チャージングダメージとは
チャージングダメージとは、プラズマを使う工程でウェーハ表面へ残留した電荷が、薄いゲート絶縁膜へ電圧をかけて絶縁膜を劣化させたり破壊したりする損傷です。
電子情報通信学会の知識ベースプロセス要素技術は、ドライエッチングがデバイスへ物理的および電気的な損傷を与える可能性を挙げ、電気的な損傷をチャージダメージと呼び、ゲート酸化膜を破壊するか、その信頼性を低下させるとしています。発生の要因として、プラズマの不均一と電子シェーディング効果を挙げています。2010年1月受領の記述です。
電荷が残る理由は、電子とイオンの届き方の差にあります。同じ知識ベースの集積回路プロセス技術概論は、シリコン基板をプラズマ励起空間へ設置すると照射イオンエネルギーが極めて大きくなり、加えて高周波放電でプラズマを励起するため、負電荷をもつ電子電流と正電荷をもつイオン電流が交互に流れ込んで基板表面へ電荷が残留し、この電荷がMOSトランジスタの薄いゲート酸化膜へ大きな電圧を印加して破壊すると述べています。
電圧の桁は、RIEの自己バイアスから見当が付きます。自己バイアスは、高周波の交番電界へ電子が追従し、イオンの追従が遅れるために電極側が負へ帯電する電圧です。プロセス要素技術の章は、13.56メガヘルツが多用される平行平板型でウェーハ側の電極を負に帯電させられるとし、この帯電電圧が数百ボルトになるため、これでプラズマ中のイオンを加速してウェーハ表面へ方向性をもって突入させ、異方性のエッチングを実現できるとしています。同じ数百ボルトが、異方性を作る側とゲート絶縁膜を壊す側の両方に立ちます。
パターンの形が、電荷の行き先を決めます
Section titled “パターンの形が、電荷の行き先を決めます”面内で電荷が偏る仕組みには、パターンの形が絡みます。SEAJの半導体製造装置用語集は電子シェーディング効果を、イオンが試料へ垂直に入るのに対して電子はランダムな方向から入るため、レジストパターンに遮られた狭いスペースの底へ届く電子の量が減る現象としています。同じ用語集は、その結果としてレジスト側壁が負に、高アスペクト比パターンの底が正にチャージアップするとしています。
この偏りがそのまま損傷になります。SEAJは電子シェーディングダメージを、電子シェーディング効果によるプラズマ中の荷電粒子の蓄積でゲート絶縁膜が静電破壊を起こすこととしています。同じウェーハ、同じレシピでも、アスペクト比と疎密が異なる場所で影響の度合いが変わります。レシピは、装置へ渡すガス種と流量、圧力、電力、時間の組み合わせを指す現場語です。同じ用語集はストリンガについても、下地の段差に沿って残るエッチング残渣が歩留まりや信頼性へ影響する可能性があるとしており、形が電気的な結果へ移る例が複数並びます。
面内分布の測り方が結果を左右します。面内分布は、1枚のウェーハの中で値が場所ごとにどう散るかを指します。プロセス要素技術の章がプラズマの不均一を要因へ挙げているとおり、プラズマの偏りとパターンの偏りは別々に足し合わさります。プラズマ診断と静電チャック側の面内制御が、この2つの偏りを切り分けるための手掛かりになります。
壊れ始める高さは、膜種ごとに3倍以上異なります
Section titled “壊れ始める高さは、膜種ごとに3倍以上異なります”集積回路プロセス技術概論の章には、膜種ごとの数字が並びます。同章は、シリコン基板表面を照射するアルゴンイオンのエネルギーが25電子ボルト、13電子ボルト、7電子ボルト以上になると、それぞれ単結晶シリコンのSi-Si結合、Si3N4膜、SiO2膜を破壊するとし、シリコン表面を照射するイオンのエネルギーをこの臨界イオンエネルギー以下へ収める方針を示しています。同章は電子温度が十分に低い拡散プラズマ領域についてプラズマ電位が10ボルト程度以下となり、接地状態のチャンバ内表面を照射するイオンエネルギーが常に10電子ボルト程度以下になるとし、各種金属材料がイオン照射でスパッタされ始める臨界照射エネルギーを12から13電子ボルト程度としています。同章は2010年5月受領の記述です。
