する大きさを推定する成分の2つを合成して、全体としての不確かさを求めるものとしています。
機差へ0.1 nmという数字はどこから届きましたか
Section titled “機差へ0.1 nmという数字はどこから届きましたか”日立製作所の研究開発グループは、この要求の出どころを寸法の側から書いています。顧客が作る回路パターンのサイズが10 nmや20 nmのとき、ターゲット寸法の10%までを製造のばらつきとして許すのが一般的だとしています。製造のばらつきが1 nmから2 nmまで許されるとして、測長SEMの誤差が1 nmあると、その製造のばらつきを測るだけの余裕が残らなくなります。製造のばらつきに対して機差を10%まで認めると、0.1 nmのオーダーまで機差を抑え込む話になります。同社は、装置Aと装置Bの機差を0.1 nm以内に収めてほしいという要求を受けたと記しています。
同グループは、電子ビームを絞るレンズに相当する材料の開発を進めたうえで、機差を測るための基準を用意し、そこでビーム形状を測って、装置ごとの形状差をソフトウェアの側で揃えるデジタル補正を重ねたとしています。この積み上げにより、第2世代の測長SEMであるCG7300は機差0.1 nmへ到達し、従来機種比で10%向上した値になったとしています。CG7300の製品化は2019年です。
3つを切り分けるには何を測りますか
Section titled “3つを切り分けるには何を測りますか”再現性は、同じ場所を繰り返し測って標準偏差を取れば数字になります。日立ハイテクノロジーズは、45 nmプロセスノードに対応したCD-SEMのS-9380IIについて、最高分解能2 nm(加速電圧800 V)、測長再現性0.6 nm(3σ)としています。2006年時点の同社の公表値です。
かたよりは、値が分かった標準と比べる作業で数字になります。産業技術総合研究所は、平均としてどれだけずれているかをつかむために行うのが校正だとし、校正では、より確からしい値を持つ上位の標準を当てて、下位の標準や測定値がそこからどれだけ離れているかを測るとしています。同研究所は、このずれを補正すれば、かたよりを取り除いた測定になるとしています。この連鎖の全体像はトレーサビリティとはにあります。
寸法の外にも同じ作りがあります。ナプソンは、同社の四探針法による測定システムがJISとASTMの規格に沿った測定方法と補正方法であるとし、トレーサビリティについては、NIST規格に準拠した標準サンプルを装置校正基準として出荷前検査を行っているとしています。準拠する規格には、シリコン単結晶及びシリコンウェーハの4探針法による抵抗率測定方法であるJIS H 0602-1995を挙げています。
マッチングは、同じウェーハを複数台へ流して中心の差を取れば数字になります。合わせ込みの手順と周期は装置マッチングとはにあります。
再現性の数字は試料の側からも動きます
Section titled “再現性の数字は試料の側からも動きます”計測器の中だけで完結する量として再現性を測ると、現場の数字と食い違います。日立ハイテクノロジーズは、線パターンの長さ方向の揺らぎであるLERが計測再現性の低下の原因になっているとし、LERの影響を取り除いた計測への要求も大きいとしています。同社は、ArFレジストでの実際のLWRが3 nmから6 nmで、通常のCD計測再現性より約1桁大きい値であるため、プロセスの安定性をモニタする目的の計測などでは合否判定を誤る原因になるとしています。2006年時点の記述です。
管理図の上で動いた点の一部は、装置の側でなく試料の側から来ます。この切り分けを飛ばすと、SPCの警報が装置の再調整へ人を向かわせ、レジストのラフネスという実際の原因を取りこぼします。
つまみを動かすと何が動きますか
Section titled “つまみを動かすと何が動きますか”1つ目のつまみは、平均する範囲です。日立ハイテクノロジーズは、S-9380IIにACD(Averaged CD、平均化CD)機能を搭載したとし、視野を数μmまで広げて取り込んだ画像から、複数本のパターンの測定値をならすことでLER由来の誤差を落とす機能だとしています。同社は、従来計測法で0.4 nmあった測長値のばらつきが、この機能により0.2 nmへ下がったとしています。2006年時点の同社の公表値です。範囲を広げる側では、低倍率で画像を取り込むためレジストへの電子線ダメージも下がり、高再現性、高スループット、低ダメージの測定になるとしています。範囲を狭める側は、1本のパターンの長さ方向の姿がそのまま数字へ残る側です。同社はLER計測を、狙ったパターンを長さ方向へ多点に割って1点ずつCDを測り、その並びを統計処理して長さ方向のCDばらつきの分布と周波数、平均寸法を求める機能としています。ラフネスそのものを測りたいときは、こちらへ振ります。
2つ目のつまみは、校正と合わせ込みの周期です。産業技術総合研究所が引くIAJapanのトレーサビリティ方針は、校正を適切な間隔で繰り返すものとし、その間隔の長さは、要求される不確かさ、使用頻度、使用方法、装置の安定性といった多くの要因に依存するとしています。周期を短くする側では、かたよりと機差が締まる代わりに、標準試料の測定と調整へ装置の時間を差し出します。周期を長くする側では、生産へ回る時間が増える代わりに、ずれが積もった状態で流れるロットが増えます。
3つ目のつまみは、どの成分まで管理値へ入れるかです。同じ点を続けて測り直した散らばりだけを管理値にすると、数字は小さくまとまります。ロードとアンロードを挟む、日をまたぐ、といった条件を加えるほど、数字は大きくなる代わりに、生産で受け取る散らばりへ近づきます。産業技術総合研究所が示す不確かさの合成は、統計解析で求める成分と、データ以外の情報から推定する成分の両方を含みます。前者だけで締めた数字は、繰り返しで動く分を表します。
この3つを詰めた先で、計測の幅はCD均一性バジェットや工程能力指数の分母へ入り、均一性へ配れる余裕を左右します。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”精度・再現性・マッチングとは何ですか?
