SEM帯電とは
SEM帯電とは、電子線を当てた試料で、入っていく電子と出ていく電子の数が釣り合わず、差の分が表面へたまる現象です。 現場では、同じ座標を撮り直すたびに明暗の出方が動く、という症状から始まります。
日本電子のアプリケーションノートは、この現象を電子の収支として書いています。試料の表面へ電子線を照射すると、入射電子(Ip)が試料の内部で散乱し、二次電子(Is)や反射電子(Ib)が表面から放出され、一部は試料を通ってアースへ流れます(Ia)。導電性のある試料ではアースへ電子が流れるため、試料に入った電子と試料から出た電子の数が等しくなります。同社はこれをIp=Is+Ib+Iaと書いています。非導電性の試料ではアースへ電子が流れにくくなるので、この釣り合いが崩れてIp≠Is+Ibになり、帯電します。同社は、試料の導電性が試料中の自由電子の数で決まり、自由電子が少なくなると電子が流れにくくなるとも述べています。
同社は続けて、帯電した状態では表面の場所ごとに入る電子より出る電子が多かったり少なかったりするため、観察される像に異常が起こるとしています。つまり帯電は、まず像のコントラストの問題として出ます。
帯電はどの信号に乗るのか
Section titled “帯電はどの信号に乗るのか”乗るのは電位です。日本電子の用語集は、試料上の電位差によって二次電子の検出効率が変化して生じる明暗を電位コントラストと呼び、電位が高い場所では二次電子検出器との間にできる電界が弱まるために検出効率が落ちて暗く写り、電位が低い場所では電界が強まって明るく写ると書いています。同社は、これを使えばLSIなどの回路の動作状態を確かめられるとしたうえで、この電位コントラストが非導電性の試料を観察したときの帯電による異常なコントラストの一因にもなるとしています。狙って使う信号と、狙わずに乗る誤差が、同じ経路から来ます。
日本半導体製造装置協会の用語集も、SEMについて、発生する二次電子量が試料の材質と形状に加えて電位状態でも変化するとしています。形を測っているつもりで、電位まで一緒に測っている状態が帯電です。
信号の出どころの深さも、数字が公開されています。日本電子の用語集は、二次電子のエネルギーを50eV以下とすることが多いとし、二次電子が試料表面から飛び出せる深さである脱出深さが金属試料で5〜10nmだとしています。同じ用語集は、電子線を試料表面へ垂直から傾けて入射すると放出される二次電子が多くなるとも書いています。段差の端が明るく写るのはこの角度の効果で、帯電はその明暗の上へ重なります。CD-SEMがしきい値で端の位置を求める以上、この重なりは寸法の値へ入り込みます。
三つのつまみと、それぞれが触る場所
Section titled “三つのつまみと、それぞれが触る場所”日本電子は帯電対策を、試料の前処理と観察条件に分けています。前処理がコーティング、観察条件が低真空と低入射電圧です。同社が挙げるワシミミズクの羽根という非導電性試料の例では、そのまま観察した入射電圧15kV・試料室1×10⁻³Paの条件で帯電が起こり、オスミウムをコーティングした場合と、入射電圧を0.8kVへ下げた場合と、試料室を80Paにした場合のいずれでも帯電が抑えられています。
コーティングは、金や白金やオスミウムや炭素などの導電性材料で試料表面を薄くコートする手法です。同社は、入射電子がコートした表面を経由してアースへ抜けるようになるので、導電性の試料と同じように観察できるとしています。収支の式でいえば、Iaの経路を作り直す側です。
低真空は、試料室へ空気や窒素ガスを導入して真空度を意図的に悪くする手法です。同社は、入射電子で陽イオン化されたガス分子が帯電した試料表面を電気的に中和するとし、真空度が悪いほど陽イオン化されたガス分子が増えるので抑制効果が高まるとしています。試料の前処理を省けるため、簡易な観察でよく使われるとも書いています。
低入射電圧は、入射電圧1kV程度で観察する手法です。同社は、二次電子放出率が1付近の入射電圧を使えばIpとIs+Ibの平衡が保てるとし、この手法が低い入射電圧でも細いプローブ径を保てる電界放出電子銃を積んだSEM、すなわちFE-SEMで有効だとしています。収支の式でいえば、右辺と左辺を最初からそろえにいく側です。
加速電圧を保ったまま、入射電圧だけ下げられます
Section titled “加速電圧を保ったまま、入射電圧だけ下げられます”つまみは加速電圧のほかにもあります。日本電子の用語集は、加速電圧を電子銃を構成する陰極と陽極の間の電位差とし、SEMの加速電圧が約500Vから約30kVの範囲になるのが一般的だとしています。そのうえで、多くの場合は加速電圧がそのまま試料への入射電圧になるものの、試料へ電圧をかけたときには加速電圧から試料電圧を引いた値が入射電圧になると書いています。同じ用語集の入射電圧の項も、減速法を使う場合には、試料ステージへかけた電圧を加速電圧から引いた分、あるいは対物レンズの下にある減速電極へかけた電圧を加速電圧から引いた分が入射電圧にあたるとしています。
