オーバーレイ補正モデルとは
オーバーレイ補正モデルとは、ウェーハ上の何点かで測った位置ずれを、露光装置が実際に動かせるつまみの形へ翻訳する数式です。 測ることと直すことの間には、この翻訳が必ず挟まります。
オーバーレイ計測が返すのは、座標ごとのずれの向きと大きさです。一方で露光装置が動かせるのは、ステージとレンズという有限の機構です。日本半導体製造装置協会の用語集は、高次ディストーション補正を、ショット中心を基準にX方向とY方向の2次以上の関数で書けるショット形状の崩れに対して、ウェーハ側またはマスク側の投影像そのものを歪ませ、ショット全体の形をそろえにいく補正だとしています。同じ項目は、光リソグラフィなら投影光学系のレンズを動かしてマスクパターンの光学ディストーションを変え、スキャナーならマスクとウェーハの相対位置をずらして合わせにいくとしています。補正モデルは、点の集まりをこの機構が受け取れる形へ落とし込む変換器です。
JEITAの半導体技術ロードマップ専門委員会は、平成21年度報告の第12章で、この落とし込み方が変わりつつあると書いています。重ね合わせの制御精度を上げる道の一つとして、これまでのウェーハプロセスにおけるチップ内の格子と、ウェーハ内でのチップ配列の格子を、線形近似から高次近似の側へ広げる、というものです。そして同報告は、それに合わせてウェーハ内とチップ内、すなわちショット内へ、複数のアライメントマークと位置ずれ計測マークを配置する必要が出てきたとしています。ここが取引の始まりです。
係数の数は、マークの数と場所で先に決まります
Section titled “係数の数は、マークの数と場所で先に決まります”求めるのは係数です。測るのはマークの位置です。したがって、配置したマークの数と場所によって、求められる係数の数が先に決まります。JEITAの同じ報告は、高次近似へ移す動きに合わせて、ウェーハ内とショット内の両方へマークを増やす必要が生じたと書いています。
キヤノンは2023年のニュースリリースで、この増え方を数で示しています。ロジックやメモリーなどの先端半導体では製造工程が複雑になり、ウェーハがひずむなどの変形をしやすくなるため、高い精度で重ね合わせるには、数点だった位置合わせの印であるアライメントマークがウェーハ上で数百点に増加していると述べています。同社は続けて、それぞれの露光装置内で個別に数百点にもなるマークを計測すると時間がかかり、露光装置の生産性が下がる要因になるとしています。同社の製品発表時点での記述です。
代償は、1点あたりの面積と時間です
Section titled “代償は、1点あたりの面積と時間です”JEITAの平成21年度報告の第12章は、この代償を要求表の形で書き込んでいます。多数の位置ずれ計測をすることによる計測時間と計測コストの問題を回避するために、Move-Acquire-Measure timeを要求項目として記載した、というものです。同報告は、この時間を計測ポイントから計測ポイントまでのサイクルタイムだとし、計測終了から移動、移動時間中の計測演算、静止しての計測用画像情報の取得、そして次の移動までの1サイクルだとしています。
同報告に載る要求値では、光学式のオーバーレイやスキャトロメトリのターゲットの最大寸法が、2010年の40μmから2024年の10μmへ縮みます。ダイ内のマイクロターゲットは、2010年の10μmから2024年の2μmへ縮みます。Move-Acquire-Measure timeは、2010年の1.0秒から2024年の0.5秒へ縮みます。これらは2009年度の報告に載る国際ロードマップの要求値です。
どこで測って、どこへ返すのか
Section titled “どこで測って、どこへ返すのか”つまみは二つあります。どのウェーハを測るかと、どこで測るかです。
ニコンは製品カタログで、Litho Boosterが露光の前に全てのウェハのグリッド歪みを絶対値で高速に測り、その補正値を露光装置へフィードフォワードし、スループットを維持したまま重ね合わせ精度を上げるとしています。同カタログの流れ図では、全ウェハに対するグリッドのフィードフォワードと、抜き取ったウェハのオーバーレイ計測から返すフィードバックが、別々の経路として描かれています。全数の側は今から流すウェーハの実測を渡し、抜き取りの側は結果を次のロットへ返します。キヤノンもLithography Plusのページで、APCをロット毎に最適な条件を指示する仕組みとし、前回結果からの反映と前工程結果の予測値の指示があると書き添えています。
