核形成遅れとは
核形成遅れとは、成膜を始めてから膜が定常のレートで厚くなり始めるまでに要る、下地の上へ核が立ち上がるための待ち時間です。 膜厚は、レートに、時間から遅れを引いた残りを掛けた値になります。
同じレシピを同じ時間だけ流しても、下地の材料が入れ替わっていれば膜厚に差が付きます。しかし成膜レートは同じままなので、レートを振っても差は付いたままです。差の出どころは、膜が厚くなり始める時刻の側にあります。
待ち時間が生まれる場所は、1サイクルの取り分を決めている表面反応の相手側にあります。オプトランの技術ページは、ALDでトリメチルアルミニウムを供給したとき、基板表面の水酸基からメチル基が水素原子を引き抜いてメタンとなって離れ、AlがO原子と新たにAl-O結合を作ると述べています。同ページは、表面がAl(CH3)2層で埋まったところで後から来たトリメチルアルミニウムはそのまま排気される、この状態を自己制御と呼ぶとしています。したがって、下地表面に結合相手が乏しいほど、最初の数サイクルの取り分は小さくなります。
この乏しさは、現場では2つの症状で同時に来ます。東京エレクトロンの特開2017-186595は、CVDやALDでタングステン膜を作る場合、層間絶縁膜のような酸化膜の上では密着力が出ず、インキュベーション時間も伸びるため成膜そのものが難しくなるとし、だからTiN膜のようなTi系材料膜を下地に敷いていると述べています。同社の国際公開WO2015/080058も、タングステン膜は熱酸化膜や層間絶縁膜の上では密着力が出ずインキュベーション時間も伸びるため直に成膜するのが難しいとし、下地をTiN膜やTiSiN膜に替えると成膜しやすくなるとしています。密着力とインキュベーション時間は、どちらも結合相手の乏しい下地の側で悪くなります。
厄介なのは、遅れが膜厚の絶対値よりも面内分布として表に出るところです。1枚のウェーハには酸化膜とバリアメタルが同時に露出している領域があり、遅れの長さが領域ごとに異なれば、同じサイクル数を回した時点の膜厚に差が付きます。
何を測ると遅れが数字になるか
Section titled “何を測ると遅れが数字になるか”膜厚を成膜時間またはサイクル数に対してプロットし、直線部分を外挿した横軸との交点を取ると、遅れそのものが時間またはサイクル数の単位で出ます。膜厚測定1本で足りるのはここまでです。
東京エレクトロンの特許第6175541号は、この外挿を2点の実測から実際に行っています。上限350℃でDIPASを使い単一のシード層だけを敷いた参考例では、約90分で約11nm、約143分で約18nmという2点を最小二乗法で直線に当てて膜厚0の交点を求め、遅れは約22分と出ました。同じ350℃でDIPASの第1シード層とジシランの第2シード層を重ねた例では、約63分で約11nm、約90分で約15nmという2点から交点が約1.1分まで縮んでいます。同社が示した一例の条件です。傾きはそれぞれ1.565と1.6784で、レートはほぼ同じ水準にとどまりました。動いたのは切片だけです。
遅れが後工程へ渡す被害は、表面ラフネスと面内均一性に乗ります。同公報は、細くなったコンタクトホールやラインをアモルファスシリコンで埋めようとすると、ホールの中の被覆性が足りず大きなボイドが残ってしまい、これが抵抗値を押し上げる要因の1つになるとし、その背景としてアモルファスシリコン膜の表面ラフネスの精度の悪さも挙げています。
抵抗の側にも数字が出ます。ノヴェラスシステムズの特表2012-501388は、膜厚に対する二乗平均平方根粗度が、500オングストローム以上の低抵抗タングステン膜で10%を越すこともあるとし、粗度が下がればパタニングから先の工程が楽になるとしています。
動かせるつまみと、その代償
Section titled “動かせるつまみと、その代償”核形成層を1枚敷く
Section titled “核形成層を1枚敷く”遅れの短い材料を先に敷くのが最短の手です。SEAJの技術部会がまとめたウェーハプロセス(2012年度版)は、ローカル配線やコンタクトの埋め込みについて、CVD-Wでアスペクト比の高いホールをシームレスに埋めるにはALD Wの核成長層が要るとし、Cu配線ではPVDのCuを核成長(シード)膜として進めていると書いています。同資料はITRS2011の指摘として、2nm以下の拡散防止膜と核成長膜が喫緊の挑戦になると挙げています。
