故障率とバスタブ曲線とは
故障率とは、ある時点で動いているもののうち、単位時間あたりに壊れる割合です。 これを時間に対して描くと、両端が高く中央が低い浴槽のような形になります。これがバスタブ曲線です。
大事なのは、故障率が時間とともに上下することです。使い始めと寿命の末期では、壊れ方も原因も入れ替わります。
名前は形から来ています。厚生労働省の職場のあんぜんサイトは、時間の経過にともなう機械や装置の故障の割合の変化を示すグラフのうち、その形が浴槽の形に似ている曲線をバスタブ曲線と呼ぶとしています。同サイトは、機械・装置について初期故障期が一般に約1年間とされているとも記述しています。
キオクシアが公開している信頼性ハンドブックは、電子部品の故障率を3つの期間に分けています。初期故障期・偶発故障期・摩耗故障期です。ルネサス エレクトロニクスの信頼性ハンドブックも同じ区分で、初期故障はデバイスを使い始めてから比較的短時間で起きるもの、偶発故障は長期間にわたって起きるもの、摩耗故障は寿命の末期に近づくにつれて増えるもの、と区分しています。
3つの期間は、対策の種類が違います。
初期故障 ── 工程で入ったものが出てきます
Section titled “初期故障 ── 工程で入ったものが出てきます”ルネサスのハンドブックは、初期故障をデバイスの動作を開始した早い段階で起きる故障とし、初期故障率は時間の経過とともに減少する傾向があるとしています。
原因もはっきりしています。同ハンドブックは、半導体デバイスの場合、ほとんどの初期故障が製造工程で生じた欠陥(たとえばウェーハに付着した微細なごみ)と不良な材料に起因すると記述しています。さらに、スクリーニング工程で取り除かれなかった潜在的な故障が初期故障に含まれ、動作開始後の温度や電圧といったストレスのもとで短時間のうちに故障として出てくるとしています。
もともと悪いものが、あとから出てきます。だから対策は2方向になります。キオクシアのハンドブックは、初期故障期にはスクリーニング(バーンイン、エージング、ヒートランなど)や工程改善によって故障率を減少させられるとしています。欠陥そのものを減らす道と、欠陥のある個体を出荷前に選び分ける道です。
偶発故障 ── 残った良品が安定して動く
Section titled “偶発故障 ── 残った良品が安定して動く”ルネサスのハンドブックは、偶発故障期を、潜在的な欠陥を持つデバイスがすでに故障して取り除かれたあとの期間とし、残った高品質なデバイスが安定して動作するとしています。この期間の故障は、電源サージのような偶発的に起きる過大なストレスに起因することが多いとされています。
つまりこの期間の故障は、製品そのものの弱さというより、外から来るものが原因です。だから対策の場は製造工程を離れ、使い方や周辺回路の側へ移ります。
具体的な故障モードも公開されています。日本信頼性学会誌にJ-STAGEで全文公開されている解説は、偶発不良の主要故障モードがSER(ソフトエラー)やESD(静電気破壊)不良になるとしています。ESD対策やサージ保護が故障率を下げるのは、この領域です。
なおキオクシアのハンドブックは、半導体製品では偶発故障期にも故障率の減少傾向が見られることがあるとし、初期故障期のスクリーニングで取り除けなかった残存故障が長い時間を経て発生したものと考えられる、と補足しています。教科書どおりの水平線というより、ゆるやかに下がる線になります。
摩耗故障 ── そこへ届く前に使い切られることが多い
Section titled “摩耗故障 ── そこへ届く前に使い切られることが多い”摩耗故障期は、寿命の末期に近づいて故障率が上がっていく期間です。この用語集で取り上げてきたTDDB、BTI、エレクトロマイグレーションといった機構は、いずれもこの領域に属します。
ただし、実際にそこへ到達する製品はごく一部です。キオクシアのハンドブックは、ほとんどの半導体製品が摩耗故障期の手前にとどまるとしたうえで、設計対策や予防保全により摩耗故障の発生を抑制していると述べています。
言い換えれば、摩耗故障が耐用寿命の外側に来るように設計するのが目標です。同じJ-STAGEの解説は、素子レベルで故障メカニズムの寿命分布と加速パラメータを取得し、それらの故障が耐用寿命を超えた先で起きる条件下で設計していれば、原理的に使用期間中は摩耗不良モードの故障を避けられると述べています。
TDDBやBTIの寿命を「10年」で見積もるのは、この考え方に沿っています。摩耗故障は、起きたあとに直すものというより、耐用寿命の外側へ設計で追いやる対象になっています。
FITという単位の読み方
Section titled “FITという単位の読み方”故障率には専用の単位があります。キオクシアのハンドブックは、故障率がMIL規格などでは1,000hを単位時間として「%/1000h」で表されるとしたうえで、半導体製品では一般に故障率が非常に低いため、10⁻⁹(故障/時間)= 10⁻⁴(%/1000h)= 1FIT という単位で表すと記述しています。
ここに、よくある誤読があります。ルネサスのハンドブックは、故障率が100FITなら故障が発生する確率は動作時間10⁷分の1になるとしたうえで、この10⁷が集団に対する故障割合を指すことを、わざわざ書き添えています。
FITは集団に対する割合で、1個がどれだけもつかはMTTFが受け持ちます。1万個を1年動かして何個壊れるか、という話です。「10⁷時間もつ部品」と受け取ると、桁の意味が入れ替わってしまいます。
歩留まりとは別のものを測っています
Section titled “歩留まりとは別のものを測っています”最後に、混同しやすい2つを分けておきます。
歩留まりは、作った時点で良品がどれだけあったかの割合です。故障率は、出荷したあとに時間とともにどれだけ壊れるかの割合です。測っている時点が違います。
ただし2つは同じ工程を共有します。初期故障の原因が製造工程の欠陥である以上、工程がきれいになれば歩留まりも上がり、初期故障率も下がります。1つの工程改善が、2つの指標を同時に動かす関係です。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- 信頼性の工程ページ ── 工程分類と、この工程に接続している公開求人
- 歩留まり・欠陥解析の工程ページ ── 作った時点の良品率を測る側
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”バスタブ曲線とは何ですか?
