TMU(総合測定不確かさ)とは
TMU(総合測定不確かさ)とは、繰り返し精度に加えて、測定の偏りが試料ごとに動く分まで含めた、その計測が持つ不確かさの総額です。 同じ場所を何度測っても同じ値が返る装置でも、返る値が真値から一定量ずれ続けていれば、その分はTMUへ入ります。
IBMが2002年12月に出願し2009年6月に発行された特許公報は、TMUを全測定不確実性(total measurement uncertainty)とし、精度と正確度の両方から測定装置の良否を測り、最適化するための量としています。求め方は比較です。同公報は、被試験測定システム(MSUT)のデータの組と、信頼されている基準測定システム(RMS)のデータの組を、二つの軸それぞれに誤差が乗る場合を扱えるマンデルの線形回帰へかけます。そこで得られる正味残余誤差から、参照側の不確実性の寄与を外した残りがTMUです。同公報はこれを、参照側の取り分を引いたあとの正味残余誤差であり、残りのすべての寄与を被試験装置の側へ帰するもの、としています。
JEITAの半導体技術ロードマップ専門委員会が公開しているITRS2007年版メトロロジの日本語版も、同じ量を総合計測不確かさ(TMU)と訳しています。同版によれば、総合計測不確かさはその世代を代表する試料の組から決まり、その組には工程ごとの計測バイアスのばらつきを言い当てる力が要ります。同じ考え方を製造ラインの複数台へ広げた指標として、同版はFMP(Fleet Matching Precision)を挙げています。
繰り返し精度で足りるのはどこまでですか
Section titled “繰り返し精度で足りるのはどこまでですか”現場でよく使う指標は繰り返し精度と再現性です。IBMの同公報は、この従来法の限度を書いています。同公報によれば、CD測定装置の性能を測る手順は、作りかけの製品ウェーハを代表として量産ラインから抜き、そのウェーハの決まった場所を繰り返し測り、標準偏差から静的繰り返し精度を求め、測定と測定の合間に試料を機器から取り除いて長期再現性を求める、という組み立てです。そのうえで同公報は、返ってくる値そのものが真の値からずれていれば、繰り返し精度も再現性も意味を失う、と書いています。同公報はさらに、この手順ではピッチ標準による校正で倍率が担保されるだけで、それ以外に装置の正確さを測る手立てを持たず、そのために被試験側は信頼できるという誤解が広がった、と述べています。以上はIBMの同公報の記述です。
ITRS2007年版メトロロジの日本語版は、標準試料の側から同じ問題を書いています。同版によれば、CDの工程管理でふだん使う標準試料は、工程の段階ごとに選り抜いた最良の一枚、いわゆるgoldenウェーハです。この選び方では計測のバイアスそのものを見つける手立てが無く、不確かさの成分であるバイアスの変動が抜け落ちます。同版は、ラインパターン形状や材質、レイアウトの違いに関連した計測の不確かさが、現状の方法論では精密さの外へ出る、とも記しています。
産業技術総合研究所が公開している計量の解説は、この二つを一般の言葉で切り分けています。同解説によれば、かたよりは測る対象の真の値から測定値が平均としてどれだけ離れているかを指し、ばらつきは測定値の散らばり具合を指します。同解説は、平均としての離れ方をつかめればそれを差し引けるので、より正確な測定になるとしています。繰り返し精度が受け持つのはばらつきの側で、TMUはかたよりが試料ごとに動く分まで抱えます。
何を基準に、何を測るのですか
Section titled “何を基準に、何を測るのですか”基準側の実体は、TEMやAFMです。SEAJの半導体製造装置用語集によれば、TEMは薄い試料を電子線が抜けるときに内部の原子が散乱・回折させた像から、原子の水準で中身の構造を絵にする装置、AFMは探針と試料の間へ働く原子間力を拾って表面の形を絵にする装置です。IBMの同公報が示す実例では、被試験側が2台のCD-SEM、参照側は、レジストの一番広いところの線幅を求める用途で信頼された原子間力顕微鏡です。
試料には焦点・露光量マトリックス(FEM)ウェーハを使います。IBMの同公報は、ふつうの量産ラインでは長い時間が経ってからやっと出てくる製品のばらつきを、FEMウェーハなら一枚の中へまとめて載せられる点を利点として挙げ、その例のFEM全体にわたって形態の高さが3倍変化し、側壁の角度にも大幅なばらつきがあると書いています。エッジ粗さ、上部コーナー部の丸み、アンダーカットまで含めた形の変化を、あらかじめ一枚の中へ作り込む考え方です。
