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膜応力とは

膜応力とは、基板の上に成膜した膜の面内に残っている応力で、成膜の前後で基板の曲率半径がどれだけ動いたかから求める量です。 大阪産業技術研究所のテクニカルシートは、この応力が圧縮応力と引張応力に分類されるとしています。

膜構造に起因する内部応力は成膜条件で決まる一方、熱応力は基板と膜の熱膨張係数の差と温度差で決まります。この2つを1つの数値としてまとめてしまうと、条件を振ったときの応答が追えなくなります。

同研究所のシートは、スパッタや真空蒸着で作った薄膜には、膜の構造から来る内部応力と、基板との熱膨張係数の違いから来る熱応力とがたまっているとしています。内部応力の側は、後述のとおり成膜条件を振れば符号まで動きます。熱応力の側は材料の組み合わせと熱履歴で決まるため、レシピの中で動かせる余地は温度と昇降温の速さに絞られます。

現場で先に困るのは、応力そのものより応力が壊す先です。同シートは、過剰な応力が薄膜本来の機能を落とす原因になるとし、半導体デバイスでは膜の内部応力がトランジスタの動きへ悪く働いて、製品としての信号の伝わり方や耐久性が損なわれることがあると述べています。さらに、応力があるところを超えると膜が浮き、割れ、最後には剥がれるところまで進むため、製品の信頼性が大きく落ちるとしています。

膜1枚で収まらず、積層で表に出る場合もあります。富士通の特開2005-5725は、BPSG膜の上へプラズマ窒化シリコン膜を直に載せると窒化膜の側へクラックが入ることが従来から知られているとし、その対策として両者の界面へ緩衝膜を挟む手が知られていると述べています。同公報は、その層構造へ熱が加わると全体が引張応力の側へ歪み、冷まして元の温度まで下げると降温時にプラズマ窒化シリコン膜へ引張応力、BPSG膜へ圧縮応力が出てBPSG膜の中に過大な応力差ができるとし、この熱履歴に絡んだ応力は緩衝膜によって増幅される傾向にあるとしています。符号は熱履歴の途中で入れ替わります。

応力は、成膜前後の曲率半径の差から出てきます
① 成膜前曲率半径 R1 を測ります成膜② 成膜後曲率半径 R2 を測ります③ Stoney の式σ = Es・ts² ÷ 6(1−νs)tf  × (1/R2 − 1/R1)圧縮応力は負、引張応力は正です一定値を超えると浮き、割れ、剥離へ進みます成膜前の基板は固有の反りを持ちますそのため R1 の事前測定が必須になります
大阪産業技術研究所のシートは、薄膜の応力値、基板の弾性率、基板と薄膜の厚み、基板のポアソン比、製膜前と製膜後の曲率半径をStoneyの式の変数として挙げています。R1を測り忘れると、基板がもともと持っていた反りがそのまま応力値へ紛れ込みます。

東朋テクノロジーの製品ページは、基板の表面で反射したレーザー光のデータから曲率半径を算出し、成膜前と成膜後の曲率半径の差から膜応力を算出すると述べています。同ページの仕様では、FLX2320Sが基板サイズ3〜8インチ、FLX3300Tが6〜12インチで、いずれも応力範囲1〜4,000MPa、測定再現性±1.3MPaです。この2つの数値には、8インチシリコンウェーハ上の1µm厚の薄膜を測った場合、8インチの応力スタンダードウェーハを10回続けて測った場合という条件が付いています。1回の測定は30秒程度としています。

測れる膜の条件も付きます。大阪産業技術研究所のシートは、装置がレーザー光の反射から基板の反りを測る仕組みのため、膜の表面は散乱と吸収が小さく反射率が一定していることが要るとし、光学干渉で反射率と測定精度が落ちるのを抑えるため670nmと780nmの二波長のレーザー光源を持たせ、屈折率の異なる薄膜や基板へ幅広く対応させているとしています。同研究所が保有する機種はFLX-2320-Rで、常温測定のみの仕様です。

熱応力と内部応力を分ける手は、温度を振ることです。東朋テクノロジーのページは、標準機がステージヒーターで最高500℃まで昇温でき、昇温レート、到達温度、測定間隔をレシピで設定して連続測定を行い、降温側も続けて測ることでヒステリシスの有無まで解析できるとしています。低温測定のオプションでは液体窒素を使い、マイナス65℃までの応力変化を測れるとしています。

