MOCVD(有機金属CVD)とは
MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、有機金属CVD)とは、有機金属化合物を前駆体に使うCVDです。 GaNやGaAsのような化合物半導体を、下地の結晶方位を引き継いだ形で成長させるエピタキシャル成長で使われます。
MOCVDの出発点は、金属原子を気体として運ぶという課題への答えです。GaやAlのような金属は、そのままの形で気体として運びにくいため、有機分子と結合させた有機金属化合物として気化し、反応室へ運びます。基板の上で分解して金属原子を供給し、V族の原料と反応させて化合物半導体の層を作ります。
MOCVDが作るのは膜というより、下地の結晶を継ぎ足した層です。ここが通常のCVDとの差になります。東京エレクトロンの公式用語集が記述するCVDの一般形は、基板上へ薄膜を堆積させる化学的プロセスです。MOCVDではこれに加えて、下地の結晶方位を引き継いだ単結晶として層を成長させます。したがって、下地の結晶品質と格子定数の整合が、そのまま出来上がりの品質を左右します。
装置方式は、ガスをどう配るかで別になります。AIXTRONは公式サイトで、MOCVDのPlanetary principle(プラネタリ方式)とShowerhead principle(シャワーヘッド方式)、およびSiC-CVD向けのWarm-wall planet principleを自社の技術として掲げています。同社は3,000台以上の成膜装置を顧客へ納入したと述べています。同ページはG10-SiCを150/200mm対応のデュアルウェーハサイズ・バッチリアクタ、G10-GaNを150/200mm対応の高スループットエピタキシとして掲載し、G10-AsPをGaAs/InP材料の量産向け全自動MOCVDとして挙げています。
有機金属はどこで壊れるのか
Section titled “有機金属はどこで壊れるのか”MOCVDの成長は、原料が壊れる場所の取り合いです。III族の有機金属もV族の水素化物も、温度を上げれば気相の途中で分解します。気相で分解した分は互いに反応して重い副生成物になり、膜へ入らずにパーティクルとして落ちるか、排気へ抜けます。表面まで届いてから分解した分だけが、格子の続きへ組み込まれます。したがって成長条件の設計は、気相での分解を抑えつつ表面での分解を進める帯を探す作業になります。
原料のライン構成は、この設計の自由度をそのまま表します。日本酸素のSR4000HT 公式製品ページは、この装置に有機金属ライン8本と水素化物ライン2本を備え、リアクタを回転付きの水平フロー・フェイスアップ型、ガスノズルを層流の水平3本(トリプルインジェクション)と記しています。ノズルを3系統に切ることで、III族とV族を反応室の入口で混ぜずに基板の手前まで運べます。同社のUR25K 公式製品ページは、GaN on Si向けの原料としてTMGa、TEGa、TMAl、TMIn、NH₃、Cp₂Mg、SiH₄を挙げ、GaAs/InP向けBMC301ではTMGa、TEGa、TMAl、TMIn、AsH₃、PH₃、DMZn、SiH₄を挙げています。同じMOCVDでも、材料系が変わればV族の特殊ガスとドーパント源の組み合わせが入れ替わります。
表面直上の希薄層と回転数 ── 実際に回すつまみ
Section titled “表面直上の希薄層と回転数 ── 実際に回すつまみ”ウェーハ面のすぐ上には、原料の濃度が本流より薄い層が生まれます。この記事ではこれを希薄層と呼びます。ニューフレアテクノロジーのエピタキシャル成長装置 公式製品ページは、この層をウェーハ面で成膜反応が起きる厚み方向の範囲として注記し、垂直方向のガスフローと高速ウェーハ回転を組み合わせることで極薄かつ均一に作ると述べています。同ページは、薄いこの層が原料ガスを取り込みやすく、遠心力で副生成物のガスを排出しやすくなるとも記しています。さらに回転数の増加とともに原料ガス利用効率が向上し、結果としてエピタキシャル膜の成長速度も向上するという傾向を、HT2000FDでの自社調べとして示しています。