回帰から出るもう一つの数字が、非線形性です。同公報は、非線形性を、最も当てはまる直線からデータがどれだけ散るかを表すパラメータとし、その散り方の変動がすべて再現性で測ったランダムな測定変動によるときへ1が来るよう正規化するとしています。同公報の実例では、CD SEM Aが100、CD SEM Bが137で、同公報はどちらも心配になる大きさだと書いています。1が全部ランダムという基準ですから、100は系統的な成分がその分だけ入っている読み取りになります。以上はIBMの同公報の記述です。
含める範囲にも線があります。同公報は、倍率の較正誤差とオフセットから来る系統的な誤差を、校正を丁寧にやれば寄与を好きなだけ小さくできるという理由で、TMUの中へ入れる対象から外す、としています。校正で消せる分は、TMUよりもトレーサビリティの仕事になります。
プロセスの許容幅をどれだけ食べますか
Section titled “プロセスの許容幅をどれだけ食べますか”配分の式は、ITRS2007年版メトロロジの日本語版にあります。同版は、精密さと許容幅の関係をP/T比=6σ÷(上限−下限)という式で示し、不確かさσをσP(Precision)、σM(Matching)、σS(Sampling)、σother(inaccuracy and other effects)の二乗和の平方根としています。装置単体の精密さに加えて、装置マッチングの差とサンプリングの取り方が、同じ式の中へ並びます。
要求値の水準も同版の表にあります。2007年欄では、ウェーハの重ね合わせ制御13nmに対して計測の不確かさ1.1nm(3σ、P/T比0.1)、密ラインのCD制御5.6nmに対して1.26nm(P/T比0.2)、コンタクトのCD制御7.8nmに対して1.57nm、ゲートのCD制御2.6nmに対して0.52nmです。以上は2007年版の要求値です。キヤノンの公開特許公報も、重ね合わせ検査装置へオーバーレイ精度の1/10の精度が要るとし、0.18μmルールの1GビットDRAMではオーバーレイ60nm以下に対して検査装置6nm以下、という当時の水準を書いています。
どのつまみで動き、代わりに何を渡しますか
Section titled “どのつまみで動き、代わりに何を渡しますか”第一のつまみは、測定条件そのものです。IBMの同公報は、TMUを最小にする方向で測定パラメータを選ぶ最適化を示しています。同公報がCD-SEMについて挙げるのは、ビーム・ランディング・エネルギーと電流、エッジ検出アルゴリズムとアルゴリズム設定値、走査速度、データ平滑化量です。OCDのようなスキャタロメータでは、入射角、スペクトルの波長帯とその密度、スペクトルの平均時間枠、測定領域、理論式側で動かせる特性の本数が並びます。AFMでは、走査の数と速度、走査と走査の間隔、平滑化量、測定領域、先端形状です。同公報が注意を向けるのは、精度とオフセットだけを最小化する従来の最適化との差です。同公報によれば、傾きが大きいほど測定側の感度は鈍り、精度の値が小さいほど測定は揺らぎにくくなるため、傾きと精度を掛けた訂正された精度で二つを釣り合わせます。平滑化を強めると訂正された精度は良い側へ動きますが、同公報が示す例ではTMUのほうは逆に大きくなり、試料の中のプロセス変化を追う正確さが落ちます。
第二は、σMとσSです。σMを詰める作業が装置マッチング、σSを詰める作業が測定点数の追加です。点数を増やせばσSは下がり、そのぶん計測装置のスループットを削ります。
渡すものの第一は、参照側の時間です。ITRS2007年版メトロロジの日本語版は、インラインCD計測機の校正に用いる研究レベルのTEMやCD-AFMが、インラインの計測機に相当するかそれ以上の精密さを持ち、頻繁な校正も要るとしています。参照側の不確かさが被試験側と同じ大きさへ近づくほど、二乗の引き算で外せる分が縮みます。
第二は、条件の数です。TMUはテクノロジーを代表する試料の組で決まるため、工程が動けば値も動きます。層ごとに最適な測定条件を持つと、その分だけレシピの版が増え、装置マッチングやSPCの管理対象も増えます。
第三は、指標そのものの固まり具合です。JEITAの半導体技術ロードマップ専門委員会の平成18年度報告は、2007年改訂へ向けてITRS会議で継続される項目として、計測再現性の指標に関するTotal Measurement Uncertainty(TMU)とTotal Measurement Reproducibility(TMR)を挙げています。指標そのものが検討の途中にあった時期の記録です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”TMU(総合測定不確かさ)とは何ですか?
