VCSEL(面発光レーザー)とは
VCSEL(面発光レーザー)とは、半導体の基板面に対して垂直な向きへレーザー光を放射する半導体レーザーです。 電子情報通信学会の知識ベース(9群5編2章、2-3-2項、執筆は横内則之氏、ver.1/2019/4/20)は、この放射の向きが、ほかの半導体レーザーとの最大の相違点としています。
ロームの技術解説は、一般的なレーザーダイオードが半導体のへき開面を反射鏡として使い、そのへき開面から光が出る構造を取るとし、これを端面発光レーザー(EEL)と呼んでいます。
光の進む向きが90度違います。この向きの違いが、素子の作り方と、良品かどうかを測る順番まで決めます。
薄い活性層と、98%以上の鏡
Section titled “薄い活性層と、98%以上の鏡”半導体レーザーは、光を増やす層(活性層)を2枚の鏡ではさみ、その間で光を往復させて増幅します。ロームの技術解説は、往復した光が一定以上の強さになると、反射率を下げた側の鏡を突き抜けるとし、これがレーザー発振の原理としています。片側の反射率を下げるのは、光を外へ取り出すためです。
端面発光では、光は活性層の面内を横向きに走ります。走る距離を長く取れるぶん、鏡の反射率は低くて済みます。同じ知識ベースの2-3-1項(ファブリペロレーザー、執筆は西山伸彦氏)は、空気と半導体の屈折率差により30%程度の反射率が得られるとし、へき開を利用する場合は最低でも数百マイクロメートル程度の共振器長が要るとしています。
面発光では、光は積み重ねた膜の厚さ方向へ走ります。2-3-2項は、活性領域がナノメートルの桁の半導体結晶の薄膜で構成されるため、厚さ方向へ伝わる光は小さな光学利得しか得られず、Q値の高い共振器が要るとし、そのために98%以上の高い反射率が得られる半導体多層膜反射鏡や誘電体多層膜反射鏡でレーザー共振器を作るとしています。
増幅に使える距離が短いぶん、鏡を良くして往復の回数を増やします。設計の重心が、共振器の長さから膜の質へ移ります。
電流を絞れることの帰結
Section titled “電流を絞れることの帰結”2-3-2項は、電流を微小な領域へ効率よく閉じ込めるために、水素イオン打ち込みによる高抵抗化や、半導体薄膜中に絶縁性の高い酸化アルミニウム層を作る方法が使われるとしています。電流注入領域の大きさは平方マイクロメートルの桁で、微小な活性領域体積と高いQ値の共振器の効果により、レーザー発振に必要な電流として10マイクロアンペア以下の極低しきい値動作が実現されているとしています。ここまでは学会の知識ベースが記す研究水準の到達点です。
メーカーの公開資料も同じ向きを示します。古河電気工業の2012年3月30日のニュースリリースは、10Gbps以上で動作するVCSELの動作電流が、端面発光型の従来の半導体レーザーに比べて1/5から1/10と低いとしています。同社は、発光層の体積が従来のレーザーの1/10程度という点を、しきい値電流が小さくなる理由に挙げています。いずれも同社が2012年に公表した記述です。
共振器の短さは、波長の純度にも及びます。2-3-2項は、共振器長が短いため発振する共振縦モードが通常1つに限られ、その発振スペクトルはDFBレーザー並みに単色性へ優れるとしています。
へき開が不要になると、工程の順番が入れ替わります
Section titled “へき開が不要になると、工程の順番が入れ替わります”古河電気工業の同じニュースリリースは、レーザー共振器が縦方向に形成されるためレーザー結晶をへき開する作業が不要になり、LEDと同様にウェハでの検査が可能で、1次元や2次元のレーザーアレイ用途へ向くとしています。
端面発光では、ウェハを割って鏡になる端面を作ってから、その素子が光るかどうかを測ります。割ってバー状にした後で測り、それから1個ずつに分けます。面発光では、ウェハに並んだままレーザー発振します。ウェハプローバーで測ってからダイシングへ回せます。測る時点が前へ出れば、割る前に良品を選び出せます。
同社は、発光ビームが円形のため光ファイバへの高い結合が可能とし、トランシーバ、コンピュータマウス、レーザープリンターで使われているとしています。2012年時点の記述です。
2-3-2項は、高反射率の反射鏡を光の出口に使うため、外から反射して戻る光があっても安定したレーザー発振を保つとし、通信用の半導体レーザーモジュールで必須となる、戻り光を断つための高価なアイソレータが不要になるとしています。そして、簡易な構造でも実用的なモジュールを組めるため、1990年代後半にイーサネットに代表される1Gbps以上の高速光データリンク用の低価格光源として実用化されたとしています。
いま伸びている方向
Section titled “いま伸びている方向”古河電気工業の古河電工時報第144号(2025年3月)は、情報通信研究機構のBeyond 5G研究開発促進事業の委託研究において、先進パッケージングの考え方と重なるCo-Packaged Optics向けの超小型VCSELトランシーバを開発しているとし、電気インタフェースに0.3mmピッチのLGAを採用して7.7mm×15.9mmのフットプリントを実現し、400Gb/s信号伝送で良好な符号誤り率特性を得たと報告しています。同社の開発品についての値です。
波長を短くする研究も進みます。NEDOの若手研究者産学連携プラットフォームに載る研究紹介は、GaN基板を使う青色の面発光レーザーを取り上げ、基板面に垂直へ光を放射する構造のため従来の端面発光レーザーと比べて小型化と低消費電力化が可能で、二次元アレイ化による高出力化も期待できるとしています。
VCSELは化合物半導体の上に作られます。多層膜の鏡も活性層も、エピタキシャルウェハとして結晶成長で積み上げた層です。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”VCSEL(面発光レーザー)とは何ですか?