時間に対する故障率の変化を表した曲線です。キオクシアの信頼性ハンドブックは、これを初期故障期・偶発故障期・摩耗故障期の3つの期間に分けています。両端が高く中央が低い形が浴槽に似ていることから、この名前で呼ばれます。
なぜ「バスタブ」と呼ぶのですか?
厚生労働省の職場のあんぜんサイトは、時間の経過にともなう故障の割合の変化を示すグラフのうち、その形が浴槽の形に似ている曲線をバスタブ曲線と呼ぶと記述しています。
初期故障期はどのくらい続きますか?
同サイトは、機械・装置について初期故障期が一般に約1年間とされていると記述しています。
初期故障はなぜ起きるのですか?
ルネサスの信頼性ハンドブックは、半導体デバイスの初期故障のほとんどが製造工程で生じた欠陥(たとえばウェーハに付着した微細なごみ)や不良な材料に起因すると記述しています。
偶発故障期には何が起きますか?
同ハンドブックは、潜在的な欠陥を持つデバイスがすでに故障して取り除かれたあとの期間であり、残った高品質なデバイスが安定して動作するとしています。この期間の故障は、電源サージのような偶発的な過大ストレスに起因することが多いとされています。
摩耗故障期には必ず到達するのですか?
キオクシアの信頼性ハンドブックは、ほとんどの半導体製品が摩耗故障期の手前にとどまるとしたうえで、設計対策や予防保全により摩耗故障の発生を抑制していると述べています。
FITとは何ですか?
故障率の単位です。キオクシアのハンドブックは、半導体製品では故障率が非常に低いため 10⁻⁹(故障/時間)= 10⁻⁴(%/1000h)= 1FIT という単位で表すと記述しています。
100FITなら1個が10⁷時間もつということですか?
違います。ルネサスのハンドブックは、故障率が100FITなら故障が発生する確率が動作時間10⁷分の1であるとしたうえで、この10⁷が集団に対する故障割合を指すことを書き添えています。個々の部品の寿命は、MTTFという別の量で表します。
MTTFとMTBFの違いは何ですか?
キオクシアのハンドブックは、修理不能な装置や部品ではMTTF(Mean Time To Failure)、修理可能な装置ではMTBF(Mean Time Between Failures)を用いると記述し、部品は修理不能なのでMTTFが用いられるとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 歩留まり(イールド)とは ── 作った時点の良品率
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- キオクシア「信頼性ハンドブック」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 故障率を初期故障期・偶発故障期・摩耗故障期の3期間に分けること、初期故障期ではスクリーニング(バーンイン、エージング、ヒートランなど)や工程改善で故障率を減少させられること、偶発故障期にも故障率の減少傾向が見られることがあること、ほとんどの半導体製品が摩耗故障期の手前にとどまること、10⁻⁹(故障/時間)= 10⁻⁴(%/1000h)= 1FITという単位、修理不能な部品にMTTF・修理可能な装置にMTBFを用いること
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「バスタブ曲線(故障率曲線)」(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── バスタブ曲線の名前が浴槽の形に似ていることに由来すること、初期故障期が一般に約1年間とされること、3期間それぞれの原因。機械・装置一般についての解説であり、対象は半導体の外まで及びます
- 瀬戸屋孝「半導体LSIの信頼性予測・推定の実際」日本信頼性学会誌 40(6)、J-STAGEで全文公開(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 偶発不良の主要故障モードがSER(ソフトエラー)やESD(静電気破壊)不良であること、素子レベルで寿命分布と加速パラメータを取得し故障が耐用寿命を超えた先で起きる条件で設計していれば原理的に使用期間中は摩耗不良モードの故障を避けられること
- ルネサス エレクトロニクスの信頼性ハンドブックには日本語版もあります(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)
- ルネサス エレクトロニクス「Semiconductor Reliability Handbook」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── バスタブ曲線が早期故障・偶発故障・摩耗故障の3領域に区切られること、初期故障率が時間とともに減少する傾向にあること、ほとんどの初期故障が製造工程で生じた欠陥(ウェーハに付着した微細なごみなど)と不良材料に起因すること、スクリーニングで取り除かれなかった潜在故障が初期故障に含まれること、偶発故障期には残った高品質なデバイスが安定して動作し電源サージなどの偶発的な過大ストレスが原因になること、100FITが集団に対する故障確率を表し、個々の部品の寿命10⁷動作時間とは別の量であること