ここが実務のつまみになります。同社は、入射電子の試料への侵入深さが入射電圧で決まるとしています。入射電圧を下げると侵入は浅くなり、上げると深くなります。浅くすれば表層の情報だけを取れるかわりに、下地の情報を落とします。深くすれば下地の情報まで届くかわりに、収支が1から離れて帯電の側へ動きます。電子ビーム検査で下層の導通を測るときと、レジストの線幅だけを測るときで、選ぶ入射電圧が変化するのはこのためです。
それぞれ何を差し出すか
Section titled “それぞれ何を差し出すか”低真空の代償は、電子が試料へ届くまでの経路です。日本分析機器工業会は、電子源から発生した電子がガス分子との衝突を避けて試料に到達するには10⁻²〜10⁻³Paの真空が要るとしています。日本電子が帯電対策として挙げる80Paは、こちらで桁を数えると、この10⁻²Paよりおよそ4桁高い圧力にあたります。帯電を抑える陽イオンは、同時に一次電子の通り道へ入れた散乱体でもあります。
低入射電圧の代償は、電子銃と真空系への投資です。日本分析機器工業会は、SEMの分解能が試料上に結ぶ電子スポットの直径で決まるとし、この径が細いほど分解能が上がるとしたうえで、電界放出形の電子源を動作させるには電子銃を10⁻⁸Paの超高真空にする必要があり専用の真空ポンプが要るとしています。そのかわりにタングステンフィラメント形の約1000倍の輝度が得られ、1nm以下のスポット径を実現できるとしています。低い入射電圧のまま細いプローブを保つ道は、この電子源を前提にしています。
コーティングの代償は、試料の表面へ膜を1層足すことです。半導体歴史館は、走査型電子顕微鏡が光学顕微鏡より焦点深度と解像度に優れる一方で、電子線照射による帯電で像の劣化とトランジスタ素子の損傷が生じ、寸法検査の妨げになっていたと記しています。同館によれば、1984年に日立がこの問題を解いてS-6000というCD-SEMを開発し、電界放出型の電子銃を用いて約1keVの低加速電圧にすることで帯電と素子の損傷を防ぎ、高分解能の計測を可能にしました。量産の測長で採られたのは、観察条件を動かす側でした。
帯電を前提にレシピを組む
Section titled “帯電を前提にレシピを組む”帯電がゼロになる条件は、対象の材料と下地と膜厚が変われば動きます。そこで現場では、レシピごとに入射電圧とプローブ電流と走査の条件を決め、そのレシピの中で値を比べる形になります。日本分析機器工業会は、観察試料へ水分の除去などの前処理を行い、電子線照射での帯電を避けるために試料表面へ導電性を与える前処理も行われるとしています。ラインを流れるウェーハでは前処理の側を使いにくい分、観察条件の側で詰めることになります。
同じレシピを複数の装置へ広げるときは、装置マッチングの対象に入射電圧と真空の条件も入ります。どこを何点測るかというサンプリングの設計も、1点あたりの照射量を通じて帯電の出方を動かします。プラズマ工程で表面へ電荷がたまるチャージングダメージとは、電荷の出どころが電子線か放電かの点で異なりますが、薄い絶縁膜の上で電位が動くという構図は共通します。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”SEM帯電とは何ですか?
電子線を当てた試料で、入っていく電子と出ていく電子の数が釣り合わず、差の分が表面へたまる現象です。日本電子は、導電性のある試料ではアースへ電子が流れて入射電子と放出電子の数が等しくなり、非導電性の試料ではアースへ流れにくくなって釣り合いが崩れると書いています。
帯電すると像はどう動きますか?
明暗の出方が動きます。日本電子は、試料上の電位差で二次電子の検出効率が変化して生じる明暗を電位コントラストと呼び、電位が高いと検出器との間の電界が弱くなって暗く、電位が低いと電界が強くなって明るくなると書いています。同社は、この電位コントラストが非導電性の試料での異常なコントラストの一因にもなるとしています。
入射電圧を下げると帯電が減るのはなぜですか?
二次電子放出率が1に近い入射電圧を選べるためです。日本電子は、放出率が1付近の入射電圧を使うと入射電子と放出電子の平衡が保てるとし、羽根の試料で入射電圧0.8kVの例を挙げています。同社は、この手法が低い入射電圧でも細いプローブ径を保てるFE-SEMで有効だとしています。
加速電圧と入射電圧の関係を教えてください。
試料へ電圧をかけたときに、両者へ差が生じます。日本電子は、加速電圧を電子銃の陰極と陽極の間の電位差とし、試料へ電圧を印加した場合の入射電圧が加速電圧から試料電圧を差し引いた値になるとしています。同社は、入射電子の侵入深さが入射電圧で決まるとしています。
低真空で観察すると何が起きますか?
ガス分子の陽イオンが表面の電荷を中和します。日本電子は、試料室へ空気や窒素ガスを入れると入射電子で陽イオン化されたガス分子が帯電した試料表面を電気的に中和するとし、真空度が悪いほど陽イオンが増えて抑制効果が高まるとしています。同社の例では、試料室の圧力は80Paです。
コーティングはウェーハでも使えますか?