同カタログはまた、レイヤー単位、ロット単位、さらにウェハごとショットごとに出る歪みが、重ね合わせ精度を詰めるうえで大きな障害になりつつあるとし、これを解くにはエラーを先に検知して補正することが不可欠だとしています。同社は、この計測と補正のモジュールをインラインで露光装置内へ組み込んだものをinline Alignment Stationと呼び、スループットを維持したまま、全ショットで多点のアライメントを取れるようになったとしています。Litho Boosterは、そのモジュールを露光装置の外へ独立させた装置です。
計測を露光装置の外へ移す理由も、時間です。キヤノンは、ウエハー計測機MS-001を導入するとアライメント計測の大部分を露光装置へ搬送される前に一括で計測でき、露光装置内での計測の負荷が減って生産性を上げられるとしています。同社はあわせて、MS-001に新しいアライメントスコープ用の光源を採用したことで、露光装置内で計測するよりも1.5倍の波長域を確保でき、任意の波長でアライメント計測が可能になるとしています。マークの信号が弱いときに波長を振れる幅も、外へ移したことで広がります。ここまでは同社の2023年の発表時点での記述です。
外へ移した代償は、装置が1台増えることです。ニコンは2026年7月のニュースリリースで、Litho Booster 1000について、計測精度を従来機種比で約35%、生産性を約10%高めたとしています。同社は、ウェハホルダの構造を見直して吸着時に出る誤差を大きく減らしたことで計測精度が約35%上がったとし、ウェハ搬送ロボットの速度を上げたことでスループットが約10%上がったとしています。計測する側の吸着や搬送そのものが誤差源になる、という構図です。
点そのものがずれている場合
Section titled “点そのものがずれている場合”補正モデルは、測った点に合う係数を返しますが、点そのものが正しく取れているかは別の話です。JEITAの平成21年度報告の第6章は、ピッチスプリッティングでは異なる露光でエッジが形成されるため重ね合わせ誤差がそのまま寸法誤差になるとしたうえで、最新の露光装置が仕様値で3nm以下を示す一方、プロセスに起因するアライメントマークの変形や歪み、ウェーハの歪みの影響も大きいと書いています。同報告は、高次のアライメント補正を駆使して詰めるのと並行して、検出精度の高いアライメントマークの開発や、ウェーハの歪みを抑える成膜と熱処理の開発も要るとしています。2009年度時点での記述です。
第12章も同じ向きで、重ね合わせ精度についてはウェーハ加工の側でアライメントマークの構造と作り方を詰めることも精度因子の一つになるとしたうえで、支配的な要因は露光装置の基本性能だとしています。したがって現場での順序は、モデルの次数を上げる前に、マークの信号が取れているか、膜応力や熱処理でウェーハの反りがどれだけ動いたかを確かめる側になります。マルチパターニングやウェーハ接合を挟む工程では、この確かめ方の重みがさらに増します。
1台で回すか、装置をまたぐか
Section titled “1台で回すか、装置をまたぐか”補正モデルの届く範囲は、そのレイヤーを1台で回すか複数台へ流すかでも変化します。日本半導体製造装置協会の用語集は、同一露光装置でのアライメント精度をDedicated Chuck Overlay、すなわちSingle Machine Overlayと呼び、異なる露光機の間のアライメント精度をMatched Machine Overlayと呼ぶとしています。キヤノンはi線ステッパーFPA-5550iZ2の製品ページで、重ね合わせ精度をSMOが18nm以下、MMOが25nm以下と掲げています。オプションを適用した場合の同社の公表値です。
同じページで同社は、ショット形状補正機能SSCを投影光学系へ載せたことで、露光領域をまとめて焼くステッパーでありながら、ショット単位で下地レイヤーの形へ合わせた重ね合わせ露光ができるとしています。ショット単位の項を式へ加えるには、それを受け取る機構が装置側に要る、という関係がここに出ています。装置マッチングの作業は、この機構の応答を装置間でそろえる作業でもあります。
よくある質問(FAQ)
Section titled “よくある質問(FAQ)”オーバーレイ補正モデルとは何ですか?