回転数の実帯も同ページに載っています。装置仕様(HT2000FD)としてウェーハサイズ200mmφ、裏面抵抗加熱、プロセス温度800〜1,150℃、ウェーハ回転数300〜900rpm、圧力93(700)〜13.3(100)kPa(Torr)、使用ガスSiHCl₃・SiH₂Cl₂・H₂・HCl、外形1,396mm(W)×2,276mm(D)×2,350mm(H)、装置重量約2,300kgが掲載されています。この装置はSiエピ向けで、同ページはHT2000FDの高速回転技術を発展させてGaN on SiのEPIREVO G8、SiCのEPIREVO S6とS8を市場投入したと記しています。回転を上げて希薄層を薄くするという設計は、Siエピから化合物系へ持ち込まれた形になります。
成長圧力も同じ形のつまみです。圧力を下げると気相での分解と副生成物の生成が抑えられ、面内の組成分布が素直になります。代わりに原料の分圧が下がって成長速度が落ち、排気側の負荷が増えます。圧力の実帯は材料系で一桁ずれます。日本酸素の公式製品ページでは、GaN向けSR4000HTの成長圧力が10〜100kPa、GaAs/InP向けBMC301が6〜10kPaです。上端どうしの比は100kPaを10kPaで割って10倍にあたります(両ページの数値からこちらで計算)。同じ「MOCVDの圧力を下げる」という指示でも、材料系が変われば動かせる幅が別になります。
温度は結晶性と組成の間の引き換えになります。SR4000HTの加熱系は2ゾーンで最高1350℃です。温度を上げれば有機金属とV族原料の分解が進んで炭素の取り込みが減り、結晶性が上がります。代わりに熱バジェットが増え、In系の層ではInが再蒸発して組成が抜けます。温度を下げればIn組成を保てますが、分解が進まず炭素が残り、成長速度も落ちます。V/III比も同じで、V族を増やせばV族サイトの空孔が減る一方、NH₃やAsH₃の使用量と除害設備の負荷が増えます。
装置形式と、1バッチの枚数
Section titled “装置形式と、1バッチの枚数”MOCVDの生産性は、1リアクタに載る枚数で決まります。日本酸素の公式製品ページでは、SR4000HTが2インチ×3枚または4インチ×1枚、UR25Kが4インチ×10枚または6インチ×7枚、BMC301が3インチ×10枚・4インチ×8枚・6インチ×6枚です。枚数の差は加熱と回転の形にも出ます。SR4000HTは2ゾーン加熱の自転付き水平フロー、UR25KとBMC301は6ゾーンの抵抗加熱で自転と公転を組み合わせます。BMC301はフェイスダウン、UR25Kはフェイスアップです。フェイスダウンは基板面を下へ向けるため、気相で生まれた粒子が面へ落ちにくい配置になります。
大口径化の進み方は、材料で違います。ニューフレアテクノロジーの公式製品ページは、枚葉式SiCエピタキシャル成長装置EPIREVO S8を200mmウェーハ対応で50µm/h以上の高速成膜、ロボットによるウェーハ高温搬送により高生産性を実現したと記し、EPIREVO S6を100mm/150mmのSiCウェーハ対応、枚葉式GaN-on-SiのMOCVD装置EPIREVO G8を150mm/200mmのSiウェーハ対応としています。50µm/h以上という成膜速度は、SiCパワーデバイスの耐圧層のように十数µmから数十µmを積む用途で意味を持つ数字です。AIXTRON側もG10-SiCとG10-GaNを150/200mm対応として掲載しており、化合物系の量産は150mmから200mmへ移る途中にあります。
何を測ると追えるか
Section titled “何を測ると追えるか”エピタキシャル層では、膜厚のほかに組成と歪みも指標に入ります。組成と歪みはX線回折の格子定数から、発光層の組成はフォトルミネッセンスの波長から取ります。表面の荒れは原子間力顕微鏡(AFM)、貫通転位や積層欠陥はTEM(透過電子顕微鏡)の断面で確かめます。格子定数の差が大きい組み合わせでは応力が層に残るため、反りがそのまま後工程の露光と搬送に跳ね返ります。結晶欠陥の面密度は、そのまま素子の歩留まりへ乗ります。