表面へ膜を1層足す手法になります。日本電子は、コーティングを金や白金やオスミウムや炭素などの導電性材料で試料表面を薄くコートする手法とし、入射電子がその表面を通ってアースへ流れると書いています。半導体歴史館によると、量産の測長で採られたのは、約1keVの低加速電圧という観察条件の側でした。
帯電を避けると、何を差し出すことになりますか?
電子銃と真空系への投資です。日本分析機器工業会は、電界放出形の電子源を動かすには電子銃を10⁻⁸Paの超高真空にする必要があり専用の真空ポンプが要るとし、そのかわりにタングステンフィラメント形の約1000倍の輝度と1nm以下のスポット径が得られるとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- チャージングダメージとは ── 同じ帯電でも、あちらは電荷がデバイスを壊す側、こちらは電荷が測定値を曲げる側です
- CD-SEM(寸法測定)とは ── 帯電を抑えた条件で寸法を測る側の装置です
- 電子ビーム検査とは ── 電位差を欠陥検出へ使う側で、こちらは同じ電位差が誤差になる側です
この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- 日本電子 アプリケーションノート「SEMの帯電現象 (チャージアップ) を抑制する」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 入射電子が試料内部で散乱して二次電子と反射電子が放出され一部がアースへ流れること、導電性試料でIp=Is+Ib+Iaが成り立ち非導電性試料でIp≠Is+Ibになること、試料の導電性が自由電子の数で決まること、帯電した状態で像に異常が起こること、帯電対策を試料前処理と観察条件に分けていること、コーティングが金・白金・オスミウム・炭素などの導電性材料で表面を薄くコートする手法であること、低真空が試料室へ空気や窒素ガスを導入する手法で陽イオン化されたガス分子が表面を中和すること、真空度が悪いほど抑制効果が高まること、低真空が試料前処理を省けるため簡易観察でよく使われること、低入射電圧が入射電圧1kV程度で観察する手法であること、二次電子放出率が1付近の入射電圧で平衡が保てること、この手法が電界放出電子銃を搭載したFE-SEMで有効であること、羽根の試料でそのまま観察した15kVかつ1×10⁻³Paでは帯電し0.8kVまたは80Paまたはオスミウムコーティングで抑えられること
- 日本電子 走査電子顕微鏡 基本用語集「加速電圧」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 加速電圧が電子銃の陰極と陽極の間の電位差であること、SEMの加速電圧が約500Vから約30kVの範囲が一般的であること、試料に電圧を印加した場合の入射電圧が加速電圧から試料電圧を差し引いた値になること、入射電子の侵入深さが入射電圧で決まること
- 日本電子 走査電子顕微鏡 基本用語集「入射電圧」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 入射電圧が試料に入射する電子の電圧すなわちエネルギーであること、通常のSEMでは加速電圧と同じであること、減速法では加速電圧と試料ステージに印加された電圧の差、あるいは加速電圧と対物レンズ下方の減速電極に印加された電圧の差が入射電圧になること
- 日本電子 走査電子顕微鏡 基本用語集「二次電子」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 二次電子が入射電子の非弾性散乱で励起された電子でエネルギーを50eV以下とすることが多いこと、二次電子の脱出深さが金属試料で5〜10nmであること、電子線を斜めに入射すると放出される二次電子が多くなること
- 日本電子 走査電子顕微鏡 基本用語集「電位コントラスト」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 試料上の電位差で二次電子の検出効率が変化して明暗が生じること、電位が高いと検出器との間の電界が弱くなって暗く電位が低いと明るくなること、これを利用してLSIの回路の動作状態を確かめられること、電位コントラストが非導電性試料の帯電による異常コントラストの一因になること
- 日本分析機器工業会「走査電子顕微鏡(SEM)の原理と応用」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 電子源から出た電子がガス分子との衝突を避けて試料へ到達するには10⁻²〜10⁻³Paの真空が必要であること、観察試料へ水分を除去する前処理や帯電を避けるため導電性を与える前処理を行うこと、SEMの分解能が試料上の電子スポットの直径で決まりスポット径が小さいほど分解能が高いこと、電界放出形電子源には電子銃を10⁻⁸Paの超高真空にする必要があり専用の真空ポンプが要ること、そのかわりタングステンフィラメント形の約1000倍の輝度と1nm以下のスポット径が得られること、加速電圧が一般的なSEMで数100Vから30kV程度であること
- 半導体歴史館「測長SEM(CD-SEM)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 走査型電子顕微鏡が光学顕微鏡より焦点深度と解像度に優れること、電子線照射による帯電で像の劣化とトランジスタ素子の損傷が生じ寸法検査の妨げになっていたこと、1984年に日立がS-6000 CD-SEMを開発したこと、電界放出型電子銃を用い約1keVの低加速電圧で帯電と素子損傷を防いで高分解能計測を可能にしたこと
- 日本半導体製造装置協会「半導体製造装置用語集(計測)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 電子ビームを試料に照射すると照射面から二次電子が発生すること、発生する二次電子量が試料の材質・形状・電位状態により変化すること、照射電子ビームを走査して二次電子情報を強度分布として表示すること