ウェーハ上の何点かで測った位置ずれを、露光装置が実際に動かせるつまみの形へ翻訳する数式です。JEITAの半導体技術ロードマップ専門委員会は、重ね合わせの制御精度を上げる手法の一つとして、チップ内の格子とウェーハ内のチップ配列格子を線形近似から高次近似へ広げる方向を挙げています。
補正した結果は、装置のどこが動くのですか?
マスクとウェーハの相対位置と、投影像の形です。日本半導体製造装置協会の用語集は、高次ディストーション補正について、光リソグラフィなら投影光学系のレンズを動かして光学ディストーションを変え、スキャナーならマスクとウェーハの相対位置をずらして合わせにいくとしています。
高次にすると何が増えますか?
配置するマークと、それを測る時間です。JEITAの同じ報告は、高次近似へ広げることに対応してウェーハ内とチップ内に複数のアライメントマークと位置ずれ計測マークを配置する必要が生じるとし、計測時間と計測コストの問題を避けるためにMove-Acquire-Measure timeを要求項目へ加えたとしています。
マークは実際にどれくらい増えたのですか?
キヤノンは2023年のニュースリリースで、重ね合わせの精度を上げるために、かつては数点だったアライメントマークがウェーハ上で数百点まで増えたと述べています。同社は、それぞれの露光装置内で個別に数百点を計測すると時間がかかり、露光装置の生産性が下がる要因になるとしています。
露光装置の外で測る利点は何ですか?
露光装置のスループットを保ったまま点数を増やせる点です。ニコンは製品カタログで、Litho Boosterが露光の前に全てのウェハのグリッド歪みを絶対値で測り、その補正値を露光装置へフィードフォワードし、スループットを維持したまま重ね合わせ精度を上げるとしています。
フィードバックとフィードフォワードはどちらが何をしますか?
前のロットの結果を返すか、これから露光するウェーハの実測を先に渡すかの差です。キヤノンはLithography Plusのページで、APCをロット毎に最適な条件を指示する仕組みとし、前回結果からの反映と前工程結果の予測値の指示があると書き添えています。
モデルを高次にすると、残差はどこまで小さくなりますか?
小さくなる方向ですが、点そのものの誤差はそのまま出ます。JEITAの平成21年度報告の第6章は、最新の露光装置が仕様値で3nm以下を示す一方、プロセスに起因するアライメントマークの変形や歪み、ウェーハの歪みの影響も大きいとし、高次のアライメント補正技術に加えて、精度よく検出できるマークの開発や、ウェーハの歪みを抑える成膜と熱処理の開発も要るとしています。
比較・違いを学ぶ
Section titled “比較・違いを学ぶ”- オーバーレイ計測とは ── ずれを測る側で、補正モデルは測った値を装置のつまみへ翻訳する側です
- エッジプレースメントエラーとは ── 位置と寸法をまとめて追う指標で、補正モデルが小さくできるのはそのうち位置の側です
- APC(Advanced Process Control)とは ── 補正値をどのロットへどう返すかを組み立てる仕組みです
この記事の事実は、誰でも読める公開資料を根拠とし、各URLの到達可否をこちらで実測しています。したがって、リンク先が移動または消滅した場合は、その旨をこのページへ反映します。
- 日本半導体製造装置協会「半導体製造装置用語集(リソグラフィ)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 高次ディストーション補正がショット中心に対してX、Yの2次以上の関数で表現されたショット形状の変形に対する補正であること、ウェーハまたはマスクの投影像を変形させてショット全体の形状を合わせること、光リソでは投影光学系内のレンズの変位等で光学ディストーションを変化させスキャナーではマスクとウェーハの相対位置を変位させて補正すること、同一露光装置でのアライメント精度をDedicated Chuck(Single Machine)Overlay、異なる露光機間をMatched Machine Overlayと呼ぶこと、アライメント精度を下地層のアライメントマークとレジストパターンの相対位置で求めること
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「平成21年度報告 第12章 WG14 メトロロジ(計測)」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── Overlayの制御精度を上げる手法の一つとしてチップ内格子とウェーハ内チップ配列格子を線形近似から高次近似へ広げること、それに対応してウェーハ内およびチップ内(ショット内)に複数のアライメントマークと位置ずれ計測マークを配置する必要が生じていること、多数の位置ずれ計測による計測時間と計測コストの問題を回避するためMove-Acquire-Measure timeを要求項目に加えたこと、MAM timeが計測ポイント間のサイクルタイムであり計測終了から移動・移動中の計測演算・静止しての画像取得・移動までの1サイクルであること、要求表でターゲットの最大寸法が2010年40μmから2024年10μmへ、ダイ内マイクロターゲットが2010年10μmから2024年2μmへ、MAM timeが2010年1.0秒から2024年0.5秒へ推移すること、重ね合わせ精度でアライメントマークの構造や製造方法の最適化が精度因子の一つであり支配的要因が露光装置の基本性能であること