どの程度の乱れを許せるのかという線も、公開資料に出ています。プラズマ・核融合学会誌の小特集で、京都大学の斧らは、10ナノメートル幅のゲート加工で許容される電極形状の加工寸法精度を1ナノメートル以下とし、厚さ2ナノメートル以下の薄い下地ゲート絶縁膜を残したまま加工する高い選択性と、ゲート絶縁膜の下に広がる半導体基板の変質層を1ナノメートル以下へ抑えることを併記しています。選択性は、狙う膜と残したい膜の削れ方の比を指します。2014年6月受付の記述です。
何を測ると分かるか
Section titled “何を測ると分かるか”損傷は、ゲート絶縁膜のリーク電流と寿命へ出ます。電子情報通信学会の知識ベースプロセスモジュール技術はTDDBを、破壊電界強度より低い電界でも印加が続くとやがて絶縁性が劣化する現象とし、電子注入で絶縁膜内に電子トラップが発生して臨界量を超えた時点で降伏へ至ると考えられているとしています。厚さ4ナノメートル以下程度の極薄絶縁膜については、破壊までの時間がゲート電圧のべき乗で決まるパワーローの関係が示されているとしています。この信頼性技術の節は2009年12月受領の記述です。
同章は絶縁劣化を3つへ分けています。SILCはストレス印加の初期に出る1桁から2桁のリーク電流増加、ハードブレークダウンは完全に絶縁性が失われてオーミック特性を示す破壊、ソフトブレークダウンはその中間にあたり、状況によってデバイス故障と別の結果になるものです。デバイスの実使用条件のような低い電圧では、ほとんどの事象がソフトブレークダウンになると考えられるとしています。チャージングの軽い痕跡がSILCの側へ出て、重い痕跡がハードブレークダウンの側へ出ます。
面積の振り方も測定の軸になります。集積回路プロセス技術概論の章は、膜厚5.4ナノメートルのMOSダイオードについて、面積を1×10⁻⁶、1×10⁻⁵、1×10⁻⁴平方センチメートルの3水準へ振った絶縁破壊特性の図を載せ、横軸を12から16メガボルト毎センチメートルの電界強度、縦軸をLn(−Ln(1−F))としています。同じ章は、等価絶縁膜厚2.4ナノメートルの膜について50パーセントの試料が破壊されるまでの寿命のゲート電圧依存性も示しており、寿命を電圧の関数として示す枠組みが並びます。
つまみは3つ、どれも両側を動かします
Section titled “つまみは3つ、どれも両側を動かします”1つ目は、ウェーハの設置場所とプラズマ源です。NEDOの実用化ドキュメントは、東京エレクトロンと東北大学が開発した装置を取り上げ、2010年12月から2011年1月の取材に基づいて書かれています。同ドキュメントは、13メガヘルツで励起する従来のPECVD装置について、電子自身が持つ温度が高いためイオン衝撃ダメージが大きく、加えてウェーハがプラズマ励起領域へ設置されるためチャージアップダメージも大きいとしています。2.45ギガヘルツのマイクロ波で励起する装置ではウェーハが励起領域から離れた拡散プラズマ領域にあり、周辺に低電子温度の電子やイオンだけが存在するため損傷が極めて小さいとしています。集積回路プロセス技術概論の章は、この低い電子温度が成り立つ条件として500メガヘルツ程度以上の高い周波数の電磁波か、水平方向の直流磁界強度が500ガウスを超える強い直流磁界を挙げています。設置場所を移す側の代わりに、装置の周波数と磁界という前提が付いてきます。