日産アークは、試料へ平行なレーザー群を当てて入射光と反射光の間隔がどれだけずれるかから曲率を算出する自社開発の手法について、100℃/minの高速かつ連続的なin-situ測定、室温から1,000℃の温度範囲、ArやN2などの雰囲気での測定、XY方向の内部応力の同時測定を挙げています。同社が示したSi基板上のCu膜の事例では、室温から450℃まで上げて徐冷したとき、常温側で約250MPaの引張の内部応力が残り、180℃あたりから内部応力で塑性変形へ入りました。昇温時50〜150℃の内部応力と温度の傾きから求めたCu薄膜の平均線膨張係数は1.5×10⁻⁵K⁻¹で、Cuバルク材の1.6×10⁻⁵K⁻¹とほぼ一致したとしています。同社は、薄膜Cuのヤング率とポアソン比、基板の熱膨張係数に文献値を用いたと付記しています。塑性変形が始まる温度は、その先の熱履歴で応力が戻らなくなる境目です。

大阪産業技術研究所は、自所のマグネトロンスパッタ装置でシリコン基板(4インチ)上へ300nmのTa薄膜を直流マグネトロンスパッタで作製し、結晶化で応力が振れる要因を避けるため基板を非加熱のままにして、製膜時圧力とスパッタ電力をそれぞれ3水準で振っています。圧力の水準は0.1、0.5、1.0Pa、電力の水準はDC200、250、300Wです。同シートによると、Ta薄膜では製膜時の圧力を上げるほど応力が−1,200MPaの圧縮側から+1,000MPaの引張側へ抜け、スパッタ電力を上げるほど逆に+150MPaの引張側から−180MPaの圧縮側へ変わりました。同研究所の試作結果です。

同シートは、この2つの結果から、スパッタ粒子の運動エネルギーが上がって膜が緻密になることが強い圧縮応力の出どころになっていると読み、製膜時の真空度が大きく影響する点を踏まえて、雰囲気の中のArや残留ガス分子とぶつかってスパッタ粒子のエネルギーが大きく上下することが膜応力を左右する主な要因になっているとしています。つまり圧力は、イオンエネルギーを経由して応力の符号まで動かすつまみです。スパッタリングPVDで応力が製膜条件に強く付いてくるのは、この経路があるためです。

圧力とスパッタ電力は、応力の符号まで動かします
成膜時圧力(0.1 → 1.0Pa)スパッタ電力(200 → 300W)引張(+)圧縮(−)−1,200MPa+1,000MPa+150MPa−180MPa0.1Pa1.0Pa200W300W同研究所が選んだ条件0.5Pa / DC250W応力の絶対値が小さい側低圧ほど粒子のエネルギーが高く、膜が緻密になり圧縮側へ振れます高圧では Ar との衝突でエネルギーが落ちます
大阪産業技術研究所がシリコン基板(4インチ)上の300nmのTa薄膜で得た値です。圧力とスパッタ電力は応力を逆向きへ動かすため、どちらを先に振るかで到達できる符号と絶対値が変わってきます。

差し出すものは、膜の緻密さです。同シートが示唆する機構では、応力の絶対値を小さくする側へ圧力を上げる操作は、粒子の運動エネルギーを落として緻密化を弱める向きと同じです。同研究所は、応力の絶対値が小さく、基板が変形したり膜が剥がれたりする危険の小さい薄膜を作るための条件として、本分析例では製膜時真空度0.5Paとスパッタ電力250Wを定量的に決められるとまとめています。応力ゼロと最緻密は、別々の水準にあります。

膜応力には、消す対象としてだけでなく、入力として使う道もあります。SEAJの技術部会がまとめたウェーハプロセス(2012年度版)は、部分歪を用いた歪Si MOSFETについて、キャップ層にSiNを使い、nMOSのみに引っ張り歪を導入することで移動度の向上を図る技術が提案されているとし、このキャップ層の応力制御をどのように行うかが大きな課題であり、新たなソースガスやプロセスが要るとしています。応力ライナーがこの系列です。

同資料は、STIの埋め込み酸化膜についても、埋め込み性能と並んで応力の制御をどのように行うかがプロセス上の大きな課題になるとし、応力起因の結晶欠陥への配慮が従来以上に必要になるとしています。開口コーナー部やボトムコーナー部へ応力緩和のためのラウンドを形成する酸化技術も関連技術として挙げています。

膜応力は、反りウェハ平坦度として面の形に出るだけでなく、下の結晶へも入っていきます。プロセス担当としては、自分のレシピが応力の絶対値と成膜レートのどちらを優先しているか、その優先がどの測定値で裏づけられているかを一覧にします。

膜応力とは何ですか?

