計測の相関取りとは
計測の相関取りとは、同じ対象を2つ以上の計測手段で測り、値の開きを傾きとオフセットの形でつかんで、片方の読みをもう片方の言葉へ翻訳できるようにする作業です。 相関を取ったあとも開きそのものはそのまま居座り、手元に増えるのは翻訳の式です。
量産ラインの測長SEMやOCDは、1枚を数分で測って数値を返します。その数値が日ごとに揃うことは、ゴールデンウェーハの繰り返し測定で確かめられます。産業技術総合研究所の計量標準総合センターがまとめた技術資料は、いまのCD計測が各プロセスから特別に選別したゴールデンウェーハを標準試料として使い、それと製造プロセスを通ったウェーハとを比較測定することで、製造プロセスの再現精度を確保していると記しています。
同資料は、この手順が届く範囲も区切っています。手に入るのは再現精度までで、計測値の正確さはその外側にとどまります。そのため製造プロセス間や計測装置間にあるバイアスは手つかずのまま居座ります。ゴールデンウェーハを定期的に交換した場合には、製造現場の環境変化や装置の経年的な変化も同じく外側へ出ます。同資料は、微細化が進むにつれてこのバイアス由来の計測不確かさが歩留りを削るほど大きくなり、このバイアスが製造プロセス間や工場間や企業間での計測結果の差として表に出るとしています。
繰り返して同じ値が出ることと、その値が別の装置や別の工場と話が通じることは、別々の性質です。後者を作る作業が相関取りにあたります。
値が離れるのは、装置が別の物を測っているからです
Section titled “値が離れるのは、装置が別の物を測っているからです”JEITAの半導体技術ロードマップ専門委員会が訳したITRS 2007年版のメトロロジの章は、計測誤差を時間と装置と試料の3つに依存する量として書いています。時間は再現性、装置は装置間差、試料は試料間のバイアス変化にあたります。同章は測定の不確かさを、これら3つを含んだ合計のバイアス変化と呼んでいます。2007年版の記述です。
3つ目の試料依存が相関取りの相手です。同章は、測長SEMとスキャトロメータが同じ試料に対して数値の上で同じ精密さを示した場合でも、試料を変えると測長SEMの測定値のほうが大きく動くと述べています。理由に挙がっているのはプローブサイズの差です。測長SEMはライン像の一部を使ってパターン両端の距離を測り、スキャトロメータのほうは格子状のパターンへ光を広く当て、返ってきた散乱光の解析から平均の寸法を求めます。同章はこれを測定限度の差と呼び、プローブの大きさが異なる装置どうしは結局のところ別の物を測っていることになるので、精密さという尺度で量れる範囲を超えるとしています。
同章はさらに、試料のCD変動をラフネス周期のフーリエ・パワースペクトルとして書き表す道を示しています。計測装置ごとに感度のある周期の範囲が異なり、観測される測定変動は、その範囲にわたってパワースペクトルを積分した量として出てきます。配分としては、スキャトロメトリが非常に大きな周期に比較的敏感で、測長SEMは小さな周期と局所的な変動に感度が高いところにあります。ライン・エッジ・ラフネスの周期分布が工程で動けば、2つの装置の開きもそれに応じて動きます。
開きが試料と工程に貼りついている以上、相関の傾きとオフセットも工程とレイヤに固有です。同章は、精密さの値が各々のプロセス工程ごとに動くため、エッチング前後のCD差であるエッチングバイアスを求めるのが難しくなっているとも述べています。レジスト後とエッチング後は、別々に取り直す対象になります。
現場では何を測り、どのつまみを動かすのか
Section titled “現場では何を測り、どのつまみを動かすのか”相関取りの段取りは、工程を代表する一組の試料を用意し、参照側で値付けし、本番機で同じ点を同じサンプリングで測り、傾きとオフセットを求めてレシピへ入れる、という順番になります。ITRS 2007年版のメトロロジの章の和訳は、標準試料として選別された最高のウェーハを使うやり方では計測のバイアスが検知の外にとどまると述べ、代わりに総合計測不確かさ、いわゆるTMUという指標を挙げています。TMUは対象の技術世代を代表する一組の試料で求められ、それらの試料が各工程に結びついた計測バイアスのばらつきを写し取れることが条件になります。同章は、これを製造ラインの複数装置へ広げた指標としてFMPを併記しています。
相関を取る相手は装置どうしのほかにもあります。同章は、スキャトロメトリが専用のテスト構造の上で測る以上、SEMやAFMやTEMといった他のCD計測を持ち出して、計測用の構造で得たCDと回路の中のパターンのCDとのあいだで、相関を取っておく必要があるとしています。スクライブ線上のテスト構造とチップ内の特性変化との相関を心配する記述も、同じ章にあります。配線の計測についても、電気的性能や歩留まりや信頼性と相関の取れるCD寸法と物理測定データを供給することが課題として並んでいます。