- JEITA 半導体技術ロードマップ専門委員会「平成21年度報告 第6章 WG5 リソグラフィ」(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 露光装置で収差や重ね合わせにおいて高次の補正が可能になっていること、ピッチスプリッティングでは異なる露光でエッジが形成されるため重ね合わせ誤差が寸法誤差になること、最新の露光装置が仕様値で3nm以下を示すこと、プロセス起因のアライメントマーク変形・歪みやウェーハの歪みの影響も大きいこと、高次のアライメント補正技術に加えて精度よく検出できるアライメントマークの開発やウェーハの歪みを抑える成膜・熱処理技術の開発も必要であること
- ニコン「アライメントステーション Litho Booster」製品カタログ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 露光前の全てのウェハに対してグリッド歪みの絶対値を高速かつ高精度に計測し補正値を露光装置へフィードフォワードすること、それによりスループットを落とさずに重ね合わせ精度を高めること、レイヤー・ロット・ウェハごと・ショットごとに発生する歪みが障害になりつつありエラーを事前に検知して補正することが不可欠であること、inline Alignment Stationを露光装置内へインラインで組み込むとスループットを落とさず全ショットでの多点アライメントが可能になること、Litho Boosterがそのモジュールを露光装置の外へ独立させた装置であること、全ウェハのグリッドのフィードフォワードと抜き取りウェハのオーバーレイ計測からのフィードバックが別経路で描かれていること、カタログが2024年7月現在のものであること
- ニコン「アライメントステーション Litho Booster 1000 を発売」ニュースリリース(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 従来機種から計測精度を約35%、生産性を約10%向上させたこと、ウェハホルダ構造を見直して吸着時に発生する誤差を低減し計測精度が約35%向上したこと、ウェハ搬送ロボットの搬送速度を高めてスループットが約10%向上したこと、露光プロセス前のウェハ全面を計測し補正値を露光装置へフィードフォワードすること、アライメントステーションをニコンが2018年から市場投入してきたこと
- キヤノン「半導体露光装置の生産性を向上させるウエハー計測機を発売」ニュースリリース(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 先端半導体では製造工程が複雑化してウェーハがひずむなどの変形をしやすくなること、高い精度で重ね合わせるために数点だったアライメントマークが数百点に増加していること、それぞれの露光装置内で個別に数百点を計測すると時間がかかり生産性低下の要因になること、MS-001の導入でアライメント計測の大部分を露光装置への搬送前に一括計測できること、新光源の採用で露光装置内で計測するよりも1.5倍の波長域を確保し任意の波長で計測が可能になること、Lithography Plusと組み合わせるとアライメント情報の変化を検出して露光装置で自動補正が可能になること、MS-001が2023年2月21日発売であること
- キヤノン「FPA-5550iZ2」公式製品ページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── 重ね合わせ精度がSMO18nm以下、MMO25nm以下(オプション適用時)であること、ショット形状補正機能SSCを投影光学系に搭載しショットごとに下地レイヤーの形状に合わせて重ね合わせ露光ができること、光源がi線365nmで解像力が350nm以下であること
- キヤノン「Lithography Plus」公式サービスページ(2026年9月3日にリンク生存を実測、200)── APCをロット毎に最適な条件を指示する仕組みとし前回結果からの反映や前工程結果の予測値の指示があると書き添えていること、精緻な位置合わせや線幅制御設定が自動で最適化されたレシピを提供するプロセスソリューション機能を持つこと、APCなどのプロセス機器とのインターフェースを備え生産管理システムと連係できること