面内の均一性は、膜厚と組成の二本立てで持つのが実務です。膜厚が揃っても組成が中心と周辺でずれれば、LEDでは発光波長の面内ばらつき、パワーMOSFETでは耐圧のばらつきとして出ます。回転数と圧力のつまみは膜厚と組成の両方を動かすため、片方だけを指標にすると、もう片方が悪化した状態を良品として通す形になります。均一性の管理項目は、材料系ごとに分けて持ちます。
GaN系のパワー半導体とLED、GaAs系の高周波デバイスと光デバイスが代表的な適用先です。VeecoはLumina MOCVDシステムを公式製品ページで公開しています。当サイトの装置カタログDBでは、AIXTRONのG10-AsPおよびG10-GaN、AMECのPrismo、ニューフレアテクノロジーのEPIREVOなどを製品family単位で引けます。化合物半導体としてはGaNとSiCウェハが量産の主軸で、光側ではVCSELやレーザーダイオードがMOCVDで作るエピタキシャルウェハの上に載ります。
この用語に対応する装置と製造メーカー
Section titled “この用語に対応する装置と製造メーカー”装置カタログDBから、この用語に一致する製品familyを持つメーカー 4社/5family を引いています。 各行は各社の公式製品ページを出典とします。 DBからの生成日: 2026-09-03
- AIXTRON
- G10-AsP / AIX 2800G4-TMGaAs / InP MOCVD
- G10-GaN / AIX G5+ CGaN MOCVD / Deposition
- AMEC
- Prismo MOCVD equipmentDeposition / MOCVD
- NuFlare Technology
- EPIREVO epitaxial reactorsEpitaxy / MOCVD
- Veeco
- Lumina / Propel MOCVD familyMOCVD / Compound Semiconductor
出典は各社の公式製品ページです。 装置カタログDB では、同じ製品familyを工程・メーカー横断で検索できます。
関連するデータ・ツール
Section titled “関連するデータ・ツール”- エピタキシャル成長の工程ページ ── 工程分類と、この工程に接続している公開求人
- CVD・PECVDの工程ページ ── CVD系の工程分類
- 装置カタログDB ── 公式製品ページ単位のメーカーと製品family
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”MOCVDとは何ですか?
MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、有機金属CVD)は、有機金属化合物を前駆体に使うCVDです。GaNやGaAsのような化合物半導体を、下地の結晶方位を引き継いだ形で成長させるエピタキシャル成長で使われます。
MOCVDとふつうのCVDの違いは何ですか?
前駆体と目的が異なります。ふつうのCVDはSiO₂やSiNのような膜を作ります。MOCVDは有機金属を前駆体に使い、下地の結晶構造を引き継いだ単結晶の層を成長させます。膜を載せるというより、結晶を継ぎ足す操作に近くなります。
MOCVDにはどんな方式がありますか?
AIXTRONは公式サイトで、MOCVDのPlanetary principle(プラネタリ方式)とShowerhead principle(シャワーヘッド方式)、およびSiC-CVD向けのWarm-wall planet principleを技術として掲げています。ガスの供給とウェーハの配置の仕方で方式が別になります。
MOCVDはどこで使われますか?
GaN系のパワー半導体とLED、GaAs系の高周波デバイスと光デバイスが代表的な適用先です。Veecoは公式製品ページでLumina MOCVDシステムを公開しています。日本酸素は公式製品ページで、GaN向けのSR4000HTシリーズとGaN on Si向けのUR25K、GaAs/InP向けのBMC301を掲載しています。
MOCVDの成長温度と圧力はどのくらいですか?