同章は、不確かさを4つの成分の二乗和として書いています。σ² = σP² + σM² + σS² + σother² で、σP が精密さ、σM が装置間マッチング、σS がサンプリング、σother が不正確さとその他です。工程許容度との比はP/T比として P = 6σ、T = 上限 − 下限 で書かれ、FEP計測の要求表では P/T = 0.1 が使われています。相関取りが動かすのは主に σM と σother で、σP は相関取りの外側にあります。
現場のつまみは3つあります。
1つ目は、相関に使う試料の振り幅です。条件を広く振れば傾きの通じる範囲が広がり、外挿の出番が減ります。同章は、製造中に使う標準試料が現に流れている工程と構造を代表していること、テスト時に出てくる値がプロセス変動をきちんと写していることを条件に挙げています。逆に振り幅を狭めれば非製品ウェーハと参照側の枠を節約できる一方、翻訳が通じるのはその狭い範囲までになります。同章は、複数の作製元が供給する一次標準試料について、使う側の生産プロセスから離れた部分が多く、必要なプロセスばらつきを欠くため、適用範囲が限られることが多いと述べています。
2つ目は、測定点数です。点を増やせば σS が下がり、APCへ渡す平均の信頼度が上がります。同章は、測定点数が乏しいと測定値の変動が大きくなってAPCが空振りしうるとしたうえで、測長SEMで複数パターンをまとめて測るMFMを使うと像を大きく取れるため、実際のプロセス変動に対する感度を保ったままプロセス平均の信頼度を高められると述べています。点を減らせば計測の時間は戻る一方、サンプリングノイズが増えて制御が振り回されます。同章は重ね合わせ計測について、スループットを上げて最小の悪化で全数サンプリングへ届かせるためにインライン化が要るという書き方をしています。
3つ目は、取り直しの周期です。周期を短くすればドリフトと環境変化を早くつかめます。同章は、計測再現精度が繰り返し精度とウェーハの再ロードによる変動と長期のドリフトを含むとしています。周期を延ばせば参照側の装置時間は空く一方、産総研の資料が挙げる環境変化と経年劣化の見落としが積み上がります。参照側にも代償があり、同資料はNMIJの線幅校正で、校正対象の前後に線幅標準試料を同じ条件で測ることにより、測定中の探針摩耗の不確かさを定量的に見積もれるとしています。線幅計測が3回必要になる手間と引き換えです。
相関を取ったあとも居座るものがあります
Section titled “相関を取ったあとも居座るものがあります”第一に、正確さの見積もりは標準試料の中で片づく範囲を超えます。ITRS 2007年版のメトロロジの章の和訳は、バイアスが試料に依存しているため、正確さを標準試料や標準物質から正当に見積もる道が閉ざされていると述べ、標準試料が対象とする製品やプロセスとは別物だと続けています。相関取りは、この代表しきれなさをできるだけ小さくする側の作業にあたります。
第二に、参照側の不確かさが下限として居座ります。産総研の技術資料は、NMIJが2015年に始めた線幅の校正サービスについて、校正範囲が30ナノメートルから0.5マイクロメートル、校正値の拡張不確かさが包含係数2で13ナノメートルだと記しています。同資料の記述で、装置は傾斜探針AFMです。同センターの計量標準の解説は、不確かさを、誤差や精度といった言い方が分野や国でばらついていたところへ1990年代から入ってきた、計測データの信頼性を表す尺度だと記しています。翻訳の基準側がこの大きさを持つ以上、翻訳後の値の確からしさもここが天井になります。
第三に、参照側の道具のあいだにも測定限度の差が居座ります。NEDOの実用化ドキュメントは、NMIJの2つの校正装置を比べ、レーザー干渉計を組み込んだ原子間力顕微鏡が1回に測れる領域の狭さゆえに狭い領域ごとの値を返す一方、深紫外レーザー回折式ピッチ校正装置が返すのはレーザーの当たった領域の平均までだと、開発者の言葉で紹介しています。量産機の側の開きは、参照計測の側でも形を変えて出てきます。
相関取りが答えるのは、どの装置の数値をどの装置と比べてよいか、という一点です。装置マッチングが装置ごとのかたよりをそろえに行くのに対し、相関取りは方式の異なる計測どうしへ翻訳の式を渡すところまでを引き受けます。SPCの管理図に載る値も、トレーサビリティの連鎖につながる値も、この翻訳の上に立っています。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”計測の相関取りとは何ですか?