敷いた代わりに差し出すものは、抵抗と断面積です。東京エレクトロンの国際公開WO2007/004443は、WF6ガスとSiH4ガスを交互に流すALDでは下地のバリヤ層が削られるのを抑えられる可能性があるとしながら、核付け層になる初期タングステン膜の中へシリコンが入り込み、その上へ積む主タングステン膜の抵抗率を押し上げてしまう不都合が出るとしています。コンタクトプラグの断面積は有限なので、核形成層の厚みはそのままビア抵抗へ乗ります。
温度を上げる、下げる
Section titled “温度を上げる、下げる”上げると自己制御の側が崩れます。オプトランの技術ページは、ALD Windowより高温側では気相の前駆体が分解し、化学反応が切れ目なく続いて、自己制御が崩れたまま膜が育ってしまうとし、逆に低温側では狙った表面反応が進みにくくなるので化合物薄膜の成長が低温ほど遅くなるとしています。上下どちらへ外しても、1サイクルの取り分が設計値から離れます。
下げた側で遅れがどう動くかは、シード層の作り方に依ります。東京エレクトロンの特許第6175541号は、背景として、アミノシラン系ガスでシード層を1枚だけ敷く従来の方法を上限350℃のような400℃未満の成膜へ持ち込むと、その上へ載るアモルファスシリコン膜の側で遅れがわずかに伸び、表面ラフネスの精度をわずかに落とす可能性があると書いています。この記述は、同公報が比較対象にした従来方式についてのものです。二重シード層に替えた同公報の例では、同じ350℃で遅れが約22分から約1.1分へ縮んでいます。
同公報は、温度を下げた側が面内均一性へどう影響するかも実測で示しています。二重シード層を形成するときの温度を400℃、圧力を133.3Pa(1Torr)とした第1例では、シリコン膜の膜厚の面内均一性が面内全域で約2.8%でした。温度を350℃へ下げた第2例では約1.9%、そこから圧力を399.9Pa(3Torr)へ上げた第3例では約0.8%まで下がりました。同公報は、400℃だとジシラン(Si2H6)が熱分解してしまうので、第2シード層の側がCVD反応でも育ち、ロッドの周りを除く領域で特に厚く付くことが原因であろうと推測しています。同社が示した一例の条件です。
圧力を上げる、初回パルスだけ延ばす
Section titled “圧力を上げる、初回パルスだけ延ばす”同公報は、圧力を上げた側の理由について、ボートの支持溝の中でガスの流れが遅くなり、ジシランがその場に長く留まる分、ジシランの中のシリコンが第1シード層の上へ吸着される確率が上がると推測しています。上限については、実用の面から見て1333Pa(10Torr)までにしておくのが妥当であろうとしています。第1シード層はDIPASを200sccm、1分、350℃、133.3Paで、第2シード層はSi2H6を300sccm、60分、350℃、399.9Paで形成した例を挙げ、二重シード層の厚さは0nmを超え1nm以下の範囲がよいとしています。同社が示した一例の条件です。
もう1つのつまみは、時間の配り方です。東京エレクトロンの国際公開WO2007/004443は、SiH4ガスを流す最初のステップだけを2回目以降より長く取り、ウェハの表面へSiHx(xは0以上4未満)といった分解中間体を先に付けておく形を挙げています。同公報はこの初回の長取りをイニシエーションと呼んでいます。初回だけを長くする分、1サイクル目に費やす時間が増えます。
遅れを詰める手はどれも、別の何かを差し出します。核形成層を敷けば抵抗と断面積、温度を上げれば熱バジェットと面内分布、圧力を上げれば1333Paという上限、初回パルスを延ばせば1サイクル目の時間です。どれを差し出すかを先に選び、そのあとで遅れをどこまで詰めるかを合わせる順序になります。プロセス担当としては、1枚の中で下地が入れ替わる境目がどこにあり、その境目が製品の膜厚仕様に対してどれだけの差を作るかを先に数値化します。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”核形成遅れとは何ですか?
成膜を始めてから膜が定常のレートで厚くなり始めるまでに要る待ち時間です。インキュベーション時間とも呼びます。東京エレクトロンの特開2017-186595は、CVDやALDでタングステン膜を作る場合、層間絶縁膜のような酸化膜の上では密着力が出ず、インキュベーション時間も伸びるため、成膜そのものが難しいとしています。
同じレシピを流したのに膜厚に差が付いたら核形成遅れですか?