装置と材料で違います。日本酸素の公式製品ページでは、GaN向けSR4000HTの加熱系を2ゾーンで最高1350℃、成長圧力を10〜100kPaと記しています。GaAs/InP向けBMC301の成長圧力は6〜10kPaです。同じMOCVDでも、材料系が変われば成長圧力の帯が一桁ずれます。
MOCVDでウェーハを回すのはなぜですか?
ウェーハ面のすぐ上にできる、原料の濃度が本流より薄い層を薄くするためです。ニューフレアテクノロジーは公式製品ページで、垂直方向のガスフローと高速ウェーハ回転の組み合わせによりこの層を極薄かつ均一に作ること、薄いこの層が原料ガスを取り込みやすく遠心力で副生成物のガスを排出しやすいこと、回転数の増加とともに原料ガス利用効率とエピタキシャル膜の成長速度が向上することを、自社調べのデータとして述べています。
MOCVD装置のメーカーはどこですか?
当サイトの装置カタログDBでは、MOCVDに一致する製品familyを持つメーカーを公式製品ページ単位で引けます。AIXTRON、Veeco、AMEC、ニューフレアテクノロジーなどが該当します。日本酸素もGaN、GaAs/InP、Ga₂O₃向けのMOCVD装置を公式サイトで掲載しています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- CVDとPVDの違い(成膜プロセス比較) ── 成膜原理、段差被覆性、成膜温度、代表装置メーカー
- 酸化・成膜工程の全体像 ── 成膜工程が前後の工程とどう並ぶか
この記事の事実は次の一次資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- AIXTRON「Products」公式ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── プラネタリ方式・シャワーヘッド方式・Warm-wall planet principleという技術の掲げ方、3,000台以上の納入、G10-SiCとG10-GaNの150/200mm対応、G10-AsPの量産向け全自動MOCVD
- Veeco「Lumina MOCVD Systems」公式製品ページ(2026年8月21日にリンク生存を実測、200)── Lumina MOCVDシステムの公開。2026年9月3日の再実測では自動取得が403で戻ったため、この行の事実は2026年8月21日の実測時点のものです
- 東京エレクトロン 公式用語集「Chemical Vapor Deposition」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── CVDの一般形を、基板上へ薄膜を堆積させる化学的プロセスとする記述
- ニューフレアテクノロジー「エピタキシャル成長装置」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ウェーハ面で成膜反応が起きる厚み方向の範囲という注記、垂直ガスフローと高速回転の組み合わせ、回転数の増加にともなう原料利用効率と成長速度の向上(自社調べ、HT2000FD)、プロセス温度800〜1,150℃、回転数300〜900rpm、圧力93〜13.3kPa、外形1,396×2,276×2,350mm、重量約2,300kg、EPIREVO S8の200mm対応と50µm/h以上、S6の100mm/150mm、G8の150mm/200mm
- 日本酸素「SR4000HTシリーズ」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 回転付き水平フローのフェイスアップ型リアクタ、2ゾーン加熱で最高1350℃、成長圧力10〜100kPa、層流水平3本のガスノズル、有機金属ライン8本と水素化物ライン2本、2インチ×3枚または4インチ×1枚
- 日本酸素「UR25K」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 自転と公転を組み合わせるフェイスアップ型、4インチ×10枚または6インチ×7枚、6ゾーン抵抗加熱、TMGa・TEGa・TMAl・TMIn・NH₃・Cp₂Mg・SiH₄という原料構成
- 日本酸素「BMC301」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── フェイスダウンで自転と公転、3インチ×10枚・4インチ×8枚・6インチ×6枚、6ゾーン抵抗加熱、成長圧力6〜10kPa、AsH₃・PH₃・DMZnを含む原料構成
- 装置と製造メーカーの行は
intel.equipment_vendor_families(公式製品ページ由来)から生成