繰り返し精度に加えて、測定の偏りが試料ごとに動く分まで含めた、その計測が持つ不確かさの総額です。IBMの特許公報は、TMUを精度と正確度の両方から求める全測定不確実性とし、線形回帰の正味残余誤差から基準測定システムの不確実性を外したものとしています。
繰り返し精度や再現性で足りますか?
足りる範囲は、ばらつきの側までです。IBMの同公報は、返ってくる値そのものが真の値からずれていれば繰り返し精度も再現性も意味を失うとし、従来の手順はピッチ標準による倍率の担保までで、装置の正確さはその外側に残る、と書いています。
どうやって求めるのですか?
信頼されている基準測定システムと同じ構造を測り、両者のデータでマンデルの線形回帰を行い、その正味残余誤差から参照側の不確実性の寄与を二乗の引き算で外します。IBMの同公報が示す手順です。
どんな試料を使うのですか?
IBMの同公報は、焦点・露光量マトリックス(FEM)ウェーハを使う例を示しています。ふつうの量産ラインでは長い時間が経ってからやっと出てくる製品のばらつきを、FEMウェーハなら一枚の中へまとめて載せられる点を、同公報は利点として挙げています。
どれくらいの値が要るのですか?
JEITAが公開しているITRS2007年版メトロロジの日本語版は、2007年欄で、重ね合わせ制御13nmに対して計測の不確かさをP/T比0.1の1.1nm(3σ)、密ラインのCD制御5.6nmに対してP/T比0.2の1.26nmとしています。2007年版の要求値です。
TMUの外にある誤差はありますか?
あります。IBMの同公報は、倍率の較正誤差とオフセットから来る系統的な誤差を、校正を丁寧にやれば寄与を好きなだけ小さくできるという理由で、TMUの中へ入れる対象から外す、としています。
TMUを下げると代わりに何を渡しますか?
基準測定システムの時間と、レシピの数です。ITRS2007年版メトロロジの日本語版は、校正に用いるTEMやCD-AFMがインラインの計測機に相当するかそれ以上の精密さを持ち、頻繁な校正も要ると記しています。TMUは工程ごとに動くため、層の数だけ条件を抱えます。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- TIS(装置起因シフト)とは ── 向きを変えれば分離できる偏り、TMUはそれも含めた総額
- 装置マッチングとは ── TMUの式に入るσM、台と台の中心のずれを詰める側
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- 特許庁 特許公報「JP4272624B2(出願人 インターナショナル・ビジネス・マシーンズ、2002年12月20日出願、2009年6月3日発行)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── TMUを精度と正確度の両方から求める全測定不確実性とする決め方、マンデルの線形回帰の正味残余誤差から参照側の不確実性を外す手順、繰り返し精度と再現性の外側に正確さが残るという指摘、FEMウェーハの利点と形態の高さが3倍変化する例、非線形性の正規化とCD SEM Aの100・CD SEM Bの137、倍率の較正誤差とオフセットをTMUの対象から外す線引き、SEM・スキャタロメータ・AFMの測定パラメータ、傾きと精度の積である訂正された精度
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「ITRS2007年版 メトロロジ 日本語版」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 総合計測不確かさ(TMU)の位置づけとFMP、goldenウェーハでは計測のバイアスを見つける手立てが無いという記述、P/T比=6σ÷(上限−下限)とσの二乗和の平方根の式、2007年欄の重ね合わせ・密ライン・コンタクト・ゲートの許容と計測不確かさ、校正用のTEMやCD-AFMへ要る精密さと校正頻度
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「平成18年度報告 第13章 WG11 メトロロジ(計測)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 2007年改訂へ向けて継続された、TMUとTMRという計測再現性の指標に関する検討項目
- SEAJ「半導体製造装置用語集(計測)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── TEMとAFMの装置の決め方
- 産業技術総合研究所「トレーサビリティってなに」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── かたよりとばらつきの切り分け、平均としての離れ方をつかめれば差し引けるという記述
- 特許庁 公開特許公報「JP2004119477A 重ね合わせ検査方法及び装置(出願人 キヤノン)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 重ね合わせ検査装置へオーバーレイ精度の1/10が要るという記述と、0.18μmルールの1GビットDRAMでのオーバーレイ60nm・検査装置6nmという水準