2つ目は、イオンエネルギーそのものです。臨界エネルギー以下へ下げると膜の結合を保ったまま加工へ進めますが、削る速さが落ちます。プラズマ・核融合学会誌の小特集で、ソニーセミコンダクタソリューションズの久保井らは、入射イオンの低エネルギー化と単色化が低ダメージ化に有利としながら、SiO2の低エッチングレートをALEの大きな課題として挙げています。同じ章は、SiO2膜とSi3N4膜のポリマー膜厚差を使ってエッチングステップを順次高バイアス化すると、高い選択比を保ったまま毎分40ナノメートルまで改善できたとしつつ、実プロセスで必要とするエッチングレートの10分の1程度にとどまるとしています。同社のシミュレーションと考察に基づく2021年の報告です。バイアス電力を下げる側の代償が、この10分の1という数字に出ています。
3つ目は、イオンを使うかラジカルだけを使うかです。プロセス要素技術の章は、酸素プラズマによるアッシングではゲート電極あるいはそれへつながる配線が直接さらされるため、プラズマ生成を反応室と分離してラジカルだけを反応室へ導入するケミカルドライエッチング方式が用いられるとしています。同じ章は、異方性のエッチングが自己バイアスで加速したイオンの垂直入射で実現されるとも述べています。ラジカルだけを導入する構成は、イオンの方向性を手放す構成にあたります。
何を差し出すのか
Section titled “何を差し出すのか”設置場所を動かせば装置の周波数と磁界の前提が変わり、イオンエネルギーを下げれば毎分のレートが落ち、ラジカル主体の構成にすればイオンの方向性を手放します。3つとも、チャージングの側と生産の側の両方へ同時に影響します。
もう1つ差し出すものが、面内での測定点です。同じ小特集で久保井らは、量産のエッチング装置に標準実装されているEESとOESによるモニタリングのみでは不十分だとし、これらの情報を入力とした数値シミュレーションや機械学習による面内分布予測を挙げています。加えて、ポリマー成分の再堆積へ影響するウェーハとチップ内の開口率について、ダミーパターン設置を含むマスクレイアウトの設計を挙げています。同社が2021年に公開した報告での指摘です。パターンの側で電荷の行き先が決まる以上、レイアウトの取り分もこの帳尻へ入ります。チャンバ内壁の状態が変わればプラズマの組成と面内均一性も動くため、装置の履歴も同じ帳尻の中にあります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”チャージングダメージとは何ですか?
プラズマを使う工程でウェーハ表面へ残留した電荷が、薄いゲート絶縁膜へ電圧をかけて絶縁膜を劣化させたり破壊したりする損傷です。電子情報通信学会の知識ベースは、ドライエッチングによる電気的な損傷をチャージダメージと呼び、ゲート酸化膜を破壊するか、その信頼性を低下させるとしています。2010年時点の記述です。
なぜウェーハ表面へ電荷が残るのですか?
電子とイオンの届き方に差があるためです。同じ知識ベースの集積回路プロセス技術概論は、高周波放電でプラズマを励起すると、負電荷をもつ電子電流と正電荷をもつイオン電流が交互に流れ込み、基板表面へ電荷が残留すると述べています。残った電荷がゲート絶縁膜へ大きな電圧を加えます。
電子シェーディング効果とは何ですか?
SEAJは、イオンが試料へ垂直に入るのに対して電子はランダムな方向から入るため、レジストパターンに遮られた狭いスペースの底へ届く電子の量が減る現象としています。同じ用語集は、その結果としてレジスト側壁が負に、高アスペクト比パターンの底が正にチャージアップするとしています。
どのくらいのイオンエネルギーで壊れ始めますか?
電子情報通信学会の知識ベースは、シリコン基板表面を照射するアルゴンイオンのエネルギーが25電子ボルト、13電子ボルト、7電子ボルト以上になると、それぞれ単結晶シリコンのSi-Si結合、Si3N4膜、SiO2膜を破壊するとしています。SiO2膜がいちばん低い側にあります。
何を測ると分かりますか?