面内やロット間で下地の材料が入れ替わっている場合、その候補に入ります。同じ公報は、酸化膜の上ではインキュベーション時間が伸びるので、TiN膜のようなTi系の膜を下地に敷いていると述べています。膜厚は、レートに、時間から遅れを引いた残りを掛けた値になります。
核形成層とシード層はどう呼び分けますか?
ノヴェラスシステムズ(Novellus Systems)の特表2012-501388は、核形成層を、薄くて下地の形になじむ層であり、後から積むバルクの膜を作りやすくする働きを持つ層として位置づけています。SEAJのウェーハプロセス(2012年度版)は、Cu配線でPVDのCuを核成長(シード)膜と呼んでいます。呼び方は工程ごとに異なりますが、本膜の立ち上がりを引き受ける役割は共通です。
核形成層は厚いほど有利ですか?
上限と下限の両方から挟まれます。ノヴェラスシステムズの特表2012-501388は、核形成層の抵抗率がバルクのタングステン層より高いため、配線全体の抵抗を下げるには厚さを詰めるほどよいとし、その一方で質のよいバルクを載せるには下地を覆いきる厚さが要るとしています。
温度を下げると核形成遅れはどうなりますか?
シード層の作り方によって変わります。東京エレクトロンの特許第6175541号は、背景として、アミノシラン系ガスでシード層を1枚だけ敷く従来の方法を上限350℃のような400℃未満の成膜へ持ち込むと、その上へ載るアモルファスシリコン膜の側で遅れがわずかに伸び、表面ラフネスの精度をわずかに落とす可能性があると書いています。一方で同公報が示した二重シード層では、350℃でも遅れが約22分から約1.1分へ縮んでいます。同社が示した一例の条件です。
核形成遅れは何を測ると数字になりますか?
膜厚を成膜時間またはサイクル数に対してプロットし、直線部分を外挿した横軸との交点が遅れになります。東京エレクトロンの特許第6175541号は、この外挿を実際に行い、上限350℃でDIPASの単一シード層だけを敷いた参考例で約22分、DIPASとジシランの二重シード層では約1.1分という値を出しています。表面ラフネスと面内均一性を並行して測ると、遅れが後工程へ渡す被害の大きさまで数値になります。
エッチング側にもインキュベーションはありますか?
あります。東京エレクトロンの国際公開WO2015/080058は、ウエハ温度300℃、チャンバー内圧力30Torrという条件でWCl6ガスによるTiN膜のエッチング性を調べ、この温度と圧力ではエッチング側の待ち時間が長く、240秒までは削れ始めなかったと報告しています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- シード層とは ── 核形成遅れを引き受けるために先に敷く1枚
- ステップカバレッジとは ── 遅れが横方向の分布に、被覆性が深さ方向の分布に出ます
この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- 東京エレクトロン「特許第6175541号 シード層の形成方法、シリコン膜の成膜方法および成膜装置」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 温度を下げるとインキュベーション時間が増大すること、面内均一性の約2.8%/約1.9%/約0.8%、DIPASとSi2H6の一例条件、二重シード層の厚さ範囲
- 東京エレクトロン「特開2017-186595 タングステン膜の成膜方法」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 酸化膜の上で密着力が出ずインキュベーション時間が伸びること、Ti系材料膜を下地に敷く理由
- 東京エレクトロン「国際公開WO2015/080058 タングステン膜の成膜方法」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── TiN膜とTiSiN膜を下地膜とする効果、WCl6ガスによるTiN膜エッチングのインキュベーションタイム
- 東京エレクトロン「国際公開WO2007/004443 タングステン膜形成方法,成膜装置」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 核付け層としての初期タングステン膜、初回SiH4ステップの延長による初期化、シリコン含有による主膜の抵抗率増大
- ノヴェラスシステムズ(Novellus Systems)「特表2012-501388 タングステンの粗度減少及び反射率改善」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 核形成層の位置づけ、核形成層の抵抗率がバルクより高いこと、二乗平均平方根粗度が10%を越す条件
- オプトラン「原子層堆積法(ALD)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 水酸基を相手にした自己制御の機構、ALD Windowの高温側と低温側で崩れる向き
- 日本半導体製造装置協会(SEAJ)技術部会「ウェーハプロセス(2012年度版)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── ALD W核成長層とPVD Cu核成長膜、2nm以下の拡散防止膜と核成長膜という指摘