測定のずれを3つの量へ切り分ける区分です。真の値からの平均のずれがかたより、同じ場所を測り直したときの散らばりが再現性、装置と装置の中心の差がマッチングです。ミツトヨは前の2つを、かたよりとばらつきという言葉で区別しています。
精度と再現性はどこが異なりますか?
指す先が異なります。ミツトヨは、かたよりを、測定を何度も繰り返して得た測定値の平均から真の値を差し引いた分とし、ばらつきを、測定値の大きさが不揃いであること、またはその不揃いの程度としています。産業技術総合研究所は、ばらつきが小さいときには精密である、という言い方をしています。
再現性の数字には試料の側のばらつきも入りますか?
入ります。日立ハイテクノロジーズは、線パターンの長さ方向の揺らぎであるLERが計測再現性の低下の原因になっているとし、ArFレジストでの実際のLWRは3 nmから6 nmで、通常のCD計測再現性より約1桁大きい値だとしています。2006年時点の同社の記述です。
マッチングにはどれくらいの厳しさが要求されますか?
日立製作所は、測長SEMについて、装置Aと装置Bの機差を0.1 nm以内に収めてほしいという要求を受けたと記しています。同社は、回路パターンが10 nmから20 nmのとき、ターゲット寸法の10%までを製造のばらつきとして許すのが一般的で、その製造のばらつきに対して機差を10%まで認めると0.1 nmのオーダーになる、という筋道を示しています。
3つはそれぞれ何を測れば数字になりますか?
再現性は同じ場所を繰り返し測った標準偏差、かたよりは値が分かった標準との比較、マッチングは同じウェーハを複数台へ流したときの中心の差です。産業技術総合研究所は、平均としてどれだけずれているかをつかむために行うのが校正だとし、より確からしい値を持つ上位の標準を当てて、下位の標準や測定値のずれを測るとしています。
平均する範囲を広げると何が動きますか?
日立ハイテクノロジーズは、視野を数μmまで広げて複数本のパターンの測定値をならすACD機能により、従来計測法で0.4 nmあった測長値のばらつきが0.2 nmへ下がったとしています。同社は、低倍率で取り込むためレジストへの電子線ダメージも下がり、高再現性、高スループット、低ダメージの測定になるとしています。2006年時点の同社の公表値です。
校正の周期は何に依存しますか?
産業技術総合研究所が引くIAJapanのトレーサビリティ方針は、校正を適切な間隔で繰り返すものとし、その間隔の長さは、要求される不確かさ、使用頻度、使用方法、装置の安定性といった多くの要因に依存するとしています。周期を短くするほど、標準試料の測定と調整へ装置の時間を差し出します。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 装置マッチングとは ── 3つのうちマッチングだけを取り出し、合わせ込みの手順と周期を追う側
- トレーサビリティとは ── かたよりを国家標準までさかのぼって示す仕組み
この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- 日立製作所 研究開発「世界トップシェアの測長SEMで最先端半導体の開発を下支えしつつ、さらなる究極の高精度化の実現をめざす。」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 機差を極力減らすという要求、ターゲット寸法の10%という一般的な許容、機差0.1 nmという要求、デジタル補正技術、CG7300の機差0.1 nmと2019年の製品化
- 日立評論「2006年3月号 設計データを活用したCD-SEMの新しい世界」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── S-9380IIの最高分解能2 nmと測長再現性0.6 nm(3σ)、ArFレジストのLWR 3〜6 nm、ACD機能と0.4 nmから0.2 nmへの低減、LER計測の中身
- ミツトヨ「品質管理の基礎知識」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── かたよりとばらつきの決め方、標準偏差での表し方、JISハンドブック品質管理を参考とする旨
- 産業技術総合研究所 計量標準総合センター「計量標準とは」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 誤差や精度の使われ方がばらばらであった経緯、1993年のGUM出版、不確かさを2つの成分の合成として求める考え方
- 産業技術総合研究所 データサイエンス研究グループ「不確かさFAQ 不確かさってなに?」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ばらつきが小さいときには精密であるという言い方、測定値とばらつきを併記する意味
- 産業技術総合研究所 データサイエンス研究グループ「不確かさFAQ トレーサビリティってなに?」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 校正がずれの大きさを調べる作業である旨、補正でかたよりを取り除ける旨、校正周期が依存する要因
- ナプソン「【技術解説】抵抗率、シート抵抗測定の原理」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 4探針測定システムがJISとASTMに沿う旨、NIST規格に準拠した標準サンプルを装置校正基準とする旨、JIS H 0602-1995