基板の上に成膜した膜の面内に残っている応力です。大阪産業技術研究所のテクニカルシートは、スパッタや真空蒸着で作った薄膜には、膜の構造から生まれる内部応力と、基板との熱膨張係数の違いから生まれる熱応力とがたまっていて、どちらも圧縮側と引張側に分けられるとしています。

圧縮応力と引張応力はどの符号で表しますか?

同研究所のシートは、Ta薄膜の測定結果を、圧縮応力が−1,200MPa、引張応力が+1,000MPaと表記しています。圧縮側を負、引張側を正で表す符号です。

膜応力はどうやって測りますか?

成膜の前後で基板の曲率半径を測り、その差からStoneyの式で求めます。同研究所のシートは、基板の弾性率、基板と薄膜の厚み、基板のポアソン比、製膜前と製膜後の曲率半径を式の変数として挙げ、成膜前の基板はどれも固有の反りを持っているので、曲率半径を先に測っておくことが前提になるとしています。

熱応力と内部応力はどう分けますか?

温度を振りながら測ります。日産アークは、Si基板上のCu膜を室温から450℃まで上げて徐冷したところ、常温側では引張の内部応力が約250MPa残り、180℃あたりから内部応力で塑性変形へ入ったとしています。同社の依頼分析の事例です。

成膜時の圧力とスパッタ電力では、応力はどちら向きに動きますか?

逆向きです。大阪産業技術研究所のシートによると、Ta薄膜では製膜時の圧力を上げるほど応力が−1,200MPaの圧縮側から+1,000MPaの引張側へ抜け、スパッタ電力を上げるほど逆に+150MPaの引張側から−180MPaの圧縮側へ変わりました。同研究所の試作結果です。

応力が大きいと何が起きますか?

同研究所のシートは、応力があるところを超えると膜が浮き、割れ、やがて剥がれてしまうため、製品の信頼性が大きく落ちるとしています。積層でも表に出ます。富士通の特開2005-5725は、BPSG膜の上へプラズマ窒化シリコン膜を直に載せると窒化膜の側へクラックが入ることが従来から知られているとしています。

膜応力をわざと残すこともありますか?

あります。SEAJのウェーハプロセス(2012年度版)は、キャップ層にSiNを使い、nMOSのみに引っ張り歪を導入して移動度の向上を図る技術が提案されているとし、このキャップ層の応力制御をどのように行うかが大きな課題であると書いています。

  • 反りとは ── 膜応力が基板やパッケージの形として積み上がった結果
  • 応力ライナーとは ── 膜応力をわざと残してキャリア移動度へ振り向ける使い方

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  • 地方独立行政法人 大阪産業技術研究所「テクニカルシート No.24-27 薄膜応力測定装置」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 内部応力と熱応力の分け方、Stoneyの式の変数、FLX-2320-Rの仕様と反射率の条件、Ta薄膜の圧力依存性と電力依存性、選定した0.5Pa/250W
  • 東朋テクノロジー「薄膜応力測定装置 FLX」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── FLX2320SとFLX3300Tの基板サイズ、応力範囲1〜4,000MPa、測定再現性±1.3MPa、1回30秒、最高500℃の昇温とマイナス65℃の低温オプション
  • 日産アーク「平行レーザー群を用いた薄膜の内部応力測定法」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 100℃/minのin-situ測定と室温から1,000℃の範囲、Si基板上Cu膜の常温約250MPaの引張応力、180℃付近からの塑性変形、平均線膨張係数1.5×10⁻⁵K⁻¹
  • 日本半導体製造装置協会(SEAJ)技術部会「ウェーハプロセス(2012年度版)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── SiNキャップ層でnMOSへ引っ張り歪を導入する技術と応力制御の課題、STI埋め込み酸化膜の応力制御と応力起因の結晶欠陥
  • 富士通「特開2005-5725 半導体装置の製造方法」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── BPSG膜とプラズマ窒化シリコン膜の直付けで生じるクラック、緩衝膜、熱履歴で符号が入れ替わる応力差
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