半導体の基板面に対して垂直な向きへレーザー光を放射する半導体レーザーです。電子情報通信学会の知識ベースは、この放射の向きが、ほかの半導体レーザーとの最大の相違点としています。
端面発光レーザーとどこが違いますか?
光が走る向きです。ロームの技術解説は、一般的なレーザーダイオードが半導体のへき開面を反射鏡として使い、そこから光が出る構造を取るとし、これを端面発光レーザーと呼んでいます。面発光では、積み重ねた膜の厚さ方向へ光が走ります。
なぜ98%以上という高い反射率が要るのですか?
増幅に使える距離が短いためです。電子情報通信学会の知識ベースは、活性領域がナノメートルの桁の薄膜で、厚さ方向へ伝わる光の光学利得は小さいとし、そのためにQ値の高い共振器として98%以上の反射率を持つ多層膜反射鏡を使うとしています。
しきい値電流が小さいのはなぜですか?
光る体積が小さいためです。古河電気工業は、発光層の体積が従来のレーザーの1/10程度という点を理由に挙げています。電子情報通信学会の知識ベースは、電流注入領域が平方マイクロメートルの桁で、10マイクロアンペア以下の極低しきい値動作が実現されているとしています。
ウェハに並んだまま測れると何が良いのですか?
割る前に良品を選び出せます。古河電気工業は、レーザー共振器が縦方向に形成されるためへき開する作業が不要になり、LEDと同様にウェハでの検査が可能としています。
光ファイバとの相性が良いとされるのはなぜですか?
ビームの形と、戻り光への強さです。古河電気工業は発光ビームが円形のため光ファイバへの高い結合が可能としています。電子情報通信学会の知識ベースは、高反射率の鏡を光の出口に使うため戻り光があっても発振が安定し、高価なアイソレータが不要になるとしています。
どこで使われていますか?
古河電気工業は2012年の時点で、トランシーバ、コンピュータマウス、レーザープリンターを挙げています。同社の古河電工時報第144号は、Co-Packaged Optics向けの超小型VCSELトランシーバの開発を報告しています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- 光トランシーバとは ── VCSELが光源として収まる側の部品です
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- 電子情報通信学会 知識ベース「9群5編2章 半導体レーザー」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── VCSELの構造、98%以上の反射鏡、極低しきい値動作、単色性、アイソレータ、実用化の時期
- ローム TechWeb「レーザーダイオード(半導体レーザー)とは?」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 共振器と発振の原理、端面発光レーザーの構造
- 古河電気工業「スパコン向けレーザで世界最高レベルの高信頼性・省電力を達成」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 動作電流の比、発光層の体積、ウェハでの検査、円形ビーム、用途
- 古河電工時報 第144号「Co-Packaged Optics用超小型VCSELトランシーバと高密度電気プラガブルインターフェースを用いた評価ステーションの開発」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 0.3mmピッチLGA、7.7mm×15.9mm、400Gb/s信号伝送
- NEDO 若手研究者産学連携プラットフォーム「高純度GaN基板を活用した高効率青色面発光レーザーの実現」(2026年8月30日にリンク生存を実測、200)── 青色の面発光レーザーと二次元アレイ化への期待