加速試験とは
加速試験とは、実使用条件では何年もかかる故障を、高い温度や電圧で短時間に起こし、そこから実使用条件へ引き延ばして寿命を見積もる方法です。 10年もつことを、10年かけずに確かめるための手段です。
半導体の信頼性は、使われる環境で大きく変わります。ルネサス エレクトロニクスの信頼性ハンドブックは、半導体の信頼性が周囲温度・湿度・電圧・電流といった実際の動作環境の要因によって大きく左右されるとしたうえで、加速寿命試験を、実使用時の部品の故障率を推定するための方法としています。
やっていることは単純です。同ハンドブックによれば、使用環境のストレスに着目し、そのストレスの条件をパラメータとして試験を行います。温度を上げ、電圧を上げ、湿度を上げます。そうして短時間で壊し、得られた結果を実使用条件へ換算します。
なぜ温度で早くなるのか
Section titled “なぜ温度で早くなるのか”ここには物理的な根拠があります。
同ハンドブックは、正常な状態から劣化した状態へ移るために超える必要のあるしきい値のエネルギーを活性化エネルギーと呼んでいます。材料の中で起きる劣化は、この山を越える反応にあたります。
温度が高いほど、山を越えられる粒子の割合が増えます。同ハンドブックは、反応速度の温度依存がアレニウスによって見いだされたとし、反応速度を K とすると K = Λ exp(−Ea/kT) と表せると記述しています。ここで Ea は活性化エネルギー(eV)、k はボルツマン定数(8.617×10⁻⁵ eV/K)、T は絶対温度です。
故障までの時間を L とすれば L = A exp(Ea/kT) となります。温度を上げれば L が短くなる、という関係です。
傾きが決まって初めて、引き延ばせます
Section titled “傾きが決まって初めて、引き延ばせます”ルネサスのハンドブックのアレニウスモデルの図は、寿命の対数を温度の逆数に対してプロットすると直線になり、その傾きが活性化エネルギーを表すように描かれています。そして図には「Extrapolation(外挿)」と明示されています。
高温で2点測れば、直線が1本引けます。その直線を使用温度まで引き延ばした先が、求めたい寿命です。
問題は、直線を1本に絞るには傾きが要ることです。同じ測定点を通る直線は無数にあります。どれを選ぶかで、引き延ばした先は大きく変わります。だから加速試験では、活性化エネルギーをいくつと見積もったかが結論の一部になります。
この構造はTDDBで見たものと同じです。キオクシアの信頼性ハンドブックは、TDDBの加速性モデルとして複数の案が提案されている段階にとどまるとしています。加速の式が1本に決まって初めて、加速試験の答えも1つに定まります。
加速試験の結果は、条件を添えて初めて読めます。 どのモデルで、活性化エネルギーをいくつと置き、どの温度域から外挿したかまで揃って、はじめて比較できる値になります。
温度以外のストレスをどう見積もるか
Section titled “温度以外のストレスをどう見積もるか”現実の故障を起こすストレスは、温度のほかにもあります。湿度で腐食が進むもの、電圧で絶縁が壊れるもの、機械的な力で剥がれるものがあります。
ルネサスのハンドブックは、アレニウスモデルが反応の温度依存を表すのに対し、温度以外のストレス因子への依存を示すためにアイリング(Eyring)モデルが一般に使われるとしています。対象として、機械的ストレス、湿度、電圧が挙げられています。
式の形は K = a(kT/h)・exp(−Ea/kT)・S^α で、S が温度以外のストレス因子です。温度の項に、ストレスのべき乗が掛かる構造になっています。同ハンドブックは、温度範囲 T が小さければ K = Λ exp(−Ea/kT)・S^α と近似できるとしています。
つまり、故障機構ごとに、寿命を左右するストレスが別々だということです。だから信頼性試験は1種類では済まず、高温動作・温度サイクル・高温高湿といった複数の試験に分けて行います。
加速が頭打ちになる場合があります
Section titled “加速が頭打ちになる場合があります”最後に、この手法の限界も公開資料に書かれています。
同ハンドブックは、製品の最大定格の範囲内では加速係数が不足する場合や、短時間の試験で検出できる故障が限られる場合があるとしています。定格を超えてストレスをかければ、実使用の範囲外にある壊れ方を呼び込んでしまうため、加速には上限があります。
そうした場合について、同ハンドブックは、TEG(Test Element Group)を用いて故障機構に基づく信頼性試験を行うことが重要だとしています。製品の代わりに、故障機構を測るための専用の試験構造を作って測定する、という手です。
同ハンドブックはさらに、製品設計の段階で信頼性を確保するために、製品と同じプロセスで故障機構に応じた試験を行い、温度・電界などの加速係数を明らかにして、それを製品設計に用いる設計ルールへ反映するとしています。
加速試験は、出来上がったものを測る道具であると同時に、設計ルールそのものを定めるために、先に加速の度合いを知っておく作業でもあります。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”加速試験とは何ですか?