同じ対象を2つ以上の計測手段で測り、値の開きを傾きとオフセットの形でつかんで、片方の読みをもう片方の言葉へ翻訳できるようにする作業です。開きそのものはそのまま居座り、手元に増えるのは翻訳の式です。
ゴールデンウェーハの繰り返し測定で足りる範囲はどこまでですか?
製造プロセスの再現精度までです。産総研 計量標準総合センターの技術資料は、選別したゴールデンウェーハと製造プロセスを通ったウェーハとの比較測定で確保できるのが再現精度であり、計測値の正確さや、プロセス間と装置間にあるバイアスはその外側にとどまるとしています。
なぜ同じウェーハでも装置ごとに値が離れるのですか?
拾う範囲が異なるためです。ITRS 2007年版のメトロロジの章の和訳は、測長SEMがライン像の一部からパターン両端の距離を測るのに対し、スキャトロメータのほうは格子状のパターンへ光を広く当て、返ってきた散乱光の解析から平均の寸法を求めると述べ、プローブの大きさが異なる装置どうしは別の物を測ることになると記しています。
相関を取るとばらつきも小さくなりますか?
相関取りが動かすのは平均のずれ、つまりミツトヨの品質管理の解説でいうかたよりの側までです。同解説はかたよりを、測定を何度も行って得た値の平均から真の値を差し引いたものと記しています。ばらつきには別の手当てが要ります。
相関取りに使う試料はどう選びますか?
工程を代表する一組にします。ITRS 2007年版のメトロロジの章の和訳は、製造中に使う標準試料が現に流れている工程と構造を代表していること、テスト時に出てくる値がプロセス変動をきちんと写していることを条件に挙げています。
一度取った相関はいつまで通じますか?
工程とレイヤが同じあいだです。同章は、精密さの値が各々のプロセス工程ごとに動くため、エッチング前後のCD差を求めるのが難しくなっているとしています。レジスト後とエッチング後は、別々に取り直します。
TMUとは何ですか?
総合計測不確かさのことです。同章は、対象の技術世代を代表する一組の試料でTMUを求めるとしたうえで、その試料が各工程に結びついた計測バイアスのばらつきを写し取れることを条件に挙げ、これを製造ラインの複数装置へ広げた指標としてFMPを併記しています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 参照計測とは ── 相関取りが基準にする、桁違いに正確で桁違いに遅い側です
- 装置マッチングとは ── 同じ方式の装置どうしのかたよりをそろえる側で、相関取りは方式が異なる場合を受け持ちます
- 統計的工程管理(SPC)とは ── 相関取りが翻訳した値を、管理図の上で合否へ振り分ける側です
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- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「ITRS 2007年版 メトロロジ 和訳」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 計測誤差の3成分、測定限度とプローブサイズの差、ラフネス周期のパワースペクトルへの感度、TMUとFMP、不確かさの二乗和とP/T比、標準試料から正確さを見積もる道が閉ざされていること
- 産業技術総合研究所 計量標準総合センター「三次元ナノ構造の寸法・形状計測技術に関する調査研究」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ゴールデンウェーハ比較で確保できる範囲、バイアスが工場間や企業間の差として表に出ること、NMIJの線幅校正サービスの範囲と拡張不確かさ、探針摩耗の不確かさを見積もる手順
- ミツトヨ「品質管理の基礎知識」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── かたよりとばらつきの言い方、管理図が工程管理で果たす役割
- 産業技術総合研究所 計量標準総合センター「計量標準とは」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 不確かさが計測データの信頼性を表す尺度として使われるようになった経緯
- NEDO 実用化ドキュメント「原子1個分の誤差を保証 世界最小のものさしを実現」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 参照側の2つの校正装置が返す測定範囲の差と使い分け