ゲート絶縁膜のリーク電流と寿命です。同じ知識ベースは、絶縁劣化をSILC、ソフトブレークダウン、ハードブレークダウンへ分け、SILCをストレス印加の初期に出る1桁から2桁のリーク電流増加としています。厚さ4ナノメートル以下の極薄膜では、破壊までの時間がゲート電圧のべき乗で決まるパワーローの関係が示されているとしています。
イオンエネルギーを下げれば済む話ですか?
エッチングの速さと引き換えになります。プラズマ・核融合学会誌の小特集で、ソニーセミコンダクタソリューションズの久保井らは、入射イオンの低エネルギー化と単色化が低ダメージ化に有利としながら、SiO2の低エッチングレートを原子層エッチングの大きな課題として挙げ、選択比を保ったまま毎分40ナノメートルまで改善しても実プロセスで必要な値の10分の1程度にとどまると述べています。同社のシミュレーションと考察に基づく2021年の報告です。
アッシングで気を付けることは何ですか?
ゲート電極とそこへつながる配線がプラズマへ直接さらされる点です。電子情報通信学会の知識ベースは、酸素プラズマによるレジスト除去でこの状態になるため、プラズマ生成を反応室と分離してラジカルだけを反応室へ導入するケミカルドライエッチング方式が用いられるとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- TDDB(経時絶縁破壊)とは ── チャージングの痕跡が寿命として出る測り方
- イオンエネルギーとは ── 壊れ始めの高さを7から25電子ボルトへ振り分ける量そのもの
- シースとは ── イオンが加速される薄い層の側から辿る同じ現象
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- SEAJ「半導体製造装置用語集(ウェーハプロセス)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 電子シェーディング効果の内容、レジスト側壁が負で高アスペクト比パターン底部が正にチャージアップすること、電子シェーディングダメージがゲート絶縁膜の静電破壊であること、ストリンガが歩留まりや信頼性へ影響する可能性
- 電子情報通信学会 知識ベース「10群2編1章 集積回路プロセス技術概論」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 電子電流とイオン電流が交互に流れ込んで電荷が残留する機構、アルゴンイオンの臨界エネルギー25/13/7電子ボルト、拡散プラズマ領域のプラズマ電位10ボルト程度以下と照射イオンエネルギー10電子ボルト程度以下、金属のスパッタ臨界12から13電子ボルト、500メガヘルツと500ガウスの条件、膜厚5.4ナノメートルのMOSダイオードの面積依存性の図、等価絶縁膜厚2.4ナノメートルの寿命のゲート電圧依存性
- 電子情報通信学会 知識ベース「10群2編3章 プロセス要素技術」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── チャージダメージの呼称とゲート酸化膜の破壊および信頼性低下、プラズマの不均一と電子シェーディング効果という要因、13.56メガヘルツの平行平板型の自己バイアスが数百ボルトになること、アッシングでラジカルだけを導入するケミカルドライエッチング方式
- 電子情報通信学会 知識ベース「10群2編4章 プロセスモジュール技術」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── TDDBの中身と電子トラップの臨界量、4ナノメートル以下でのパワーローの関係、SILCの1桁から2桁のリーク電流増加、ソフトブレークダウンとハードブレークダウンの区別
- NEDO 実用化ドキュメント「世界が認める画期的・高品質な半導体製造装置」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 13メガヘルツ励起の従来装置でウェーハがプラズマ励起領域にあるためチャージアップダメージが大きいこと、2.45ギガヘルツのマイクロ波励起で拡散プラズマ領域へ移すと損傷が極めて小さいこと
- プラズマ・核融合学会誌「小特集 先端デバイス構造を実現する超絶ドライエッチング技術の最前線」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 入射イオンの低エネルギー化と単色化が低ダメージ化に有利であること、SiO2の低エッチングレートという課題、毎分40ナノメートルへの改善と必要値の10分の1、EESとOESのみでは不十分という指摘、開口率とダミーパターン設置
- プラズマ・核融合学会誌「小特集 プラズマとナノ界面の相互作用 第5章」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 10ナノメートル幅ゲート加工での加工寸法精度1ナノメートル以下、下地ゲート絶縁膜の厚さ2ナノメートル以下、基板の変質層を1ナノメートル以下へ抑える線