ルネサスの信頼性ハンドブックは、加速寿命試験を、実使用時の部品の故障率を推定するための方法としています。使用環境のストレスに着目し、そのストレスの条件をパラメータとして試験を行います。
なぜ温度を上げると早く壊れるのですか?
反応が進む速さが温度で上がるためです。同ハンドブックは、反応速度の温度依存がアレニウスによって見いだされ、アレニウスの式が広く使われているとしています。
活性化エネルギーとは何ですか?
同ハンドブックは、正常な状態から劣化した状態へ移るために超える必要のあるしきい値のエネルギーを活性化エネルギーと呼んでいます。この値が大きいほど、温度を上げたときの加速係数は大きくなります。
どうやって実使用条件の寿命を求めるのですか?
外挿します。同ハンドブックのアレニウスモデルの図では、寿命の対数を温度の逆数に対してプロットすると直線になり、その傾きが活性化エネルギーを表します。この直線を使用温度まで引き延ばします。
活性化エネルギーが未知のときはどうしますか?
外挿には、傾きにあたる活性化エネルギーの値が要ります。傾きが決まって初めて、同じ測定点から引き延ばした先が1つに定まるからです。
温度以外のストレスはどう見積もるのですか?
同ハンドブックは、温度以外のストレス因子(機械的ストレス、湿度、電圧など)への依存を示すためにアイリング(Eyring)モデルが一般に使われるとしています。
加速には限界がありますか?
あります。同ハンドブックは、製品の最大定格の範囲内では加速係数が不足する場合や、短時間の試験で検出できる故障が限られる場合があるとし、そうしたときにはTEG(Test Element Group)を用いて故障機構に基づく信頼性試験を行うことが重要だと述べています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- TDDB(経時絶縁破壊)とは ── 加速の式が複数案のまま残る典型例
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- ルネサス エレクトロニクス「Semiconductor Reliability Handbook」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── 加速寿命試験が実使用時の故障率を推定する方法であり使用環境のストレスをパラメータとすること、活性化エネルギーの意味(正常状態から劣化状態へ移るために超えるしきい値のエネルギー)、アレニウスの式 K = Λ exp(−Ea/kT) と L = A exp(Ea/kT)、ボルツマン定数8.617×10⁻⁵ eV/K、寿命の対数を温度の逆数に対してプロットした直線の傾きが活性化エネルギーを表し外挿に用いること、温度以外のストレス因子にアイリングモデル K = a(kT/h)・exp(−Ea/kT)・S^α を用いること、最大定格の範囲内で加速係数が不足する場合や短時間の試験で検出できる故障が限られる場合にTEGを用いて故障機構に基づく試験を行うこと、加速係数を明らかにして設計ルールへ反映すること
- キオクシア「信頼性ハンドブック」公開PDF(2026年8月29日にリンク生存を実測、200)── TDDBの加速性モデルとして複数の案が提案されている段階にとどまること